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パルス細線放電法における異種金属細線同時放電とナノ粒子合成技術の確立

氏名 諏訪 浩司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第462号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 パルス細線放電法における異種金属細線同時放電とナノ粒子合成技術の確立
論文審査委員
 主査 教授 末松 久幸
 副査 教授 濱崎 勝義
 副査 教授 原田 信弘
 副査 教授 高田 雅介
 副査 長岡技術科学大学特任教授 新原 晧一

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第1章 序論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 ナノ粒子 p.2
 1.3 ナノ粒子の研究状況と課題 p.2
 1.4 ナノ粒子の高付加価値化 p.4
 1.5 ナノ粒子作製方法 p.5
 1.6 パルス細線放電法 p.7
 1.6.1 原理 p.7
 1.6.2 特徴 p.7
 1.6.3 パルス細線放電法に関する研究の歴史と近年の動向 p.8
 1.7 研究の目的 p.11
 1.7.1 パルス細線放電法の現状と課題 p.11
 1.7.2 本研究の目的 p.13
 1.8 本論文の構成 p.15
 参考文献 p.16
第2章 実験及び評価方法 p.20
 2.1 はじめに p.20
 2.2 パルス細線放電装置の構成 p.20
 2.3 製粉手順 p.23
 2.4 評価方法 p.24
 2.4.1 気化エネルギーの算出 p.24
 2.4.2 消費エネルギーの算出 p.26
 2.4.3 構成相の同定 p.27
 2.4.4 生成粒子の粒径評価と組成分析 p.29
 参考文献 p.30
第3章 異種金属細線同時放電における通電加熱機構の検討 p.31
 3.1 はじめに p.31
 3.2 実験結果 p.32
 3.3.1 並列接続された異種類細線の通電加熱の数値計算 p.32
 3.3.2 細線気化の金属依存性 p.36
 3.3 考察 p.39
 3.3.1 異種金属細線同時放電技術の適応範囲 p.39
 3.3.2 細線の種類と絶縁破壊の関係 p.40
 3.3.3 投入エネルギー比向上技術 p.45
 3.4 まとめ p.49
 参考文献 p.50

 科学技術の進歩に伴い、ナノスケールの材料加工を対象としたナノテクノロジーが21世紀を担う、新技術として大きな注目を浴びている。特にナノ粒子作製技術は産業基礎技術に位置づけられ、このナノテクノロジーの展開を担う重要な技術の一つとして捉えられている。近年、新素材の開発や原材料の高機能・高性能化を図ろうとする取り組みが進められており、ナノ粒子作製技術が新素材を創出し産業として工業的に進展するには、付加価値の高いナノ粒子作製プロセスの確立が必要不可欠となっている。
 パルス細線放電法はパルスパワー技術を応用したナノ粒子作製法で、金属細線にパルス大電流を流しジュール加熱によって瞬間的に気化させ、金属蒸気が雰囲気ガスによって冷却されてナノ粒子を形成する。これまでにこの方法を用いて金属、酸化物、窒化物などのように1種類の金属元素を含んだナノ粒子の合成が数多くなされているが、2種類以上の金属元素を含むナノ粒子の合成例は少ない。このことがこの方法の付加価値の高いナノ粒子合成方法としての有用性を不透明にする原因となっていた。
 そこで本研究では異種金属細線同時放電技術を用いた本技術を確立すると同時に多元系ナノ粒子合成の選択肢を提示し、パルス細線放電法の有用性を検討することを目的とした。本論文は、異種金属細線同時放電技術により合金、複窒化物、複合型ナノ粒子を合成しその特性を評価したものであり、全7章から構成されている。
 第1章「序論」ではナノ粒子合成技術の歴史と近年の動向について述べるとともに、パルス細線放電法における問題点とその改善のための異種金属細線同時放電技術の必要性について説明し、本研究の重要性、目的および本論文の構成を示した。
 第2章「実験及び評価方法」では、実験に用いたパルス細線放電装置の構成及びナノ粒子作製実験の手順について述べた。また、実験時の各種計測や超微粒子の特性評価に用いた分析装置について記述した。
 第3章「異種金属細線同時放電における通電加熱機構の検討」では並列接続された異種類の金属細線における通電加熱時の温度変化を数値計算した結果と、金属細線の気化までに投入されるエネルギーの金属種依存性について評価した結果を述べた。数値計算の結果から異種金属細線の同時気化が確認された。また、金属細線への投入エネルギーは高沸点材料ほど小さくなる傾向にあり、これは細線の熱処理によって抑制可能であることもわかった。これより異種金属細線同時放電技術において両細線を気化させて混合金属蒸気が生成可能と結論づけた。
 第4章「異種金属細線同時放電技術を用いたナノ粒子の作製と組成制御」ではCuとNi細線の直径比を変化させた縒り線から作製したナノ粒子の組成調査結果と、縒り線と合金線より作製したナノ粒子の組成を比較した結果を述べた。縒り線の組成とナノ粒子の平均組成は直線関係にあり、原材料とナノ粒子の平均組成は一致した。また、縒り線および合金線より作製したナノ粒子は組成分布を有し、組成幅は同じであったことから、合金線より原材料の組成が容易な縒り線からナノ粒子を合成することが有用であると結論づけた。
 第5章「窒化鉄ナノ粒子の作製と相制御」ではパルス細線放電法を用いた窒化物ナノ粒子合成が有用であるかを判断するために、難窒化材料である窒化鉄のナノ粒子合成を試み、窒化条件の最適化を行った結果と雰囲気ガス温度による相制御した結果を述べた。NH3ガスを使用することでα-Fe, γ-Feを含むγ'-Fe4Nナノ粒子の合成を成功させ、その濃度によって窒化相の含有率が変化した。ガス圧力の減少に伴いα-Fe, γ-Feの体積分率は増加しγ'-Fe4Nのそれは減少した。これは投入エネルギー減少に伴う未窒化相粗大粒子の増加と説明された。雰囲気ガス温度を低温に保持することでγ-Feの体積分率が低減しα-Feとγ'-Fe4Nのそれが増加し、これはナノ粒子の除冷による高温相から低温相への相変態と説明された。これよりパルス細線放電法において窒化反応と相制御が可能であり、窒化物ナノ粒子の合成に有用であると結論づけた。
 第6章「複窒化物および複合型ナノ粒子の合成」では高付加価値を有するナノ粒子の探索と制御を目的とし、第3・4・5章で得られた知見に基づいて複窒化物と複合型ナノ粒子の合成を試み評価した結果を述べた。1気圧N2ガス中の状態図に安定な窒化物が存在するTiとZr細線を同時に放電することで高温で安定な(Ti,Zr)Nのナノ粒子の合成を、またTiと窒化物が存在しないNi細線からはNi/TiNの複合型ナノ粒子の合成を成功させた。これより、原材料中の金属元素の組み合わせとガス種によって高付加価値を有する準安定複窒化物および金属/窒化物複合型ナノ粒子が選択的に合成可能であると結論づけた。
 第7章「総括」では、本研究で得られた結果をまとめるとともに、異種金属細線同時放電技術によってパルス細線放電法が付加価値の高いナノ粒子を作製するための有効な手法であることを示した。

 本論文は「Study of novel separation membranes prepared by hybrid molecular imprinting technique(ハイブリッド分子インプリント法により作製した新規分離膜に関する研究)」と題し、全7章から構成されており、ハイブリッド分子インプリント法という新規インプリント概念を提唱し、この手法で作製できたハイブリッド分子インプリント(HMIP)膜の分子認識・吸着特性を述べている。
 第1章「General Introduction」では、分子インプリント法について概説し、膜状分子インプリント材料のこれまでの経緯と、ハイブリッド分子インプリント法の新規性とその技術的位置づけについて解説し、本論文の目的を述べている。
 第2章「Bisphenol A imprinted polymer adsorbents with selective recognition and binding characteristics」では、Bisphenol A(BPA)に対して分子認識・吸着特性を持つ粉末状の分子インプリントポリマー(MIP)を合成し、そのBPA選択特性について説明している。
 第3章「Hybrid molecular imprinted membranes for targeted bisphenol derivatives」では、合成したBPA-MIP粉末を用い、種々の膜材とハイブリッド分子インプリント膜を作製している。ポリスルホン等とのハイブリッド化により、これらの膜材がMIP粉末の足場として作用し、両者の協働吸着作用により、BPAへの吸着能力が増加することを述べている。また、ヒドロキシエチルフェノールとビスフェノール誘導体の膜分離実験において高い選択性を持つ分離挙動を示す事を説明している。
 第4章「Hybrid molecular imprinted membranes having selectivity and separation behavior to targeted indole derivatives」では、インドール-3-エタノール(IE)に対して認識・吸着特性を有するMIPを新規に合成し、ポリホンとのHMIP膜を作製し、そのIEとインドールの分離特性を評価するとともに、膜分離に応用できる事を述べている。
 第5章「Selectively removing bisphenol A from serum by molecular imprinted polymer membranes」では、BPA-HMIP膜をウシ血清中で用い、BPAの吸着特性を評価し、血清という特殊な環境中においても分子認識性が発現することを初めて見出している。
 第6章「Molecular-imprinted nylon membranes for the permselective binding of phenylalanine as optical-resolution membrane adsorbents」では、種々のナイロンによる相転換分子インプリント膜を作製し、そのキラル分離特性を評価している。
 第7章では、本論文で得られた結果と考察を要約している。
 以上の内容より、本論文は工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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