本文ここから

強磁性半導体(Ga,Mn) AsのSi基板上へのヘトロエピタキシーと時期抵抗効果に関する研究

氏名 佐藤 慎哉
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第356号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 強磁性半導体(Ga,Mn)AsのSi基板上へのヘテロエピタキシーと磁気抵抗効果に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 内富 直隆
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 上林 利生
 副査 教授 打木 久雄
 副査 助教授 末松 久幸

平成17(2005)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論 p.7
 1.1 スピントロクスとは p.7
 1.2 III-V族希薄磁性半導体とその基本的性質 p.8
 1.2.1 はじめに p.8
 1.2.2 結晶成長 p.9
 1.2.3 磁気磁性 p.10
 1.2.4 GaMs中のMnイオンの価数と電子状態 p.12
 1.2.5 強磁性の起源と平均場モデル p.13
 1.3 Si基板上のGaAs成長技術 p.15
 1.3.1 Si基板の洗浄 p.15
 1.3.2 GaAs/Siの欠陥と抑制技術 p.17
 1.3.3 GaAs-on-Si技術の課題と現状 p.19
 1.4 本研究の課題 p.20

第2章 資料の作製法と磁気輸送測定法 p.21
 2.1 分子線エピタキシー結晶成長装置とその成長原理 p.21
 2.1.1 成長機構 p.22
 2.1.2 RHEED観察による結晶成長速度の決定 p.23
 2.2 磁気輸送測定の原理と方法 p.27
 2.2.1 磁気抵抗とホール効果 p.28
 2.2.2 van der Pauw法によるホール効果測定60) p.30
 2.2.3 多層膜のホール効果の解析61)62) p.31
 2.2.4 異常ホール効果 p.32

第3章 Si基板上へのGaAs緩衝層の成長 p.33
 3.1 はじめに p.33
 3.2 実験 p.34
 3.2.1 実験方法 p.34
 3.2.2 実験結果 p.36
 3.3 実験結果の考察 p.41
 3.4 本章のまとめ p.42

第4章 Si基板上への(Ga,Mn)As層成長 p.43
 4.1 はじめに p.43
 4.2 多段階成長法により作製したGaAs緩衝層上への成長 p.44
 4.2.1 成長ステップ数依存性実験 p.44
 4.2.2 高 Mn 濃度(Ga,Mn)As膜の成長実験76) p.48
 4.3 本章のまとめ p.48

第5章 磁気輸送特性と低温熱処理効果 p.49
 5.1 低温熱処理効果の原理 p.49
 5.2 低温熱処理による格子定数の変化 p.50
 5.3 低温熱処理による各種磁気特性の変化 p.54
 5.3.1 SQUIDによる磁化特性とキュリー温度 p.54
 5.3.2 ホール効果特性とpn反転現象 p.57
 5.3.3 シート抵抗の温度依存性 p.63
 5.4 Si基板除去による各種特性への影響82) p.63
 5.4.1 Si基板のエッチング除去 p.63
 5.4.2 ホール効果特性と強磁性転移温度 p.64
 5.4.3 抵抗率の温度依存性 p.69
 5.4.4 Raman散乱による応力測定 p.70
 5.4.5 強磁性転移温度増加の原因 p.72
 5.5 本章のまとめ p.73

第6章 磁性抵抗効果と磁気異方性 p.75
 6.1 はじめに p.75
 6.2 実験 p.75
 6.3 実験結果と考察 p.76
 6.3.1 電流磁気効果の確認 p.76
 6.3.2 プレーナーホール効果 p.77
 6.3.3 異方性磁気抵抗効果 p.78
 6.3.4 面直の磁気抵抗効果 p.85
 6.4 本章のまとめ p.86

第7章 Si基板上の(Ga,Mn)As三層構造における磁気抵抗効果 p.87
 7.1 トンネル磁気抵抗効果の原理 p.87
 7.2 実験 p.88
 7.2.1 試料の作製 p.88
 7.2.2 試料構造と測定方法 p.89
 7.3 実験結果 p.90
 7.3.1 成長表面の観察 p.90
 7.3.2 磁気抵抗効果 p.91
 7.3.3 磁気抵抗のバイアス電流依存性 p.93
 7.4 本章のまとめ p.94

第8章 総括 p.95

謝辞 p.97

参考文献 p.98

 今日の情報技術は、電子の持つ「電荷」と「スピン」を利用することで支えられている。前者は、とりわけ半導体電子デバイスで利用され、後者は永久磁石やハードディスク、メモリに利用されてきた。この「電荷」と「スピン」の両方を利用しようという研究分野を総称してスピントロニクスと呼んでいる。近年、スピントロニクス材料として、半導体に磁性原子を混入させた磁性半導体が注目されている。これは、半導体と整合性が良く、半導体技術(バンドギャップ制御、ドーピング制御など)が適用可能であり、キャリア誘起強磁性という興味深い性質を示すためである。
 本研究の対象である強磁性半導体(Ga,Mn)Asは、半導体GaAsと格子整合することから、その多くはGaAs基板上に成長されている。しかし、半導体デバイスで最も使用されているSi基板上に成長された例は極めて少なく不明な点が多い。そこで、本研究ではSi基板上への(Ga,Mn)As膜の結晶成長とその磁気的・電気的特性を調べることを目的とし、(1)Si基板上への(Ga,Mn)As薄膜成長、(2)磁気抵抗効果と磁気異方性に関する研究を重点的に行った。(1)については、今日のSi基板上に成長されたIII-V族化合物半導体の光デバイスの例で見るように、商品レベルのデバイス性能を得るのは決して容易ではなく、単に緩衝層を堆積すれば解決されるような問題ではない。(Ga,Mn)Asのような磁性半導体をSi基板上へ成長させた例はほとんど無く、故に、これを調査することは将来のSiベースの磁性デバイス開発にとって重要であると考えられる。本研究では、(Ga,Mn)As薄膜のためのGaAs緩衝層の有効な多段階結晶成長法を考案し、エネルギー論的にその結晶改善メカニズムを説明した。また、Si基板上にGaAs緩衝層を介して成長した(Ga,Mn)As薄膜の磁気特性、特に磁気輸送現象による評価によってその磁気抵抗効果を調べた。そして、その磁気輸送特性を始めて報告し、Si基板上でも比較的高い強磁性転移温度をもつ強磁性半導体を作成できることを初めて明らかにした。一方、(2)については、Si基板は、GaAsと4%以上の格子不整合と、250%以上の熱膨張係数差が存在することから、その磁区構造が応力や転位欠陥等による影響を受ける可能性があり、これを調査することも重要である。それゆえ、磁気抵抗効果によって、磁化特性や磁気異方性の評価を行った。その結果、(Ga,Mn)As/Siでは、GaAs基板上の(Ga,Mn)As薄膜に比べて高い保磁力(熱処理効果によって二倍以上)をもつことが明らかとなった。また、アンチフェーズドメインによる磁気等方的な挙動も明らかとなった。これらの結果に基づいて、さらにデバイス応用の可能性を調べるため、Si基板上に(Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)Asの三層構造の作成を行い、そのスピン依存伝導を調べる実験を行った。その結果、二つの(Ga,Mn)As層のスピンの相互作用による磁気抵抗効果(トンネル磁気抵抗効果)を観測することに成功した。Si基板上で強磁性半導体を用いたトンネル磁気抵抗効果を観測したのは本研究が初めてである。これにより、Siと(Ga,Mn)Asのような高い格子不整合を有する材料系においても磁性半導体ベースの磁気抵抗デバイスの可能性が明らかとなった。
 本論文は下記のように構成されている。
第1章では、これまで報告されて明らかになっている強磁性半導体(Ga,Mn)Asの基礎物性、およびGaAs/Si技術とその問題点について述べた。
 第2章では、試料の結晶成長に用いた分子線エピタキシーの概要とその結晶成長方法、および磁気輸送測定の基本的な原理と測定方法について記述した。
 第3章では、Si基板上へのGaAs緩衝層の成長について調べた結果とその考察を述べた。
第4章では、多段階成長法によって成長したGaAs緩衝層上への(Ga,Mn)As層の成長とその評価結果について記述した。
 第5章では、Si基板上へ成長した強磁性半導体(Ga,Mn)Asの磁気特性と磁気輸送特性を述べた。実験において見られた特異な実験結果に対しても議論した。
第6章では、磁気抵抗効果の面方位依存性実験について記述した。この測定から、Si基板上に成長した(Ga,Mn)As薄膜は、GaAs基板上のそれとは異なる磁区構造を有することが見出された。実験結果に合わせてその考察も行った。
 第7章では、Si基板上の(Ga,Mn)As三層構造におけるスピン依存伝導の実験を述べた。そして、Si基板上の磁性半導体による三層構造で初めて観察されたスピン依存磁気抵抗効果を記述した。
 第8章では、各章で示した実験結果についての結論を列挙した。

本論文は「強磁性半導体(Ga,Mn)AsのSi基板上へのヘテロエピタキシーと磁気抵抗効果に関する研究」と題し8章より構成されている。
第1章「序論」では、これまで報告されて明らかになっている強磁性半導体(Ga,Mn)Asの基礎物性、およびGaAs/Si技術とその問題点について述べ、本研究の必要性を説いている。
第2章「試料の作製法と磁気輸送測定法」では、試料の結晶成長に用いた分子線エピタキシーの概要とその結晶成長方法、および磁気輸送測定の基本的な原理と測定方法について記述している。
第3章「Si 基板上へのGaAs 緩衝層の成長」では、Si基板上へのGaAs緩衝層の成長について調べた結果とその考察を述べている。ここで、新しい結晶成長方法を示し、系統的な実験から従来の二段階成長法よりも高品質な結晶が得られることを示している。
第4章「Si 基板上への(Ga,Mn)As 層成長」では、多段階成長法によって成長したGaAs緩衝層上への(Ga,Mn)As層の成長とその評価結果について記述した。
第5章「磁気輸送特性と低温熱処理効果」では、Si基板上へ成長した強磁性半導体(Ga,Mn)Asの特異な磁気輸送特性を述べており、それらが平均場モデルで定量的に考察されている。また、Si基板上の強磁性半導体でさえ、比較的高い強磁性転移温度が得られることを初めて明らかにしている。
第6章「磁気抵抗効果と磁気異方性」では、Si基板上に成長した(Ga,Mn)As薄膜が、アンチフェーズドメインを有する結晶構造に起因して、GaAs基板上のそれとは異なる磁区構造を有することが示されている。
第7章「Si 基板上の(Ga,Mn)As 三層構造における磁気抵抗効果」では、GaAsを障壁層とした(Ga,Mn)As三層構造におけるスピン依存伝導の実験について述べており、Si基板上の磁性半導体でトンネル磁気抵抗効果を初めて観測している。これにより、Si基板上の磁性半導体ベースの磁気抵抗素子への応用可能性を示している。
第8章「総括」では、各章で示した実験結果についての結論を列挙している。
以上のように、本論文は、強磁性半導体のSi基板上へのヘテロエピタキシャル成長技術とその磁気抵抗効果についての新しい知見を与えている。よって、本論文は工学上及び工業上に貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成17(2005)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る