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分光分析を用いた酸化チタン光触媒反応により生成する一重項酸素の評価とその発生機構に関する研究

氏名 大門 利博
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第464号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 分光分析を用いた酸化チタン光触媒反応により生成する一重項酸素の評価とその発生機構に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 小林 高臣
 副査 教授 梅田 実
 副査 准教授 伊東 治彦
 副査 准教授 齊藤 信雄

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1章 序論
 1.1 緒言 ~Introduction~ p.1
 1.2 目的 ~Purpose~ p.8
 1.3 論文の構成 ~Table of Contents~ p.8
 1.4 参考文献 ~Reference~ p.10
2章 実験 ~酸化チタン光触媒の特性評価と光触媒反応で生成する活性酸素種の評価方法~
 2.1 緒言 ~Introduction~ p.13
 2.2 理論と原理 ~Theory, Basis and Background~ p.14
 2.2.1 活性酸素 p.14
 2.2.4.1 一重項酸素 p.15
 2.2.4.2 スーパーオキシドラジカル p.16
 2.2.1.3 ヒドロキシルラジカル p.17
 2.2.2 酸化チタンの諸物性 p.19
 2.2.3 酸化チタン光触媒反応 p.20
 2.2.3.1 酸化チタン光触媒の参加力と活性酸素種 p.21
 2.2.3.2 酸化チタン表面の超親水性 p.22
 2.2.4 酸化チタン光触媒の反応活性に影響を与える因子 p.23
 2.2.4.1 バンド構造 p.24
 2.2.4.2 光学的特性 p.24
 2.2.4.3 結晶構造 p.24
 2.2.4.4 電子-正孔の再結合 p.25
 2.2.4.5 粒子径 p.25
 2.3 実験装置 ~Experimental set-up~ p.27
 2.3.1 一重項酸素の近赤外発光とその観測 p.27
 2.3.1.1 一重項酸素の発光と測定原理 p.27
 2.3.1.2 ゲーティッドフォトンカウンティング法 p.28
 2.3.1.3 近赤外発光法による一重項酸素の検出 p.29
 2.3.1.4 一重項酸素の評価方法 p.31
 2.3.2 スーパーオキシドによるルミノールの化学発光とその観測 p.33
 2.3.2.1 ルミノールの化学発光 p.33
 2.3.2.2 ルミノール化学発光法によるスーパーオキシドの検出 p.34
 2.3.3 特性評価、分析 p.34
 2.3.3.1 X線回折(XRD)装置 p.32
 2.3.3.2 分光光度計 p.36
 2.4 参考文献 ~Reference~ p.37
3章 側面照射法を用いた懸濁系酸化チタン光触媒反応において形成される一重項酸素の燐光検出
 3.1 緒言 ~Introduction~ p.40
 3.2 実験 ~Experimental~ p.41
 3.2.1 試薬 p.41
 3.2.2 近赤外発光法を用いた一重項酸素の燐光の検出 p.42
 3.3 結果および考察 ~Results and Discussion~
 3.3.1 色素増感反応で発生する一重項酸素の発光スペクトル p.43
 3.3.2 光触媒反応で発生する一重項酸素の発光スペクトル p.44
 3.3.4 一重項酸素の量子収率 p.45
 3.3.5 酸化チタン光触媒による一重項酸素生成反応と溶媒効果 p.47
 3.3.6 酸化チタン光触媒による一重項酸素生成反応と寿命 p.49
 3.4 結論 ~Conclusions~ p.51
 3.5 参考文献 ~Reference~ p.52
4章 正面照射法を用いた酸化チタン光触媒反応で生成される一重項酸素の高感度検出によるその生成機構及び挙動の解析
 4.1 緒言 ~Introduction~ p.53
 4.2 実験 ~Experimental~ p.54
 4.2.1 試薬 p.55
 4.2.2 近赤外発光法を用いた一重項酸素の燐光の検出 p.53
 4.3 結果および考察 ~Results and Discussion~ p.56
 4.3.1 一重項酸素の発光スペクトル p.54
 4.3.2 周辺の環境と光触媒反応により生成した一重項酸素の関係 p.56
 4.3.3 光触媒反応によって生成される一重項酸素の量子収率 p.61
 4.3.4 種々の酸化チタン粉末における一重項酸素生成 p.64
 4.4 結論 ~Conclusions~ p.67
 4.5 参考文献 ~Reference~ p.68
5章 酸化チタン光触媒反応で生成するスーパーオキシドと一重項酸素の検出による酸化チタン光触媒反応メカニズムの解明
 5.1 緒言 ~Introduction~ p.70
 5.2 実験 ~Experimental~ p.71
 5.2.1 試薬 p.71
 5.2.2 近赤外発光法を用いた一重項酸素の燐光の検出 p.71
 5.2.3 スーパーオキシドの化学発光による観測 p.72
 5.3 結果および考察 ~Results and Discussion~ p.73
 5.3.1 光触媒反応で生成する一重項酸素とハロゲン化物イオンの影響 p.73
 5.3.2 光触媒反応で生成する一重項酸素と過酸化水素の影響 p.77
 5.3.3 光触媒反応で生成する一重項酸素とエタノールの影響 p.79
 5.3.4 光触媒反応で生成する一重項酸素と溶媒のpHの影響 p.81
 5.3.5 種々の酸化チタン光触媒で生成する一重項酸素とスーパーオキシドの関係 p.38
 5.4 結論 ~Conclusions~ p.88
 5.5 参考文献 ~Reference~ p.89
6章 近赤外発光を用いた酸化チタン光触媒反応で生成した一重項酸素と有機化合物との反応に関する研究
 6.1 緒言 ~Introduction~ p.91
 6.2 実験 ~Experimental~ p.91
 6.3 結果および考察 ~Results and Discussion~ p.93
 6.3.1 光触媒反応で生成する一重項酸素と有機溶剤の影響響 p.93
 6.3.2 光触媒反応で生成する一重項酸素と励起光依存性 p.97
 6.3.3 光触媒反応で生成する一重項酸素と有機化合物との反応 p.99
 6.4 結論 ~Conclusions~ p.104
 6.5 参考文献 ~Reference~ p.105
7章 総括 p.106
本研究に関する発表 ~List of publication~ p.108
謝辞 ~Acknowledgements~ p.116

 近年、半導体の表面を用いる光触媒反応は注目されている。その中でも酸化チタン(TiO2)光触媒は強い酸化力や超親水性効果の様な特徴により、環境浄化技術への利用に期待が高まっている。この光触媒反応には、スーパーオキシドラジカル("O2-)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル("OH)、一重項励起酸素(1O2)等の活性酸素種が関与するといわれているが、固体表面に生成した活性酸素の検出は簡単でなく、その詳細な反応機構は解明されていない。これまで光触媒反応で形成される活性酸素種は"O2-, H2O2, ・OHについては広く研究されていたが、1O2についてはその生成の有無すら不明であった。そこで本研究では、1O2が発する燐光の直接観察を試み、TiO2光触媒反応による1O2生成の有無、生成量、寿命及び様々な有機化合物との反応性を明確にする事、また,他の活性酸素種や物理的特性との関係からその生成過程を明確にする事を目的とした。
 第一章「序論」では、TiO2光触媒反応の有効性や、これまでに解明されている反応機構や不明な点、また問題点などを述べると共に本研究の目的および方針について述べた。
第二章「実験」では、本研究で用いたTiO2光触媒の特性評価の方法および活性酸素種の評価方法について示した。また、それらを考察する上で必要な、いくつかの理論や概念について述べた。
 第三章「懸濁系酸化チタン光触媒反応において形成される一重項酸素」では、TiO2懸濁水溶液で近赤外発光スペクトルを測定し、1O2発生物質として知られるローズベンガル色素増感剤の水溶液と比較する事により、懸濁系TiO2光触媒反応における1O2生成を初めて確認し、その量子収量を見積もった。また、異なる溶媒において観測された1O2生成量、寿命の差異が光触媒反応と1O2の特性の違いに起因することを明らかにした。
 第四章「酸化チタン光触媒反応において形成される一重項酸素の生成と減衰」では、種々の雰囲気下のTiO2光触媒反応における近赤外発光スペクトルを測定し、大気下における1O2生成を初めて確認した。また、観測された種々の雰囲気下における1O2の燐光の強度から求められた1O2の生成の量子収率は高く,光触媒の特性と相関がある事を明らかにした。また、その寿命は光触媒の表面と周辺環境に相関があり、多くは触媒表面により脱励起(クエンチ)され、表面に吸着した状態で失活する事を明らかにした。これらの結果はTiO2光触媒反応における1O2生成過程がTiO2光触媒反応により生成された"O2-の正孔による酸化である事を示した。さらに種々のTiO2光触媒における1O2生成量と寿命を大気下で測定し,TiO2光触媒の活性酸素種生成能と物理的特性との関係を明らかにした。
 第五章「酸化チタン光触媒における活性酸素種の発生挙動とその反応機構の解明」では、懸濁系において,正孔をスカベンジするハロゲン化物イオン、O2の還元反応を加速し、電子と正孔の再結合を抑制させる過酸化水素、正孔と反応し、酸素を消費するアルコールのそれぞれの添加実験を行い,"O2-生成量と1O2生成量、寿命の変化から,1O2生成過程がTiO2光触媒反応により生成された"O2-の正孔による酸化である事を明らかにした。また、pHを変化させた溶媒における1O2生成量と寿命は表面構造と"O2-の反応性と相関があることを明らかにした。さらに,種々のTiO2光触媒における"O2-生成量と1O2生成量、寿命を懸濁系で測定し,酸化チタンの物性値と活性酸素種生成能の相関を明らかにした。
 第六章「光触媒反応で生じる一重項酸素と有機化合物との反応とその利用」では、種々の組成、官能基を有する有機溶媒中でTiO2光触媒反応により生成する1O2の生成量と寿命の差異から、1O2の生成過程と酸素供給に与える影響を明らかにした。また、1O2との反応が知られる種々の有機化合物の添加実験における1O2生成量、寿命の変化はTiO2光触媒反応で生成する1O2の反応性を明らかにした。
 以上のように,本研究により、種々の雰囲気下のTiO2光触媒反応における1O2生成の有無、生成量、寿命を1O2の近赤外発光の直接観測から初めて確認し,その発生機構,反応性を評価した。その知見は、多くの光触媒反応のメカニズム解明に役立ち、光触媒活性の評価、また高活性光触媒の構築において重要な指針となる事を確信する。

 本論文は、「分光分析を用いた酸化チタン光触媒反応により生成する一重項酸素の評価とその発生機構に関する研究」と題し、7章より構成されている。
 第1章「序論」では、酸化チタン光触媒反応の有効性、これまでに解明されている点,不明な点、また,問題点などを述べるとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
 第2章「実験」では、本研究で用いた酸化チタン光触媒の特性評価の方法および活性酸素種の評価のための実験方法について、さらに、それらを本研究で得られた結果を考察する上で必要な、いくつかの理論や概念について述べている。
 第3章「懸濁系酸化チタン光触媒反応において形成される一重項酸素」では、散乱光が少なく測定が比較的容易な希薄懸濁系光触媒の側面励起での実験結果とその考察を述べている。高感度の検出器と時間分解測定システムを用いることで、酸化チタン光触媒系で紫外線励起により一重項酸素が発生することを近赤外発光スペクトルの測定で初めて見出した。また、寿命を測定することにも成功し、一重項酸素発生の標準的試薬であるローズベンガル色素増感剤で見出された近赤外発光との比較により、光触媒反応における一重項酸素発生の量子収量を見積もっている。また、異なる溶媒において観測された一重項酸素の生成量、寿命の差異を光触媒反応の違いから明かにしている。
 第4章「酸化チタン光触媒反応において形成される一重項酸素の生成と減衰」では、希薄懸濁系ではなく,実用に近い空気中の酸化チタン光触媒系における近赤外発光スペクトルを正面反射で測定することを試み成功している。これにより,種々の雰囲気下において光触媒から発生する一重項酸素の近赤外発光の減衰から求められた一重項酸素の寿命が,光触媒の表面と周辺環境により決定されることを示し、多くは触媒表面に吸着した状態で失活する事を明らかにしている。さらに,大気下の種々の酸化チタン光触媒における一重項酸素の生成量と寿命を測定し,生成量子収率は0.2~0.3程度と高いが、2μs程度の短い寿命であり、多くは表面に吸着した状態で失活し、拡散が困難である事を明らかにしている。
 第5章「酸化チタン光触媒における活性酸素種の発生挙動とその反応機構の解明」では、正孔を捕捉するハロゲン化物イオン、電子・正孔対の再結合を抑制させる過酸化水素、正孔と反応し、酸素を消費するエタノールのそれぞれの添加実験における一重項酸素の生成量と寿命を測定し,その前駆体と考えられる,スーパーオキサイドラジカルの生成量と比較した結果について述べている。
 第6章「種々の溶媒と光触媒反応で生じる活性酸素種の関係と有機反応への利用」では、一重項酸素との反応が知られる種々の有機化合物を,懸濁系酸化チタン光触媒に添加し,一重項酸素の生成量、寿命の変化を測定し,酸化チタン光触媒系で発生する一重項酸素の生体反応および環境への影響について議論している。
 第7章「総括」において,本研究で得られた成果について,まとめている。
 本研究により、種々の雰囲気下の酸化チタン光触媒反応における一重項酸素生成の有無、生成量、寿命を近赤外発光の直接観測から初めて確認し,その知見は、多くの酸化チタン光触媒反応のメカニズム解明に役立ち、光触媒の安全性、また高活性光触媒の構築において重要な指針となるものである。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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