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熱間強加工によるマグネシウム合金切削チップのアップグレードリサイクル

氏名 會田 哲夫
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第266号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 熱間強加工によるマグネシウム合金切削チップのアップグレードリサイクル
論文審査委員
 主査 教授 鎌土重晴
 副査 教授 福澤 康
 副査 准教授 永澤 茂
 副査 准教授 南口 誠
 副査 大阪大学接合科学研究所教授 近藤勝義

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 マグネシウム合金の用途と特徴 p.1
 1.1.1 マグネシウム合金の用途 p.1
 1.1.2 マグネシウム合金の特徴 p.1
 1.1.3 リサイクル性・豊富な資源 p.2
 1.2 マグネシウム合金の製造工程で生じる諸問題 p.3
 1.3 自動車における軽量化と安全性 p.5
 1.4 マグネシウム合金押出材の現状 p.7
 1.5 マグネシウム基複合材料の製造方法 p.8
 1.6 マグネシウム合金のポーラス材料 p.10
 1.7 研究目的 p.10
 1.8 論文の構成と概要 p.11
 参考文献 p.13
第2章 マグネシウム合金の熱間押出加工性に及ぼす押出条件の影響 p.16
 2.1 諸言 p.16
 2.2 実験方法 p.16
 2.2.1 供試材 p.16
 2.2.2 押出方法 p.17
 2.2.3 押出型材の評価方法 p.17
 2.3 実験結果および検討 p.19
 2.3.1 マグネシウム合金ビレットの機械的特性 p.19
 2.3.2 押出荷重 p.19
 2.3.3 押出形材の表面性状 p.22
 2.3.4 押出形材の室温引張特性 p.25
 2.3.5 潤滑押出の検討 p.26
 2.4 結言 p.28
 参考文献 p.28
第3章 Mg-Al-Zn系合金切削チップの熱間押出性と形材表面性状 p.29
 3.1 諸言 p.29
 3.2 実験方法 p.30
 3.2.1 切削チップ圧粉体の作製と熱間押出 p.30
 3.2.2 形材表面性状の評価 p.31
 3.2.3 ミクロ組織観察 p.31
 3.2.4 引張試験 p.31
 3.3 実験結果および考察 p.31
 3.3.1 押出形材の室温機械的性質 p.31
 3.3.2 押出材のTEM組織 p.33
 3.3.3 押出形材の表面性状 p.33
 3.3.4 表面欠陥生成過程の検討 p.36
 3.4 結言 p.41
 参考文献 p.41
第4章 Mg-Al-Zn系合金切削チップの熱間押出材の表面性状の改善 p.43
 4.1 諸言 p.43
 4.2 実験方法 p.44
 4.2.1 切削チップ圧粉体の作製と熱間押出 p.44
 4.2.2 形材表面性状の評価 p.45
 4.2.3 ミクロ組織観察 p.45
 4.2.4 室温引張試験 p.45
 4.3 実験結果および考察 p.45
 4.3.1 R-ダイスによる押出材表面性状の改善 p.45
 4.3.2 表面性状に及ぼす押出比の影響 p.49
 4.3.3 押出材の室温機械的性質 p.53
 4.4 結言 p.55
 参考文献 p.55
第5章 AZ31Bマグネシウム合金切削チップ熱間押出材特性の及ぼす押出ラム速度の影響 p.57
 5.1 諸言 p.57
 5.2 実験方法 p.58
 5.2.1 切削チップ圧粉体の作製と熱間押出 p.58
 5.2.2 ミクロ組織観察 p.59
 5.2.3 引張試験 p.59
 5.3 実験結果と考察 p.59
 5.3.1 押出材表面性状 p.59
 5.3.2 押出材の断面ミクロ組織 p.62
 5.3.3 押出過程におけるミクロ組織変化 p.63
 (1) 光学顕微鏡観察 p.63
 (2) 透過電子顕微鏡観察 p.63
 5.3.4 押出材の室温機械的性質 p.65
 5.3.5 窒素ガス冷却押出 p.65
 5.4 結言 p.69
 参考文献 p.70
第6章 AZ31マグネシウム合金切削チップのECAP均質固化成形 p.71
 6.1 諸言 p.71
 6.2 実験方法 p.72
 6.2.1 ECAP固化 p.72
 6.2.2 固化材のミクロ組織観察 p.74
 6.2.3 室温引張試験 p.74
 6.2.4 剛塑性FEM解析 p.74
 6.3 実験結果および考察 p.76
 6.3.1 ECAP固化 p.76
 6.3.2 固化材のミクロ組織 p.76
 6.3.3 固化材表面層付近のミクロ組織変化 p.77
 6.3.4 剛塑性FEMによるひずみ解析 p.80
 6.3.5 室温引張特性 p.80
 6.4 結言 p.86
 参考文献 p.86
第7章 AZ91Dマグネシウム合金切削チップの熱間押出による結晶粒微細化と高速超塑性 p.89
 7.1 諸言 p.89
 7.2 実験方法 p.90
 7.2.1 切削チップ圧粉体の作製と熱間押出 p.90
 7.2.2 ミクロ組織観察 p.90
 7.2.3 引張試験 p.90
 7.3 実験結果および考察 p.92
 7.3.1 ディスカードおよび押出形材の断面ミクロ組織観察 p.92
 7.3.2 室温における機械的性質 p.95
 7.3.3 高温引張試験 p.95
 7.3.4 超塑性変形機構 p.96
 7.4 結言 p.103
 参考文献 p.103
第8章 AZ31マグネシウム合金切削チップのECAP均質固化成形 p.105
 8.1 諸言 p.105
 8.2 実験方法 p.106
 8.2.1 切削チップ圧粉体の粉砕混合と冷間圧粉体 p.106
 8.2.2 ECAP加工 p.106
 8.2.3 ECAP-熱間押出 p.106
 8.2.4 ミクロ組織観察 p.106
 8.2.5 機械的性質 p.107
 8.2.6 摩擦摩耗試験 p.107
 8.3 実験結果および考察 p.108
 8.3.1 ECAP固化 p.108
 8.3.2 固化材のミクロ組織 p.108
 8.3.3 固化材表面層付近のミクロ組織変化 p.109
 8.3.4 剛塑性FEMによるひずみ解析 p.109
 8.3.5 室温引張特性 p.110
 8.4 結言 p.121
 参考文献 p.121
第9章 AZX912合金切削チップとガス発泡剤によるポーラスマグネシウム合金押出材の作製プロセスとその機械的性質 p.123
 9.1 諸言 p.123
 9.2 実験方法 p.124
 9.2.1 ガス発泡剤の特性 p.124
 9.2.2 温間圧粉複合体および熱間押出加工 p.124
 9.2.3 熱処理および発泡成形 p.125
 9.2.4 ミクロ組織観察および気孔率測定 p.125
 9.2.5 室温における圧縮試験 p.125
 9.3 実験結果および考察 p.127
 9.3.1 熱間押出材と発砲型材 p.127
 9.3.2 CT画像と気孔形状 p.128
 9.3.3 室温における圧縮試験 p.134
 9.4 結言 p.140
 参考文献 p.141
第10章 総括 p.142
謝辞

 近年自動車等輸送機器の軽量化に有効なマグネシウム合金を使用する機運が高まっている。しかし,マグネシウム合金押出材の工業的生産を図る上で問題となる,表面欠陥の発生,熱間押出加工条件および金型ダイス形状の最適化,ならびに製品製造工程中に生じる多量のマグネシウム合金切削チップの処理方法の確立が必要である。
 本研究では,AZ系マグネシウム合金切削チップのアップグレードリサイクルを目的として,ダイス出口形状やダイス出口での窒素ガス冷却と熱間押出材の機械的性質ならびに表面欠陥の発生過程の関係をミクロ組織的観点から評価した。また熱間押出材の高強度化と高速超塑性の発現を目指して結晶粒微細化のための熱間押出プロセスを検討した。さらに強せん断加工であるECAP加工法を利用した切削チップの均質固化,SiC粒子の均一分散化と高性能複合材の創製を試みた。

 第1章では,マグネシウム合金の製造工程で生じる問題点,マグネシウム合金押出材の現況,その必要性,および本研究の目的を述べた。

 第2章では,マグネシウム合金の熱間押出加工における製造プロセスの最適化を目的として,押出加工性ならびに押出材の表面性状や機械的性質等に及ぼす押出条件の影響について調べた。その結果,高温・高速では,形材表面が赤褐色または黒色に変色し,深くて大きな波状のしわ模様になるのに対し,573K-1.0 mm・s-1の低温・低速条件では,400~500 m程度の微細な割れが発生するものの,光沢のあるダイラインが得られ,引張強さも向上する。また,表面割れ対策および表面粗さの改善方法として黒鉛による潤滑が有効であることがわかった。

 第3章では,AZ31BおよびAZ91Dマグネシウム合金の切削チップの固体リサイクルを目的として直角ダイスを用いて熱間押出を行ない,得られた押出形材の表面性状および室温機械的性質について検討した。その結果,両合金とも押出材表面には,ダイスコーナでのビレットの塑性流れが断続的となるため,押出方向にほぼ直角方向の,波状の特有の表面あれが発生することを見出した。ただし,引張特性は適切な押出条件を選択することによりバルク材を用いて押出した試験片とほぼ同等な特性が得られ,マグネシウム合金でも固体リサイクルが可能であることを明らかにした。

 第4章では,第3章での知見をもとに,ダイスコーナの形状を変えることによるAZ31BおよびAZ91Dマグネシウム合金切削チップ熱間押出材の表面性状の改善を試みた。出口コーナ部に1.5 mmの曲率半径を有するダイス(R-ダイス)を使用することにより,押出塑性流れは連続かつスムーズになり,押出材の表面粗さは著しく改善されること,押出比を19から100に増大することにより,さらに減少することも見出した。

 第5章では,高押出ラム速度におけるAZ31Bマグネシウム合金切削チップ熱間押出材の表面性状に及ぼすダイス形状改善の効果,ダイス出口部押出材の温度上昇の影響および不活性ガス冷却の効果について評価した。その結果,R=100の高押出比でも,3.0 mm/sの押出ラム速度まではミクロ的にも表面割れを発生しない良好な押出材が得られることを明らかにした。さらに,ダイス出口部の押出材を窒素ガス冷却することによって温度上昇が抑制され,高い押出ラム速度でも結晶粒粗大化しないため,押出材の表面割れや伸びの低下を抑制できることを見出した。

 第6章では,均質な室温機械的性質を有する固体リサイクル材作製を目指して,ドライ切削加工したAZ31マグネシウム合金切削チップの冷間圧粉体へのMoS2系潤滑剤の塗布,および回転角R=90°づつ回転させる繰り返しECAP固化成形法を適用し,ミクロ組織および室温引張特性を評価した。その結果,無潤滑+潤滑を組み合わせたECAP固化を施すことにより,表面割れのない,均質な機械的性質を有する固化材が得られることを見出した。

 第7章では,AZ91D切削チップの熱間押出材の高強度化と熱間加工性の改善を目指して,溶体化処理と時効によりMg17Al12( 相)を微細析出させたビレットに押出を加え,その結晶粒成長抑制効果による結晶粒微細化のための押出プロセスを検討するとともに,得られた押出形材の表面性状,内部組織観察,室温強度,超塑性特性等について調べた。その結果,切削チップ圧粉体ビレットへの 相の微細析出処理および形材出口付近の窒素ガス冷却により微細結晶粒を有する押出材が得られ,548 K,10-2 s-1の高ひずみ速度領域で,ひずみ速度感受性指数が0.56,伸び値が250 %と,高速超塑性が発現することを明らかにした。

 第8章では,マグネシウム合金の高強度化および耐摩耗性の付与を目的として,AZ31Bマグネシウム合金切削チップとSiC粒子を混合した冷間圧粉体に繰返しECAP加工を施し,強せん断加工によりSiC粒子の凝集体の分断および分散を促進し,さらに得られたECAP固化材に熱間押出を加え,一層均質に分散させたSiC粒子複合押出材の創製を目指した。その結果,マトリックスの平均結晶粒径は約2 mと極めて微細化し,引張強さ,0.2%耐力とも向上することを見出した。さらに,ECAP回数の多いECAP-熱間押出材の方が,SiC粒子の均質混合と凝集体の分断や分散により,耐摩耗性も向上することを明らかにした。

 第9章では,Mg-Al-Zn-Ca系合金切削チップを用いたクローズドセル型ポーラスマグネシウム合金の創製を目的として,セルテトラ粉末を混合して冷間圧粉体ビレットを作製した後,熱間押出加工を施し,この熱間押出板材を密閉金型内にて加熱処理を行い,所定の形状に発泡成型することを試みた。内部の気孔形状等をマイクロフォーカスX線CT画像により非破壊で3次元形状に可視化し,定量的に評価した結果,押出板厚方向以外は,均一な気孔断面を有し,室温における圧縮試験でも、最小相対密度約0.35のポーラス材料で、50~60%の圧縮率まで応力約2MPaの良好なプラトー領域を示すことを明らかにした。

 第10章では,本研究で得られた結果を要約し,総括した。

 本論文は、「熱間強加工によるマグネシウム合金切削チップのアップグレードリサイクル」と題し、10章より構成されている。
 第1章「序論」では、マグネシウム合金の製造工程で生じる問題点、マグネシウム合金押出材の現況、その必要性、および本研究の目的を述べている。
 第2章「マグネシウム合金の熱間押出し加工性に及ぼす押出し条件の影響」では、マグネシウム合金バルク材の熱間押出加工条件と表面品質、機械的性質との関係を把握するとともに、問題点を抽出している。
 第3章「Mg-Al-Zn系合金切削チップの熱間押出し性と形材表面性状」では、AZ31BおよびAZ91Dマグネシウム合金の切削チップを用いた場合の押出し中の塑性流れに起因する表面あれを解析するとともに、適切な押出条件を選択することによりバルク材を用いて押出した試験片とほぼ同等な引張特性が得られ、マグネシウム合金でも固体リサイクルが可能であることを明らかにしている。
 第4章「Mg-Al-Zn系合金切削チップ熱間押出し材の表面性状の改善」では、第3章での知見をもとに、出口コーナ部に曲率を有するダイスを使用し、押出比を大きくすることにより、連続的な塑性流れとなり、押出材の表面粗さが改善されることを見出している。
 第5章「AZ31Bマグネシウム合金切削チップ熱間押出材特性に及ぼす押出ラム速度の影響」では、ダイス出口部の押出材を窒素ガス冷却することにより押出材の温度上昇が抑制され、高い押出ラム速度でも結晶粒が粗大化せず、表面割れや伸びの低下を抑制できることを見出している。
 第6章「AZ31マグネシウム合金切削チップのECAP均質固化成形」では、切削チップの冷間圧粉体へのMoS2系潤滑剤の塗布および繰返しECAP固化成形法を適用し、表面割れのない、均質な機械的性質を有する固化材が得られることを明らかにしている。
 第7章「AZ91Dマグネシウム合金切削チップの熱間押出による結晶粒微細化と高速超塑性」では、切削チップ圧粉体ビレットへの微細析出処理および形材出口付近への窒素ガス冷却により微細結晶粒を有する押出材が得られ、548Kで高速超塑性が発現することを明らかにしている。
 第8章「ECAP-熱間押出加工法によるSiC粒子分散AZ31Bマグネシウム合金切削チップ複合材料の作製とその機械的性質」では、切削チップにSiC粒子を混合した冷間圧粉体の繰返しECAP加工後、熱間押出を施すことにより、マトリックス相の結晶粒微細化とともに、SiC粒子の均質混合と凝集体の分断や分散が促進され、耐摩耗性も向上することを明らかにしている。
 第9章「AZX912合金切削チップとガス発泡剤によるポーラスマグネシウム合金押出材の作製プロセスとその機械的性質」では、セルテトラ粉末を混合して冷間圧粉体ビレットを作製した後、熱間押出加工を施し、密閉金型内にて加熱処理を行うことにより、二次元的に均一な気孔断面を有する相対密度約0.35のポーラス材が作製でき、良好なプラトー領域を示すことを明らかにしている。
 第10章「総括」では、本研究で得られた結果を要約し、総括している。
 以上のように、本論文は熱間加工によるマグネシウム合金切削チップの固化成形法を確立するとともに、複合化・ポーラス化による機能性付与を目指したアップグレードリサイクルの可能性も見出している。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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