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固体表面の吸着および触媒作用に及ばす格子変位効果に関する研究

氏名 西山 洋
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第238号
学位授与の日付 平成17年6月22日
学位論文題目 固体表面の吸着および触媒作用に及ばす格子変位効果に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 山田 明文
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 佐藤 一則
 副査 助教授 松原 浩
 副査 名誉教授 朽津 耕三

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 触媒研究の歴史 p.1
 1.2 高機能性触媒の開発と問題点 p.2
 1.3 本研究の目的 p.4
 1.4 本論文の構成 p.5
 第1章参考文献 p.6

第2章 弾性表面波(SAW)素子の作成および特性評価 p.7
 2.1.1 はじめに p.7
 2.1.2 SAWの励振方法 p.7
 2.1.3 強誘電体単結晶 p.10
 2.1.4 SAWの伝搬モード p.11
 2.2 実験 p.11
 2.2.1 IDT電極の理論 p.11
 2.2.2 IDT電極の設計 p.19
 2.2.3 SAW素子の作製 p.23
 2.2.3.1 はじめに p.23
 2.2.3.2 ウエハーの洗浄および乾燥 p.23
 2.2.3.3 AI蒸着 p.23
 2.2.3.4 レジスト塗布およびプリベー p.23
 2.2.3.5 露光、現像およびポストベーク p.23
 2.2.3.6 エッチングおよびレジスト剥離 p.23
 2.2.3.7 カッティング p.26
 2.2.4 SAW伝搬特性評価 p.26
 2.3 結果 p.26
 2.3.1 Rayleigh-SAWの伝搬特性 p.26
 2.3.2 SH-LSAWの伝搬特性 p.26
 2.4 考察 p.31
 2.4.1 Rayleigh-SAW素子伝搬特性 p.31
 2.4.2 SH-LSAW素子伝搬特性 p.33
 2.5まとめ p.33
 第2章参考文献 p.34

第3章 金属薄膜および金属酸化物薄膜を接合したSAW素子の伝搬特性および格子変位 p.35
 3.1 はじめに p.35
 3.2 実験 p.35
 3.2.1 金属薄膜および酸化物薄膜のRayleigh-SAW伝搬路への接合 p.35
 3.2.1.1 Cu,Pd,Pt薄膜 p.35
 3.2.1.2 Au薄膜 p.35
 3.2.1.3 NiO薄膜 p.36
 3.2.2 種々の金属薄膜およびNiO薄膜を伝搬路上に接合したRayleigh-SAW素子の伝搬特性 p.36
 3.2.2.1 測定方法 p.36
 3.2.3 金属薄膜を伝搬路上に接合したSH-LSAW素子の伝搬特性およびSH-LSAW素子のインパルス応答時間測定 p.36
 3.2.3.1 伝搬特性測定方法 p.36
 3.2.3.2 インパルス応答測定方法 p.36
 3.2.4 レーザードップラー振動計を用いたRayleigh-SAWおよびSH-LSAW素子表面に生じる格子変位分布および格子変位量印加電力依存性 p.39
 3.2.4.1 高周波電力印加システム p.39
 3.2.4.2 格子変位量測定システム p.39
 3.3 結果
 3.3.1 NiO薄膜のXRD測定結果 p.41
 3.3.2 種々の金属薄膜およびNiO薄膜を伝搬路上に接合したRayleigh-SAW素子の伝搬特性測定結果 p.41
 3.3.3 金属薄膜を伝搬路上に接合したSH-LSAW素子の伝搬特性およびSH-LSAW素子のインパルス応答時間測定結果 p.47
 3.3.3.1 伝搬特性 p.47
 3.3.3.2 インパルス応答時間測定結果 p.49
 3.3.4 レーザードップラー振動計を用いたRayleigh-SAWおよびSH-LSAW素子伝搬路表面に生じる格子変位分布測定結果 p.49
 3.3.4.1 Rayleigh-SAW伝搬による金属薄膜表面の格子変位分布測定結果 p.49
 3.3.4.2 Rayleigh-SAW伝搬によるNio薄膜表面の格子変位分布測定結果 p.49
 3.3.4.3 SH-LSAW伝搬による格子変位分布測定結果 p.49
 3.3.4.4 Rayleigh-SAWおよびSH-LSAWの格子変位量印加電力依存性 p.49
 3.4 考察 p.55
 3.4.1 種々の金属薄膜およびNiO薄膜を伝搬路上に接合したRayleigh-SAW素子の伝搬特性 p.55
 3.4.1.1 金属薄膜を接合したRayleigh-SAW素子の伝搬特性 p.55
 3.4.1.2 NiO薄膜を接合したRayleigh-SAW素子の伝搬特性 p.55
 3.4.2 金属薄膜を伝搬路上に接合したSH-LSAW素子の伝搬特性およびSH-LSAW素子のインパルス応答時間 p.55
 3.4.3 Rayleigh-SAW伝搬による金属薄膜表面の格子変位分布 p.56
 3.4.4 Rayleigh-SAW伝搬によるNiO薄膜表面の格子変位分布 p.56
 3.4.5 SH-LSAW伝搬による格子変位分布 p.56
 3.5 まとめ p.60
 第3章参考文献 p.61

第4章 吸着作用に及ぼすSAWの効果(I)-半導体酸化物表面- p.62
 4.1 はじめに p.62
 4.2 実験 p.62
 4.2.1 吸着実験用SAW素子の作製 p.62
 4.2.1.1 四端子電極の接合 p.62
 4.2.1.2 NiO薄膜の接合 p.64
 4.2.2 吸着実験用反応セル p.64
 4.2.3 電気伝導度測定回路および高周波電力印加回路 p.64
 4.2.4 吸着実験用流通式装置 p.68
 4.2.5 実験操作 p.68
 4.2.6 NiO薄膜抵抗とSAW伝搬減衰 p.68
 4.2.7 格子変位量測定 p.68
 4.3 結果 p.71
 4.3.1 NiO薄膜への酸素吸着および脱離による電気伝導度変化 p.71
 4.3.2 酸素吸着量および脱離速度印加電力依存性 p.71
 4.3.3 NiO薄膜抵抗とSAW伝搬減衰 p.71
 4.3.4 格子変位パターン測定結果 p.71
 4.4 考察 p.81
 4.4.2 SAWによる酸素吸着量増加 p.81
 4.4.3 SAWによる脱離速度増加 p.83
 4.5 まとめ p.83
 第4章参考文献 p.87

第5章 吸着作用に及ぼすSAWの効果(II)-金属薄膜表面に吸着した吸着種の表面振動分光- p.88
 5.1 はじめに p.88
 5.2 実験 p.89
 5.2.1 高感度赤外反射分光法(IRAS)原理 p.89
 5.2.2 偏光変調高感度赤外反射分光法(PM-IRAS)原理 p.91
 5.2.3 PM-IRAS光学系 p.93
 5.2.4 信号検出系 p.93
 5.2.5 Step-Scan PM-IRAS測定 p.93
 5.2.6 高周波電力印加回路 p.96
 5.2.7 真空系 p.96
 5.2.8 サンプルマニュピレーター p.96
 5.2.9 試料ガス導入系 p.100
 5.2.10 サンプル調製 p.100
 5.2.11 伝搬特性測定 p.100
 5.2.12 Cu薄膜表面の表面処理 p.100
 5.2.13 Rayleigh-SAW伝搬路上に接合したCu薄膜表面に吸着したCOのPM-IRAS測定 p.103
 5.2.14 Step-Scan PM-IRASを用いた、Cu薄膜表面に吸着したCOにおよぼすRayleigh-SAWの効果 p.103
 5.3 結果 p.103
 5.3.1 超高真空チェンバー内に設置したRayleigh-SAW素子の伝搬特性 p.103
 5.3.2 PM-IRAS測定時のバックグランドスペクトル特性 p.106
 5.3.3 アニーリングおよびスパッタリングCu薄膜表面に付着したCOのPM-IRAS測定結果 p.106
 5.3.4 アニーリングおよびスパッタリングCu薄膜表面に付着したCOに及ぼすRayleigh-SAWの効果 p.106
 5.4 考察 p.110
 5.4.1 アニールおよびスパッタCu薄膜表面へのCOの付着 p.110
 5.4.1.1 Cu表面へのCO吸着機構 p.110
 5.4.1.2 アニール表面に吸着したCOのIRAスペクトル p.116
 5.4.1.3 スパッタリング表面に吸着したCOのIRAスペクトル p.116
 5.4.1.4 アニールCu表面に吸着したCOに及ぼすSAWの効果 p.118
 5.4.1.5 スパッタリングCu表面に吸着したCOに及ぼすSAWの効果 p.118
 5.5 まとめ p.120
 第5章参考文献 p.121

第6章 金属薄膜表面の電子状態に及ぼすSAWの効果 p.122
 6.1 はじめに p.122
 6.2 実験 p.123
 6.2.1 光電子放出顕微鏡(PEEM)原理 p.123
 6.2.2 真空系 p.123
 6.2.3 サンプル調製 p.127
 6.2.4 サンプルマニュピレーター p.127
 6.2.5 PEEM像キャリブレーション p.131
 6.2.6 伝搬特性測定 p.131
 6.2.7 CuおよびAu薄膜表面の表面処理 p.131
 6.2.8 高周波印加回路 p.134
 6.2.9 PEEM像撮影 p.134
 6.3 結果 p.134
 6.3.1 PEEM測定用超高真空チェンバー内に設置したRayleigh-SAW素子の伝搬特性 p.134
 6.3.2 キャリブレーション用SAWサンプルPEEM測定結果 p.134
 6.3.3 アニール(low-index)Cu表面のSAW伝搬によるPEEM強度変化 p.134
 6.3.4 スパッタリング(high-index)Cu表面のSAW伝搬によるPEEM強度変化 p.139
 6.3.5 アニール(low-index)およびスパッタリング(high-index)Cu表面のPEEM強度変化印加電力依存性 p.139
 6.3.6 アニールAu表面のSAW伝搬によるPEEM強度変化 p.139
 6.3.7 スパッタリングAu表面のSAW伝搬によるPEEM強度変化 p.139
 6.4 考察 p.145
 6.4.1 キャリブレーション用SAWサンプルPEEM測定 p.145
 6.4.2 PEEM強度変化に及ぼす残留吸着ガスの影響 p.145
 6.4.3 アニール(low-index)Cu表面のSAW伝搬によるPEEM強度変化 p.145
 6.4.4 スパッタリング(high-index)Cu表面のSAW伝搬によるPEEM強度変化 p.147
 6.4.5 アニール(low-index)およびスパッタリング(high-index)Cu表面のPEEM強度変化印加電力依存性 p.149
 6.4.6 アニールおよびスパッタリングAu表面のSAW伝搬によるPEEM強度変化 p.149
 6.4.7 アニールAuおよびスパッタリングAu表面の3次元PEEM像 p.149
 6.5 まとめ p.152
 6.5.1 PEEM測定結果まとめ p.152
 第6章参考文献 p.154

第7章 触媒の反応選択性に及ぼすSAWの効果 p.155
 7.1 はじめに p.155
 7.2 実験 p.155
 7.2.1 触媒反応用SA-LSAW素子の作成 p.155
 7.2.2 SH-LSAWの伝搬特性 p.156
 7.2.3 触媒反応装置 p.156
 7.2.4 高周波電力印加システム p.156
 7.2.5 反応気体 p.156
 7.2.6 反応操作 p.156
 7.2.7 媒体表面処理 p.158
 7.3 結果 p.158
 7.3.1 Cu触媒上のエタノール分解反応 p.158
 7.4 考察 p.160
 7.5 まとめ p.162
 第7章参考文献 p.163

第8章 パルス共振による触媒の高活性化 p.164
 8.1 はじめに p.164
 8.2 実験 p.165
 8.2.1 共振素子の作製 p.165
 8.2.2 共振特性測定 p.165
 8.2.3 パルス高周波電力印加による共振特性測定 p.165
 8.2.4 パルス高周波電力印加装置 p.165
 8.2.5 エタノール酸化反応 p.172
 8.2.5.1 共振素子の作製 p.172
 8.2.5.2 触媒反応用セルおよび反応温度制御 p.172
 8.2.5.3 エタノール酸化反応 p.174
 8.2.6 格子変位分布測定 p.174
 8.3 結果 p.176
 8.3.1 パルス高周波電力印加による共振特性測定 p.176
 8.3.2 パルス共振によるエタノール酸化反応 p.176
 8.3.3 アセトアルデヒド生成の印加電力依存性 p.180
 8.3.4 格子変位パターン測定 p.180
 8.4 考察 p.180
 8.4.1 共振素子の振動モードと共振周波数 p.180
 8.4.2 パルス高周波電力印加による共振特性測定 p.185
 8.4.3 エタノール酸化反応に及ぼす温度の効果 p.186
 8.4.4 エタノール酸化反応機構 p.186
 8.4.5 パルス共振により発生する格子変位 p.187
 8.5 まとめ p.187
 第8章参考文献 p.191

第9章 総括 p.192

研究業績 p.195

謝辞 p.197

 高機能な固体触媒の開発においては、固体触媒表面の電子的および幾何学的因子を緻密に制御することが最も重要である。この両因子を制御する方法として、固体触媒表面の格子に直接摂動を与えて格子を変位させることが有用であり、強誘電体結晶上に電極を取り付け、高周波を印加することによって発生できる弾性表面波(Surface acoustic wave:SAW)および共鳴振動が用いられてきた。しかしながら、これまでに報告されてきたSAWおよび共鳴振動に関する研究は、触媒の活性増加や反応速度論的立場からの触媒反応挙動の解析に限られている。これら手法のさらなる発展には、触媒表面の吸着作用や電子状態におよぼす効果の機構を解明し、触媒作用の中でも最も重要な反応選択性に及ぼす効果を明らかにすることが必要である。このため本研究では、SAWが金属や酸化物薄膜触媒表面に及ぼす格子変位,吸着作用に関連する気体と触媒表面間の相互作用,電子状態を規定する仕事関数および反応選択性におよぼす効果について詳細に調べた。
 第1章では、触媒開発の歴史および触媒技術が直面している触媒反応の課題を示し、現在用いられている触媒機能制御法の問題点と解決のためのアプローチについて述べた。
 第2章では、IDT電極の設計と強誘電体単結晶基板としてLiNbO3およびLiTaO3強誘電体単結晶上へのフォトリソグラフ法によるRayleigh-SAWおよびSH-LSAW素子の作製について述べた。作製した20MHzのSAW素子の伝搬特性を測定し、Rayleigh-SAW素子の伝搬特性は計算値と良く一致することを示した。SH-LSAW素子に関しては、LSAW以外に他の振動モードが励振されているが、結晶の表面波速度から求めた伝搬周波数と実測値が良い一致を示していることを示した。以上により、設計・作製したSAW素子を用いることにより、効率よくSAW伝搬路上に接合した金属薄膜表面に格子変位を発生させることが可能であることを示した。
 第3章では、Rayleigh-SAWおよびSH-LSAW素子について金属薄膜(Cu,Au,Pd,Pt)および金属酸化物薄膜(NiO)を伝搬路に接合した場合の伝搬特性の変化および格子変位の発生機構について述べた。Rayleigh-SAWは非常に整った定在波の格子変位を、またSH-LSAW素子においては、不規則な格子変位が生じていることを示し、両SAWともその伝搬路上に接合した薄膜表面に垂直な格子変位を発生させることができることを明らかにした。
 第4章では、金属酸化物表面上の気体吸着作用に及ぼす弾性表面波の効果を明らかにすることを目的として、NiO薄膜表面への酸素吸着に及ぼすRayleigh-SAWの効果を電気伝導度変化により調べた結果について述べた。SAWは酸素の吸着および脱離の両過程を促進する効果を持つことを示し、レーザードップラー法を用いた格子変位パターンの測定から、酸化物のNiO薄膜を接合した場合においても表面に垂直な周期性格子変位が生じること、およびSAWの伝搬損失とNiO薄膜の電気伝導度との関係から、SAWがNiO薄膜内のキャリアと相互作用を持つことを明らかにした。SAWによるNiO表面に垂直な周期的格子変位がNiO表面に電荷の集積と離散を引き起こし、酸素分子の吸着および脱離の両過程を促進する機構モデルを提唱した。
 第5章では、金属薄膜表面上の吸着種に及ぼすSAWの効果を明らかにすることを目的として、Step-Scan光弾性変調高感度赤外反射分光装置を設計・作製し、Cu薄膜表面上に吸着したCO吸着種におよぼすRayleigh-SAWの効果を調べた結果について述べた。アニーリング処理により生じたCu(111)面のような低指数表面では、SAW伝搬によってCOのピーク強度が減少し、一方スパッタリング処理により生じたステップ面やCu(311)面などの高指数表面では、SAW伝搬によってCOのピーク強度が増加することを示した。吸着種に及ぼすSAWの効果は、原子レベルで異なる表面構造の違いを反映することを明らかにした。
 第6章では、SAW伝搬路上に接合した金属薄膜表面の電子状態に及ぼすSAWの効果を明らかにすることを目的として、金属表面の仕事関数分布を明暗の画像として得ることの出来る光電子放出顕微鏡(PEEM)の設計・作製と、CuおよびAu薄膜表面の電子状態におよぼすSAWの効果を調べた結果について述べた。低指数Cu(111)表面においては、SAW伝搬によりPEEM強度が減少し、高指数Cu表面においては、SAW伝搬によりPEEM強度が増加することを見出した。表面構造の違いで、SAWによるPEEM強度の変化が正反対になる結果はAuにおいても得られた。PEEM強度変化より、SAWによって低指数面では仕事関数が増加し、高指数面およびステップサイトでは仕事関数が減少することを明らかにした。
 第7章では、SAWが金属薄膜表面に及ぼす電子状態変化が触媒反応の反応選択性に及ぼす効果を明らかにすることを目的として、Cu薄膜表面上でのエタノール分解反応に及ぼすSAW効果を調べた結果について述べた。SAWはアセトアルデヒドの生成にはほとんど影響を与えることなく、エチレンの選択性を顕著に増加させることを示し、SAWによって、反応選択性が変化することを示した。この反応選択性に及ぼすSAW効果は、SAWによるCu薄膜表面の仕事関数の変化に基づくことを示し、格子変位が反応選択性制御に重要な役割を果すことを明らかにした。
 第8章では、金属薄膜表面上に高い格子変位を与えた場合の触媒活性化効果を明らかにすることを目的として、5章で示したパルス高周波電力印加法を応用した結果について述べた。表面に対して垂直な格子変位の大きさと、エタノール酸化反応に及ぼす効果について調べ、パルス共鳴振動を用いることにより、連続高周波電力印加法に比べ、7倍の高い電力印加が可能となること、およびエタノール酸化反応においてパルス共鳴振動がアセトアルデヒド生成に対して著しく高い活性化効果をもつことを示した。また、格子変位量測定から、パルス高周波電力印加では、部分的に生じた特異的に大きい格子変位により、顕著な触媒活性増加が起こることを明らかにした。
 以上に基づき、SAWによる表面に垂直な格子変位は、金属薄膜触媒表面に対し、原子レベルでの構造変化を引き起こし、その仕事関数を変える機能を持つこと、およびその作用は吸着や触媒活性、さらには反応選択性を変化させる機能を持つことを初めて明らかにした。この格子変位効果は、外部からの信号によって、触媒活性と選択性を制御できる機能を有する固体触媒の開発に有用な手法となることを結論した。

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