MRI脳画像を用いたアルツハイマー型認知症自動診断支援システムの研究
氏名 歸山 智治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第472号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 MRI脳画像を用いたアルツハイマー型認知症自動診断支援システムの研究
論文審査委員
主査 教授 福本 一郎
副査 教授 渡邉 和忠
副査 准教授 高原 美規
副査 国立長寿医療センター研究所 長寿脳科学研究部長 伊藤 健吾
副査 新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター 准教授 岡本浩一郎
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1章 諸言
1.1 高齢化社会 p.1
1.2 認知症 p.1
1.3 アルツハイマー型認知症の歴史 p.4
1.4 アルツハイマー型認知症の症状 p.5
1.5 アルツハイマー型認知症の神経病理学的特長 p.5
1.6 アルツハイマー型認知症の診断基準 p.8
1.6 認知症の評価スケール p.12
1.6 アルツハイマー型認知症の画像診断 p.15
1.6 本研究の目的 p.22
1.6 本論文の構成 p.22
2章 脳実質領域と側頭葉領域の自動抽出
2.1 はじめに p.23
2.2 対象 p.23
2.3 撮影方法 p.24
2.4 関心領域の抽出 p.25
2.5 評価方法 p.36
2.6 結果 p.36
2.7 考察 p.39
3章 テクスチャ特徴量によるアルツハイマー型認知症の画像診断
3.1 はじめに p.40
3.2 同時生起行列 p.40
3.3 ランレングス行列 p.45
3.4 判別分析 p.48
3.5 結果 p.48
3.6 考察 p.59
4章 MRIにおける関心領域の自動抽出
4.1 はじめに p.61
4.2 対象 p.62
4.3 撮影方法 p.62
4.4 関心領域の抽出 p.63
4.5 評価方法 p.67
4.6 結果 p.68
4.7 考察 p.69
5章 VSRADを用いた性能評価
5.1 はじめに p.70
5.2 方法 p.70
5.2 結果 p.71
5.2 考察 p.76
6章 総括
5.1 総括 p.77
5.2 今後の展望 p.79
本論文は、頭部MRIを用い、アルツハイマー型認知症に特徴的な所見を画像処理を用いた定量的解析手法を用いて抽出、その後、テクスチャ特徴量を算出し、それらがアルツハイマー型認知症患者の判別において有用であるかを検討した。
はじめに、アルツハイマー型認知症に特徴的な所見である海馬や内嗅野を含む側頭葉を定量的手法を用いて抽出した。その画像に対し、統計量であるテクスチャ解析の同時生起行列とランレングス行列からの特徴量を算出し評価を行った。健常高齢者とアルツハイマー型認知症患者の間で有意な差が認められた特徴量を用いて判別分析を行い、異常の判別が行える可能性について検討を行った。さらに、既存の診断システムであるVSRADを用い本システムの評価を行った。
その研究成果について以下のように総括できる。
第1章では、高齢化に伴った認知症老人の増加による問題、認知症疾患や認知症の診断の現状と問題点、さらに認知症性疾患の中で多数を占めるアルツハイマー型認知症に着目し、その症状やMRI所見について述べた。
第2章では、画像を用いたアルツハイマー型認知症の客観的な評価に必要な関心領域の抽出方法について述べ、その結果に対する評価を行った。その結果、関心領域の抽出精度であるEAは、右側頭葉画像で84.7±6.7%、左側頭葉画像で79.5±7.5%であった。また、EAの低い画像は外側溝より上部も側頭葉と認識したことが原因であることがわかった。
第3章では、第2章において抽出した側頭葉画像からテクスチャ特徴量を算出し、その特徴量の評価を行い、健常高齢者とアルツハイマー型認知障害者の判別を行った。その結果、同時生起行列からはASM、VAR、IDM、SUA、SUV、SUM、ENT、DIV、DIE、IMCの10種類の特徴量で、ランレングス行列ではGLN、RLN、RPCの3種類の特徴量で健常高齢者とアルツハイマー型認知障害者の間に有意な差が認められた。また、これら13種類の特徴量を用いて判別分析を行った結果、右側頭葉のみでは、感度97.1%、特異度96.2%、正判別率95.1%であった。また、左右の側頭葉を用いて判別した結果、感度100%、特異度100%、正判別率100%であった。このことから、統計量である同時生起行列とランレングス行列から算出される特徴量は健常高齢者とアルツハイマー型認知障害者を判別する能力があることが示唆された。
第4章ではVSRADを用いて本システムの性能評価するために1.5T-MRIで撮像された画像に対する関心領域の自動抽出方法について述べそれに対する評価を行った。その結果、抽出精度であるEAはアルツハイマー型認知症で84.6±2.4%であり、MCIでは87.9±2.2%であった。0.2T-MRIに比べると1.5T-MRI画像は、視覚的にも白質、灰白質、脳脊髄液の境界がはっきり分かれている。そのため、自動抽出においても簡易な手法でも白質、灰白質、脳脊髄液の領域をそれぞれ抽出することができ、さらにそれらの画像を用い、側頭葉を膨張させる際に領域ごとの膨張条件を定めることでされに精度の高い抽出が行えたものだと考えられた。
第5章では、第4章において抽出した側頭葉画像からテクスチャ特徴量を算出し、その特徴量の評価を行った。さらに、VSRADにより算出される海馬傍回の萎縮の程度と比較することで本システムの性能評価を行った。その結果、MCIとアルツハイマー型認知症の間でVSRADによる「海馬傍回の萎縮の程度」で有意な差が認められた症例においてテクスチャ解析結果であるLREとRPCで有意な差が認められた。また、有意差が認められた特徴量に対し、海馬傍回の萎縮の程度との相関をとったことろLREでは海馬傍回の萎縮の程度が大きくなるにつれて減少する傾向があり、RPCでは増加する傾向があった。今回被験者が少なかったため確認できたのは傾向のみであったが被験者を増やすことで「海馬傍回の萎縮の程度」と相関が認められる可能性があることがわかった。今回の実験で有意差の認められたテクスチャ特徴量(LRE、RPC)は3章で有意差が認められなかった特徴量である。しかし、3章で対象としていた被験者はアルツハイマー型認知症と健常高齢者であり、今回の対象はアルツハイマー型認知症と軽度認知障害であった。このことから、アルツハイマー型認知症と健常高齢者、アルツハイマー型認知症と軽度認知障害の間ではテクスチャ特徴量の変化としては異なる変化が起きている可能性があることがわかった。
本論文は,「MRI脳画像を用いたアルツハイマー型認知症自動診断支援システムの研究」と題し,6章より構成されている.
第1章では,高齢化に伴った認知症老人の増加による問題,認知症疾患や認知症の診断の現状と問題点,さらに認知症性疾患の中で多数を占めるアルツハイマー型認知症に着目し,その現状やMRI所見について述べた.
第2章では,画像を用いたアルツハイマー型認知症の客観的な評価に必要な関心領域の抽出方法について述べ,その結果に対する評価を行った.その結果,関心領域の抽出精度であるEAは,右側頭葉画像で84.7±6.7%,左側頭葉画像で79.5±7.5%であった.また,EAの低い画像は外側溝より上部も側頭葉と認識したことが原因であることがわかった.
第3章では,第2章において抽出した側頭葉画像からテクスチャ特徴量を算出し,その特徴量の評価を行い,健常高齢者とアルツハイマー型認知症患者の判別を行った.その結果,13種類の特徴量で有意な差が認められ,これら13種類の特徴量を用いて判別分析を行った結果,左右の側頭葉を用いることで正判別率100%であった.このことから,テクスチャ特徴量が健常高齢者とアルツハイマー型認知症患者を判別する能力があることがわかった.
第4章ではVSRADを用いて本システムの性能評価をするために1.5T-MRIで撮像された画像に対する関心領域の自動検出方法について述べそれに対する評価を行った.その結果,抽出精度であるEAはアルツハイマー型認知症で84.6±2.4%であり,MCIでは87.9±2.2%であった.1.5T-MRI画像は0.2T-MRI画像に比べ,視覚的に白質,灰白質,脳脊髄液の境域がはっきり分かれているため,自動検出においても簡易な手法でも白質,灰白質,脳脊髄液の領域をそれぞれ分別することができ,さらにそれらの画像を用いた膨張条件を定めることでさらに精度の高い抽出が行えたものだと考えられた.
第5章では,第4章において抽出した側頭葉画像からテクスチャ特徴量を算出し,VSRADにより算出される海馬傍回の萎縮の程度と比較することでシステムの性能評価を行った.その結果,MCIとアルツハイマー型認知症の間でVSRADによる「海馬傍回の萎縮の程度」で有意な差が認められた症例においてテクスチャ解析結果であるLREとRPCで有意な差が認められた.また,有意差が認められた特徴量に対し,海馬傍回の萎縮の程度との相関をとったところLREでは海馬傍回の萎縮の程度が大きくなるにつれ減少する傾向があり,RPCでは増加する傾向があることがわかった.
よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものとして認める.