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TCA回路構成物質とその反応経路の熱水環境下での出現

氏名 根本淳史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第357号
学位授与の日付 平成17年3月24日
学位論文題目 TCA回路構成物質とその反応経路の熱水環境下での出現
論文審査委員
 主査 教授 本多 元
 副査 教授 山田 良平
 副査 教授 解良 芳夫
 副査 助教授 高原 美規
 副査 長岡技術科学大学 名誉教授 松野 孝一郎

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 生命の起源とその化学進化 p.1
 1.2 海底熱水噴出孔と化学進化における意義 p.2
 1.2.1 ヘテロなアミノ酸の重合
 1.2.2 ヌクレオチドのリン酸
 1.2.3 アミノ酸のラセミ化
 1.3 本研究の意義と目的 p.10

第2章 材料と方法 p.12
 2.1 試薬 p.11
 2.2 実験装置 p.12
 2.3 試料の作成 p.18
 2.4 分析方法 p.18

第3章 結果 p.20
 3.1 リンゴ酸の生成 p.20
 3.2 クエン酸の生成 p.33
 3.2.1 α-ケトグルタル酸もしくはピルビン酸が及ぼす影響
 3.3 α-ケトグルタル酸の生成 p.43
 3.3.1 炭酸ナトリウムが及ぼす影響
 3.4 コハク酸の生成 p.48
 3.4.1 Fe3+イオンが及ぼす影響
 3.4.2 Fe2+イオンが及ぼす影響

第4章 考察 p.58
 4.1 リンゴ酸の生成 p.58
 4.2 クエン酸の生成 p.61
 4.3 α-ケトグルタル酸の生成 p.61
 4.4 コハク酸の生成 p.63
 4.5 まとめ p.64

第5章 結論 p.66

第6章 参考文献 p.67

謝辞

 地球上でどのようにして生命が誕生したのか。この謎に対して実験化学の手法によって解明できる部分がある。単純な分子がより複雑な有機化合物へと変化し、代謝機能や自己複製機能を有するシステムが自然発生的に生じ、生命の誕生に至った、とする考えがこれまでに提唱されてきた。鍵は、いかなる実験系を用いてそれらを検証するか、にある。
 本研究は、熱水と冷水が接触する環境が化学進化の場として有益である、との考えに立脚した。そこでは、化学進化の段階において、酵素を伴わなくとも、物質間で環状反応ネットワークの作動が可能である、との立場を採用した。熱水環境において、その環状反応ネットワークの探索が本研究の主目的である。
 本論文は、以下に示す5章より構成されており概要は次の通りである。
 第1章「序論」では、化学進化の概念を述べるとともに海底熱水噴出孔近傍の熱水と冷水が接触する環境の特徴と化学進化における意義を示した。この熱水環境を実現した反応系において、化学反応における物質選択能の出現、ヌクレオチドのリン酸化、そして高濃度アミノ酸のラセミ化に偏りが生じたこと、などの成果を明示し、本研究の目的と意義を述べた。
 第2章「材料と方法」では、海底熱水噴出孔近傍の熱水と冷水が接触する環境を実現した装置(以下、進化フローリアクター)の基本設計を示し、分析方法を述べた。
 第3章「結果」では、(1)TCAサイクル構成物質であるα-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸の混合溶液から同じくTCAサイクルを構成物質であるリンゴ酸が合成されること、(2)TCAサイクル構成物質7種類すべてとピルビン酸の混合溶液では、クエン酸の濃度が増加すること、(3)しかしピルビン酸やα-ケトグルタル酸など一種類を(2)で用いた溶液から取り除くことでクエン酸の濃度の増加は抑制されること、(4)炭酸ナトリウムもしくは三価の鉄イオンを(2)で用いた溶液に加えると、α-ケトグルタル酸またはコハク酸が増加することを明らかにした。
 第4章「考察」では、反応溶液のpH変化、反応物質の濃度変化の結果からリンゴ酸、クエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸の生成メカニズムについて考察した。(1)カルボン酸からの脱炭酸によって生じた二酸化炭素は水分子と反応し、この反応で生じた水素イオンと炭酸水素イオンが脱水素反応によって生じる水素化物イオンと水素イオンの受容体となること、(2)炭酸ナトリウムが二酸化炭素の受容体として働き脱炭酸を促進すること、(3)三価の鉄イオンが脱水素反応によって生じる水素化物イオンの受容体となること、(4)クエン酸は、酵素を伴わなくともTCAサイクルを構成する全てのカルボン酸が反応溶液中にあれば生成可能となることを述べた。ここに実現した脱炭酸および脱水素の反応は、熱水と冷水が接する環境に固有な反応であることを提案した。
 第5「結論」では、本研究の結果を総括し結論として述べた。
 すなわち本論文は、酵素が出現する以前の化学進化の段階において、海底熱水噴出孔近傍の環境下でTCAサイクルを構成する物質が合成されていたこと、さらにTCAサイクルを構成する物質を用いた現存するTCAサイクルの一部もしくは類似した環状反応ネットワークが実現されていたことを示唆するものである。

 本論文は、「TCA回路構成物質とその反応経路の熱水環境下での出現」と題し、5章より構成されている。
 第1章「序論」では、化学進化の概念を述べるとともに海底熱水噴出孔近傍の熱水と冷水が接触する環境の特徴を述べ、化学反応における物質選択能の出現、ヌクレオチドのリン酸化、そして高濃度アミノ酸のラセミ化に偏りが生じたこと、などの成果から非平衡環境が化学進化において有用であることを述べている。そして本論文の化学進化における意義を示し、研究の目的を述べている。
 第2章「材料と方法」では、海底熱水噴出孔近傍の熱水と冷水が接触する環境を実現した装置の基本設計を示し、分析方法を述べている。
 第3章「結果」では、(1)リンゴ酸がα-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸の混合溶液から合成されること、(2)TCAサイクル構成物質7種類すべてとピルビン酸の混合溶液では、クエン酸の濃度が増加すること、(3)しかしピルビン酸やα-ケトグルタル酸など一種類を(2)で用いた溶液から取り除くことでクエン酸の濃度の増加は抑制されること、(4)炭酸ナトリウムもしくは三価の鉄イオンを(2)で用いた溶液に加えると、α-ケトグルタル酸またはコハク酸が増加すること、がそれぞれ述べられている。
 第4章「考察」では、反応溶液のpH変化、反応物質の濃度変化の結果からリンゴ酸、クエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸の生成メカニズムについて考察し、酵素が出現する以前の段階で(1)炭酸ナトリウムが二酸化炭素の受容体として働くこと、(2)三価の鉄イオンが電子の受容体として働くこと、(3)クエン酸は、酵素を伴わない連続した回帰的な反応経路によって生成したこと、が述べられている。
 第5「結論」では、本研究の結果を総括し結論として、酵素が出現する以前の化学進化の段階において、TCAサイクルを構成する物質を用いた現存するTCAサイクルの一部もしくは類似した環状反応ネットワークが実現されていたことを示唆する、と結論づけている。
 よって本論文は、高温・高圧条件という特殊な環境における水中での化学反応を解明するための知見を与えるものであり、学術的にも工学的にも貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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