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産業用ロバストサーボ系の高速応答化に関する研究

氏名 間下 知紀
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第378号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 産業用ロバストサーボ系の高速応答化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 大石 潔
 副査 教授 近藤 正示
 副査 助教授 野口 敏彦
 副査 助教授 伊東 淳一
 副査 慶應義塾大学理工学部助教授 村上 俊之

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第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.2 論文の概要 p.6

第2章 高速応答化のための制御技術 p.9
 2.1 はじめに p.9
 2.2 理想的な高速応答プロファイル p.9
 2.3 操作量飽和に関する問題 p.15
 2.4 最大減速開始時刻の算定 p.32
 2.5 まとめ p.36

第3章 モータ制御における操作量飽和対策 p.39
 3.1 はじめに p.39
 3.2 モータのモデル化 p.40
 3.3 速度サーボ系の設計 p.41
 3.4 提案するアルゴリズムを適用した速度サーボ系 p.49
 3.5 直列に接続きれた制御系に対する提案するアルゴリズム p.57
 3.6 実験による確認 p.60
 3.7 まとめ p.73

第4章 負荷状態を考慮した高速位置決め制御系 p.75
 4.1 はじめに p.75
 4.2 一般的な位置決め手法とその問題点 p.76
 4.3 提案する高速位置決め制御法 p.79
 4.4 実験と計算機シミュレーション p.88
 4.5 速度プロファイルが三角波状になる場合 p.97
 4.6 まとめ p.102

第5章 高速応答サーボ系のパラメータ変動に対するロバスト化 p.105
 5.1 はじめに p.105
 5.2 高速位置決め制御系の慣性モーメント変動に対するロバスト化 p.106
 5.3 電流制御系のロバスト化 p.116
 5.4 まとめ p.129

第6章 結論 p.131
 6.1 本研究による成果 p.131
 6.2 今後の課題 p.135

付録A Anti Reset Windupによるアンチワインドアップ手法(従来法) p.137

付録B 2次のプラントの最大減速開始時刻の算定 p.141

付録C 電流センサを用いない磁束鎖交数Φfaの同定手法 p.143

近年産業界においては,機械のタクトタイムの短縮などとりわけアクチュエータの高速化が望まれている。生産ラインなどで用いられている産業用ロボットやアクチュエータの高速化は日々行われている。ある特定の機器に対し高速応答化を図る技術はこれまでにも多々研究されてきた。しかしながら現在市場の多くに流れているのは汎用のモータ及びドライバを用いた設備であり,これら全てに対し個々に新たな最適な制御器を設計するのは不可能に近い。そこで,本論文では現在あるロバストサーボ系をそのままにして,高速応答化する制御技術を研究開発することを目的とする。

通常の産業用ロバストサーボ系の構造をそのままにして高速応答化を図るには,高速応答を実現するプロファイルが必要である。しかしながら,そのプロファイルの生成は,出力変数や状態変数の制限値や未知の外乱入力が存在すると困難である。これを解決するために,本論文では,制限値が存在しても理想的な加速プロファイルを生成する操作量飽和対策法と,理想的な減速プロファイルを生成する最大減速開始時刻算定法を新しく研究開発した。実際の位置制御,速度制御,電流制御が直列に接続された産業ロバストサーボ系に対して本提案法を用いると,予測制御などの高速化のための特別なシステムを追加することなく,高速応答化することができる。これは産業的,工業的に非常に実用的で有意義なものである。

本論文は6章よりなっており,第2章で本論文の核となる問題点とそれを解決するアルゴリズムの基本形を示す。その後,第3章から第5章において第2章に示した提案するアルゴリズムをモータ制御に適用する。

各章の詳細は次のようになる。
第1章では,本研究の背景と目的を述べる。

第2章では,任意のプラントに対し指令値を与え高速に応答させるための制御技術についてその基本となるアルゴリズムを述べる。はじめに,高速応答させるための理想的なプロファイルを述べ,これを阻害する2つの問題点を挙げる。1つは加減速時における操作量飽和の問題であり,もうひとつは最大で減速させるタイミングの問題である。これらの問題に対して任意の2次の標準形を持つプラントを模擬して従来研究されている手法を示し,第3章以降は第2章で提案した高速応答のための制御技術をサーボモータに適用し,実現する。提案手法の有効性は実機による実験を中心に確認している。

第3章では,第2章で提案した操作量飽和対策のアルゴリズムをサーボモータの電流制御系,速度制御系各々に適用し,計算機シミュレーションおよび,実機実験によりその有効性を証明する。さらに,速度制御系と電流制御系のように制御系が直列に接続された場合には個々に提案手法を施したとしても,ワインドアップ現象が生じてしまう可能性があるという問題点を新たに示す。そしてこの新たな問題に対して提案する操作量飽和対策の技術を拡張し用いることを提案する。

第4章では,第2章において提案した最大減速開始時刻を算定する減速時の高速応答ためのアルゴリズムをサーボモータの位置決め制御へ適用し,モータの高速位置決め手法について実機による実験と計算機シミュレーションによって示す。提案するアルゴリズムはプラントの内部変数を利用するものであり,このままではモータに負荷が掛かった場合に適用は不可能である。そこで,第4章では負荷を外乱オブザーバを用いて推定し用いることを提案する。さらに提案手法は基本的アルゴリズムは同じであるが,モータの負荷状態(クーロン摩擦のみか,粘性摩擦を含むか)によって式が異なる。そこで,両方の場合について示し,粘性摩擦項を含む場合には式が複雑になりすぎる指摘をして,近似することで容易に実装できる式となることを示す。提案する位置決め手法についてはすべて実験と計算機シミュレーションによって有効性を確認する。

第5章では,提案する高速応答サーボ系のパラメータ変動に対するロバスト化について述べる。本論文において提案する高速応答化の技術は,慣性モーメントの値を用いており,この値が変動した場合には最大減速開始時刻の算定に大きく影響し,その応答はオーバーシュートを起こしてしまったり,目標位置に到達しない可能性がある。また,通常高速なロバストサーボ系においては電流制御系は十分高い帯域を持つ。したがって,電気的時定制御系を1と見ることが出来なくなり,高速応答の理想的なプロファイルを保てなくなる可能性がある。そこで,これらのパラメータ変動に対し,高速応答の理想的なプロファイルをそのままにしてパラメータを同定し,高速応答サーボ系のロバスト化を図る。

第6章では,本論文の成果と各提案法における総括をまとめる。

 本論文は,「産業用ロバストサーボ系の高速応答化に関する研究」と題し,6章より構成されている。
第1章「序論」では,本研究の背景と目的を述べる。

第2章「高速応答化のための制御技術」では,任意のプラントに対し指令値を与え高速に応答させるための制御技術についてその基本となるアルゴリズムを述べる。高速応答させるための理想的なプロファイルを述べ,これを阻害する2つの問題点を挙げる。これらの問題に対して任意のプラントにおいて従来研究されている手法を示し,それらの問題点を示す。最後に本論文で提案する手法について述べる。

第3章「モータ制御における操作量飽和対策」では,提案する操作量飽和対策のアルゴリズムをサーボモータの電流・速度制御系各々に適用しその有効性を証明する。さらに,速度制御系と電流制御系のように制御系が直列に接続された場合には個々に提案手法を施したとしても,ワインドアップ現象が生じてしまう可能性があるという問題点を新たに示す。この新たな問題に対して提案する操作量飽和対策の技術を拡張し用いることを提案する。

第4章「負荷状態を考慮した高速位置決め制御系」では,提案する最大減速開始時刻を算定する減速時の高速応答ためのアルゴリズムをサーボモータの位置決め制御へ適用し,モータの高速位置決め手法についてその有効性を示す。提案するアルゴリズムはプラントの内部変数を利用するものであり,モータに負荷が掛かった場合には負荷を外乱オブザーバを用いて推定し用いることを提案する。さらに粘性摩擦項を含む場合には式が複雑になりすぎる指摘をして,近似することで容易に実装できる式となることを示す。提案する位置決め手法についてはすべて実験と計算機シミュレーションによって有効性を確認する。

第5章「高速応答サーボ系のパラメータ変動に対するロバスト化」では,提案する高速応答サーボ系のパラメータ変動に対するロバスト化について述べる。提案する高速応答化の技術は,慣性モーメントの値を用いており,この値が変動した場合には最大減速開始時刻の算定に大きく影響する。また,通常ロバストサーボ系においては電流制御系は十分高い帯域を持つ。したがって,電気的時定数が変動してしまうと高速応答の理想的なプロファイルを保てなくなる可能性がある。そこで,これらのパラメータ変動に対し,高速応答の理想的なプロファイルをそのままにしてパラメータを同定し,高速応答サーボ系のロバスト化を図る。

第6章「結論」では,本論文の成果と各提案法における総括をまとめる。
以上のように,本論文では産業用ロバストサーボ系の新しい高速位置決め手法を確立している。よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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