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基本高水流量算定に関する基礎的研究

氏名 山本 隆広
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第469号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 基本高水流量算定に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 教授 陸 旻皎
 副査 准教授 力丸 厚
 副査 准教授 細山田 得三
 副査 准教授 熊倉 俊郎
 副査 三重大学大学院生物資源学研究科教授 葛葉 泰久

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第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景と目的 p.1
 1.2 専門用語のことわり p.2
 1.2.1 計画降雨(対象降雨) p.2
 1.2.2 カバー率 p.2
 1.2.3 基本高水流量 p.2
第2章 ランダムカスケードモデルを用いた計画降雨の時間分布の生成 p.2
 2.1 背景と目的 p.2
 2.2 ランダムカスケードモデル p.3
 2.3 降雨量データによるパラメータの推定 p.6
 2.3.1 降雨量データ p.6
 2.3.2 パラメータ推定 p.6
 2.3.3 転倒枡降雨量計によるパラメータへの影響 p.12
 2.4 ランダムカスケードモデルによる基本高水流量の算定 p.13
 2.4.1 ハイエトグラフの発生 p.13
 2.4.2 流量解析 p.15
 2.5 まとめ p.16
第3章 計画的降雨継続時間の選定 p.21
 3.1 背景と目的 p.21
 3.2 手法 p.22
 3.2.1 降雨継続時間毎の100年確率降雨量の推定 p.22
 3.2.2 降雨継続時間毎の100年確率降雨量に対するピーク流量分布 p.23
 3.3 結果と考察 p.23
 3.3.1 降雨継続時間によるピーク流量分布の特性 p.23
 3.3.2 降雨継続時間による平均ピーク流量 p.24
 3.3.3 降雨継続時間によるハイエトグラフの集中度 p.28
 3.4 まとめ p.29
第4章 カバー率の選定 p.34
 4.1 背景と目的 p.34
 4.2 手法 p.34
 4.2.1 年最大日雨量分布 p.37
 4.2.2 RCMパラメータ p.37
 4.2.3 流出解析 p.40
 4.3 結果と考察 p.40
 4.3.1 各確率日降雨量から算出したピーク流量分布 p.40
 4.3.2 年最大流量の分布関数の再現性 p.40
 4.3.3 カバー率に関する評価 p.40
 4.4 まとめ p.41
第5章 水文データ時間分解能が貯留関数パラメータに与える影響 p.47
 5.1 背景と目的 p.47
 5.2 手法 p.47
 5.2.1 基準ハイエトグラフから粗い時間分解能のハイエトグラフの生成 p.47
 5.2.2 基準ハイエトグラフ p.48
 5.2.3 パラメータの同定方法 p.49
 5.3 結果と考察 p.50
 5.3.1 同定されたパラメータと時間分解能の関係 p.50
 5.3.2 同定されたパラメータの平均値から真のパラメータの推定 p.54
 5.4 まとめ p.54
第6章 分布型水文モデルを用いた長期流出計算と年最大流量の統計的な性質 p.57
 6.1 背景と目的 p.58
 6.2 対象流域と使用データ p.58
 6.2.1 対象流域 p.59
 6.2.2 使用データ p.59
 6.3 解析手法 p.61
 6.4 結果と考察 p.63
 6.4.1 年間水収支と流況曲線の評価 p.63
 6.4.2 洪水イベントの評価 p.63
 6.4.3 年最大流量の統計的な性質の違い p.70
 6.5 まとめ p.70
第7章 まとめ p.74
参考文献 p.76
記号対応表 p.77
略語一覧 p.78
付録A p.79
謝辞 p.83

 近年、国内において吉野川第十堰問題や川辺川ダム問題などの河川計画に関する問題がマスコミを通じて広く全国に知られ、社会問題となっている。その問題の争点の一つに確率降雨からの標準的な基本高水のピーク流量(以下、基本高水流量と呼ぶ。)算定手法の問題点が挙げられる。基本高水流量は河川計画、とりわけ治水計画において重要な指標の一つである。本研究ではこの算定手法の不確実性として、A) 計画降雨の時間分布の生成、B) 計画降雨継続時間の選定、C) カバー率の選定、及びD) 流出解析の不確実性、に着目した。計画降雨という用語は現在、対象降雨に改められているが、本研究ではその分かりやすさから計画降雨と呼ぶ。本研究では、これらの不確実性を評価し、低減することを目的とする。ところで、近年、工事実施基本計画において確率降雨をもとに定められた基本高水流量を河川整備基本方針において確率流量で検証している場合が多い。観測年最大流量から確率流量を推定する場合、流域改変の影響が大きいと、定常的な水文頻度解析ができない可能性がある。最近では、いずれの方法も暗黙的に前提としている水文頻度解析の定常性が崩れつつあると思われる。気候変動に関する政府間パネルの第4次報告書において、気候変動による海面水位の上昇、豪雨や台風の発生頻度の増大、渇水の深刻化などが指摘されている。国土交通省の社会資本整備審議会河川分科会が「水関連災害分野における地球温暖化に伴う気候変動への適応策のあり方について(中間とりまとめ)」を2007年11月に発表しているように、国の行政レベルにおいても議論されている。一方では、近年、水文モデル、特に分布型の物理水文モデルに関する研究が進んでいる。これらのモデルを用いて変化しつつある降雨、そして流域特性を取り込んだ河川計画を行う可能性が出てきている。そこで、そのための基礎的研究として、解析期間にわたって流域改変の影響が小さいと考えられる流域を対象として、分布型水文モデルを用いて長期流出計算を行い、長期水収支、洪水イベントの再現性を評価する。さらに、観測年最大流量と計算年最大流量の統計学的な性質の違いを分析する。
 計画降雨の時間分布の生成に関しては、従来の理論的根拠の乏しい実績降雨の引き伸ばしによる方法に代わるものとして、降雨のフラクタル性に注目したランダムカスケードモデル(以下、RCMと呼ぶ。)の応用可能性を検証した。そのために、降雨量に対して保存性のあるカスケードジェネレータが提案された。また、モデルパラメータは時間スケールだけでなく、降雨強度の関数であることも分かった。次に、計画降雨継続時間が基本高水流量に与える影響を評価した。そのために、降雨継続時間による上述のピーク流量分布の特性を分析した。その結果、その分布の平均ピーク流量が最大となる降雨継続時間が存在し、その継続時間は流域特性(流域再遠到達時間)と降雨特性(100年確率降雨強度)が交わるその時間であり、計画降雨継続時間を考える上で、流域特性と降雨特性を考慮することが重要であると考えられる。次に、カバー率の理論的な考察を試みた。その結果、再現時間に依らずカバー率は60%程度であり、カバー率50%になるはずと思い込まれているが、50%になるとは限らないことが示唆された。次に、流出解析の不確実性において、中小河川で重要であると考えられる水文データ時間分解能が流出パラメータに与える影響を評価した。国内の河川現場で多用されている貯留関数法が流域状態を忠実に再現していると仮定して、水文データ時間分解能が貯留関数パラメータに与える影響を評価した。その結果、粗い時間分解能の水文データを用いて流出パラメータが同定された場合、同定されたパラメータは時間分解能による影響を大きく受けることが分かった。その分解能が粗ければ粗いほどその影響は大きい。この関係を定式化することで、水文データ時間分解能による影響を除去し、真のパラメータをよく推定できることが確認された。しかし、実流域での検証が必要である。また、分布型水文モデルを用いて長期流出量計算を行い、計算年最大流量と観測年最大流用の統計的な性質の違いを2標本コルモゴロフ・スミノフ検定で調べた。さらに、100年確率流量を両者で推定した結果、降水空間分布を考慮した場合、降水空間分布が一様な場合、降水空間分布を考慮し、かつ風速による捕捉率補正を考慮した場合の3つの降水空間分布による確率流量は相対誤差が-0.1から0.2程度であった。

 本論文は、「基本高水流量算定に関する基礎研究」と題し、7章により構成される。第1章では、現行の標準的な計画降雨による基本高水流量算定手法の不確実性を指摘し、さらに観測年最大流量から確立流用を推定する手法の問題点を指摘するとともに、研究の目的と範囲を述べている。第2章では実績降雨の引き伸ばしによる方法により生成される計画ハイエトグラフに代わる方法として、降雨量のフラクタル性に注目したランダムカスケードモデル(以下、RCM)の基本高水流量算定への応用可能性を検証している。その結果、計画日降雨量から計画ハイエトグラフを発生させ、基本高水流量を算出するために、雨量に対して保存性のあるカスケードジェネレータが提案され、実降雨データから得られる雨量分配比の頻度分布を広範な時間スケールにおいてよく表現できる事が確認された。さらに、土器川祓川橋上流域を対象として、RCMを用いて計画日降雨量に対するポーク流量分布を算出した結果、その平均ピーク流量が現行の基本高水流量と同程度であることを示した。第3章では、計画降雨継続時間が基本高水流量に与える影響を評価するために、降雨継続時間による上述のピーク流量分布の特性を分析している。その結果、望ましい計画降雨継続時間は流域特性と降雨特性が支配的な要因となっていることを示している。第4章では理論的なカバー率を評価している。その結果、再現期間によらずカバー率はほぼ60%程度であり、思い込まれていた50%になるとは限らないことが明らかになった。第5章では、中小河川で重要であると考えられる水文データ時間分解能が流出パラメータに与える影響を評価した。その結果、粗い時間分解能データを用いて流出パラメータが同定された場合、同定されたパラメータは時間分解能による影響を大きく受けることが分かった。その分解能粗ければ粗いほどその影響は大きい。この関係を定式化することで、水文データ時間分解能による影響を除去したモデルパラメータを良く推定されることが確認された。第6章においては、分布型水文モデルを用いて長期流出計算を行い、計算年最大流量と観測年最大流用の統計的な違いを分析した。それらの母集団の違いをみるために2標本コルモゴフ・スミノフ検定を行ったところ、有意確率は約0.773から0.998であった。さらに100年確率流量を両者で推定した結果、相対誤差が-10から20%程度であった。第7章では、本論文のまとめを示している。
 以上のことから、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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