セラミックス切断用高能率薄刃切断砥石の開発と低荷重送切断による評価
氏名 足立 卓也
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第375号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 セラミックス切断用高能率薄刃切断砥石の開発と定荷重送切断による評価
論文審査委員
主査 教授 石崎 幸三
副査 教授 植松 敬三
副査 助教授 藤原 巧
副査 助教授 河合 晃
副査 教授 小松 真幸
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目次
第1章 序論
1.1 セラミックス切断加工の社会的意義 p.7
1.2 薄刃切断砥石の現状と問題点 p.7
1.3 薄刃切断砥石に関する最近の研究 p.8
1.4 定荷重送加工 p.9
1.5 本研究の目的 p.9
1.6 参考文献 p.10
第2章 ドクターブレード法を成形法に用いた高能率薄刃切断砥石の作製
2.1 緒言 p.11
2.2 高能率薄刃切断砥石の開発指針 p.11
2.3 ドクターブレード法の応用 p.12
2.4 ワイヤー放電ツルーイング p.16
2.5 HIP法による多孔質銭薄刃切断砥石の作製および評価 p.17
2.5.1 多孔質銭鉄薄刃切断砥石の作製 p.17
2.5.2 多孔質銭鉄薄刃切断砥石の破断面観察、切断試験結果 p.22
2.6 WC-Coダイヤモンド薄刃切断砥石の作成および評価 p.25
2.6.1 PECS法によるWC-Co予備成形体の焼結 p.25
2.6.2 各種原料粉末の詳細と作製砥石一覧 p.28
2.6.3 各種原料粉末の電子顕微鏡(SEM)写真 p.29
2.6.4 各種作製砥石WC-Coの電子顕微鏡(SEM)による破断面観察 p.31
2.6.5 X線回折(XRD)、EPMA解析結果 p.38
2.7 結論 p.40
2.8 参考文献 p.41
第3章 定荷重切断試験による薄刃切断砥石の切断性能評価
3.1 緒言 p.43
3.2 定荷重送切断試験 p.43
3.3 薄刃切断砥石先端表面評価 p.44
3.4 実験結果 p.48
3.4.1 作製した切断砥石と比較用市販砥石の性状 p.48
3.4.2 SEMによるは断面観察 p.48
3.4.3 切断試験結果および考察 p.49
3.5 結論 p.58
3.6 参考文献 p.58
第4章 定荷重送切断での切断速さ算出モデルの確立による薄刃切断砥石の加工性能の予測
4.1 緒言 p.59
4.2 実験方法 p.59
4.3 実験結果および考察 p.60
4.4 結論 p.73
4.5 参考文献 p.73
第5章 砥石形状変更による切断面の稜線剥離低減とHDDヘッド製造ラインへの導入
5.1 緒言 p.74
5.2 稜線剥離発生メカニズム p.74
5.3 砥石形状の変更 p.76
5.4 導入結果 p.77
5.5 結論 p.79
5.6 参考文献 p.79
第6章 総括
6.1 まとめ p.80
6.2 本研究の利用方法および今後の展望 p.82
本研究に関する著者の研究論文・特許のリストなど p.84
薄刃切断砥石を用いた切断加工は、電子機器の材料としての各種ウエハーやセラミックス基板の分割に頻繁に応用されている。 それら機能性電子材料の需要は、携帯機器の普及、青色LEDの発明、カーナビゲーションシステムや各種映像機器を始め、デジタル家電へのハードディスクドライブ(HDD)の適用等の理由から増加の一途をたどっており、これからも、これら硬脆難削材料の高精度かつ高能率な切断加工技術および切断加工砥石の開発は日本産業界の発展には欠かすことのできないテーマの一つである。
本研究は「セラミックス切断用高能率薄刃切断砥石の開発と定荷重送切断による評価」と題し、6章より構成した。 第1章では、切断加工の社会的意義や薄刃切断砥石に関する従来の研究の概要を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べた。
第2章では、薄刃切断砥石という特殊な形状を高精度に成形する為の砥石成形方法について述べた。 各種原料粉末や助剤の混合方法、紙状予備成形体の成形方法(ドクターブレード法)、パルス通電焼結法、焼結後のワイヤー放電加工による砥石の内、外周の成形方法について説明し、その一連のプロセスで出来上がる薄刃切断砥石の母材組織の観察を行った。 平均粒径が0.6 μmのタングステン粉末および0.02 μmのコバルト粉末を母材原料とし、砥粒にダイヤモンド砥粒を使用して作製した薄刃切断砥石(WC‐Co)は、破断面の電子顕微鏡写真による観察から、ダイヤモンド砥粒と母材との化学反応の状態が確認できた。 また母材組織は、全体が1 μm以下で均一に微細化、多孔質化されていた。 X線回折結果より、ダイヤモンド砥粒と母材との界面は、ダイヤモンド中の炭素がWに拡散してWCまたはW2Cが生成され、ダイヤモンド砥粒と母材が強固に接合された高い加工能率が期待できる砥石組織を有する薄刃切断砥石であった。
第3章では作製した薄刃切断砥石(WC‐Co)と市販切断砥石(CM)を比較するため、定荷重送試験で切断速さ、加工抵抗、比研削エネルギー、加工前後の砥石表面の砥粒数において評価を行った。 WC‐Coは、定荷重送切断試験においてCMに比べて約2倍の速い切断速さを示した。 またWC‐Coは砥石表面の砥粒数が加工試験前後で変化しないのに対し、CMは切断加工実験後の砥石表面の砥粒数が半減していた。 WC‐Coの研削抵抗比Ft/Fnは平均0.46、CMでは平均0.34とCMに比べて高い値であった。 比研削エネルギーは、WC-Coが130 GJ/m3とCMの210 GJ/m3よりも40%低い値を示し、他に報告されている薄刃切断砥石に対しても比研削エネルギーは40%~60%低く高能率な砥石であった。 以上の結果より、母材に気孔を導入し、砥粒保持力を化学反応を利用して強固にすることにより作製した薄刃切断砥石は、高性能な砥石であることを示した。
第4章では切断加工能率と深く関係していると考えられる砥石表面性状を大幅に変えるため、砥粒径を変化させる事によって、砥石表面性状と定荷重送加工における加工速さとの関係を説明した。 加工速さは被削材へある一定の荷重でダイヤモンド砥石が押し込まれた時に砥石表面のダイヤモンド砥粒が被削材へ沈み込んだ時の縦投影断面積の総計と砥石回転速さ、切断砥石と被削材が接触している面積から計算可能である事を示した。 総縦投影断面積は加工時、砥石の中心に向かう法線方向の抵抗、Fn、砥石表面の砥粒の数、大きさ、分散状態から計算を行なった。 計算モデルに使用した砥粒形状は鋭角な砥粒でも、そのごく先端は丸い事から球体モデルが妥当であると考えた。 理論的計算から算出した切断速さは実験値とよく一致したため、この切断速さ計算式は妥当である事が証明された。 砥石表面性状からの定荷重送切断加工での切断速さ計算を行なう数式モデルを確立することで、様々な砥石や被削材にとらわれない加工結果の予測や加工状態の正しい把握が可能となった。
第5章では切断砥石で加工された切断稜線剥離(エッジチッピング)状態に注目し、速い切断速さでかつ、切断稜線剥離を最小限に抑える事が可能な砥石先端断面形状について述べた。 定荷重送りでの切断加工は、砥石の回転方向を、砥粒が被削材の裏面側から表面側に抜けるように設定する、いわゆるUPカットを行う必要がある。 UPカットを行った場合、被削材裏面に対して表面の加工稜線剥離が大きくなる問題がある。 その問題を解決する為、砥石先端断面形状を角形状からV形状へと変更し、その砥石をHDDヘッドスライダーの加工ラインへ導入した結果について述べた。角形状の砥石に比べてV形状砥石は砥石通過時の砥石先端の振動による跳ね上げが原因の切断稜線剥離が少ないと考えられ、切断稜線剥離不良は、それまでの2~10%の稜線剥離不良に対して1%以下となった。 砥粒径を変更することなく、加工能率や加工条件を保ったままで切断稜線剥離を低減する事のできる1つの指針を示した。
第6章では総括を述べた。 成形方法にドクターブレード法を用い、PECS法にて焼結を行い、母材組織に気孔を導入し、砥粒保持力を母材と砥粒との化学反応を利用する事で高めた薄刃切断砥石は高能率な薄刃切断砥石である事が証明された。 また、その砥石表面性状を評価する事で、切断加工実験前におおよその切断速さが被削材にとらわれず予測可能となり、定荷重送切断加工の際の最適条件を最短時間で確立する事を可能とした。 更に砥石先端形状をV形状とする事で、同じ砥粒径、加工条件でも切断稜線剥離が低減できる事を示し、高能率と低欠陥の同時実現を可能にした。 本研究で得られた知見は、これから益々頻繁に応用されるであろうセラミックス材料の薄刃切断砥石を用いた切断加工において、低欠陥を実現する為の加工方法や薄刃切断砥石開発について有用なものであり、日本産業界のセラミックス切断加工技術の発展を加速させるものである。
薄刃切断砥石を用いた切断加工は、電子機器の材料としての各種ウエハーやセラミックス基板の分割に応用されている。 それら機能性電子材料の需要は、携帯機器の普及、青色発光ダイオードの発明、カーナビゲーションシステムや各種映像機器を始め、デジタル家電へのハードディスクドライブ(HDD)の適用等の理由から増加の一途をたどっており、これからも、これら硬脆難削材料の高精度かつ高能率な切断加工技術および切断加工砥石の開発は産業界の発展には欠かすことのできないテーマの一つであると述べられている。
本研究は「セラミックス切断用高能率薄刃切断砥石の開発と定荷重送切断による評価」と題し、6章より構成されている。 第1章では、切断加工の社会的意義や薄刃切断砥石に関する従来の研究の概要を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
第2章では、薄刃切断砥石という特殊な形状を高精度に成形する為の砥石成形方法について述べている。 各種原料粉末や助剤の混合方法、薄板状予備成形体の成形方法(ドクターブレード法)、パルス通電焼結(PECS)法、焼結後のワイヤー放電加工による砥石の内、外周の成形方法について説明し、その一連のプロセスで出来上がる薄刃切断砥石の母材組織の観察を行っている。平均粒径が0.6 μmのタングステン粉末および0.02μmのコバルト粉末を母材原料とし、砥粒にダイヤモンド粉末を使用して作製した薄刃切断砥石(以下WC‐Coと呼ぶ)は、破断面の走査型電子顕微鏡写真による観察から、ダイヤモンド砥粒と母材との化学反応の状態が確認できている。 また母材組織は、全体が1μm以下で均一に微細化、多孔質化されている。 X線回折結果より、ダイヤモンド砥粒と母材との界面は、ダイヤモンド中の炭素が母材に拡散してWCまたはW2Cが生成され、ダイヤモンド砥粒と母材が強固に接合された高い加工能率が期待できる砥石組織を有する薄刃切断砥石であると報告している。
第3章では、作製した薄刃切断砥石(WC‐Co)と市販切断砥石(以下CMと呼ぶ)を比較するため、定荷重送試験で切断速さ、加工抵抗、比研削エネルギー、加工前後の砥石表面の砥粒数において評価を行い、WC‐Coは、加工速さがCMの2倍であることを報告している。研削抵抗比(Ft/Fn)はWC‐Coでは平均0.46、CMでは平均0.34とWC‐CoはCMに比べて高くかつ、安定していることを報告している。 比研削エネルギーは、WC-Coが130 GJ/m3とCMの210 GJ/m3よりも40%低い値を示し、他に報告されている薄刃切断砥石に対しても比研削エネルギーは40%~60%低く高能率な砥石であることを述べている。 以上の結果より、母材に気孔を導入し、化学反応を利用して砥粒保持力を強固にすることにより、作製した薄刃切断砥石は、高性能な砥石であることを報告している。
第4章では、切断加工能力が予測可能な数式モデルの確立を行っている。定荷重送切断加工においては砥石の加工能力は加工速さによって示され、加工速さはダイヤモンド砥粒が被削材へ沈み込んだときの縦投影断面積と砥石回転速さ、切断砥石と被削材が接触している面積から計算可能であることを示している。 縦投影断面積は加工時、砥石の中心に向かう法線方向の抵抗、Fn、砥石表面の砥粒の数、大きさ、分散状態から計算を行なっている。 実際には鋭角な砥粒でも、そのごく先端は丸いことから、計算モデルに使用した砥粒形状は球体モデルが妥当であると考えている。 理論的計算から算出した切断速さと実験値を比較することで切断速さの理論式の妥当性を論じている。砥石表面性状からの定荷重送切断加工での切断速さの計算を行なう数式モデルを確立することで、加工前に様々な砥石や被削材の加工状態の正しい把握が可能であると結論付けている。
第5章では、切断砥石で加工された切断稜線剥離(エッジチッピング)状態に注目し、速い切断速さでかつ、切断稜線剥離を最小限に抑えることが可能な砥石先端断面形状について述べている。 定荷重送りでの切断加工は、砥石の回転方向を、砥粒が被削材の裏面側から表面側に抜けるように設定する、いわゆるUPカットを行う必要がある。 UPカットを行った場合、被削材裏面に対して表面の加工稜線剥離が大きくなる問題がある。 その問題を解決する為、砥石先端断面形状を従来の角形状からV形状へと変更し、その砥石をHDDヘッドスライダーの加工ラインへ導入した結果について報告し、従来の角形状の砥石に比べてV形状砥石は切断稜線剥離減少に対して有効であることを報告している。 砥石断面形状の変更により、砥粒径を変更することなく、加工能率や加工条件を保ったままで切断稜線剥離を低減することのできる1つの指針を示している。
第6章では総括を述べている。 成形方法にドクターブレード法を用い、PECS法にて焼結を行い、母材組織に気孔を導入し、砥粒保持力を母材と砥粒との化学反応を利用することで高めた薄刃切断砥石は高能率な薄刃切断砥石であることが証明されている。 また、その砥石表面性状を評価することで、切断加工実験前におおよその切断速さが様々な被削材に対して予測可能となり、定荷重送切断加工の際の最適条件を最短時間で確立することを可能としている。 更に砥石先端形状をV形状とすることで、同じ砥粒径、加工条件でも切断稜線剥離が低減できることを示し、高能率と低欠陥の同時実現が可能であることを報告している。
本研究で得られた知見は、これから益々頻繁に使用されるであろうセラミックス材料の薄刃切断砥石を用いた切断加工において、低欠陥を実現する為の加工方法や薄刃切断砥石開発について有用なものであり、産業界のセラミックス切断加工技術の発展を加速させるものである。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。