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ミクロ組織および集合組織の制御によるマグネシウム合金展伸材の高性能化

氏名 黄 賛文
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第359号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 ミクロ組織および集合組織の制御によるマグネシウム合金展伸材の高性能化
論文審査委員
 主査 教授 鎌土 重晴
 副査 教授 福沢 康
 副査 助教授 井原 郁夫
 副査 助教授 南口 誠
 副査 東京大学先端科学技術研究センター特任助教授 近藤 勝義

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 マグネシウム合金の現状と展望 p.1
 1.1.1 車の軽量化 p.1
 1.1.2 携帯電子機器および家電製品への使用 p.3
 1.1.3 構造材料としてマグネシウム合金の展望 p.3
 1.2 マグネシウムおよびマグネシウム合金 p.5
 1.2.1 合金化 p.6
 1.2.2 転伸用マグネシウム合金 p.7
 1.3 マグネシウムの塑性変形機構 p.8
 1.4 マグネシウム合金特性に及ぼす組織因子の影響 p.11
 1.4.1 結晶粒微細化 p.11
 1.4.2 動的析出 p.13
 1.4.3 化合物微細分散化 p.15
 1.4.4 集合組織 p.17
 1.4.5 動的再結晶 p.17
 1.5 研究目的 p.20
 [参考文献] p.21

第2章 転伸用マグネシウム合金のミクロ組織形成および引張特性に及ぼす添加元素の影響 p.25
 2.1 緒言 p.25
 2.2 実験方法 p.26
 2.3 結果及び考察 p.30
 2.3.1 As-castおよびECAE加工した試料のミクロ組織 p.30
 2.3.2 圧延後のミクロ組織 p.32
 2.3.3 引張特性 p.32
 2.3.4 4パスECAE材の結晶配向 p.35
 2.3.5 Cast+圧延材および4パスECAE+圧延材の集合組織と破断面 p.39
 2.4 結言 p.42
 [参考文献] p.43

第3章 転伸用マグネシウム合金のミクロ組織および引張特性に及ぼすECAE加温度の影響 p.45
 3.1 緒言 p.45
 3.2 実験方法 p.46
 3.3 実験結果および考察 p.50
 3.3.1 ECAE加工した試料のミクロ組織 p.50
 3.3.2 引張特性 p.50
 3.3.3 4パスECAE材の集合組織 p.53
 3.4 結言 p.56
 [参考文献] p.57

第4章 動的な相変態を利用したMg-5~7%Al-1%Zn合金の高強度化 p.59
 4.1 緒言 p.59
 4.2 実験方法 p.60
 4.3 実験結果及び考察 p.63
 4.3.1 鋳造材および均質化処理のミクロ組織 p.63
 4.3.2 動的再結晶挙動に及ぼすアルミニウム量の影響 p.63
 4.3.3 4パス-ECAE材のミクロ組織 p.66
 4.3.4 4パス-ECAE材の集合組織 p.71
 4.3.5 as-ECAE材の引張特性 p.71
 4.3.6 焼きなましによるミクロ組織および引張特性の変化 p.77
 4.3.7 粒径依存性 p.82
 4.4 結言 p.84
 [参考文献] p.84

第5章 微細化合物分散によるMg-Zn-RE合金圧延板の高延性化 p.87
 5.1 緒言 p.87
 5.2 実験方法 p.88
 5.3 実験結果及び観察 p.91
 5.3.1 鋳造材および均質化処理のミクロ組織 p.91
 5.3.2 圧延材のミクロ組織および軟化特性 p.91
 5.3.3 Mg-Zn-RE化合物の組成、大きさおよび形状 p.94
 5.3.4 動的再結晶挙動に及ぼすMg-Zn-RE化合物およびZn量の影響 p.99
 5.3.5 引張特性 p.102
 5.3.6 変形試料のミクロ組織 p.105
 5.3.7 ZE31合金の引張変形中の組織変化および動的再結晶挙動 p.109
 5.4 結言 p.114
 [参考文献] p.117

第6章 総括 p.119

謝辞 p.123

 近年の地球環境問題の観点から、自動車部品、電子機器筐体材料として、マグネシウム合金の使用が盛んになってきている。それらの部品は主にダイカスト法で製造されており、信頼性の確保、歩留まり向上の観点から展伸材の使用が望まれている。しかし、マグネシウム合金は室温では底面すべりが優先的に生じ、非底面aすべりが活動する場合でも独立なすべり系は2種類しかないため、冷間加工がほとんど不可能である。しかもアルミニウムなどに比べて絶対的な強度も低く、広範な工業的応用が制限されている。そこで、幅広い分野へのマグネシウム合金の応用を図るため、最近では結晶粒径や集合組織等の組織制御による高性能な展伸用マグネシウム合金の開発が積極的に進められている。
 本研究では、展伸用マグネシウム合金の高性能化へ向けた指針の導出を目的として、汎用Mg-Al系およびMg-Zn系合金展伸材の主要添加元素の違いによるミクロ組織および引張特性の変化を調べるとともに、結晶粒径および集合組織の制御法としての動的析出および化合物微細分散の活用方法を調べ、その結果として得られる引張特性を評価した。

 第1章ではマグネシウム合金展伸材に関する研究開発の現況と展望、マグネシウム合金の塑性変形機構、ミクロ組織因子形成機構と引張特性への寄与、および本研究の目的を述べた。

 第2章では、既存マグネシウム合金の主要添加元素としてAlを含むAZ31、AM30およびZnを含むZK31合金に組織制御プロセスとしてのECAE加工および圧延加工を施し、ミクロ組織および引張特性に及ぼす主要添加元素の影響を調べた。Al添加合金の4パスECAE材では、底面が押出し方向に対して45°傾くため、押出方向に引張試験した場合、AZ31、AM30合金では底面すべり変形が生じやすくなり、引張強さと0.2%耐力は低いものの、高い延性を示す。一方、主要添加元素をZnとするZK31合金では底面が押出し方向に平行になるため、底面すべり変形が生じにくくなり、引張強さと0.2%耐力は高いものの、延性は劣る。さらに、4パスECAE加工後、さらに圧延を施した試料では、各合金系とも底面が圧延方向と平行な集合組織を形成するため、引張強さ、0.2%耐力とも著しく向上することを明らかにした。

 第3章ではAZ31およびZK31マグネシウム合金のミクロ組織因子および引張特性に及ぼすECAE加工温度の影響を調べた。AZ31合金の4パスECAE加工材では、加工温度の上昇とともに底面が押出し方向に対して45°傾いた集合組織に加え、押出し方向と平行に配向する集合組織も形成されるようになり、573Kでは底面が押出し方向に平行な配向が強くなる。一方、ZK31合金の4パスECAE加工材では、523Kの低温加工において底面が押出し方向と平行に配向する集合組織のみが形成されるが、573Kの高温側では一部押出し方向に対して45°傾いた集合組織も形成されるようになる。その結果、AZ31合金の4パスECAE材では加工温度の上昇に伴って再結晶粒径が大きくなるにもかかわらず、引張強さおよび0.2%耐力は高くなり、伸びは若干小さくなる。一方、ZK31合金の4パスECAE加工材の引張強さおよび0.2%耐力は加工温度の上昇に伴って小さくなり、伸びは高くなる。以上のように、両系合金の0.2%耐力は結晶方位に強く依存することを明らかにした。

 第4章では主要添加元素としてのAl添加量を既存のAZ31合金より多くし、5~7%の範囲で変化させたAZ51、AZ61およびAZ71の三合金を用いて、ミクロ組織因子および引張特性に及ぼすECAE加工条件およびAl量の影響を調べた。ECAE加工温度が低いほど、またAl量が多いほど動的析出する 相の量が多くなり、かつ析出 相および動的再結晶粒とも微細になる。各合金とも、573Kの高温では、底面が押出し方向と平行に配向する集合組織を形成するが、加工温度の低下とともに押出し方向に対して45°傾いた結晶粒が多くなる。各合金のECAE材の0.2%耐力は加工温度の低下およびAl量の増加に伴って顕著に向上する。このことは引張特性に及ぼす析出相の影響は集合組織より大きいことを示している。4パスECAE材および焼なまし材の0.2%耐力は、ホール・ペッチ則に従って粒径の増加とともに低下し、明瞭な粒径依存性を示す。以上のように、Al量の増加と低温側加工の組合せにより、加工まま材でも結晶粒微細化と動的析出により高強度化が達成可能であることを明らかにした。

 第5章では、微細分散化合物の利用による高強度化を目指し、従来材料とは異なるMg-2~4%Zn-1%RE合金の圧延板(F材)を作製し、Zn量や熱処理条件がミクロ組織、変形挙動および引張特性に及ぼす影響を調べた。Zn量が少ないほど、F材のせん断帯領域が多くなり、均一な組織となる。圧延によりMg-Zn-RE化合物は分散し、Zn量の減少に伴って化合物の平均粒径および面積率は小さくなるものの、再結晶核生成サイトとなる高角粒界および化合物が多くなり、変形初期から動的再結晶が容易に生じるようになる。その結果、室温では焼なまし材(O材)の方がF材より流動応力が低く、伸びが大きいが、523KではF材の方が圧延中の残留ひずみの効果も加わり、変形初期から動的再結晶が生じやすくなり、O材より低流動応力で変形し、伸びも大きくなる。特に、ZE31合金F材では微細な動的再結晶粒が均一に分散し、それらが粒界すべりを促進し、523Kでも210%の高延性を示すようになる。以上のように、Mg-Zn系合金でもMgへの固溶限の小さい希土類元素の添加により熱的に安定な化合物を形成させ、それらを加工により微細分散させることにより、動的再結晶粒の微細化に役立ち、高延性化に寄与することを示した。

第6章では、本論文で得られた結果を要約し、結論とした。

 本論文は、「ミクロ組織および集合組織の制御によるマグネシウム合金展伸材の高性能化」と題し、6章より構成されている。
 第1章「序論」では、マグネシウム合金展伸材の変形機構、ミクロ組織形成機構と得られる引張特性との関係に関する従来の研究を示すとともに、本研究の目的を述べている。
 第2章「展伸用マグネシウム合金のミクロ組織形成および引張特性に及ぼす添加元素の影響」では、主要添加元素としてAlあるいはZnを含む合金に拘束強加工法であるECAE加工を施し、結晶粒径および集合組織と引張特性との関係を調べている。その結果、Alを主要添加元素とするAZ31合金では、加工時にせん断力の働く方向、すなわち押出し方向に対して45°傾いた方向に底面が配向する集合組織が形成され、引張強さと0.2%耐力は低いものの、高い延性を示すようになるのに対し、Znを主要添加元素とするZK31合金では逆の特性が得られること、その後に圧延を施すことにより、両合金系とも底面が圧延方向と平行な集合組織を形成し、引張強さ、0.2%耐力とも著しく向上することを明らかにしている。
 第3章「展伸用マグネシウム合金のミクロ組織および引張特性に及ぼすECAE加工温度の影響」では、AZ31およびZK31マグネシウム合金のミクロ組織および引張特性に及ぼすECAE加工温度の影響を調べ、AZ31合金では、加工温度の上昇とともに底面が押出し方向に平行な配向が強くなり、その結果、加工温度の上昇に伴って再結晶粒径が大きくなるにもかかわらず、底面すべりが抑制され、引張強さおよび0.2%耐力は高くなり、伸びは小さくなることを明らかにしている。一方、ZK31合金は逆の傾向を示し、両合金の引張特性は結晶方位に強く依存することを明らかにしている。
 第4章「動的な相変態を利用したMg-5~7%Al-1%Zn合金の高強度化」では、主要添加元素であるAl添加量を5~7%と既存合金より多くした合金にECAE加工を施し、加工温度およびAl添加量の影響を調べている。ECAE加工温度が低く、Al量が多いほどECAE加工中に動的析出する 相の量が多くなり、かつ析出 相および動的再結晶粒とも微細になる。その結果、加工温度の低下とともに押出し方向に対して45°傾斜した結晶粒が多くなるものの、ECAE加工材の0.2%耐力は顕著に向上し、析出 相の影響が顕著に現れる。さらに、0.2%耐力は、ホール・ペッチ則に従った明瞭な粒径依存性を示し、本検討合金では加工まま材でも結晶粒微細化と動的析出物により高強度化が達成可能であることを示している。
 第5章「微細化合物分散によるMg-Zn-RE合金圧延板の高延性化」では、マグネシウムと熱的に安定な化合物を形成する希土類元素(RE)を添加したMg-2~4%Zn-1%RE合金の圧延板を作製し、変形挙動および引張特性に及ぼす化合物の影響を調べている。熱的に安定な微細化合物の分散が、動的再結晶の核生成サイトを増加させ、高温変形中の初期段階での動的再結晶を促し、その結果として形成される微細な動的再結晶粒が粒界すべりを促進し、高延性化に顕著に寄与することを示している。
 第6章「結言」では、本論文で得られた結果を要約し、結論としている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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