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孔食および電析における自己組織化過程の研究

氏名 三浦 美紀
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第367号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 孔食および電析における自己組織化過程の研究
論文審査委員
 主査 教授 山田 明文
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 梅田 実
 副査 助教授 松原 浩
 副査 長岡工業高等専門学校名誉教授 中澤 章
 副査 職業能力開発総合大学校教授 青柿 良一

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目次 p.i
序論 p.1
 はじめに p.2
第I章 孔食における非平衡ゆらぎ理論の基礎 p.5
 1.1 孔食における非平衡ゆらぎ不安定性 p.6
 1.1.1 はじめに p.6
 1.1.2 理論的背景 p.8
 1.1.3 非平衡ゆらぎの不安定化と臨界孔食電位 p.11
 1.1.3.1 非対称性のゆらぎの不安定化 p.13
 1.1.3.2 対称性ゆらぎの安定性 p.18
 1.1.4 臨界孔食電位 p.19
 1.2 臨界孔食電位の解析 p.22
 1.2.1 ニッケル箔の前処理 p.22
 1.2.2 電極セル p.22
 1.2.3 結果と議論 p.23
 〔付録2〕第2節における理論式の導出 p.27
 〔付録2-A〕臨界孔食電位式の導出 p.27
 1. indicator electrodeを用いた場合の臨界電位係数 p.28
 2. 照合極を用いた時の臨界電位式係数 p.33
 〔付録2-B〕少数派イオンの塩と多数派イオンの塩の化学ポテンシャル p.36
 〔付録2-C〕拡散二重層における電荷係数 p.37
 〔付録2-D〕照合極を基準としたindicator electrode電位の支持塩化学ポテンシャル依存性 p.42
 〔付録2-E〕測定値より電位係数を含めるための関係式 p.45
 1.3 孔食電流による非平衡ゆらぎ解析 p.50
 1.3.1 実験方法 p.50
 1.3.2 結果と考察 p.50
 1.3.2.1 電気二重層充電過程 p.51
 1.3.2.2 初期拡散電流 p.53
 1.3.2.3 極小電流 p.56
 1.3.2.4 成長電流 p.58
 〔付録3〕本文第3節の理論式の解説 p.63
 1. ゆらぎの平均値 p.63
 2. 初期ベクトル p.65
 3. 振幅方程式の導出 p.69
 〔付録3-B〕二重層充電電流式の導出 p.74
 〔付録3-C〕初期拡散電流式の導出 p.76
 〔付録3-D〕極小電流式の導出 p.78
 〔付録3-E〕成長電流式の導出 p.80
 1.4 電流値及び表面形状の数値計算 p.87
 1.4.1 計算手順の概要 p.87
 1.4.2 電流・時間曲線の計算 p.88
 1.4.3 表面球状のシミュレーション p.88
 第I章の参考文献 p.109

第II章 研磨状態ピットの自己組織化過程 p.138
 2.1 はじめに p.139
 2.2 理論 p.140
 2.2.1 不安定性の発生 p.140
 2.2.2 ゆらぎの時間発展と自己組織化過程 p.147
 2.3 計算 p.151
 2.4 結果と議論 p.152
 2.5 結論 p.154
 第II章の参考文献 p.154

第III章 活性状態ピットにおける自己組織化過程 p.166
 3.1 はじめに p.167
 3.1.1 アニオンの特異吸着から生じる非対称性ゆらぎの不安定化機構 p.170
 3.1.2 特異吸着のない場合における非対称性ゆらぎの安定化機構 p.172
 3.1.3 特異吸着アニオンによる孔食発生機構のまとめ p.173
 3.1.4 臨界孔食電位の理論式と特異吸着状態の測定 p.174
 3.1.5 拡散層における対称性揺らぎの安定化機構 p.187
 3.1.6 本章の目的 p.180
 3.2 論理 p.181
 3.2.1 金属イオン形成における非対称性ゆらぎ p.182
 3.2.2 金属錯体形成におけるゆらぎ(非対称性ゆらぎの対称性ゆらぎへの変化) p.189
 3.2.3 活性状態ピット形態の計算 p.195
 3.3 結論と議論 p.198
 3.4結論 p.204
 第III章の参考文献 p.206

第IV章 電析における二次結晶粒子の自己組織化過程 p.224
 4.1 はじめに p.225
 4.2 理論 p.229
 4.2.1 不安定性の発生 p.229
 4.2.2 カソード分極におけるアニオンの非特異吸着または少量の特異吸着から生じる不安定性機構 p.230
 4.2.3 カソード分極において、強い特異吸着がある場合の安定化機構 p.232
 4.2.4 電気二重層における電位分布 p.233
 4.3 計算方法 p.238
 4.3.1 非対称性ゆらぎによる二次元核生成過程の計算 p.238
 4.3.2 対称性ゆらぎによる三次元核生成 p.242
 4.3.3 表面形態の計算 p.246
 4.4 結論と議論 p.249
 4.5 結論 p.251

研究業績一覧 p.I

謝辞

 本論文は金属腐食、特に孔食において形成される二種類のピット、すなわち研磨状態ピットと活性状態ピットの生成過程を、非平衡ゆらぎの不安定成長による自己組織化という観点から追求したものである。さらに、他の非平衡ゆらぎによる自己組織化の例として、電析における二次粒子形成過程についても検討を加えた。電極反応は電極界面が反応の場となる不均一反応である。電極界面には電気二重層とよばれる特別な領域が存在し、その強い電場の働きによって、反応種の脱溶媒和と電極との電荷移動が進行する。このとき反応は電極上のすべての地点で均一に進行するわけではない。その典型的な例が上述の腐食や電析反応である。しかしながら、通常の電極反応論では、電極を均一な二次元平面とみなしているために、場所により不均一な反応速度現象を取り扱うことが困難である。
そこで、本論文では、電気二重層におけるゆらぎが反応速度を決定するという考えから、電極反応速度をゆらぎによって記述することを試みた。このゆらぎは、平衡状態で存在する平衡ゆらぎとは異なり、非平衡な反応状態において生じる「非平衡ゆらぎ」である。通常、このような反応において生じるゆらぎは、反応の結果一方的に生じるものとして認識されている。しかしながら、この非平衡ゆらぎによる反応速度論では、通常と大きく異なり、反応がゆらぎを生み出すのではなく、逆にゆらぎが反応を生み出すと考えるのである。
したがって、反応速度は非平衡ゆらぎのもつ統計的性質によって記述されることになる。通常の酸化還元反応では、非平衡ゆらぎは安定に存在するために、平衡ゆらぎと同様なランダムな確率過程に従って、時間・空間的に生成・消滅を繰り返す。これは一種の平均化過程であり、電極面では均一な反応状態が現れる。しかしながら、腐食や電析といった反応では、特定の条件のもとでゆらぎは不安定化し、それにともなって、ゆらぎは決定論的過程に従って時間発展するようになる。このとき、ゆらぎの自己組織化がおこり、反応速度の局所的集中により、特徴的形態をもったピットや結晶核が電極面上に形成される。このとき反応電流はゆらぎによる反応速度を統計的に平均することで求めることができる。
また、このような非平衡ゆらぎは、個々の反応過程に付随して存在する。したがって、通常の反応速度論同様に、律速過程にあるゆらぎが全反応を支配するようになる。反応を律速しているゆらぎが交代する場合は、第III章で示すように、ピット形態上の劇的変化が現れる。
本論文は以下のような構成になっている。
第I章 孔食における非平衡ゆらぎ理論の基礎
第II章 研磨状態ピットの自己組織化過程
第III章 活性状態ピットにおける自己組織化過程
第IV章 電析における二次結晶粒子の自己組織化過程
第I章では、孔食における非平衡ゆらぎ理論の基礎を解説する。そのなかで、非平衡ゆらぎの臨界電位についての具体的な測定方法と解析結果、および電解電流の測定結果から非平衡ゆらぎの統計量を求める具体的な方法と解析結果が示される。さらに、本論文で用いられる数学的取り扱いと計算機による計算方法が詳細に解説される。本章の内容は、著者の修士論文をもとに再構成されたものである。
 第II章では、孔食で形成される代表的なピットである、研磨状態ピットの自己組織化過程について述べる。ここでは、研磨状態ピット形成に寄与する非平衡ゆらぎが電気二重層中でどのように不安定化するかについて、模式図を使った解説がなされる。同時に、第I章で求まったゆらぎデータによる計算機シミュレーションを用いて、研磨状態ピットの三次元形態が示される。
 第III章では、孔食のもうひとつの代表的ピットである、活性状態ピットの自己組織化過程について述べる。ここでは、個々の反応に付随する非平衡ゆらぎのうち、全反応を律速しているゆらぎによってピットの形態が決定される様子が示される。
 第IV章では、孔食同様に、電気二重層中で非平衡ゆらぎが生み出す二次元結晶核上で三次元結晶核が形成される過程から、新たに二次粒子が生み出される様子が述べられる。その結果、孔食と電析という一見異なる現象が、非平衡ゆらぎに対する同一の理論式で解析できることが示される。

 本論文は、「孔食および電析における自己組織化過程の研究」と題し、金属腐食や電析現象にみられる自己組織化過程を、非平衡ゆらぎの理論を用いてその性質を明らかにしたものである。
 腐食や電析は電極反応により引き起こされる事象であり、電極反応は電極界面が反応の場となる不均一反応である。電極界面には電気二重層とよばれる特別な領域が存在し、その強い電場の働きによって、反応種の脱溶媒和と電極との電荷移動が進行する。この際反応は電極上の全ての地点で均一に進行するわけではない。その典型例が腐食や電析反応である。しかし、通常の電極反応論では、電極を均一な二次元平面とみなしているために、場所により不均一な反応現象を取り扱うことは困難である。本論文では、電気二重層におけるゆらぎが反応速度を決定するという新しい考え方を導入し、電極反応速度をゆらぎによって記述することを試みている。本論文は4章より構成されている。
 第1章「孔食における非平衡ゆらぎ理論の基礎」では、非平衡ゆらぎの臨界電位についての具体的な測定方法と解析結果、および電解電流の測定結果から非平衡ゆらぎの統計量を求める方法とその結果が示されている。また、本研究で用いた数学的取り扱いと計算機による計算方法が詳述されている。
 第2章「研磨状態ピットの自己組織化過程」では、孔食で生成する代表的なピットである、研磨状態ピットの自己組織化過程について述べている。研磨状態ピット形成に寄与する非平衡ゆらぎが、電気二重層中でどのように不安定化するかについて、前章で得られたゆらぎデータによる計算機シミュレーションを用いて、研磨状態ピットの三次元形態を示唆した。
 第3章「活性状態ピットにおける自己組織化過程」では、孔食のもうひとつの代表的ピットである、活性状態ピットの自己組織化過程について述べている。ここでは、個々の反応に付随する非平衡ゆらぎのうち、全反応を律速しているゆらぎによってピットの形態が決定される様子を明らかにした。
 第4章「電析における二次結晶粒子の自己組織化過程」では、孔食同様に、電気二重層での非平衡ゆらぎが生み出す、二次元結晶核上で三次元結晶核が形成される過程から、新たに二次結晶が生み出される様子が示された。その結果、孔食と電析という一見異なる現象が、非平衡ゆらぎに対する同一の理論式で解析できることを明らかにした。
 このように、本研究は電極反応での固有な非平衡ゆらぎの性質を明らかにし、提案された方法を用いることで、金属腐食や電析による反応速度や表面形態の変化をシミレーションできる手法を提供した。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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