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低電圧アルミ電解コンデンサ駆動用電解液に関する研究

氏名 玉光 賢次
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第246号
学位授与の日付 平成17年12月7日
学位論文題目 低電圧アルミ電解コンデンサ駆動用電解液に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 山田 明文
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 梅田 実
 副査 助教授 松原 浩
 副査 長岡工業高等専門学校名誉教授 中澤 章

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目次

第1章 序論
 1.1 研究の背景 p.6
 1.1.1 社会的背景 p.6
 1.1.2 低電圧用アルミ電解コンデンサの課題 p.6
 1.2 アルミ電解コンデンサの概要 p.7
 1.2.1 アルミ電解コンデンサの構造 p.7
 1.2.2 駆動用電解液の役割 p.10
 1.2.3 駆動用電解液の概要 p.10
 1.3 研究の目的 p.15
 1.4 本論文の概要 p.16
 参考文献 p.19

第2章 四級アルキルアンモニウム塩系電解液を用いたアルミ電解コンデンサにおける液漏れメカニズム p.22
 2.1 はじめに p.22
 2.2 実験方法 p.23
 2.2.1 試料 p.23
 2.2.2 箔、タブ構成材の分極測定 p.23
 2.2.3 液漏出評価試験 p.25
 2.2.4 箔-タブ間短絡電流測定と漏出液定量分析 p.25
 2.3 実験結果 p.27
 2.3.1 エッチド箔とリード引き出し用タブ材の自然浸漬電位 p.27
 2.3.2 各種AI合金のカソード分極挙動 p.27
 2.3.3 エッチド箔とその原箔のカソード分極挙動 p.31
 2.3.4 箔-タブ間短絡電流 p.31
 2.3.5 漏出液成分分析 p.34
 2.4 考察 p.37
 2.4.1 コンデンサ無負荷放置時の液漏れメカニズム p.37
 2.4.2 エッチド箔の卑電位化の原因 p.38
 2.4.3 箔-タブ間短絡電流と漏液量の相関 p.38
 2.5 まとめ p.40

第3章 窒素チタン(TiN)蒸着箔を用いた液漏れ防止対策 p.43
 3.1 はじめに p.43
 3.2 実験方法 p.44
 3.2.1 試料 p.44
 3.2.2 供試コンデンサ p.45
 3.2.3 電気化学測定方法 p.45
 3.2.4 液漏出評価試験 p.50
 3.3 実験結果及び考察 p.50
 3.3.1 TiN蒸着層の形態 p.50
 3.3.2 各種電極材の電気化学特性 p.52
 3.3.3 TiN蒸着箔の効果の検証 p.56
 3.3.4 液漏れ評価結果 p.58
 3.4 まとめ p.58

第4章 スルホランを溶媒として用いた駆動用電解液 p.62
 4.1 はじめに p.62
 4.2 実験方法 p.64
 4.2.1 試料 p.64
 4.2.2 測定方法 p.67
 4.3 実験結果及び考察 p.67
 4.3.1 電気伝導率 p.67
 4.3.2 温度特性 p.67
 4.3.3 熱分解挙動とアノード酸化皮膜への影響 p.71
 4.3.4 高温寿命性能評価 p.73
 4.4 まとめ p.79

第5章 シリカオルガノゾルを添加した電解液の火花電圧向上効果 p.82
 5.1 はじめに p.82
 5.2 実験方法 p.83
 5.3 実験結果及び考察 p.84
 5.3.1 シリカオルガノゾルの最適化 p.85
 5.3.2 有機りん酸化合物の選定 p.93
 5.3.3 シリカ粒子の効果発現メカニズム p.95
 5.4 まとめ p.103

第6章 シリカオルガノゾル添加電解溶液を用いたアルミ電解コンデンサ p.107
 6.1 はじめに p.107
 6.2 実験方法 p.108
 6.2.1 試料 p.108
 6.2.2 電気特性測定方法 p.109
 6.3 実験結果及び考察 p.111
 6.3.1 電解液初期特性 p.111
 6.3.2 耐電圧持続性評価 p.111
 6.3.3 エージング p.117
 6.3.4 コンデンサ電気特性と寿命評価 p.119
 6.3.5 四級化イミダゾリニウム塩系電解液への適応 p.125
 4.4 まとめ p.125

第7章 結論 p.128

謝辞 p.132

 本論文の構成は、「低電圧アルミ電解コンデンサ駆動用電解液」に関する研究の内、主要な発表論文5報を中心に今日までの研究成果をまとめたものであり、全部で7章から成っている。
 第1章「序論」では、本研究で取り扱うアルミ電解コンデンサ用駆動用電解液に関する研究の重要性と意義並びに低電圧アルミ電解コンデンサ駆動用電解液の役割や主な技術トレンドを紹介した。
 第2章「四級アルキルアンモニウム塩系電解液を用いたアルミ電解コンデンサにおける液漏れメカニズム」では、四級アルキルアンモニウム塩に代表される不揮発性カチオン成分を含んだ電解液を使用したアルミ電解コンデンサにおける液漏れ現象を引き起こすメカニズムについて詳細に述べた。 電解液としては中和された中性状態であるにも係わらず、塩基性成分のみがマイナス端子封口部周辺に偏在化するようになり、封口性能の劣化、場合によっては塩基性液の漏出を引き起こす。そのメカニズムについて調査した結果、マイナス端子側に使用されている陰極箔とリード引出し用タブの自然浸漬電位の差が原因であることがわかった。つまり、陰極箔とタブでガルバニック対を形成し、貴電位側のタブ表面で起こる還元反応によりマイナス端子封口部周辺に塩基性成分が集中するようになるということである。ほぼ同純度のAl合金である箔とタブで自然浸漬電位に差が生じる理由は、箔の粗面化(エッチング)プロセスにおいて、箔表面純度が上がるためと推察した。
 第3章 「TiN蒸着陰極箔を用いたアルミ電解コンデンサの漏液防止対策」では、液漏れを引き起こす駆動力となっている陰極箔とタブによるガルバニック対に着目し、2つの材料の自然浸漬電位の序列を逆転させる手法を提案した。方法として、箔表面に窒化チタン(TiN)をアークイオンプレーティング法により蒸着したものを陰極箔として用いる方法を考案した。自然浸漬電位の序列やコンデンサに電圧印加した時の分極挙動の調査に加え、その耐久性も調査した。結果、ねらい通りTiN蒸着により箔の自然浸漬電位は大きく貴電位側にシフトし、タブの電位より貴電位になった。また、定格電圧印加時でも、TiN蒸着箔を用いたコンデンサの陰極端子側電極の分極電位はタブ電位を越えて卑電位になることはなかった。この性能は5000時間に及ぶ373K下での評価試験でも維持された。実際の液漏れ評価試験によって、この対策法は液漏れ防止に優れた効果があることも示した。
 第4章以降では第2章、3章で述べたように、アルミ電解コンデンサ駆動用電解液に四級アルキルアンモニウム塩などの不揮発性カチオンを電解質として使いこなすための周辺技術が確立したので、これらの電解質系を用いた電解液の応用研究を行った。第4章「スルホランを電解液溶媒に用いたアルミ電解コンデンサ」では、従来より広く用いられているGBLに替わる溶媒としてスルホラン(SLF)を選び駆動用電解液溶媒としての可能性を検討した。不揮発性カチオンを使用することで電解質は極めて安定となったので、高温でのコンデンサ寿命を左右する支配因子は溶媒の安定性や蒸気圧特性となった。SLFは高温安定性に優れており、高沸点溶媒で蒸気圧もGBLに比べて著しく低い。本章ではスルホランの電解液溶媒としての可能性を電解液のみの評価だけでなく、電極箔への影響も考慮しながら検討した。 結果、四級化イミダゾリニウム系電解質との組み合わせにより電気伝導率が実用に供せるレベルであり、高温度環境下でのコンデンサ寿命性能を著しく改善することができることがわかった。
 第5章「シリカオルガノゾルを添加した電解液の火花電圧向上効果」では、四級アルキルアンモニウムや四級化イミダゾリニウム塩系電解液の応用電圧範囲を広げるため添加したシリカオルガノゾルの添加効果について考察した。そのままでは電解液の火花電圧が低いため使用できなかった高電圧域(50V以上)にまで使用範囲を広げることを目的とした。 具体的には、シリカオルガノゾルの種類、製法、粒子径並びに添加量や各種有機リン酸化合物との相乗効果について詳細に調査した。結果、Al2O3を含有したアルミノシリケートオルガノゾルが最も効果があることがわかった。また、有機リン酸化合物種としてはオクチルオクチルホスホン酸やジブチルリン酸などの1価の有機リン酸化合物の添加が相乗効果を得やすいことがわかった。また、その添加効果の発現メカニズムにも言及した。
 第6章「シリカオルガノゾル添加電解液を用いたアルミ電解コンデンサ」では、第5章で示したシリカオルガノゾルを用いた火花電圧向上システムを実際のコンデンサに適用するための検討を行った。効果が顕著であったアルミノシリケート系1種とコスト的に好ましいシリカ単独系1種を、有機リン酸化合物としては1価の有機リン酸化合物3種を選び、コンデンサへの実装試験を行った。初期的効果だけでなく、その持続性も調査することで実際適用可能な添加剤の絞込みも行った。また、最も有望であったアルミノシリケート系とジブチルリン酸については、従来電解液と比較しながら初期電気特性やコンデンサ寿命性能について調査して考察した。結果、本火花電圧向上システムが実用可能であることがわかった。
 尚、第3章で述べたTiN蒸着箔による液漏対策は、実際、日本ケミコン株式会社において量産化され、現在、年間数億個規模で生産中である。また4章で述べたSLF溶媒を用いた電解液は、日本ケミコン株式会社をはじめ数社で量産されている。主に小型の表面実装タイプ(CE32/JIS)に採用され、自動車のエンジンルーム内に置かれる高性能電子機器に使用され、自動車の高性能化に貢献している。

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