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多段型高温UASB反応器による焼酎蒸留粕廃水の超高速嫌気性処理システムの実用化に関する研究

氏名 山田 真義
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第444号
学位授与の日付 平成19年9月30日
学位論文題目 多段型高温UASB反応器による焼酎蒸留粕廃水の超高速嫌気性処理システムの実用化に関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 小松 俊哉
 副査 教授 松下 和正
 副査 准教授 山口 隆司
 副査 准教授 姫野 修司
 副査 東北大学大学院工学研究科教授 原田 秀樹

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第1章 序論
 第1節 研究の背景と目的 p.2
 第2節 研究の構成 p.10
 参考文献 p.11
第2章 既往の研究
 第1節 嫌気性条件下での有機物分解プロセス p.16
 第2節 高温嫌気性処理プロセスの優位性 p.17
 1. メタン生成菌の増殖率から見た優位性 p.17
 2. 自由エネルギー変化量から見た優位性 p.17
 3. ガスおよび有機物の溶解性から見た優位性 p.19
 4. 液体の粘性から見た優位性 p.19
 第3節 高温UASBプロセスの開発現況 p.20
 1. 高温UASBプロセスの開発 p.20
 2. 高温UASBプロセスの最適運転条件と問題点 p.22
 第4節 焼酎粕に適用されているメタン発酵処理プロセス p.25
 1. 実用化されているメタン発酵処理プロセス p.25
 2. サザングリーン協同組合の実施例 p.25
 3. 濱田酒造株式会社の実施例 p.26
 4. 霧島酒造株式会社の実施例 p.28
 5. 白金酒造株式会社の実施例 p.29
 第5節 アルカリ度に関する既往の研究 p.30
 1. 嫌気性プロセス内のアルカリ度 p.30
 2. 重炭酸塩アルカリ度 p.32
 3. 代謝由来アルカリ度 p.33
 4. 処理水循環型(ER)方式のアルカリ度削減効果 p.34
 5. 分散供給(SqMF)方式によるアルカリ度削減効果 p.34
 参考文献 p.36
第3章 高温(55oC)MS-UASBリアクターによる焼酎粕排水のオンサイト実証実験
 第1節 はじめに p.42
 第2節 実験方法 p.43
 1. 焼酎粕 p.43
 2. MS-UASBリアクター p.45
 3. 供給廃水 p.52
 4. 植種汚泥 p.56
 5. 分析方法 p.56
 6. メタン生成活性試験 p.57
 第3節 実験結果および考察 p.43
 1. 麦および甘藷廃水の連続処理特製 p.57
 2. 各PhaseにおけるCOD除去速度とメタン生成速度の関係 p.57
 3. COD物質収支 p.62
 4. 高温MS-UASBリアクター内のグラニュール保持汚泥の変化 p.63
 5. 廃水切り換え時におけるメタン生成活性値の変化 p.65
 6. 酸敗によるプロセスダウン後のメタン生成活性値の推移 p.66
 7. 発泡性廃水による問題 p.67
 8. 羽毛状グラニュール汚泥の発生による問題 p.70
 9. MAPスケールの形成による問題 p.73
 10.5種類の焼酎粕廃水(麦、甘藷、黒糖、米、そば)の嫌気性分解特 p.75
 第4節 小括 p.77
 参考文献 p.78
第4章 排水供給式(シーケンシャルマルチフィード方式、処理水循環方式)によるアルカリ度削減効果
 第1節 はじめに p.82
 第2節 実験方法 p.82
 1. MS-UASBリアクター p.82
 2. 供給廃水 p.83
 3. 分析方法 p.83
 4. 排水供給方法 p.84
 5. 実験条件 p.86
 第3節 実験結果および考察 p.89
 1. SqMF(シーケンシャルマルチフィード)方式のアルカリ度削減実験 p.89
 2. ER(処理水循環)方式のアルカリ度削減実験 p.97
 3. リアクター高さ方向の基質分解挙動 p.108
 4. 各供給方式のアルカリ度の物質収支 p.111
 5. 除去CODあたりの汚泥増殖量 p.114
 6. アルカリ度削減による経済性 p.116
 第4節 小括 p.117
 参考文献 p.118
第5章 超高速嫌気性処理システムの実用化に関する考察
 第1節 はじめに p.122
 第2節 実用化に関する検討項目 p.123
 1. 対象とする焼酎メーカの規模の選定 p.123
 2. 焼酎粕の前処理方法 p.123
 3. ER (処理水循環)方式による運転方法 p.124
 4. SqMF(シーケンシャルマルチフィード)方式による運転方法 p.124
 第3節 実用化に関する考察 p.125
 1. 遠心脱水機を使用した場合の既設焼酎粕ピットの改造方法 p.125
 2. ER (処理水循環)方式の提案フロー p.126
 3. SqMF(シーケンシャルマルチフィード)方式の提案フロー p.128
 4. 嫌気性処理を施した場合のエアレーション動力削減による省エネ効果 p.129
 5. 嫌気性処理を施した場合の発生汚泥量削減による省エネ効果 p.133
 6. 遠心脱水後の焼酎粕液画分を直接好気性処理した場合と嫌気性処理+好気性処理した場合のランニングコストの比較 p.136
 第4節 小括 p.137
 参考文献 p.138
第6章 総括
 第1節 高温MS-UASBdリアクターによる焼酎粕廃水のオンサイト実証実験 p.140
 第2節 廃水供給方式(SqMF方式、ER方式)によるアルカリ度削減効果 p.141
 第3節 超高速嫌気性処理システムの実用化に関する考察 p.142
本論文の基礎となる学術論文と参考文献 p.127
謝辞 p.129

 本研究室が開発したMS-UASB(Multi-staged Upflow Anaerobic Sludge Blanket)反応器は、GSS(Gas Solids Separator)装置を反応器の高さ方向に多段に設置することで生成バイオガス上昇線流速の低減機能により優れた汚泥保持能力と反応器内の水素分圧低減効果等の特徴を有し、超高速運転が可能となる。ラボスケール高温(55oC)MS-UASB反応器でアルコール蒸留廃水である甘藷焼酎粕廃水(単一基質)を対象に約1000日間を超える連続処理実験を学内で行い、120 kgCOD・m-3・d-1という驚異的な COD容積負荷(Organic Loading Rate: OLR)を達成し史上最速の嫌気性処理技術を確立した。しかし高速プロセスでは反応器下部でVFA等の蓄積が過剰になり酸敗を生じる可能性があるため、外部からアルカリ度を供給する必要になり、経済的にマイナスになる。そこで、処理水循環(Effluent Recycle: ER)方式やシーケンシャルマルチフィード(Sequential Multi-feed: SqMF)方式を行うことで、処理水アルカリ度の利用や反応器内で生成する集中的な酸生成反応を分散化させることで供給アルカリ度を削減する実験を行ってきた。本研究以前の研究ではラボスケールの実験であり、実用化に向けてパイロットスケールにスケールアップした反応器での超高速処理やアルカリ度削減運転方法を確立する必要がある。また、ラボスケールでは甘藷廃水単一基質で連続処理実験を行ったが、甘藷廃水のみを排出する焼酎メーカーばかりでなく、一般的には1~7月は麦焼酎を、8~12月は甘藷焼酎を製造する焼酎メーカーも多く、焼酎粕廃水は年2回麦廃水と甘藷廃水が切り替わる季節稼働型廃水であり、このような焼酎メーカーにも本プロセスが適用できることを実証する必要もある。本研究では、ラボスケールからパイロットスケールにスケールアップした高温MS-UASB反応器を用いて、季節稼働型廃水である麦および甘藷焼酎粕液画分を対象とした高速メタン発酵オンサイト実証実験を行い、連続処理特性を調査するともに供給アルカリ度の削減を目的とした経済性重視の運転方法の調査を行い、実用化に向けたデータを収集することを目的とした。
 連続処理実験の結果、以下のような知見を得た。反応器の高さ方向に設置したGSSが機能しており、麦および甘藷廃水ともにパイロットスケールでは他に類を見ないOLR 60 kg COD・m-3・d-1を達成した。麦廃水を対象としたOLR 70 kgCOD・m-3・d-1以上(平均82.7 kgCOD・m-3・d-1、最大93.9kgCOD・m-3・d-1、最小71.8 kgCOD・m-3・d-1)で21日間超高速運転を行い、全COD除去率は63.8%、溶解性COD除去率は73.5%、処理水全VFAは約6000 mgCOD・L-1であった。このCOD除去率の低下を招いた原因にOLRを増加させる期間が短かったことが挙げられ、汚泥負荷を2~3 kgCOD・kgVSS-1・d-1でCOD除去率の低下を招くことなく超高速運転が可能であったと考えられた。約一ヶ月(反応器内水温:約10 oC)のシャットダウン後のメタン生成活性値を調査した結果、水素基質および酢酸基質ではシャットダウン前の約3/4、プロピオン酸基質ではシャットダウン前の約1/5にメタン生成活性値が低下していた。リスタートアップのOLR設定にはプロピオン酸基質のメタン生成活性値を参考にしてプロピオン酸が反応器内に蓄積しない条件で設定することでスムーズなOLRの上昇が可能になることが示唆された。
 ER方式とSqMF方式によるアルカリ度削減実験では、以下のような知見を得た。麦廃水を対象としたSqMF方式では、COD除去率87.7%(OLR: 38.4 kgCOD・m-3・d-1、HRT: 11.9 h、Inf. COD: 18611 mgCOD・L-1)で、アルカリ度削減率68%(0.040 kgCaCO3・kgCODinf.-1)、甘藷廃水を対象としたSqMF方式では、COD除去率91.0%(OLR: 47.1 kgCOD・m-3・d-1、HRT:11.9 h、Inf. COD: 21060 mgCOD・L-1)で、アルカリ度削減率80.3%(0.035 kgCaCO3・kgCODinf.-1)を達成した。麦廃水を対象としたER方式では、井水による希釈を5倍、処理水循環比を10で、COD除去率83.8%(OLR: 36.2 kgCOD・m-3・d-1、HRT: 12.3 h、Inf. COD: 16864 mgCOD・L-1)、アルカリ度削減率100%(0.000 kgCaCO3・kgCODinf.-1)、甘藷廃水を対象としたER方式では、処理水循環比を6.5で、COD除去率87.2%(OLR: 40.7kgCOD・m-3・d-1、HRT: 30 h、Inf. COD: 52063 mgCOD・L-1)、アルカリ度削減率100%(0.000 kgCaCO3・kgCODinf.-1)を達成した。
 アルカリ剤使用量、エアレーション動力、汚泥発生量を対象として遠心脱水後の焼酎粕液画分を直接好気性処理した場合と嫌気性処理(ER方式とSqMF方式)+好気性処理を比較した場合の省エネ効果を調査した結果、直接好気性処理するよりも、前段で嫌気性処理を行い後段で好気性処理を行うことで年間ランニングコストを1/10以下にすることが可能になることが分かった。また、ER方式とSqMF方式を比較した結果、SqMF方式の方が年間ランニングコストを1/3程度に抑えることが可能で分かった。
 約1400日間のオンサイト実証実験でOLR 60 kgCOD・m-3・d-1を達成し、安定した超高速処理を実証した。異なる廃水供給方式のアルカリ度削減効果では、SqMF方式において供給アルカリ度削減率68%(麦廃水)と80%(甘藷廃水)、ER方式においてアルカリ度無添加運転を実証した。

 本論文は、「多段型高温UASB反応器による焼酎蒸留粕廃水の超高速嫌気性処理システムの実用化に関する研究」と題し、6章より構成されている。
 第1章「序論」では、焼酎粕の処理方法と高速嫌気性処理システムの現状を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
 第2章「既往の研究」では、基本的な嫌気性処理プロセスの有機物分解プロセス、高温プロセスの優位性、焼酎粕に適用されているメタン発酵処理プロセスやアルカリ度に関する知見をまとめた。
 第3章「高温(55℃)MS-UASBリアクターによる焼酎粕廃水のオンサイト実証実験」では、季節稼働型実廃水である麦及び甘藷焼酎粕廃水を対象とした高速メタン発酵オンサイト実証実験を行い連続処理特性の調査を行っている。反応器の高さ方向に設置したGSS装置が機能しており、麦及び甘藷廃水ともに従来型UASB法の4~6倍のCOD容積負荷60 kgCOD・m-3・d-1を達成した。
 第4章「廃水供給方式(シーケンシャルマルチフィード方式:SqMF、処理水循環方式:ER)によるアルカリ度削減効果」では、供給廃水をUASB反応器の軸方向に多点分散供給(マルチフィード)する方式を提案し、アルカリ度削減を目的として実証実験を行っている。SqMF方式において、麦廃水でアルカリ度削減率68%(0.040 kgCaCO3・kgCODinf.-1)、甘藷廃水でアルカリ度削減率80.3%(0.035 kgCaCO3・kgCODinf.-1)、ER方式において、麦廃水(井水5倍希釈、処理水循環比 10)及び甘藷廃水(無希釈、処理水循環比 6.5)でアルカリ度削減率100%(0.000 kgCaCO3・kgCODinf.-1)を達成した。
 第5章「超高速嫌気性処理システムの実用化に関する考察」では、アルカリ剤使用量、エアレーション動力、汚泥発生量を対象として遠心脱水後の焼酎粕液画分を直接好気性処理した場合と嫌気性処理(ER方式とSqMF方式)+好気性処理を比較した場合の省エネ効果を調査している。そして、直接好気性処理するよりも、前段で嫌気性処理(ER方式またはSqMF方式)を行い後段で好気性処理を行うことで年間ランニングコストを1/10以下にすることが可能になることが分かった。また、ER方式とSqMF方式を比較した結果、SqMF方式の方が年間ランニングコストを1/3程度に抑えることが可能であることが分かった。
 第6章「総括」では、本研究で得られた成果を総括している。
 以上のように本論文では季節稼働型実廃水(焼酎粕廃水)を対象とした約1400日間のオンサイト実証実験で有用な知見が得られている。本研究で得られた実証実験データは今後の超高速嫌気性処理システムの実用化をする際の重要な知見が得られており、工学上及び工業上貢献するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認められる。

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