光機能性液晶中の光波伝播解析
氏名 森崎 孝
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第358号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 光機能性液晶中の光波伝播解析
論文審査委員
主査 教授 小野 浩司
副査 教授 赤羽 正志
副査 教授 上林 利生
副査 教授 打木 久雄
副査 助教授 木村 宋弘
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目次
第I部 緒言 p.5
第1章 はじめに p.7
1.1 研究の背景・目的と新規性 p.7
1.2 論文の構成 p.9
第II部 液晶と光学計算 p.10
第2章 液晶の非線形光学効果 p.12
2.1 液晶の非線形光学効果 p.12
2.2 ゲスト・ホスト液晶を用いた非線形光学効果 p.12
2.2.1 光熱効果 p.12
第3章 試料 p.14
3.1 材料 p.14
3.2 液晶の屈折率温度特性 p.14
3.3 試料作製 p.15
3.3.1 基板洗浄 p.16
3.3.2 配向膜の成膜 p.16
3.3.3 ゲスト・ホスト液晶の作製 p.16
3.3.4 配向膜のラビング処理 p.16
3.3.5 サンドイッチ型セルの作製 p.16
3.3.6 配向の確認 p.17
3.4 光吸収特性 p.17
3.4.1 光吸収特性測定 p.18
3.4.2 測定手順 p.19
第4章 3次元熱伝道解析 p.20
4.1 熱伝導解析モデル p.20
4.2 有限要素法 p.21
第5章 キルヒホッフ回折積分 p.25
第6章 光線行列法 p.31
6.1 光線行列の基本要素 p.31
6.1.1 厚みdの平版 p.32
6.1.2 誘電体界面 p.32
6.1.3 球状誘電体界面 p.33
6.2 薄肉レンズ p.34
6.3 GRINロッドレンズの光線行列の導出 p.35
6.4 2枚レンズ系光線行列 p.36
6.5 像変換後のビームスポット位置薄肉レンズ p.38
6.6 像変換後のビームスポットサイズ p.38
第7章 時間領域差分法 p.39
7.1 Yeeのアルゴリズム p.39
7.1.1 時間についての差分 p.39
7.1.2 電磁界の時間配置と空間配置 p.40
7.2 2次元FDTD法 p.42
7.2.1 TM-FDTD法 p.42
7.2.2 TE-FDTD法 p.43
第III部 光誘起型液晶レンズの形成と光伝播特性測定及び解析 p.46
第8章 色素ドーブ液晶の高効率非線形光学効果と光コリメーション制御の試み p.48
8.1 原理 p.48
8.1.1 光熱効果による非線形光学効果 p.48
6.1.2 自己位相変調効果 p.59
8.2 光コリメーション制御 p.50
8.2.1 光コリメート制御 p.50
8.3 解析 p.51
8.3.1 解析モデル p.51
8.3.2 解析 p.52
8.3.3 結果 p.53
8.3.4 まとめ p.54
第9章 光誘起型液晶凹レンズの特性解析 p.55
9.1 実験 p.55
9.2 解析 p.56
9.1.1 キルヒホッフ回析積分 p.56
9.1.2 熱伝導解析法 p.57
9.3 結果と検討 p.59
9.3.1 色素依存特性測定表 p.63
9.3.2 液晶厚依存特性測定 p.66
9.4 まとめ p.69
第10章 光誘起型液晶凹レンズによる光伝播特性 p.70
10.1 測定系 p.70
10.2 測定結果 p.71
10.3 解析 p.71
10.3.1 熱伝導解析 p.72
10.3.2 A0の導出 p.72
10.4 解析結果と検討 p.74
10.4.1 理論解析による同定 p.74
10.4.2 液晶層厚依存特性 p.75
10.5 まとめ p.77
第IV部 時間領域差分法による液晶素子内の光伝播特性解析 p.78
第11章 光誘起型液晶凹レンズによる光伝播特性 p.80
11.1 光伝播特性測定 p.81
11.2 時間領域差分法 p.83
11.3 回折計算 p.86
11.4 結果と検討 p.87
11.4.1 熱伝導解析結果とFDTD法 p.88
11.5 まとめ p.90
第V部 緒言 p.91
第12章 まとめ p.93
付録A FDTD法による透過型液晶散乱素子の光散乱特性解析 p.101
A.1 1軸異方性誘電体の回転による偏光変化を考慮するために誘電テンソルを用いた2次元TE-TM FDTD法 p.101
A.1.1 電界成分の計算 p.102
A.1.2 磁界成分の計算 p.102
A.2 材料 p.103
A.3 解析モデル p.104
A.4 解析結果 p.104
A.5 解析モデルの決定についての考察 p.105
A.6 検討方法 p.106
A.7 検討結果 p.106
A.7.1 TE波の透過光率が低いことについて p.108
付録B マクスウェルの方程式 p.109
B.1 アンペアの回路則 p.109
B.2 ファラデーの電磁誘導則 p.111
B.3 電界に関するガウスの定理 p.111
B.4 磁界に関するガウスの定理 p.113
B.5 マクスウェルの方程式 p.113
付録C 使用機器 p.115
付録D 研究業績 p.118
本論文では,液晶の光熱効果に起因する屈折率分布の変化に着目し,色素ドープ液晶内に光誘起型レンズを形成し,その形成過程の詳細な解析を行い,更に,光誘起型液晶レンズ効果による光伝播特性について,スカラー解析法とベクトル解析法により,詳細に同定したことについて論じる.
本研究は,大きく分けて2つの目的がある.第1の目的は,光誘起型レンズの光形成に着目し,その形成過程の詳細な解析と,光伝播特性の測定および光学計算による同定を試みる事である.レンズ形成メカニズムの詳細な解明のために,次に示す 2つの方法で解析を行った.1つ目は,液晶凹レンズを光照射によって形成した場所にプローブ光を当て,その回折像をキルヒホッフ回折積分を用いて解析する事によって屈折率の空間分布を同定する方法である.2つ目は熱伝導解析法をもちいて,ポンプ光照射部の温度分布から,屈折率の空間分布を見積もる方法である.この両者を比較する事によって色素ドープ液晶中の凹レンズ形成機構を明らかにすると共に,色素濃度や液晶層の厚さが特性に及ぼす影響について詳細を明らかにした.光伝播特性解析には,幾何光学計算である光線行列法による,レンズ焦点距離とスポットサイズの計算を行い,測定値と比較した.液晶の光熱効果を利用した,大きさや屈折率分布を容易に変更できるマイクロレンズに対するレンズ形成の条件や過程の詳細な同定,更にその光誘起型液晶レンズによる光伝搬特性の測定及び光学計算により同定した研究は,著者の知る限り他に報告例が無い.
第2の目的は,光機能性液晶素子の光学特性解析のために時間領域差分法を用い,実際の液晶素子に対する解析を行う事である.現在の光学素子に対する光学計算は,キルヒホッフの回折積分や,幾何光学計算等のスカラー近似による計算を用いて設計されている.電波伝播解析法として広く用いられている時間領域差分法を機能性液晶素子の光学特性解析へ応用することは,解析可能な領域が計算機の性能に大きく依存するために,余り報告例が無かった.しかし,近年の光学素子の機能が複雑化し,更にその大きさも小型化される中,計算機の高性能化に伴い,フォトニック結晶や液晶ディスプレイの光学特性解析に時間領域差分法を用いた報告がされるようになった.そこで,我々が作製している機能性光学素子についても同様に屈折率分布が複雑化・小型化すると,その光学特性を評価するにあたり,これまでの光学計算では説明出来なくなると考え,まだ余り報告例のない光機能性液晶素子の時間領域差分法による光伝播特性解析を行った.解析の対象は,前述の光誘起型液晶レンズの光伝播特性である.光誘起型液晶レンズの光伝播特性解析において,光学計算結果と比較することで時間領域差分法の有効性を確認した.
本論文は5部で構成され,以下の通りである.第1部は,本研究の目的と新規性を論じ,本論文の構成を紹介する.
第2部は,液晶の特性と本研究で用いた液晶セル構造と使用した光学計算について論じる.まず,液晶の物性,特に光熱効果及び自己位相変調効果について論じる.理論解析では,まず,液晶が光より受けた熱量を解析するために用いた3次元熱伝導解析について論じる.その解析結果を基に,液晶層の屈折率分布を計算するが,この分布は後の光学計算において計算モデルの基本となる解析であるため非常に重要である.次に光学計算として,スカラー回折計算であるキルヒホッフ回折積分と幾何光学計算法である光線行列法について論じる.更にベクトル解析法である時間領域差分法 (Finite-Difference Time-Domain ( FDTD ) method) についてマクスウェルの方程式から Yee モデルによる中心差分方程式を示し,偏光方向の違いによる定式化について論じる.
第3部は,光誘起型液晶レンズの形成と光伝搬特性について,測定と光学計算によりその詳細を論じる.色素ドープ液晶の光熱効果により,光誘起型液晶レンズを液晶層に形成し,更に色素ドープ液晶セルのセル厚やドープ色素濃度の変化による液晶セル内部の屈折率変化によるレンズ効果形成について詳細に調査した.その結果を基に光誘起型液晶レンズの光伝搬特性を測定し,光学計算により測定結果を同定した.
第4部は,時間領域差分法を用いた機能性液晶素子内部の光伝搬特性解析について論じる.機能性液晶素子の小型化・多機能化に向けて,光学計算(スカラー回折計算)による液晶素子内部の同定が困難になる場合が考えられる.そこで波長に近い構造体を有する光学素子の解析に FDTD法を適用することを提案した.FDTD法は電波伝搬解析では既に一般的な解析法であり,基本式はマクスウェルの方程式をそのまま差分化する点において,実際の電磁波(光波)の振る舞いを計算により求めることが可能である.まず,光誘起型液晶レンズについて,測定結果,光線行列結果とFDTD解析結果の比較により,FDTD法の有効性を示した.
第5部は,論文全体のまとめであり,本研究の成果を述べる.
本研究では,色素ドープ液晶の大きな光学的異方性に着目し、レーザー照射に伴う光誘起型レンズの形成過程及びその光伝播特性について詳細な解析を行っている.
本論文は5部で構成され,以下の通りである.第1部では,本研究の目的と新規性を論じ,本研究の意義を述べている.
第2部では,液晶の特性と本研究で用いた液晶セル構造と使用した理論解析法について述べている.液晶の特性については,本研究において,特に重要である光熱効果及び自己位相変調効果に着目し、光誘起レンズの形成過程について概説している.理論解析法については,液晶が光により受けた熱量を解析するために用いた3次元熱伝導解析法,光学計算として,スカラー回折計算であるキルヒホッフ回折積分と幾何光学計算法である光線行列法,更にベクトル解析法である時間領域差分法 (Finite-Difference Time-Domain ( FDTD ) method)の液晶素子への適用について説明している.
第3部では,光誘起型液晶レンズの形成過程とその光伝搬特性について,実験と光学計算の比較による考察を行っている.一般的な考察に続き、光伝播特性の色素ドープ液晶素子の液晶層厚依存性及びドープ色素濃度依存性についての詳細な説明を行っている。
第4部は,FDTD法による光機能性液晶素子内部の光伝搬特性解析への有効性について述べている.光誘起型液晶レンズについて,測定結果,光線行列結果とFDTD解析結果の比較により,FDTD法を光機能性液晶素子の光伝播特性解析に応用し,その有効性について述べている.
第5部では,光誘起液晶レンズが光-光制御素子の応用として非常に有効な素子であることが述べられ,更に,小型化・多機能化の進む光機能性素子の光学特性解析にFDTD法が非常に有効な手段であると結論づけられている.
以上のように光機能性素子の作製から定量的な解析を通して行うことにより,光-光制御素子としての有効性と,FDTD法の光機能性素子への応用を論じている.よって,本論文は博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.