本文ここから

マグネシウム金属を用いる電子移動型反応による多様な結合形成反応の開発とプロドラッグ合成に関する研究

氏名 内田 哲郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第362号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 マグネシウム金属を用いる電子移動型反応による多様な結合形成反応の開発とプロドラッグ合成に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 西口 郁三
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 教授 五十野 善信
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 河原 成元
 副査 助教授 前川 博史
 副査 株式会社 カルデイオ常任監査役 塚本 悟郎

平成17(2005)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次

統合序論 p.1

第一章 金属マグネシウムからの電子移動型反応を用いた芳香族カルボニル化合物とビス(クロロジメチルシリル)化合物との環化反応 p.15
 1.1 緒言 p.15
 1.2 結果および考察 p.17
 1.2.1 反応条件の最適化 p.17
 1.2.2 環状シロキサン化合物のワンポット合成法における一般性 p.19
 1.3 実験 p.26
 1.3.1 使用試薬 p.26
 1.3.2 機器分析 p.26
 1.3.3 実験操作 p.27
 1.4 参考文献 p.35

第二章 金属マグネシウムからの電子移動型反応を用いた1,2-ジオール類とジクロロジアルキルシラン類のワンポット環化付加反応 p.37
 2.1 緒言 p.37
 2.2 結果および考察 p.39
 2.2.1 1,2-ジオール類の金属マグネシウムを用いた含ケイ素環状化合物への変換反応 p.39
 2.2.1.1 反応条件の最適化 p.39
 2.2.1.2 種々の1,2-ジオール類及びジアルキルジクロロシラン類を用いた環化付加反応 p.42
 2.3 実験 p.47
 2.3.1 使用試薬 p.47
 2.3.2 機器分析 p.48
 2.3.3 実験操作 p.48
 2.4 参考文献 p.52

第三章 金属マグネシウムからの電子移動移動型反応によるアセナフチレン誘導体及びアクリル酸エステル誘導体のワンポット二重炭素‐アシル化反応 p.54
 3.1 緒言 p.54
 3.2 結果および考察 p.57
 3.2.1 金属マグネシウムを用いた電子移動型反応によるアセナフチレン誘導体の二重炭素‐アシル化反応 p.57
 3.2.1.1 反応条件の最適化 p.57
 3.2.1.2 アセナフチレン誘導体と種々の酸塩化物を用いた二重炭素‐アシル化反応 p.61
 3.2.2 金属マグネシウムを用いた電子移動型反応によるアクリル酸エステル誘導体の二重炭素‐アシル化反応 p.66
 3.2.2.1 反応条件の最適化 p.66
 3.2.2.2 アクリル酸エステル誘導体と種々の酸塩化物を用いた二重炭素‐アシル化反応 p.68
 3.3 実験 p.70
 3.3.1 使用試薬 p.70
 3.3.2 機器分析 p.71
 3.3.3 実験操作 p.71
 3.4 参考文献 p.81

第四章 金属マグネシウムからの電子移動型反応を用いたアセナフチレンの連続的シリル‐ホルミル化反応および二重炭素‐シリル化反応 p.83
 4.1 緒言 p.83
 4.2 結果及び考察 p.85
 4.2.1 金属マグネシウムを用いた電子移動型反応によるアセナフチレンの連続的シリル‐ホルミル化反応 p.85
 4.2.1.1 反応条件の最適化 p.85
 4.2.1.2 アセナフチレンと種々のトリアルキルシリルクロリドを用いた連続的シリル‐ホルミル化反応 p.88
 4.2.2 金属マグネシウムを用いた電子移動型反応によるアセナフチレンの二重炭素‐シリル化反応 p.92
 4.2.2.1 反応条件の最適化 p.92
 4.2.2.2 アセナフチレンと種々のトリアルキルシリルクロリドを用いた二重炭素‐シリル化反応 p.94
 4.3 実験 p.97
 4.3.1 使用試薬 p.97
 4.3.2 機器分析 p.98
 4.3.3 実験操作 p.98
 4.4 参考文献 p.103

第五章 金属マグネシウムを用いた電子移動型反応による1,3-ジケトン類からのハイドロダイマー化によるビス共役エノン類の位置選択的合成反応 p.105
 5.1 緒言 p.105
 5.2 結果及び考察 p.106
 5.2.1 反応条件の最適化 p.106
 5.2.2 種々の1,3-ジケトン類のハイドロダイマー化反応 p.108
 5.3 実験 p.113
 5.3.1 使用試薬 p.113
 5.3.2 機器分析 p.113
 5.3.3 実験操作 p.114
 5.4 参考文献 p.118

第六章 新規 S-アルキルチアミン誘導体の化学、生物学的挙動の検討 p.120
 6.1 緒言 p.120
 6.1.1 プロドラッグとは p.120
 6.1.2 プロドラッグ化の方法 p.121
 6.1.3 プロドラッグ化の実例 p.122
 6.1.4 DMDO-クロリドの合成とDMDO基の加水分解 p.124
 6.1.5 DMDO基の各種薬物への応用 p.125
 6.1.6 チアミン(ビタミンB1)のプロドラッグ p.125
 6.2 結果及び考察 p.127
 6.2.1 S-DMDOチアミンの合成 p.127
 6.2.1.1 反応条件の最適化 p.127
 6.2.2 チアミン塩酸塩からのワンポットでのS-DMDOチアミンの合成 p.130
 6.2.3 S-DMDOチアミンからのO-アシル-DMDOチアミン誘導体の合成 p.132
 6.2.4 S-DMDOチアミン誘導体のラットを用いた経口吸収試験 p.132
 6.3 実験 p.135
 6.3.1 使用試薬 p.135
 6.3.2 機器分析 p.136
 6.3.3 実験操作 p.137
 6.4 参考文献 p.142

総括 p.144

謝辞 p.147

 有機合成化学分野において、環境保全が要望されている現在、目的物質をいかにして無公害かつ短いプロセスで効率的に合成することができるかが重要な課題である。
 電子移動型反応は、環境負荷の大きい重金属酸化剤や取り扱いに特別な注意を必要とする金属還元材を用いることなく、”電子”というクリーンな反応試薬を用いて様々な反応活性種を発生させることが可能であり、目的の反応に応じて制御することができる。
 このような反応活性種を発生させる手段の一つとして還元力の高いリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属やサマリウムやイッテルビウムなどの二価の希土類金属を用いた電子移動型還元反応がある。しかしながら、アルカリ金属は反応性が極めて高いため完全禁水、低温条件下での反応を余儀なくされ、希土類金属試薬は高価であるため大量合成には不向きであり、有機合成反応としての有用性には限界がある。このような問題点を克服し、温和な条件下、簡便な操作で電子移動型反応を行うことのできる電子供給源として金属マグネシウムを著者の所属研究室では見出している。金属マグネシウムは安価であり、また、常温常圧下における空気中で発火する恐れは殆どないため取り扱いが容易である。
 一方、現在、炭素原子を中心とし、中核となる環構造に窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んで構成されている複素環骨格は、ビタミン類やアルカロイド類などの医農薬品及び、フタロシアニンなどの機能材料などに多く使用されている。しかし、今までにない画期的な現象や機能を探索するには、既成の複素環化合物の概念や範囲にとらわれず、構成する元素として炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子のほかに新たな元素を含む多元素環状化合物を創製するすることが極めて重要である。
 本論文では、金属マグネシウムを電子供給源として利用した反応によって生成させたアニオン性反応活性種を利用した炭素‐炭素結合、炭素‐ケイ素、酸素‐ケイ素結合形成反応に関する研究を行った。その結果、従来の手法では非常に困難もしくは不可能であった新規有機合成反応を見出し、新規多元素環状化合物及びその前駆体の合成に成功した。また、重要な薬理活性を有する多元素環状化合物であるビタミンB1に着目し、生体内での吸収効率を向上させるため、プロドラッグ化の検討を行った。
 第二章では、金属マグネシウムからの電子移動型反応による芳香族カルボニル化合物のビス(クロロジメチルシリル)化合物との還元的二重シリル化反応について検討した。反応基質に対応する環状シロキサン化合物が高選択的に得られることを見出した。本章では、反応基質の芳香族カルボニル化合物の種類、芳香環上の置換基による効果の影響について検討を行った。
 第三章では、金属マグネシウムを電子供給源とした電子移動型反応による1,2-ジオール類とジアルキルジクロロシラン類の環化反応について検討した。本反応では、通常の塩基を用いた反応では起こりえない1,2-ジオール類1分子に対してジアルキルジクロロシラン類2分子が反応した7員環環状シロキサン化合物が高選択的に形成されるという興味深い新反応を見出した。
 第四章では、金属マグネシウムからの電子異動による種々の芳香族活性オレフィンに対する二重炭素‐アシル化反応について検討した。種々の酸塩化物を用いた場合、アセナフチレンのオレフィン部位にvicinalジアシル化が進行し、合成中間体として非常に有用な1,4-ジケトン誘導体が高選択的に生成することを見出した。また、グルタル酸クロリドを用いた場合には、アセナフチレンのオレフィン部位が残存した状態の環化生成物が得られた。一方、アクリル酸エステルは、還元電位が低く(還元されやすい)反応基質であるため電極還元反応を用いた場合、反応が複雑化してしまう。しかし、金属マグネシウムからの電子移動型反応によりワンポットにてvicinalジアシル化が進行し、1,4-ジケトン誘導体が高選択的に生成することを見出した。
 第五章では、金属マグネシウムを電子源とした電子移動型反応によるアセナフチレンのワンポット二重炭素‐シリル化反応に関する検討を行った。本反応では、トリアルキルシリルクロリドを求電子剤として用いた結果、炭素‐シリル化及び炭素‐ホルミル化された生成物が得られることを見出した。これまで、反応溶媒であるDMFが反応に関与したという報告はなく、また、このような簡便な操作で活性オレフィンへのホルミル化を行った報告はなく、非常に興味深い。一方、反応溶媒にアセトニトリルを用いて同様の反応を行ったところ、高選択的に二重炭素‐シリル化反応が進行し、対応するジシリル化体が高収率で得ることに成功した。
 第六章では、取り扱いの容易なグリニヤール反応用金属マグネシウムを電子供給源として用いた1,3-ジケトン類の電子移動型反応によるワンポットハイドロダイマー化反応に関する検討を行った。その結果、合成中間体として有用な1,6-ジケトン類が選択的に得ることに成功した。
 第七章では、生体に必須の化合物であるビタミンB1に対して、生体内で加水分解が起こったときに無害な置換基である(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソール-4-イル)メチル基(DMDO基)を導入するプロドラッグ化の検討を行った。その結果、腸管からの吸収率が向上し、ラットを用いた生体内試験でも市販されているビタミンB1プロドラッグと同等の結果が得られた。

 本論文は、「マグネシウム金属を用いる電子移動型反応による多様な結合形成反応の開発とプロドラッグ合成に関する研究」と題し、七章より構成されている。
 第1章「緒論」では、金属マグネシウムを一電子移動剤として用いる反応の、従来の有機合成化学における存在価値、意義や特徴を説明し、本学位論文研究の背景・意義・目的や独創性・創造性を詳述している。
 第二章では、金属マグネシウムからの電子移動型反応による芳香族カルボニル化合物のビス(クロロジメチルシリル)化合物との還元的二重シリル化反応による、環状シロキサン化合物の高選択的な生成を述べ、反応基質の芳香族カルボニル化合物の種類、芳香環上の置換基による効果に基づき、反応機構を提案している。
 第三章では、1,2-ジオール類とジアルキルジクロロシラン類の環化反応について検討し、通常の塩基を用いた反応では起こりえない1,2-ジオール類1分子に対してジアルキルジクロロシラン類2分子が反応した7員環環状シロキサン化合物が高選択的に形成されるという興味深い新反応と従来反応との相違を考察している。
 第四章では、種々の酸塩化物によるアセナフチレンのオレフィン部位へのvicinalジアシル化反応を見出し、合成中間体として非常に有用な1,4-ジケトン誘導体の高選択的合成法を見出した。さらに、還元電位が比較的高い反応基質であるアクリル酸エステルの、ワンポットにてvicinalジアシル化が進行し、1,4-ジケトン誘導体が高選択的に生成することを見出した。
 第五章では、アセナフチレンのワンポット・デュアル炭素‐シリル化、炭素‐ホルミル化反応が容易に簡便な操作で進行することを見出した。一方、反応溶媒にアセトニトリルを用いて同様の反応を行ったところ、高選択的に二重炭素‐シリル化反応が進行し、対応するジシリル化体が高収率で得ることに成功した。
 第六章では、取り扱いの容易なグリニヤール反応用金属マグネシウムを電子供給源として用いた1,3-ジケトン類の電子移動型反応によるワンポットハイドロダイマー化反応に関する検討を行った結果、合成中間体として有用な1,6-ジケトン類が選択的に得ることに成功した。
 第七章では、生体に必須の化合物であるビタミンB1に対して、生体内で加水分解が起こったときに無害な置換基である(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソール-4-イル)メチル基(DMDO基)を導入するプロドラッグ化の検討を行った。その結果、腸管からの吸収率が向上し、ラットを用いた生体内試験でも市販されているビタミンB1プロドラッグと同等の結果が得られた。

 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成17(2005)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る