パルス細線放電法における金属超微粒子形成機構解明
氏名 村井 啓一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第441号
学位授与の日付 平成19年9月30日
学位論文題目 パルス細線放電法における金属超微粒子形成機構解明
論文審査委員
主査 准教授 末松 久幸
副査 教授 江 偉華
副査 教授 原田 信弘
副査 准教授 濱崎 勝義
副査 特任教授 新原 皓一
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第1章 序論
1.1 はじめに p.1
1.2 超微粒子 p.1
1.2.1 特徴 p.2
1.2.2 作製法 p.3
1.2.3 作製法に関する研究の歴史および近年の動向 p.4
1.3 パルス細線放電法 p.6
1.3.1 原理 p.6
1.3.2 特徴 p.6
1.3.3 研究の歴史 p.7
1.4 本研究の目的 p.7
1.5 本論文の構成 p.9
参考文献 p.10
第2章 実験及び評価方法 p.13
2.1 はじめに p.13
2.2 パルス細線放電装置 p.13
2.3 実験手順 p.15
2.4 消費エネルギーの算出 p.16
2.5 構成相の評価 p.18
2.6 粒子形状の観察及び粒径の評価 p.18
2.6.1 電子顕微鏡観察 p.18
2.6.2 対数正規分布 p.18
2.6.2 比表面積・面積平均径 p.18
2.7 粒子被覆物質の評価 p.21
参考文献 p.21
第3章 粒径分布の作製条件依存性評価 p.22
3.1 はじめに p.22
3.2 実験結果 p.23
3.2.1 構成相の評価 p.23
3.2.2 充電電圧・雰囲気ガス圧力依存性 p.25
3.2.3 静電容量依存性 p.33
3.2.4 雰囲気ガス種依存性 p.36
3.3 考察 p.42
3.4 まとめ p.48
参考文献 p.49
第4章 粗大粒子含有量の作製条件依存性評価 p.51
4.1 はじめに p.51
4.2 粗大粒子含有量の定量的評価法 p.52
4.3 実験結果 p.54
4.4 考察 p.57
4.5 まとめ p.61
参考文献 p.62
第5章 通電加熱機構の検討 p.63
5.1 はじめに p.63
5.2 通電加熱機構モデル p.63
5.3 実測値との比較 p.66
5.4 まとめ p.68
参考文献 p.69
第6章 有機被覆金属超微粒子の作製 p.70
6.1 はじめに p.70
6.2 実験結果 p.72
6.3 考察 p.81
6.4 まとめ p.86
参考文献 p.87
第7章 総括 p.88
研究業績 p.88
謝辞 p.96
ナノマテリアルは様々な応用が期待でき、産業の成長や競争力強化といった産業分野の発展に寄与するものと考えられている。特に近年では、WEEEやRoHS指令、京都議定書に代表されるような省エネルギー・省資源・低環境負荷への対応といった社会問題が顕在化し、ナノマテリアル製造技術はこれらの問題を解決し克服するための重要な技術の一つとして捉えられている。超微粒子はナノマテリアルの最たるものであり、金属超微粒子を原材料とする導電性のインクやペーストへの需要の高まりとともに、金属超微粒子作製プロセスの早期確立が望まれている。
パルス細線放電法はパルスパワー技術を応用した超微粒子作製法で、金属細線をパルス大電流によって瞬間的に加熱・蒸発させ、その金属蒸気からの凝縮によって超微粒子を作製する。この方法は一般的な他の超微粒子気相合成法と比較して、低環境負荷で優れた生産性を有する作製プロセスとして期待されている。これまでにこの方法に関する数多くの研究がなされているが、その超微粒子形成機構は十分に理解されておらず、このことがこの方法の超微粒子作製法としての有用性を不透明にする原因となっていた。
そこで本研究ではパルス細線放電法の超微粒子形成機構を解明し、本方法の有用性を検討することを目的として種々な条件で銅超微粒子を作製しその特性を評価した。本論文はその結果をまとめたものであり、全7章から構成されている。
第1章「序論」では、超微粒子作製技術の歴史と近年の動向に触れるとともに、パルス細線放電法について概説し、本研究の重要性、目的及び本論文の構成を示した。
第2章「実験及び評価方法」では、実験に用いたパルス細線放電装置の構成及び超微粒子作製実験の手順について述べた。また、実験時の各種計測や超微粒子の特性評価に用いた分析装置について記述した。
第3章「粒径分布の作製条件依存性評価」では、粒径に影響を与えると考えられる全ての作製条件を系統的に変化させて銅超微粒子を作製し、電子顕微鏡観察からその粒径分布を評価した結果を示した。この結果から、各種超微粒子作製条件と作製される粉末試料の粒径分布の関係が体系的に理解され、雰囲気ガスの種類と圧力の選択による粒径制御性を有すると結論づけた。
第4章「粗大粒子含有量の作製条件依存性評価」では、パルス細線放電法で作製した超微粒子粉末中に含まれる粒径0.1μm以上の粗大な粒子の形成機構を明らかにするため、粗大粒子含有量の定量的評価方法を提案するとともに、その作製条件依存性を評価した結果について述べた。電子顕微鏡観察及び比表面積測定の二つの異なる方法から得られた面積平均径を比較することにより、粉末試料中の粗大粒子含有量が定量的に評価可能であることが判明した。この方法で粗大粒子含有量の金属細線の気化までに投入されたエネルギー依存性を評価した結果、放電回路側の条件を最適化し、金属細線に十分な量のエネルギーを投入することで、第3章で述べた粒径制御性を維持し、かつ粗大粒子含有量を抑制可能であることを明らかにした。
第5章「通電加熱機構の検討」では、これまでの研究と第3・4章で得られた知見に基づいて、金属細線の通電加熱機構モデルを提案し数値計算と実験値の比較から現象理解を試みた結果について述べた。第4章でその重要性が示された投入エネルギーと超微粒子作製条件の関係について検討を行い、投入エネルギーを決定する要因を考察すると共に、粗大粒子含有量を抑制するに十分な量のエネルギーを金属細線に投入するための知見を示した。
第6章「有機被覆金属超微粒子の作製」では、粒径の制御性を更に高めるための新規プロセスの開発と、安定性・機能性といった高付加価値を有する超微粒子作製技術の探索を目的とし、有機物蒸気雰囲気中での金属超微粒子作製を試みた結果について述べた。パルス細線放電法を用いて、オレイン酸蒸気中で銅細線を蒸発させた結果、オレイン酸被覆銅超微粒子の作製に成功した。この被覆処理の効果として、粒子の分散性・安定性の向上、粒径の変化が確認された。これらから有機物被覆処理が今後のプロセス開発において有用であると結論づけた。
第7章「総括」では、本研究で得られた結果をまとめるとともに、パルス細線放電法が金属超微粒子を作製するための有効な手段であることを示した。
本論文は、「パルス細線放電法における金属超微粒子形成機構の解明」と題し、全7章から構成されている。
第1章「序論」では、超微粒子作製技術に関する研究の歴史と近年の動向に触れるとともに、パルス細線放電法について概説し、本研究の重要性、目的及び本論文の構成を示している。
第2章「実験及び評価方法」では、実験に用いたパルス細線放電装置の構成及び超微粒子作製実験の手順について、また、実験時の各種計測や超微粒子の特性評価に用いた分析装置について記述している。
第3章「粒径分布の作製条件依存性評価」では、粒径に影響を与えると考えられる全ての作製条件を系統的に変化させて銅超微粒子を作製し、電子顕微鏡観察からその粒径分布を評価した結果を示している。この結果から、銅超微粒子の形成機構が考察されている。
第4章「粗大粒子含有量の作製条件依存性評価」では、電子顕微鏡観察及び比表面積測定の二つの異なる方法から得られた面積平均径を比較することにより、粉末試料中の粗大粒子含有量が定量的に評価可能であることを明らかにしている。また、この粗大粒子の形成機構について、その含有量の投入エネルギー量依存性を評価した結果から考察している。
第5章「通電加熱機構の検討」では、金属細線の通電加熱機構モデルを提案し数値計算と実験値の比較から現象理解を試みた結果が示されており、細線の長さ方向における不均一加熱とアーク放電への移行の観点から説明がなされている。
第6章「有機被覆金属超微粒子の作製」では、粒径の制御性を更に高めるための新規プロセスの開発と、安定性・機能性といった高付加価値を有する超微粒子作製技術の探索を目的とし、有機物蒸気雰囲気中での金属超微粒子作製を試みた結果が述べられている。この結果として、本手法による有機被覆金属超微粒子の作製が可能である事が明らかにされている。また、この被覆処理の効果として、粒子の分散性・安定性の向上、粒径の変化を確認しており、これらから有機物被覆処理が今後のプロセス開発において有用であると結論づけている。
第7章「総括」では、パルス細線放電法が金属超微粒子を作製するための有効な手段であることを示し、研究結果を総括している。
本論文で示されたこれらの成果は、パルス細線放電法の超微粒子作製法としての知識基盤を確立するとともに、パルス細線放電法が金属超微粒子作製法として有用な手法の一つである事を提示するものである。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。