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Isolation of Rice Cluster I methanogens playing a key role in global methane emission from rice paddy fields(水田からのメタン生成に関与するRice Cluster I 古細菌の分離・培養)

氏名 酒井 早苗
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第461号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 Isolation of Rice Cluster I methanogens playing a key role in global methane emission from rice paddy fields (水田からのメタン生成に関与するRice Cluster I 古細菌の分離・培養)
論文審査委員
 主査 准教授 小松 俊哉
 副査 准教授 山口 隆司
 副査 准教授 高橋 祥司
 副査 准教授 政井 英司
 副査 東京大学大学院工学研究科准教授 片桐 裕則
 副査 独立行政法人海洋研究開発機構研究員 片桐 裕則

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Chapter 1 Introduction & Outline
 1.1 Background and Intent p.2
 1.2 Outline p.3
 References
Chapter 2 Literature Review
 2.1 Biological methane emission p.6
 2.2 General features of methanogens p.7
 2.3 An uncultured archaeal group Rice Cluster I p.18
 References
Chapter 3 Isolation of key methanogens for global methane emission from rice paddy field: anovel isolate affiliated with a clone cluster, the Rice Cluster I
 3.1 Biological methane emission p.28
 3.2 General features of methanogens p.29
 Environmental samples, microorganisms and cultivation
 Analysis of 16S rRNA genes
 Fluorescence in situ hybridization
 Microscopy and chemical analyses
 Nucleotide sequence accession numbers
 3.3 Results p.31
 Attempt at cultivation of Rice Cluster I methanogens using hydrogen
 Cultivation of Rice Cluster I methanogen using "co-culture" method
 Isolation of the Rice cluster I methanogen in pure culture
 3.4 Discussion p.35
 References
Chapter 4 Methanocella paludicola gen. nov., sp. nov., a methane producing archaeon that is the first cultured representative of a previously uncultured lineage 'Rice Cluster I', and proposal ofthe new arcaeal order Methanocellales ord. nov.
 4.1 Introduction p.42
 4.2 Materials and Methods p.42
 Cultivation, Effect of pH & temperature and Substrate utilization
 Microscopy
 Analytical methods
 Determination of DNA base content
 Sequencing and phylogenetic analyses
 Fluorescence in situ hybridization
 4.3 Results and Discussion p.45
 Morphology
 Physiological properties
 Phylogenetic analyses
 Taxnomic remarks on the strain
 Descriptions
 References
Chapter 5 Isolation of thermophilic Rice Cluster I methanogen
 5.1 Introduction p.56
 5.2 Materials and Methods p.56
 Microorganism
 Cultivation
 Analysis of 16S rRNA genes
 Fluorescence in situ hybridization
 Microscopy and chemical analyses
 5.3 Results p.59
 Isolation of a novel rice Cluster I methanogen using the co-culture method
 Attempt to isolate a novel Rice Cluster I methanogen using a canonical method
 5.4 Discussion
 References
Chapter 6 Cultivation of methanogens under low hydrogen conditions by using anaerobic, syntrophic, fermentative hydrogen-producing bacteria
-Application of co-culture method for other environmental samples-
 6.1 Introduction p.69
 6.2 Materials and Methods p.70
 Environmental samples
 Microorganisms and cultivation
 Analysis of 16S rRNA genes
 Microscopy and analytical methods
 Nucleotide sequence accession numbers
 6.3 Results p.72
 Cultivation of methanogens with the canonical method
 Cultivation of methanogens using the co-culture method
 Isolation of novel methanogen in pure culture
 6.4 Discussion p.81
 References
Chapter 7 Summary & Conclusions p.88
 References
 Publications list p.93
Acknowledgement(謝辞) p.94

 水田は地球温室効果ガスであるメタンの主要な発生源の1つであり、水田から放出されるメタンは大気中に放出されるメタンの約10~20% を占めている。そして、生成される大部分のメタンは Rice Cluster I (RC-I) と呼ばれる人為的に純粋培養されたことがない古細菌群が担っていると推定されている。RC-Iは1999年にイタリアの水田土壌から16S rRNA遺伝子クローンとして発見され、 (1) 様々な嫌気環境に存在し、特に水田環境において季節・場所を問わず優占的に存在すること、(2) 水素資化性のメタン生成古細菌であること、(3) 水田環境における炭素循環において重要な役割を果たしていることが明らかとされている。しかしながら、これら全ての情報は培養に依存しない分子生物学的手法を用いて得られたものであり、その詳細な生理学的性質・特徴は純粋菌株が存在しないため不明であった。そこで本研究ではRC-Iに属するメタン生成古細菌の分離・培養を試みた。
 本論文の第3章では水田土壌からRC-Iに属するメタン生成古細菌の分離・培養を試みた。より自然環境 (ここでは水田土壌環境) に近い条件を試験管内に再現することができればRC-Iに属するメタン生成古細菌を優占的に培養できるのではないかという仮定の下、自然環境に近い低分圧の水素を供給可能な方法として嫌気共生培養法という培養法を提案し、本手法を用いて水田土壌の培養を行った。その結果、RC-Iに属するメタン生成古細菌を優占的に集積培養することができ、最終的にRC-Iに属するメタン生成古細菌SANAE株を純粋培養することに成功した。
 第4章では第3章で分離したSANAE株の詳細な菌学的特徴の決定を行った。分離株は運動性のない桿菌で、水素およびギ酸を基質として利用可能であった。至適生育温度は37℃、至適生育pHは7であった。また水素を基質に用いて至適生育条件下で培養を行った時の倍加時間は4.2日であった。分離株の16S rRNA遺伝子のほぼ全長およびメタン生成の鍵酵素であるmethyl-coenzyme M reductase 遺伝子のαサブユニットの部分配列を決定し分子系統解析を行った結果、分離株は'Methanomicrobia' 綱に属する目レベルで新規なメタン生成古細菌であることが明らかとなった。そして、これら生理学的特徴と分子系統解析の結果からSANAE株を新目を代表する新属新種のメタン生成古細菌、 Methanocella paludicolaとして提案を行った。さらに、これまでRC-Iと呼ばれていた系統群を新しいメタン生成古細菌の目Methanocellales として提案した。
 第5章では、RC-Iの分離株を増やすためMRE50と呼ばれる集積培養系からRC-Iの分離を試みた。MRE50培養系はRC-Iが優占的に存在する高温の培養系であり、RC-Iのメタゲノム解析に用いられた集積培養系である。またMRE50培養系内に存在するRC-Iと先に分離したSANAE株の16S rRNA遺伝子の相同性は92%あることから、おそらく属レベルで新規なメタン生成古細菌であることが考えられた。本培養系内に古細菌はRC-Iしか存在していないものの、細菌が多種類存在しており、そのためRC-Iの分離が困難となっていた。培養系内に混在する細菌を取り除きRC-Iの純粋菌株を得るため、嫌気共生培養法や従来法を用いた分離の試みを約1年行った。その結果、RC-Iに属する2番目の分離株であるMRE50株を純粋培養することに成功した。
 第6章では第3章で提案した嫌気共生培養法を用いて様々な嫌気環境サンプルから新規なメタン生成古細菌の培養を試みた。また、対照系として従来法を用いたメタン生成古細菌の培養も行った。その結果、従来法を用いた培養では、ほぼ全ての集積培養系において既知のメタン生成古細菌と近縁な菌株が培養された。一方、嫌気共生培養法を用いた培養では、既知のメタン生成古細菌が培養された培養系もあったが、RC-IやFen Cluster 等、これまで培養が困難だと認識されてきたメタン生成古細菌群が優占的に存在した培養系もあった。この結果は、嫌気共生培養法を用いてより自然環境に近い低水素分圧条件下で培養を行う事により、未だ分離・培養されていないメタン生成古細菌が培養可能であることを示していた。
 本研究では未培養なメタン生成古細菌のグループであるRC-Iに注目し、これまで分離が困難だとされていたRC-Iメタン生成古細菌を2株分離する事に成功した。本研究によってRC-Iの純粋菌株が得られ、その菌学的特徴が明らかとされたことは、今後RC-Iの研究ひいては水田からのメタン放出の機構の解明ならびにメタン生成の抑制策を考える上で、工学的にも極めて重要な基礎的情報になると考えられる。

 本論文は、「Isolation of Rice Cluster I methanogens playing a key role in global methane emission from rice paddy fields.(水田からのメタン生成に関与するRice Cluster I 古細菌の分離・培養)」と題し、7章より構成されている。
 第1章「緒論」では、本研究の意義と目的について述べ、論文の構成について記述している。
 第2章は、研究の背景と既往の研究について記述している。生物学的メタン生成、メタン共生細菌、および本研究でターゲットとした未培養メタン古細菌RC-Iについてまとめている。
 第3章では、自然環境に近い低分圧の水素を供給可能な方法として嫌気共生培養法という培養法を提案している。また、提案した手法を用いて水田土壌の培養を行い、最終的にRC-Iに属するメタン生成古細菌SANAE株を純粋培養することに成功している。
 第4章では、第3章で分離したSANAE株の詳細な菌学的特徴の決定について記述している。分離株は運動性のない桿菌で、水素およびギ酸を基質として利用可能であり、至適生育温度は37℃、至適生育pHは7であることを明らかにしている。さらに、分離株の16S rRNA遺伝子のほぼ全長およびメタン生成の鍵酵素であるmethyl-coenzyme M reductase 遺伝子のαサブユニットの部分配列を決定し分子系統解析を行い、分離株は'Methanomicrobia' 綱に属する目レベルで新規なメタン生成古細菌であることが明らかにしている。そして、これら生理学的特徴と分子系統解析の結果からSANAE株を新目を代表する新属新種のメタン生成古細菌、 Methanocella paludicolaとして提案し、これまでRC-Iと呼ばれていた系統群を新しいメタン生成古細菌の目Methanocellales として提案している。
 第5章では、RC-Iの分離株を増やすため、MRE50と呼ばれる集積培養系からRC-Iの分離を試み、その培養系内に存在するRC-Iと先に分離したSANAE株の16S rRNA遺伝子の相同性が92%であることを示した。また、RC-Iに属する2番目の分離株であるMRE50株を純粋培養することに成功している。
 第6章では、第3章で提案した嫌気共生培養法を用いて様々な嫌気環境サンプルから新規なメタン生成古細菌の培養を試み、嫌気共生培養法を用いてより自然環境に近い低水素分圧条件下で培養を行う事により、未だ分離・培養されていないメタン生成古細菌が培養可能であることを示した。
 第7章では、本論文で得られた結果と考察を要約し、今後の研究への提案を行った。
 以上のように本論文は、より自然環境に近い条件下で新規なメタン生成古細菌の分離・培養についてまとめたものである。本論文は、水圏環境に生息するメタン生成古細菌の分離・培養において非常に有用な技術を提案しており、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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