数値解析によるMHD加速機の3次元効果と加速性能に関する研究
氏名 坂本 信臣
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第473号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 数値解析によるMHD加速機の3次元効果と加速性能に関する研究
論文審査委員
主査 教授 原田 信弘
副査 教授 近藤 正示
副査 教授 大石 潔
副査 教授 増田 渉
副査 教授 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 山岬 裕之
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第1章 序論
1.1 はじめに p.1
1.2 MHD発電および加速の基本概念 p.1
1.3 MHD技術の適応構想 p.3
1.4 研究背景および目的 p.5
1.5 MHD加速器の種類 p.6
1.6 本論の構成 p.10
参考文献 p.10
第2章 数値解析モデルおよび解析条件
2.1 数値解析モデル
2.1.1 座標系定義 p.12
2.1.2 流体場支配方程式 p.12
2.1.3 流体場境界条件 p.15
2.1.4 電磁場支配方程式 p.16
2.1.5 電磁場境界条件 p.181
2.1.6 ホール電流中和条件 p.20
2.2 数値解析手法
2.2.1 座標変換 p.22
2.2.2 格子レイアウト p.25
2.2.3 補間法 p.28
2.2.4 離散化手法 p.29
2.2.5 流体場方程式解法 p.31
2.2.6 電磁場方程式解法 p.34
2.2.7 多重格子法 p.35
2.2.8 緩和法および制限・延長補間 p.37
2.2.9 計算手順 p.40
2.3 解析対象
2.3.1 MAPX計画について p.41
2.3.2 加速機形状および制限・延長補間 p.44
2.3.3 計算手順 p.45
2.4 2章まとめ p.49
参考文献 p.50
第3章 ファラデー型MHD加速における解析
3.1 予備解析 p.51
3.2 ファラデー電流密度条件における解析 p.56
3.3 負荷率条件における解析 p.68
3.4 電極間電圧条件における解析 p.75
3.5 3章まとめ p.82
参考文献 p.82
第4章 ダイアゴナル型MHD加速における解析
4.1 ホール電流中和条件における解析 p.83
4.2 一定ダイアゴナル角条件における解析 p.92
4.3 MAPX実機を想定した電極接続 p.99
4.4 加速性能まとめ p.104
4.5 4章まとめ p.105
参考文献 p.106
第5章 総括
5.1 ファラデー接続型MHD加速器について p.110
5.2 ダイアゴナル接続型MHD加速器について p.111
謝辞 p.112
研究業績 p.113
Appendix p.114
磁界と電流の相互作用によるローレンツ力を用いるMHD加速機は,比較的推力密度の高い電気推進の一種で,次世代推進システムとして期待できる。本研究では,流れの非対称性や電流分布の非一様性の加速性能への影響を考慮できる3次元数値モデルを適用し,プラズマや流れの状態と加速性能への影響を明らかにした。
MHD加速機はファラデー型,ホール型,ダイアゴナル型の3つに大別できる。加速に直接的に寄与するローレンツ力はファラデー電流と磁場によるものであり,ホール電流成分は加速に寄与しない。このことからファラデー型では分割電極方式を採用することによって,ホール電流の存在を低減できる。しかしながら,この場合,複数並んだ電極対それぞれに独立した外部電源を用意する必要があり,システムの複雑さの観点からは不利である。ホール型接続では1つの外部電源で済み,ホール効果が強い環境下において有利である。またダイアゴナル型は,ホール型のように上下電極をそのまま接続するのではなく,数セットずらして接続する,そのずれている角度をダイアゴナル角と呼ばれる。その角度を調整することによって,ある程度加速機内の電流を調整でき,さらに外部電源も1つであるため,このダイアゴナル型接続は加速システム全体で考えても有望である。
本研究は解析対象として,NASAのMSFC(Marshall Space Flight Center)で建設中のMAPXの加速機の形状と運転条件を参考にしているが,この計画では空気にアルカリ金属を数wt%添加した空気プラズマを駆動ガスとして用いる予定であり,空気プラズマでは一般的には電子の移動度がさほど高くないため,ほぼ熱平衡でホール係数もさほど高くないプラズマ状態であると言える。このような背景から本研究ではMHD加速機のタイプとして,加速過程の理解が基本的に把握しやすいファラデー型接続と,ダイアゴナル角の設定による加速への効果を検証するためにダイアゴナル型を想定して解析を行い,ファラデー型接続とダイアゴナル型接続の電極接続方法の違いによる加速性能の相違を明らかにすることができた。
流れの非一様性によって加速に寄与しないホール電流が局所的に発生し,断面内2次流れを誘起させ,ジュール損失を増加させて加速効率を低下させることがわかった。この現象は本解析条件ではファラデー型の場合に顕著に見られた。以前に行われた1次元解析結果と同じ条件を設定し,その結果比較によって局所的に存在するホール電流の振る舞い,および加速に与える影響を明確にできた。また,ダイアゴナル型においては,ダイアゴナル角の接続角を調整することによって,ホール電流の存在を極力抑制することを考えた。理論的にはホール電流を完全にゼロにできるダイアゴナル角(ホール電流中和条件と呼ばれる)は存在するのだが,加速断面内の非一様性によって,完全にそれを満足させることは難しいこと,1次元解析結果よりも加速性能が低下することがわかった。完全なホール電流の中和は難しいながらも,ファラデー型接続の解析結果と比較した場合,加速が顕著に行われいる領域では,ホール電流中和が効果的に行われており,ファラデー型に匹敵する高い加速性能をダイアゴナル型においても実現できることを明らかにした。
一方,ダイアゴナル角を一定にした解析では,加速チャネル上流域において,ファラデー電流の強い集中が見られ,中流域以降で加速モードから発電モードに遷移する傾向があることがわかり,その遷移はダイアゴナル接続角が小さい(ホール接続に近づく)ほど,より上流側で発生することもわかった。この発電モードでは,ファラデー電流が加速とは逆向きに発生し,それに伴うローレンツ力も逆向きに発生し,そのベクトルは減速方向に働く。その時に発生している電力は,MHD発電のように外部に取り出されるわけでなく,加速機内でジュール加熱として消費され,この発電モード時には単に加熱機として振舞っていることもわかった。
最後に,ファラデー型およびダイアゴナル型,さらには従来の1次元解析結果をも考慮して,投入電力に対する増速という評価した場合,ファラデー型およびホール電流中和条件を課したダイアゴナル型では,同一電力下における加速性能がほぼ同等であること。また,投入電力と増速の関係は線形であることがわかった。また,1次元解析においても,ファラデー型とホール電流中和条件を課したダイアゴナル型の結果もほぼ同等であり,同じく線形の関係が得られているが,1次元解析と同等の増速を得ようとした場合,3次元解析では,1次元解析による予測よりも,大きな投入電力を要することが示唆された。
これら結果より,今後のMAPX実験における加速性能についての指標を得ることができた。本研究によって,MAPX実験の事前解析としては加速性能の予測・評価および,MHD加速機内のプラズマの非一様性による加速性能への影響が示され,MHD加速機における3次元数値解析の必要性が明らかになった。
本論文は「数値解析によるMHD加速機の3次元効果と加速性能に関する研究」と題し,5章より構成されている。
第1章「序論」では,MHD発電の基本概念を示し,本研究の背景及び目的,また本論文の構成について述べている。
第2章「数値解析モデルおよび解析条件」では,MHD加速機内の3次元的な現象を解くために,定常3次元圧縮性流体方程式にMHD効果を考慮した数値解析モデルを適用し,k-ε2方程式乱流モデルを加えて,支配方程式を明らかにしている。SIMPLE法を軸方向の解法に,また断面内の保存則と楕円型ポテンシャル方程式の解法には,FAS法とBLIMM法を用いている。解析対象と解析条件は,米国航空宇宙局(NASA)で実験中のMAPX(MHD補助加速実験装置)を参考にし,電極の接続方式としては無限分割電極近似を適用したファラデー型とダイアゴナル型について解析を行っている。
第3章「ファラデー型MHD加速における解析」では,従来の1次元解析との比較・検討を行っている。1次元解析では原理的に加速に寄与するホール電流は存在しないが,3次元解析においては局所ホール電流の存在が明らかにされ,ジュール損失が促進されること,壁面近傍に集中したファラデー電流が存在し,それによって主流速度のオーバーシュートが強められること,さらにこの局所ホール電流によって断面内2次流れが誘起され,加速性能が劣化することを明らかにしている。
第4章「ダイアゴナル型MHD加速における解析」では,ダイアゴナル角の分布に対してホール電流中和条件を適用した解析を行い,プラズマの非一様性によってホール電流を断面内全域で完全に中和できないため,加速性能が低下することを3次元解析で明らかにした。また,同一投入電力においてホール電流中和条件を適用したダイアゴナル型加速機は,ファラデー型加速機と同等の加速性能を実現できることを明らかにした。ダイアゴナル角を一定した場合,加速チャネル途中で加速モードから発電モードへの遷移を確認し,それによって加速効果が大幅に低下することを示している。ダイアゴナル型の特徴として,上流側にファラデー電流が支配的に存在すること,さらにはそのファラデー電流が過大な場合,MHD圧縮が発生することも明らかにしている。
第5章「総括」では,以上で得られた結論をファラデー型およびダイアゴナル型MHD加速機に関してまとめ,本研究の総括としている。
これら本論文によって得られた知見は,MHD加速機の高性能化,さらには実用化に向けて有益であり,工学上貢献するところが大きい。よって,本論文は博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。