水の分解反応に対するd10電子状態の典型金属酸化物および窒化物の光触媒作用
氏名 新井 直樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第454号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 水の分解反応に対するd10電子状態の典型金属酸化物および窒化物の光触媒作用
論文審査委員
主査 教授 佐藤 一則
副査 教授 野坂 芳雄
副査 教授 小林 高臣
副査 准教授 松原 浩
副査 准教授 齊藤 信雄
副査 准教授 井上 泰宣
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第1章 序論
1-1 背景 p.1
1-2 水を分解する光触媒 p.2
1-3 本研究 p.9
文献 p.13
第2章 RuO2坦持MInO3(M=Sc,Y,La)酸化物の光触媒作用
2-1 はじめに p.15
2-2 実験 p.16
2-2-1 MInO3(M=Sc,Y,La)の作製 p.16
2-2-2 RuO2坦持 p.17
2-2-3 MInO3(M=Sc,Y,La)のキャラクタリゼーション p.18
2-2-3-1 X線回折測定 p.18
2-2-3-2 拡散反射スペクトル測定 p.18
2-2-3-3 走査型電子顕微鏡(SEM)観察 p.21
2-2-3-4 比表面積測定 p.21
2-2-3-5 X線光電子スペクトル測定 p.21
2-2-3-6 レーザーラマンスペクトル測定 p.21
2-2-3-7 密度汎関数法による計算 p.22
2-2-4 光触媒反応装置および反応条件 p.23
2-3 結果 p.23
2-3-1 RuO2/MInO3(M=Sc,Y,La)の光触媒作用 p.23
2-3-1-1 RuO2/YInO3(S)による水の分解反応の経時変化 p.23
2-3-1-2 光触媒活性に及ぼすYInO3(S)の焼成温度依存性 p.25
2-3-1-3 RuO2/ScInO3(S)による水の光分解反応経時変化 p.25
2-3-1-4 RuO2/MInO3(M=Sc,Y,La)(S)の光触媒活性の比較 p.29
2-3-1-5 RuO2/YInO3(C)による水の光分解反応 p.29
2-3-2 MInO3(M=Sc,Y,La)のキャラクラタリゼーション p.29
2-3-2-1 X線回折パターン p.29
2-3-2-2 拡散反射スペクトル p.34
2-3-2-3 走査型電子顕微鏡(SEM)像 p.39
2-3-2-4 ScInO3,YInO3のX線光電子スペクトル p.39
2-3-2-5 レーザーラマン分光スペクトル p.45
2-3-2-6 密度汎関数法による計算結果 p.45
2-3-3 RuO2/MxIn2-xO3(M=Sc,Y,La)の光触媒作用およびキャラクタリゼーション p.48
2-3-3-1 RuO2/MxIn2-xO3(M=Sc,Y,La)の希土類:In 比率依存性 p.48
2-3-3-2 MxIn2-xO3(M=Sc,Y,La)のキャラクタリゼーション p.55
2-3-3-2-1 X線回折パターン p.55
2-3-3-2-2 拡散反射スペクトル p.61
2-3-3-2-3 ラマンスペクトル p.61
2-3-3-2-4 密度汎関数法による計算結果 p.69
2-3-3-2-5 SEM像 p.69
2-4 考察 p.69
2-4-1 光触媒活性に及ぼす焼成温度依存性 p.69
2-4-2 h-YInO3の電子状態と光触媒活性 p.73
2-4-3 h-YInO3およびLaInO3の局所構造と光触媒活性の相関 p.74
2-4-4 c-YIn2-xO3およびScxIn2-xO3の電子状態および局所構造と光触媒活性の相関 p.76
2-4-5 Y:In 比率変化による結晶構造の変化と光触媒活性の相関 p.83
2-5 まとめ p.83
文献 p.84
第3章 RuO2担持YInGe2O7複合型酸化物の光触媒作用
3-1 はじめに p.85
3-2 実験 p.85
3-2-1 YInGe2O7の作製 p.85
3-2-2 RuO2の担持 p.86
3-2-3 YInGe2O7のキャラクラリゼーション p.86
3-2-4 光触媒反応装置及び反応条件 p.86
3-3 結果 p.88
3-3-1 RUO2/YInGe2O7の光触媒作用 p.88
3-3-1-1 RUO2/YInGe2O7の光触媒反応の経時変化 p.88
3-3-1-2 光触媒活性に及ぼすYInGe2O7の焼成温度依存性 p.88
3-3-1-3 光触媒活性に及ぼすRuO2の担持量依存性 p.88
3-3-2 YInGe2O7のキャラクタリゼーション p.92
3-3-2-1 X線回折パターン p.92
3-3-2-2 拡散反射スペクトル p.92
3-3-2-3 SEM像 p.92
3-3-2-4 X線光電子スペクトル p.92
3-3-2-5 密度汎関数法による計算結果 p.96
3-3-3 YxIn2-xGe2O7の光触媒活性およびキャラクタリゼーション p.96
3-3-3-1 光触媒活性に及ぼすRuO2/YIn2-xGe2O7の Y:In 比率依存性 p.96
3-3-3-2 YIn2-xGe2O7のキャラクタリゼーション p.101
3-4 考察 p.101
3-4-1 Ru担持量依存性 p.101
3-4-2 YxInGe2O7の電子状態と光触媒活性の相関 p.101
3-5 まとめ p.105
文献 p.108
第4章 RuO2担持二価金属イオン(Mg2+,Zn2+,Be2+)ドープGaNによる光触媒作用
4-1 はじめに p.109
4-2 実験 p.109
4-2-1 金属イオンドープGaNの作製 p.109
4-2-2 RuO2の担持 p.113
4-2-3 金属イオンドープGaNのキャラクタリゼーション p.113
4-2-4 光触媒反応装置および反応条件 p.114
4-3 結果 p.114
4-3-1 金属イオンドープGaNの光触媒作用 p.114
4-3-1-1 RuO2担持二価金属イオン(Mg2+,Zn2+,Be2+)ドープGaNによる水の光分解反応の経時変化 p.114
4-3-1-2 金属イオンドープGaNの活性比較 p.115
4-3-1-3 RuO2/GaN:MgのMg混合量依存性 p.115
4-3-1-4 異なる作製法でのMgドープGaNの活性比較 p.115
4-3-2 金属イオンドープGaNのキャラクタリゼーション p.120
4-3-2-1 X線回折パターン p.120
4-3-2-2 拡散反射スペクトル p.120
4-3-2-3 SEM像 p.124
4-3-2-4 発光スペクトル p.124
4-4 InNの固溶によるGaNの長波長応答化 p.130
4-4-1 Ga1-xInxN:Znの作製 p.130
4-4-2 Ga1-xInxN:Znのキャラクタリゼーション p.133
4-4-3 RuO2/Ga1-xInxN:Znによる水の光分解反応 p.133
4-5 考察 p.133
4-5-1 二価金属イオン(Mg2+,Zn2+,Be2+)ドープによるGaNの光触媒活性の発現 p.133
4-5-2 RuO2/GaN:MgのMg混合量依存性 p.139
4-5-3 作製法の異なるRuO2/GaN:Mgによる活性の変化 p.140
4-5-4 RuO2/Ga1-xInxN:Znによる長波長応答化 p.141
4-6 まとめ p.141
文献 p.142
第5章 複合型助触媒による二価金属イオン(Mg2+,Zn2+,Be2+)ドープGaN光触媒の高活性化
5-1 はじめに p.143
5-2 実験 p.143
5-2-1 複合型助触媒担持GaN:Mgの作製および光触媒反応 p.143
5-2-2 複合型助触媒担持GaN:Mgのキャラクタリゼーション p.146
5-3 結果 p.146
5-3-1 複合型助触媒担持GaN:Mgの光触媒作用 p.146
5-3-2 RuO2/GaN:MgへのNaVO3の添加量依存性 p.149
5-3-3 NaVO3添加RuO2/GaN:MgのX線光電子スペクトル p.149
5-3-4 NaVO3添加RuO2/GaN:Mgの高分解能走電子顕微鏡像 p.149
5-4 考察 p.153
5-4-1 複合型助触媒担持によるGan:Mgの生活増加効果 p.153
5-5 まとめ p.155
文献 p.156
第6章 総括 p.157
研究業績
謝辞
石油を始めとする化石燃料の大量消費によるエネルギー資源の枯渇や環境汚染等の問題から、クリーンで循環可能な水素エネルギーへの期待は高まっている。光触媒を用いて水を分解し、水素を得る方法は1972年に本多と藤嶋によって酸化チタンの光触媒作用が発見されて以来、世界中で研究がなされてきた。遷移金属イオンのTI4+、Zr4+、Nb5+およびTa5+により構成されるd0電子状態の金属化物光触媒が見出され、また近年のd0電子状態の典型金属イオンのGa3+、In3+、Ge4+、Sn4+およびSb5+を骨格とする典型金属化物が光触媒活性を示すことが本研究室により見出され、非酸化物系光触媒や、Zスキーム等、可視光でも水の分解反応に対する光触媒の研究は新しい発展を見せている。新規な光触媒の開発や、光触媒の高活性化に対する、このような研究発展において活性中心となるd10およびd0電子状態の金属イオンの役割を電子構造や局所構造の立場から解明することが強く望まれている。
これまでに見出されている光触媒の多は活性中心となるd10およびd0電子状態の金属イオンと一価のアルカリ金属イオン、二価のアルカリ土類金属イオンから構成せれており、活性に及ぼす電子構造や局所構造の効果を明らかにする上で、他の金属イオンを含む光触媒についての展開が必要である。この考えを基に本研究では希土類金属イオンを含むd10電子状態の固溶体酸化物MXIn2-x03 (M=SC,Y)、d10-d10電子状態のYXIn2-XGe2O7およびd10電子状態の金属イオンを含む金属窒化物GaNについて固溶体効果および金属イオン添加効果による水の分解対応に対する光触媒の高活性化に関する研究を行った。
d10電子状態のIn2O3のInサイトを三価の希土類で置換した六方晶のYInO3および立方晶の固溶体MXIn2-XO3(M=Sc,Y)は水の分解反応に対し、RuO2を助触媒として担持することにより、高い光触媒活性を示すことを見出した。六方晶構造のYInO3では従来の光触媒の活性中心はMO6六面体(M=金属イオン)であるのに対し、MO5六面体であっても光触媒作用を示すことを新たに見出し、MO5六面体の歪み構造による活性化の機構を明らかにした。立方晶のMXIn2-x03 (M=SC,Y)ではxの増加と共に活性は増加し、x=1.3で最大活性となることを示した。YXIn2-x03のラマン分光スペクトルにおいて、xの増加と共にInO6八面体ピークが低波数側にシフトし、InO6八面体が変位し分極場効果により光触媒活性化が起こること、さらに密度汎関係法によるバンド構造の計算において体MXIn2-XO3(M=Sc,Y)の価電子帯はO2p軌道、また伝導帯はバンド分散の大きいIn5sとIn5pの混成軌道より構成され、高い励起電子移動能を持つが、xの増加によるInO6六面体の変位と共にY4d軌道との混成が増加し、伝導体のエネルギーバンド位置を高めるため、光触媒の高活性化が起きることを明らかにした。
d10-d10電子状態の複合型酸化物YXIn2-XGe2O7においては、単独酸化物のYInO3と比較して伝導体がIn5s5pとGe4s4pの混成起動から構成され、YInO3に比べ、バンド分散が増し、高い移動度の励起電子を発生でき、さらにIn5s5p+Ge4s4p軌道にY4d軌道が混成するため、YInO3に比べ、高い光触媒活性を発現することを明らかにした。
d10電子状態の典型金属窒化物であるGaNは光触媒活性を持たない。しかし、Gaサイトに二価金属イオン(Mg2+,Zn2+,Be2+)の添加によりRu02を担持した場合に水素及び酸素を安定的に発生する光触媒となること、また四価金属イオン(Ge4+Si4+)の添加では活性化は起こらないことを示し、二価金属イオン添加ではGaNの価電子帯の上にアクセプターレベルが形成したp型GaNが生成し、GaNの価電子帯でのホール濃度の増加により、光触媒活性が発現することを明らかにした。さらに、GaNとInNを固溶体化させたGa1-XInXN:Znは420nmでの可視光照射において光触媒活性をもつことを見出し、InNとの固溶体により可視光触媒となることを明らかにした。
Mg添加GaNに高い助触媒効果を持つRuO2に対し水溶液中でオキソ酸イオンとなる金属塩(Cr(NO3)3、K2CrO4、NaVO3、Na2MoO4、Na2WO4)を添加し、酸化物としてRuO2/GaN:Mg表面に光電着することにより1.9-4.8倍の活性増加が起こることを見出した。NaVO3の添加量依存性および高分解能SEM像の観察から、光電着した酸化物VOXはRuO2に対し1/45と非常に少ない量高分散しており、RuO2表面電着した酸化物が触媒表面での2H2+O2→2H2Oへの逆反応抑制することで活性が増加することを明らかにした。
本研究のおいてd10電子状態の典型金属イオンからなる金属酸化物および窒化物に対し固溶体や異種金属イオン添加により、それらの光触媒活性を高めることができ、さらに助触媒を複合化することで活性を大幅に向上させることができることを示し、バンド構造効果、局所構造効果及び助触媒複合効果が、水の分解反応に対する光触媒の高活性化に対し有用な指針となることを結論した。
本論文は、「水の分解反応に対するd10電子状態の典型金属酸化物および窒化物の光触媒作用」と題し、希土類金属イオンを含むd10電子状態の固溶体酸化物MxIn2-xO3(M=Sc,Y)、d10-d10電子状態のYXIn2-xGe2O7および金属窒化物GaNについて、水分解反応に対する光触媒の高活性化および可視光応答触媒の開発に関する研究について述べている。
第1章では、クリーンで循環可能なエネルギーとしての水素を得るために、水を分解できる光触媒の果たす役割とその開発研究の歴史的流れを示し、光触媒の高活性化や新規な可視光触媒の開発が課題であり、そのためにd10電子状態の金属酸化物および窒化物に対し固溶体、金属イオン添加および助触媒の複合の効果を調べることが重要であることを述べている。
第2章では、d10電子状態の六方晶YInO3および立方晶固溶体MxIn2-xO3(M=Sc,Y)が、RuO2担持により、高い光触媒活性を示すことを示し、六方晶構造YInO3では、In5六面体のゆがみ構造による活性化の構造を明らかにしている。さらに、六方晶MxIn2-xO3(M=Sc,Y)ではx=1.3で最大活性となることを示し、ラマン分光スペクトル解析よりxの増加によりInO6八面体が変位したことによる分極場効果、および密度汎関数法によるバンド構造の計算から、In06八面体の変位と共にy4d軌道とIn5s5p軌道との混成が増し、伝導帯のエネルギーバンド位置が高まるため、光触媒の高活性化が起こることを明らかにしている。
第3章では、d10-d10電子状態の複合型固溶体酸化物YxIn2-xGe2O7を取り上げ、伝導帯がIn5s5pとGe4s4pの混成軌道から構成され、YInO3に比べ、バンド分散が増し高い移動度の励起電子を発生でき、さらにIn5s5p+Ge4s4p軌道にY4d軌道が混成するため、YInO3に比べ、高い光触媒活性を発現することを明らかにしている。
第4章では、二価金属イオン(Mg2+, Zn2+, Be2+)を添加した金属窒化物GaNが、RuO2担持により高活性な光触媒となることを示し、二価金属イオン添加によりGaNの価電子帯の上にアクセプター準位が形成したp型GaNが生成し、GaNの価電子帯でのホール濃度と移動度の増加により、光触媒活性が発現することを明らかにしている。さらにInNを固溶化させたZn添加Ga1-xInxNは420nmにおいて光触媒活性をもつことを見出し、可視光下で作用する光触媒を開発している。
第5章では、RuO2担持Mg添加GaNに水溶液中でオキソ酸イオンとなる金属塩(Cr(NO3)、K2CrO4、NaVO3、NaMoO4、Na2WO4)を酸化物として光電着した場合に、1.9~4.8倍の活性増加が起こることを見出し、助触媒の複合化が光触媒表面での水素と酸素の再結合反応を抑制し活性増加をもたらすことを明らかにしている。
第6章では、本研究で得られた成果を総括している。
以上のように、本論文では、水の分解反応に対する光触媒の高活性化と可視光化に対し有用な設計指針を確立している。よって本論文は、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。