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高炭素鋼板の組織制御による加工性向上

氏名 藤田 毅
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第245号
学位授与の日付 平成17年12月7日
学位論文題目 高炭素鋼板の組織制御による加工性向上
論文審査委員
 主査 教授 鎌土 重晴
 副査 教授 福澤 康
 副査 教授 岡崎 正和
 副査 教授 永澤 茂
 副査 助教授 南口 誠

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目次

第1章 緒言
 1.1 高炭素鋼板の用途展開と加工性向上の必要性 p.1
 1.1.1 高炭素鋼板の種類と用途 p.1
 1.1.2 高炭素鋼板の自動車駆動系分野への展開 p.1
 1.1.3 自動車駆動系部品向け高炭素鋼板に対する期待 p.9
 1.2 薄鋼板の加工様式 p.11
 1.2.1 打抜き加工 p.11
 1.2.2 プレス成形加工 p.11
 (1)深絞り成形 p.11
 (2)張出し成形 p.15
 (3)伸びフランジ成形性 p.15
 (4)曲げ成形 p.19
 1.3 高炭素鋼板の製造方法 p.23
 (1)熱間圧延 p.23
 (2)冷間圧延 p.27
 (3)焼鈍 p.27
 1.4 研究目的 p.27
 参考文献 p.29

第2章 高炭素冷延鋼板の硬さおよび焼入性に対するミクロ組織因子の定量化
 2.1 緒言 p.31
 2.2 実験方法 p.31
 2.3 実験結果および考察 p.33
 2.3.1 素材硬さに及ぼすミクロ組織の影響 p.33
 2.3.2 焼入性に及ぼすセメンタイト粒径の影響 p.41
 2.4 結言 p.41
 参考文献 p.43

第3章 セメンタイト形態制御によるS35C冷延鋼板の塑性異方性の面内異方性制御
 3.1 緒言 p.44
 3.2 実験方法 p.44
 3.3 実験結果 p.46
 3.3.1 熱延板および一次焼鈍、二次焼鈍後のミクロ組織 p.46
 3.3.2 二次焼鈍後の機械的性質および面内異方性に及ぼす冷間圧延前組織の影響 p.48
 3.3.3 熱延板および一次焼鈍、二次焼鈍後の集合組織 p.50
 3.3.4 冷延・焼鈍過程でのミクロ組織および硬度、集合組織変化 p.54
 3.4 考察 p.54
 3.4.1 高炭素鋼板の再結晶挙動と集合組織形成に及ぼす冷間圧延前組織の影響 p.54
 3.4.2 高炭素鋼板の平均r値及びr値の内面異方性(△r)を支配する要因 p.62
 3.5 結言 p.66
 参考文献 p.66

第4章 セメンタイト形態制御したS35C冷延鋼板の△rに及ぼす冷間圧延率の影響
 4.1 緒言 p.68
 4.2 実験方法 p.68
 4.3 実験結果および考察 p.70
 4.3.1 機械的性質および△rに及ぼす冷間圧延率の影響 p.70
 4.3.2 一次焼鈍、二次焼鈍のミクロ組織及び集合組織 p.74
 4.3.3 冷間圧延後のミクロ組織 p.75
 4.3.4 冷延・焼鈍過程の再結晶挙動および集合組織変化 p.75
 4.3.5 再結晶挙動に及ぼす冷間圧延率および第二相の影響 p.83
 4.3.6 平均r値および△rに及ぼす引張ひずみ量の影響 p.86
 4.4 結言 p.90
 参考文献 p.91

第5章 高炭素冷延鋼板の延性とミクロ組織の関係
 5.1 緒言 p.93
 5.2 実験方法 p.93
 5.3 実験方法および考察 p.95
 5.3.1 機械的性質に及ぼす冷間圧延率の影響 p.95
 5.3.2 延性に及ぼすフェライト粒径の影響 p.100
 5.3.3 S35C冷延鋼板の延性支配因子 p.100
 (1)加工硬化挙動 p.100
 (2)引張り変形時のミクロ組織変化 p.104
 (3)一様伸びと局部伸びの支配因子 p.109
 5.4 結言 p.114
 参考文献 p.114

第6章 熱延組織制御したS35C熱延鋼板の伸びフランジ性
 6.1 緒言 p.116
 6.2 実験方法 p.116
 6.3 実験結果 p.119
 6.3.1 ミクロ組織 p.119
 6.3.2 機械的性質 p.119
 6.3.3 穴拡げ過程における割れ進展挙動 p.125
 6.4 考察 p.125
 6.4.1 穴拡げ過程のボイド生成・成長および亀裂進展 p.125
 6.4.2 引張試験におけるボイド生成および破断 p.131
 6.5 結言 p.136
 参考文献 p.136

第7章 本論文の開発材特性と実業比例
 7.1 緒言 p.138
 7.2 ファインカーバイド高炭素鋼板 p.138
 7.3 無方向性高炭素冷延鋼板 p.140
 7.4 ハイパーバーリングSC p.145

第8章 総括 p.150

謝辞

 自動車駆動系用の高炭素鋼板は、駆動系部品の軽量化あるいは製造コスト低減から増肉加工を要するプレス成形化のニーズが強く、優れた加工性と寸法精度の観点から低異方性が要求されている。しかし、高炭素鋼板は、硬質かつ延性に乏しいセメンタイトを含むことから加工性は著しく劣る。本研究では、高炭素鋼板の加工性向上を目的として、種々の高炭素鋼板を用いてフェライトおよびセメンタイトの形態・分布および集合組織制御を行い、1)素材硬さ、2)異方性、3)延性、4)伸びフランジ性を支配する組織因子を調査・解析した。それらの結果をもとに、種々の加工性に優れた高炭素鋼板を開発した。

 第1章では、本研究の背景、鋼板の加工様式と重要な機械的性質との関係、高炭素鋼板の製造方法と組織制御プロセス因子、本研究の目的を述べた。

 第2章では、JIS SK5の成形性と焼入性に対する組織制御を目的として、成形性と相関の強い素材硬さ(焼鈍まま)と短時間焼入性に及ぼすフェライト粒径とセメンタイト粒径の影響について検討した。素材硬さに対するフェライトの粒界強化とセメンタイトの粒子分散強化の影響度として、次式を得た。
 HV=1.15df-1/2+0.0014dc-1+95.39
 ただし、df:フェライト粒径(cm)、dc:セメンタイト粒径(cm)素材硬さに対しては、フェライト粒径の影響が大きいことが明らかになった。焼入性に対しては、セメンタイト粒径の影響が大きく、サブミクロンサイズに微細化することにより焼入性が大幅に改善されることを示した。

 第3章では、JIS S35C冷延鋼板の集合組織制御によるr値の面内異方性(△r)の低減を目的として冷間圧延前のセメンタイト形態の影響について検討した。冷間圧延前組織がパーライトおよび微細球状セメンタイトの場合、△rを阻害する{110}面の発達が抑制され、△rが小さくなるが、粗大なセメンタイトの場合、{110}面が著しく発達し、△rが増大する。冷間圧延前のセメンタイト形態が再結晶挙動に大きな影響を及ぼし、集合組織制御により異方性が低減できることを示した。

 第4章では、第3章の冷間圧延前のセメンタイト形態に加えて冷間圧延率の影響について検討した。冷間圧延前組織が粗大なセメンタイトの場合、いずれの冷間圧延率も△rが大きく、{110}面の発達に対応して冷間圧延率50%で最大となる。一方、微細なセメンタイトの場合、冷間圧延率30%および70%において{110}面の生成が少なく、△rは最小となる。△rを阻害する{110}方位粒の生成は、セメンタイト周りの高転位密度に起因したもので、粗大なセメンタイトにおいて転位密度が高くなり、核生成サイトとして働くことを明らかにした。

 第5章では、JIS S35CおよびJIS S65C冷延鋼板の延性向上を目的として、球状セメンタイトの粒径と分散状態、およびフェライト粒径によるボイド生成に関して検討した。フェライトが細粒で粒界上にセメンタイトが占める場合に伸びは高くなる。一方、フェライト粒が粗大で、粒内に微細なセメンタイトが存在する場合に伸びは低く、特に一様伸びの低下が著しくなる。延性向上には微細フェライト粒による転位セルの微細化と粒内セメンタイトの減少によるボイド生成の抑制により粒界上のセメンタイトが破断する応力まで均一に変形させることが重要であることを示した。

 第6章では、JIS S35C熱延鋼板の伸びフランジ性の向上を目的として、フェライト・パーライトおよび球状セメンタイトによる穴拡げ過程のボイド生成・成長に関して検討した。フェライト・パーライト鋼は、穴拡げ試験時の打抜き穴端面において切欠き状のクラックが発生し、その後の穴拡げ過程でフェライトとパーライトの界面に沿って急速に進展した。そのため穴拡げ性(λ)が低下した。一方、球状セメンタイト鋼は、打抜き穴端面が平滑であり、穴拡げ過程においてボイド生成・成長後、連結によりクラックへと進展し、加工ひずみが均一に伝播することにより高いλを示した。このような打抜き穴を有する穴拡げ性では、ボイド生成・成長、連結に対するセメンタイトの形態の影響が大きいことを明らかにした。

 第7章では、第2章から第6章で明らかにしたミクロ組織と加工性に関する解析結果をもとに開発した材料について示した。
(1)ファインカーバイド高炭素鋼板;フェライト粒径の粒成長制御とセメンタイト粒のサブミクロン化により素材硬さは低下し、かつ低温短時間で高い焼入性を示す。
(2)無方向性高炭素冷延鋼板;冷間圧延前のセメンタイト形態および冷間圧延率の制御を用いた集合組織制御により△rが極めて小さくなり、同時に高い伸びと焼入性を示す。
(3)ハイパーバーリングSC;熱間圧延での高精度制御冷却により熱延組織をベイナイト化し、焼鈍によるセメンタイト形態を制御することにより優れた穴拡げ加工性を示す。

 第8章では、本研究で得られた結果を要約し、総括した。

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