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糸状菌 Trichoderma reesei 由来 Chitin および Chitosan 分解酵素に関する研究

氏名 池 正和
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第352号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 糸状菌 Trichoderma reesei 由来 Chitin および Chitosan分解酵素に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 森川 康
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 野中 孝昌
 副査 助教授 政井 英司

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目次

第1章 緒言 p.1
 1.1 キチン・キトサンの構造、分布および利用 p.2
 1.2 キチン・キトサン分解酵素 p.2
 1.3 キチン・キトサン分解酵素遺伝子およびその分類 p.3
 1.4 キチン・キトサン分解酵素の反応機構 p.6
 1.5 キチン・キトサン分解酵素の立体構造 p.8
 1.6 糸状菌の生産するキチン・キトサン分解酵素 p.11
 1.7 Trichoderma reesei 由来キチン・キトサン分解酵素 p.11
 1.8 目的 p.13

第2章 46kDa Chitosan 分解酵素遺伝子(chi46)の塩基配列の決定および分解様式の検討 p.14
 2.1 背景 p.15
 2.2 実験操作 p.15
 2.3 結果および考察 p.20
 2.3.1 chi46染色体DNAの塩基配列の決定 p.20
 2.3.2 Southern分析によるchi46のコピー数の確認 p.22
 2.3.3 相同性のあるタンパク質の検索 p.23
 2.3.4 Northern分析によるchi46転写時期の解析 p.24
 2.3.5 Chi46の大腸菌での発現 p.24
 2.3.6 rChi46の精製 p.26
 2.3.7 rChi46の基質分解様式の検討 p.27
 2.3.8 rChi46の分解様式 p.30
 2.4 総括 p.32

第3章 93kDa exo-β-Dglucosaminidase遺伝子(gls93)のクローニングおよび異種宿主発現 p.33
 3.1 背景 p.34
 3.2 実験操作 p.34
 3.3 結果および考察 p.41
 3.3.1 gls93 cDNA のクローニングおよびシークエンシング p.41
 3.3.2 Southern 分析による gls93 のコピー数の確認 p.41
 3.3.3 相同性のあるタンパク質の検索 p.43
 3.3.4 Northern 分析による gls93 転写時期の解析 p.45
 3.3.5 gls93 の異種宿主発現系の構築 p.45
 3.3.6 rGls93 の精製 p.48
 3.3.7 rGls93 の基質特異性 p.49
 3.4 総括 p.51

第4章 93kDa exo-β-D-glucosaminidase(Gls93)の触媒残基の同定 p.52
 4.1 背景 p.53
 4.2 実験操作 p.53
 4.3 結果及び考察 p.58
 4.3.1 変位導入ポイント選定 p.58
 4.3.2 変位導入および変位型 Gls93の発現 p.60
 4.3.3 変位 rGls93 の精製 p.61
 4.3.4 変位型 Gls93 の比活性 p.61
 4.3.5 円二色性分析(CD spectra)による構造変化の解析 p.62
 4.4 総括 p.63

第5章 T.reesei PC-3-7 由来 Chitin および Chitosan 分解酵素遺伝子の発現解析 p.64
 5.1 背景 p.65
 5.2 実験操作 p.65
 5.3 結果および考察 p.70
 5.3.1 chi46 および gls93転写における炭素源による影響 p.70
 5.3.2 T.reesei における他のキチン・キトサン分解酵素遺伝子の探索 p.70
 5.3.3 T.reesei キチン・キトサン分解酵素遺伝子のクローニングおよび5'-上流配列 p.73
 5.3.4 T.reesei キチン・キトサン分解酵素遺伝子発現の炭素源による影響 p.73
 5.3.5 様々な条件化での T.reesei キチン・キトサン分解酵素遺伝子の発現解析 p.78
 5.4 総括 p.81

総括 p.82
参考文献 p.84
公表論文 p.90
謝辞 p.91

 天然に多く存在する多糖類であるキチン・キトサンは、β -1,4 結合を有する点でセルロースと同じβ -グリカンであり、セルロースの 2 位の水酸基が N-アセチルアミノ基やアミノ基に置換されているだけである。それらのβ -グリカンを分解する酵素は、そのほとんどがそれぞれの基質を正確に認識し切断する一方、セルロースとキトサンの両方を認識し切断する酵素も存在するなど、構造と機能の関係は非常に興味深い。また、キチン・キトサンを細胞壁の主要成分とする糸状菌は、複数のキチン・キトサン分解酵素を生産することが明らかとなっている。その生理的役割について、菌糸の伸長、胞子形成、菌寄生あるいは栄養源獲得などが推測されているが、それぞれの酵素の具体的な役割については不明な点が多い。糖質分解酵素や糸状菌そのものを産業的に利用するうえで、これらを明らかにしていくことは重要であると考えられる。
 本研究は cellulase 高生産糸状菌である Trichoderma reesei の生産するキチン・キトサン分解酵素の構造機能相関および生理学的役割の解明を最終目標として行われたものであり、第 1 章に、糸状菌のキチン・キトサン分解酵素に関するこれまでの知見をまとめ、本研究の目的および意義を明らかにした。
 第 2 章において、 46 kDa キトサン分解酵素遺伝子 (chi46) の塩基配列の決定および大腸菌における発現を行った。その結果、Chi46 の推定アミノ酸配列が GHF 18 fungal class V chitinase と高い相同性を示したこと、および組換え型 Chi46 (rChi46) が GlcN-GlcN 間を切断できなかったことから、Chi46 は典型的な GHF 18 chitinase であることを明らかとした。また、分解生産物の同定および分解様式の検討結果より、この酵素は、不溶性基質に対しては主に 2 糖 (GlcNAc2) 単位で切断していく exo 型、可溶性基質およびキチンオリゴマーに対しては endo 型で作用し、最終的に 2 糖にまで分解することを示した。
 第 3 章では、93 kDa exo-β-D-glucosaminidase (Gls93) 遺伝子 gls93 の cDNA を単離および塩基配列の決定を行った。本論文は真菌由来の exo-β-D-glucosaminidase 遺伝子のクローニングに関する最初の報告である。Gls93 の一次構造の解析結果より、GHF 2はさらに 4 つのサブグループに分けられ、Gls93 は GHF 2 の新規のサブグループ (GlcNase サブグループ) に分類されることを明らかにした。また、gls93 の酵母 (Schizosaccharomyces pombe および Pichia pastoris) における発現系の構築を行い、宿主として P. pastoris を用いて、大量発現系の構築 (培地 1 ml あたり 0.49 mg) に成功した。
さらに、rGls93 は GHF 2 に属する他の酵素活性 (β-mannosidase、β-galactosidase および β-glucuronidase) を持たず、末端から GlcN を遊離する活性のみを持つことを示した。
 第 4 章では、exo-β-D-glucosaminidase の構造機能相関に関する知見を得るため、Gls93 の触媒反応に重要なアミノ酸残基の同定を試みた。D464N、E470Q、E539Q および D655N の 4 つの変異型 Gls93 を Pichia pastoris で発現させ、比活性の測定および CDスペクトルによる構造変化の確認を行った。これらの結果から、E539 が Gls93 の触媒残基 (求核残基) であると推察された。これは exo-β-D-glucosaminidase の触媒残基の同定に関する初めての報告である。
 第 5 章では、2005 年に公開された T. reesei QM9414 株のゲノム配列の検索より、計24 種のキチン・キトサン分解酵素遺伝子が存在することを見出した。うち、既にクローニングしたものを含めて、12 種のキチン・キトサン分解酵素遺伝子をクローニングし、これらの遺伝子について種々の条件下における転写産物の解析を行い、T. reesei におけるキチン・キトサン分解酵素の生理学的役割の解明への第一歩とした。その結果、これまでほとんど知見のなかったキトサン分解酵素遺伝子の転写調節を含めていくつかの興味深い事柄が明らかとなった。GlcNAc や GlcN を炭素源として培養を行ったとき、ほとんどのキチン分解酵素遺伝子・キトサン分解酵素遺伝子が同様な発現パターンを示したことから、キトサン分解酵素とキチン分解酵素が密接に関係していることを示唆した。また、今回調べた種々の条件下では、ある特定の条件下でのみ転写が促進されるタイプの遺伝子群と多くの環境の変化に応答する遺伝子群に大別できることを明らかにした。さらに、それぞれのキトサン分解酵素が種々の因子の変化によって発現することを明らかにし、キチン分解酵素と共に形態形成や胞子形成、自己融解などに関わっていると推察した。

 本論文は、「糸状菌 Trichoderma reesei 由来 Chitin および Chitosan 分解酵素に関する研究」と題し、cellulase 高生産糸状菌であるT. reesei の生産するキチン・キトサン分解酵素の構造機能相関および生理学的役割の解明を最終目標として行われたものであり、以下に示す 5章より構成されている。
 第 1 章「緒言」では、糸状菌の生産するキチン・キトサン分解酵素に関するこれまでの知見をまとめるとともに、本研究の目的および意義を明らかにしている。
 第 2 章において、 46 kDa キトサン分解酵素遺伝子 (chi46) の塩基配列の決定および大腸菌における発現を行い、Chi46 が典型的な GHF 18 class V chitinase であることを明らかとしている。また、詳細な分解様式の検討を行い、この酵素が、不溶性基質に対しては主に 2 糖 (GlcNAc2) 単位で切断していく exo 型、可溶性基質およびキチンオリゴマーに対しては endo 型で作用し、最終的に 2 糖にまで分解することを示した。さらに、本酵素のバイオ農薬への応用可能であることも示している。
 第 3 章および第 4 章では、新規の酵素である93 kDa exo- -D-glucosaminidase (Gls93)の構造機能相関を目的とし、gls93 の塩基配列の決定、異種宿主発現系の構築および触媒残基の同定を行っている。Gls93 が GHF 2 の新規のサブグループ (GlcNase サブグループ) に分類されることを明らかにし、さらに D464 および E539 が本酵素の触媒反応に重要であり、このうち E539 が求核触媒残基であることを示した。真菌由来のexo- -D-glucosaminidase 遺伝子のクローニングおよび触媒残基の同定に関する報告は本論文が初めてである。
 第 5 章では、T. reesei が少なくとも 24 種のキチン・キトサン分解酵素遺伝子が存在することを見出し、うち、12 種について遺伝子のクローニングおよび種々の条件下における転写産物の解析を行っている。その結果、これまでほとんど知見のなかったキトサン分解酵素遺伝子の転写調節を含めていくつかの興味深い事柄を明らかとしている。
 本研究により、本菌の生産するキチン・キトサン分解酵素について、バイオ農薬としての応用の可能性、構造機能相関および生理学的機能に対する新たな知見が得られた。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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