Diversity, identification, and cultivation of anaerobic, syntrophic long chain fatty acid-degrading microbes in methanogenic sludges(嫌気性汚泥に生息する高級脂肪酸分解細菌の分離・培養と多様性の解明)
氏名 幡本 将史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第467号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 Diversity, identification, and cultivation of anaerobic, syntrophic long chain fatty acid-degrading microbes in methanogenic sludges (嫌気性汚泥に生息する高級脂肪酸分解細菌の分離・培養と多様性の解明)
論文審査委員
主査 准教授 小松 俊哉
副査 准教授 山口 隆司
副査 准教授 高橋 祥司
副査 准教授 政井 英司
副査 東京大学大学院工学研究科准教授 佐藤 弘泰
副査 独立行政法人海洋研究開発機構研究員 井町 寛之
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Chapter 1 General introduction
1.1 Background and objective p.1
1.2 Outline of this thesis p.3
References
Chapter 2 Literature review
2.1 Anaerobic treatment of lipid containing waste/wastewater p.5
2.2 Methanogenic degradation of organic matter p.7
2.3 β-oxidation of fatty acids under methanogenic condition p.10
2.4 Fatty acids-degrading syntrophs p.12
2.5 Described species of LCFA-degrading syntrophs p.16
References
Chapter 3 Identification and cultivation of anaerobic, syntrophic long-chain fatty acid-degrading microbes
3.1 Introduction p.24
3.2 Materials and methods p.25
3.3 Results p.30
3.4 Discussion p.37
References
Chapter 4 characterization of novel anaerobic, syntrophic long-chain fatty acid-degrading microbes
4.1 Introduction p.45
4.2 Materials and methods p.45
4.3 Results and discussion p.47
References
Chapter 5 Diversity of LCFA-degrading microorganisms in methanogenic sluges revealed by RNA-based stable isotope probing
5.1 Introduction p.56
5.2 Materials and methods p.57
5.3 Results p.59
5.4 Discussion p.68
References
Chapter 6 Detection of butyrate-degrading microorganisims in methanogenic using RNA-based stable isotope probing
6.1 Introduction p.76
6.2 Materials and methods p.76
6.3 Results and discussion p.77
References
Chapter 7 Summary p.87
Publication list p.i
Acknowledgement p.ii
嫌気性処理プロセスにおいては高濃度に脂質を含有する廃水・廃棄物の処理が問題となっている。現在までに、脂質含有廃水の嫌気処理を妨げている要因は主に高級脂肪酸に起因する事が分かっている。しかしながら、実際に高級脂肪酸の分解を担っている微生物を直接対象とした研究は少なく、それら微生物の知見は限られているのが現状であった。そこで、本研究では、高濃度脂質含有廃水・廃棄物の嫌気性処理の効率化のため、脂質分解で重要な役割を担っている嫌気性高級脂肪酸分解細菌に着目し、それら細菌の多様性や生理学的特徴等の基礎的情報を収集することを目的とした。
嫌気性高級脂肪酸分解細菌は分離株が少なくその情報が非常に限られている事から、まずは高級脂肪酸の分解を担う細菌の分離・同定を試みた。高級脂肪酸分解細菌の選択的な培養を試みるため、微生物の植種源として脂質を多く含む廃水の処理を行っていた2種類の嫌気性グラニュール汚泥を使用し、4つの高級脂肪酸 (パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸とリノール酸) を用いて、計8種類の集積培養を行った。その結果、高級脂肪酸分解細菌とメタン生成古細菌との共生系により高級脂肪酸を分解して生育する集積培養系を得ることができた。続いて、その集積培養系内で高級脂肪酸の分解を担っている細菌を推定するために、16S rRNA遺伝子に基づいたクローン解析やFISH (fluorescence in situ hybridization) 法を用いた解析を行った。その結果、集積培養系において高級脂肪酸の分解を担っている微生物は、既知の高級脂肪酸分解細菌が属するSyntrophomonadaceae科の細菌だけでなく、系統分類学的に全く異なるグループの細菌である、Firmicutes門やDeltaproteobacteria綱に属する未知の細菌も高級脂肪酸の分解に関与している可能性があることが明らかになった (第3章)。
そこで、集積培養系で高級脂肪酸の分解を担っていると考えられる細菌の純粋分離を試みた。その結果、パルミチン酸を基質とした集積培養系からSyntrophomonas属に属する新規な嫌気性高級脂肪酸分解細菌MPA株の純粋培養に成功した。このMPA株に対して16S rRNA遺伝子配列に基づいた分子遺伝学的解析や、詳細な生理学的特徴の調査を行ったところ、MPA株はSyntrophomonas属に属する新種の細菌である事が明らかとなった。そこで、このMPA株をSyntrophomonas属の新種の細菌S.palmitaticaと命名し、提案した (第4章)。
次に、嫌気性処理において高級脂肪酸を分解する微生物の多様性を分子系統学的に明らかにするため、分離培養を経ずに微生物の機能推定を行える手法であるStable-isotope probing (SIP) 法を用い、高級脂肪酸の分解を担う微生物の推定を試みた。解析には集積培養で使用したものと同じ2種類の嫌気性グラニュール汚泥、および2種類の嫌気消化汚泥の合計4つの汚泥を対象とし、高級脂肪酸分解細菌が特異的に分解できる部分の炭素を13Cで標識したパルミチン酸を用いて培養を行った。培養後RNAの抽出を行い、抽出したRNAを密度ごとに分離分画したところ、13Cで標識されたパルミチン酸で培養を行うことにより密度の大きいRNAが増加している事が確認できた。この重いRNA をテンプレートとして細菌の16S rRNA遺伝子のクローンライブラリーを構築し分子系統解析を行った。その結果、嫌気性高級脂肪酸分解細菌グループとして知られているSyntrophomonadaceae科だけではなくClostridium属やSyntrophus属、Deltaproteobacteria綱のクローンクラスターに属するクローン等が高頻度に検出された。これらSIP法による解析結果は、現在までに全く知られていない細菌が高級脂肪酸の分解に関与している可能性を示していた (第5章)。
さらに本研究では、酪酸を用いたSIP法を上記と同じ汚泥に適用し、高級脂肪酸を用いた結果との比較を行う事で、高級脂肪酸の分解にのみ関与する細菌、高級脂肪酸と酪酸の両方の分解に関与する細菌、そして酪酸分解に関与し高級脂肪酸の分解には関与しない細菌の推定を試みた (第6章)。これら一連の実験結果より、脂肪酸分解細菌としてひとまとめにされていた高級脂肪酸分解細菌と短鎖脂肪酸分解細菌について、それら微生物群の特定とその役割の解明を目指した。その結果、同一の汚泥においてもパルミチン酸と酪酸の分解に関与する主要な細菌は異なっている事が示された。この事は、脂肪酸分解細菌に脂肪酸の炭素数の違いによる基質特異性あるいは基質親和性が存在している事を示唆していると考えられた。
本研究により、高級脂肪酸の嫌気分解には従来から知られている細菌だけではなく多様なグループに属する細菌が関与している事が初めて明らかになった。さらに、汚泥の種類や基質によりそれら細菌が異なっている事も明らかになった。本研究で得られた知見は嫌気条件下に於ける脂肪酸分解を理解する上で重要なだけでなく、脂質含有廃水・廃棄物の嫌気性処理の効率化を目指す上でも重要な基礎的知見となりうるものである。
本論文は、「Diversity, identification, and cultivation of anaerobic, syntrophic long chain fatty acid-degrading microbes in methanogenic sludges (嫌気性汚泥に生息する高級脂肪酸分解細菌の分離・培養と多様性の解明)」と題し、7章より構成されている。
第1章「緒論」では、本研究の意義と目的について述べ、論文の構成について記述している。
第2章は、研究の背景と既往の研究について記述している。脂質含有廃水の嫌気性処理、有機物のメタン生成分解、メタン生成条件下での脂肪酸のβ酸化、そして本研究でターゲットとした高級脂肪酸分解共生細菌についてまとめた。
第3章では、高級脂肪酸分解細菌とメタン生成古細菌との共生系により高級脂肪酸を分解して生育する集積培養系の獲得に成功したことを示している。また、高級脂肪酸の分解には、既知の高級脂肪酸分解細菌とは系統分類学的に全く異なるグループの細菌である、Firmicutes門やDeltaproteobacteria綱に属する未知の細菌も関与している可能性があることを明らかにした。
第4章では、パルミチン酸を基質とした集積培養系からSyntrophomonas属に属する新規な嫌気性高級脂肪酸分解細菌MPA株の純粋培養に成功したことを示している。また、このMPA株に対して16S rRNA遺伝子配列に基づいた分子遺伝学的解析や詳細な生理学的特徴の調査を行い、MPA株がSyntrophomonas属に属する新種の細菌である事を明らかにし、このMPA株をSyntrophomonas属の新種の細菌S.palmitaticaと命名し、提案している。
第5章では、Stable-isotope probing (SIP) 法を用いて高級脂肪酸の分解を担う微生物の推定を試み、分解には嫌気性高級脂肪酸分解細菌グループとして知られているSyntrophomonadaceae科だけではなくClostridium属やSyntrophus属、Deltaproteobacteria綱のクローンクラスターに属するクローン等が高頻度に検出され、現在までに全く知られていない細菌が高級脂肪酸の分解に関与している可能性を示している。
第6章では、パルミチン酸と酪酸の分解に関与する主要な細菌が異なっている事を示しており、脂肪酸分解細菌に脂肪酸の炭素数の違いによる基質特異性あるいは基質親和性が存在している事を示唆している。
第7章では、本論文で得られた結果と考察を要約し、今後の研究への提案を行った。
以上のように本論文は、高級脂肪酸の嫌気分解への多様なグループに属する細菌の関与についてまとめたものである。本論文は、嫌気条件下に於ける高級脂肪酸分解を理解する上で重要なだけでなく、脂質含有廃水・廃棄物の嫌気性処理の効率化を目指す上でも重要な基礎的知見を提案しており、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。