高強度タングステン合金およびモリブデン合金の開発とX線管回転陽極への応用に関する研究
氏名 青山 斉
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第360号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 高強度タングステン合金およびモリブデン合金の開発とX線管回転陽極への応用に関する研究
論文審査委員
主査 教授 武藤 睦治
副査 教授 福澤 康
副査 教授 古口 日出男
副査 教授 岡崎 正和
副査 助教授 井原 郁夫
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第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景
1.1.1 タングステン、モリブデンの製造方法 p.4
1.1.2 タングステン、モリブデン合金の製造方法 p.11
1.1.3 タングステン、モリブデンおよびその合金の機械的特性および熱的特性 p.12
(a)タングステンおよびその合金 p.12
(b)モリブデンおよびその合金 p.16
1.1.4 モリブデンおよびその合金と異材金属との接合方法 p.18
1.1.5 X線管回転陽極の製造方法 p.18
1.2 本研究の目的 p.21
1.3 本論文の概要 p.22
[参考文献] p.25
第2章 0.5%Ti-0.07%Zr-Mo高温強度特性
2.1 緒言 p.29
2.2 0.5%Ti-0.07%Zr-Mo高温強度特性 p.30
2.2.1 供試材および実験方法 p.30
2.2.2 試験方法 p.33
2.2.3 実験結果及び考察 p.36
2.3 結言 p.43
[参考文献] p.44
第3章 Re-W合金の高温強度特性
3.1 緒言 p.45
3.2 ReーW合金の高温強度特性 p.46
3.2.1 供試材および実験方法 p.46
3.2.2 試験方法 p.49
3.2.3 実験結果及び考察 p.54
3.3 結言 p.63
[参考文献] p.64
第4章 0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の高温強度特性
4.1 緒言 p.65
4.2 0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の高温強度特性 p.66
4.2.1 供試材および実験方法 p.66
4.2.2 接合部の評価 p.70
4.3 実験結果及び考察 p.70
4.3.1 Zrを中間材として用いた拡散接合 p.70
4.3.2 Nbを中間材として用いた拡散接合 p.75
4.3.3 54%Nb-Tiを中間材として用いた拡散接合 p.78
4.3.4 54%Nb-Ti/Nbを中間材として用いた拡散接合 p.81
4.3.5 高温における接合強さ p.83
4.4 結言 p.84
[参考文献] p.85
第5章 0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の疲労特性
5.1 緒言 p.87
5.2 0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の疲労特性 p.87
5.2.1 供試材および実験方法 p.87
5.2.2 試験方法 p.89
5.3 実験結果及び考察 p.95
5.4 結言 p.99
[参考文献] p.100
第6章 X線管回転陽極への応用
6.1 緒言 p.101
6.2 CT装置用X線管回転陽極 p.101
6.3 結言 p.113
[参考文献] p.114
第7章 総括 p.115
謝辞 p.119
X線CT装置(以下、CTと略記)は、X線管装置とX線検出器が患者の回りを一対になって回転し、360°方向から得られたX線透過データを収集し、それらを処理することによって断面の画像を得る装置である。CT装置の発達により、微小な病巣を発見できるようになり、医学の進歩に大きく貢献している。近年、肝臓等の診断に際して、体軸方向に沿ってらせん状に撮影できるヘリカルスキャンCTが多用されるようになり、それに伴ってこれまで以上にX線管の熱的性能向上が求められるようになっている。このX線管の熱的性能向上の一つに、X線出力が行われる回転陽極の性能の向上が必要となる。具体的には、回転陽極中最も高温となり、X線が出力される10%Re-W合金層のき裂伝ぱ特性の向上、基材である0.5%Ti-0.07%Zr-Mo合金の高温強度の向上、および0.5%Ti-0.07%Zr-Mo合金とグラファイトの接合体の接合層の高温強度、信頼性の向上である。本論文では、これらの特性向上について検討を行った。各章の具体的内容に関する要約を以下に述べる。
第1章「序論」においては、本研究の背景としてX線管の回転陽極の概要と要求される特性および現在の課題、回転陽極に使用されるW、Moおよびその合金の製造方法や特性に関する従来の研究について述べた。また、本研究で取り上げた0.5%Ti-0.07%Zr-Moの高温特性の改善とその異材接合体の高温強度およびRe-Wの高温強度特性の向上の研究経緯についてまとめ、本研究の意義を示した。
第2章「0.5%Ti-0.07%Zr-Moの高温強度特性の向上」においては、X線管回転陽極の基材として、従来用いられていたTi、Zr酸化物強化型Mo合金および焼結脱酸剤(C又はMo2C)を用いたTiC 、Mo2C炭化物強化型Mo合金の2種類を、今回新たに開発した焼結脱酸材を用いないTiC、ZrC強化Mo合金について高温強度特性に関する検討を行った。また、Ti、Zr酸化物強化型Mo合金と今回開発した焼結脱酸材を用いないTiC、ZrC強化Mo合金のCOガス放出特性に関しても検討を行った。この結果、開発したMo合金は、低い塑性加工率において、従来用いていた2つのMo合金よりも高温強度に優れた特性を有すること、X線管内で最も問題となるCOガスの放出特性に関しても、脱酸材を用いないTi、Zr酸化物強化型Mo合金と同等の良好な特性を示すことを明らかにした。
第3章「Re-W合金の高温強度特性の向上」においては、X線管回転陽極の電子照射面として用いられる10%Re-W合金について、Re原料粉末の粒径と焼結雰囲気の異なる4種類の合金を作製し、高温でのき裂伝ぱ特性の検討を行った。その結果、Reの微細化が主に高温でのき裂伝ぱ特性に最も影響を与えることを明らかにした。
第4章「0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の高温強度特性」においては、X線管回転陽極の基材である0.5%Ti-0.07%Zr-Moと軽量化のためにグラファイトを接合する際に用いる中間材に着目し、従来用いていたZrやZrよりも高温で接合できる54%Nb-Tiの合金での接合温度条件の検討するとともに、接合部における元素拡散状態を調べ、接合組織についての考察も行った。さらに、1873Kまでの高温で曲げ試験を行い、高温強度特性の検討を行った。その結果、中間材としてZrを用いたものは、1858Kで均一で良好な組織となること、0.5%Ti-0.07%Zr-Mo側からZr側へMoの拡散層が認められ、MoZr2が生成されていること、Zrとグラファイト界面では約5μmのZrC層が接合に寄与していることを明らかにした。さらに、54%Nb-Tiを中間材として用いた場合、最適接合温度は0.5%Ti-0.07%Zr-Moと54%Nb-Tiの界面が消失する2173Kであること、グラファイト側からデンドライト状のTiリッチのTiC-NbC固溶体と推定される結晶層が形成され、2073K以上で0.5%Ti-0.07%Zr-Mo側からのMoの拡散により、この結晶層の成長が抑制されることを明らかにした。高温強度特性については、中間材として54%Nb-Tiを用いた接合体が、従来のZrを用いた接合体に比較し、約100Kの耐熱温度向上に相当する効果があることも示した。
第5章「0.5% Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の疲労特性」においては、第4章で得られた中間材としてZrを用いた0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体を作製し、高速回転使用下での界面信頼性を確認するために、繰返し荷重下における界面き裂の挙動について検討を行った。その結果、接合体の疲労強度は106サイクルにおいて54MPaであること、異材接合の接合界面に沿ったき裂伝ぱについては、Kiパラメータを使用するのが適切であること、圧縮応力を負荷することにより試験片に予き裂を導入し、ΔKiを関数とする疲労き裂伝ぱ曲線を得た結果、ΔKthは、0.1Mpam1/2であることを明らかにした。
第6章「X線管回転陽極への応用」においては、CT用X線管回転陽極へ、前章までで確立されたRe-W合金のじん性向上と、0.5%Ti-0.07%Zr-Mo合金の高温強度特性の向上を適用することを試みた。この結果、従来材であるAタイプ(Re原料未粉砕、Mo合金:酸化物強化型TiZrO)と開発材のBタイプ(Re原料粉砕、Mo合金:炭化物強化型TiZrC)のライフ試験においては、Bタイプが34000スライスまで放電回数が少なくAタイプよりも良好であった。最終的に50000スライスまでの放電回数は、Aタイプが、8回、Bタイプが6回であり、Bタイプが放電回数が少なくなること、ライフ試験後のBタイプのターゲットの寸法変形量は、Aタイプより大幅に少なくなることを明らかにした。
第7章「総括」では、以上の結果および考察を踏まえて、高温強度タングステン合金およびモリブデン合金のX線管回転陽極への応用に関する結論をまとめた。
本論文は、「高強度タングステン合金およびモリブデン合金の開発とX線管回転陽極への応用に関する研究」と題し、7章より構成されている。
第1章「序論」では、タングステン合金およびモリブデン合金の製造方法および特性に関する従来の研究の概要、およびX線管回転陽極開発の現状と問題点を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
第2章「0.5%Ti-0.07%Zr-Moの高温強度特性」では、X線管回転陽極の基材であるモリブデン合金の開発を試み、低酸素を維持しながら、TiCとMoを液相焼結した新しい合金を製作することにより、低加工率でも高い高温強度を有し、X線管の管内ガスで問題となるCOガス放出も低レベルに抑えた合金の開発に成功している。
第3章「Re-W合金の高温強度特性」では、ターゲット材であるタングステン合金の高温強度を改善し、電子照射に伴う割れの防止を図るため、原料粉末であるRe粉末をジェットミルで微細化することにより、Reを均一分散させた組織を実現するとともに、割れ発生を抑え、結晶粒の脱落も抑えることができることを示している。
第4章「0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の高温強度特性」では、より耐熱性に優れた0.5%Ti-0.07%Zr-Moとグラファイトの接合体を目指し、Zr、Nbおよび54%Nb-Tiを中間材として拡散接合を行っている。その結果、従来のZr中間材にくらべ、54%Nb-Ti中間材を用いることにより、約100℃ほど高温まで使用できることを示している。
第5章「0.5%Ti-0.07%Zr-Mo/グラファイト接合体の疲労特性」では、X線管回転陽極の軽量化のために取り入れられているグラファイトと基材(TZM)との接合部の疲労信頼性を、実機を模擬したモデル試験片を作製し調べ、設計の基礎となる接合体の疲労特性、き裂伝ぱ特性を明らかにしている。
第6章「X線管回転陽極への応用」では、開発した高温強度に優れたタングステン合金およびモリブデン合金を実機に適用し、寿命試験を行っている。その結果、従来材に比べ、放電回数が少なくなること、回転陽極の変形量も大幅に減少させることができること、生じたき裂も少なく、軽微であることなどを確認し、高性能のX線管回転陽極の開発に成功している。
第7章「総括」では、以上で得られた結論を総括し、高温強度に優れたタングステン合金およびモリブデン合金、さらにモリブデン合金とグラファイト接合法が、実機の性能向上に有効であることを示すとともに、今後の開発の指針について述べている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。