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Sphingomonas paucimobilis SYK-6株のシリンガ酸代謝に関わる多様なジオキシゲナーゼシステム

氏名 笠井 大輔
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第354号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 Sphingomonas paucimobilis SYK-6株のシリンガ酸代謝に関わる多様なジオキシゲナーゼシステム
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 森川 康
 副査 教授 解良 芳夫
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 助教授 政井 英司

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序章 p.1

第1章 3-O-methylgallate 3,4-dioxygenase 遺伝子(desZ)の単離と機能 p.7
 分析
 1.1 緒言 p.8
 1.2 材料と方法 p.8
 1.3 結果 p.16
 1.3.1 3MGA分解能を有するコスミドクローンの単離 p.16
 1.3.2 pVK3-1をプローブに用いたサザンハイプリグイゼーション解析 p.16
 1.3.3 pVK3-1を持つE.coliの3MGA、PCA、およびシリンガ酸分解能 p.18
 1.3.4 サブクローニング p.18
 1.3.5 塩基配列の決定と相同性検索 p.18
 1.3.6 desZのRT-PCR解析 p.20
 1.3.7 E.coliにおけるdesZの高発現 p.22
 1.3.8 DesZの精製およびN末端アミノ酸配列の決定 p.23
 1.3.9 至適温度および至適pH p.23
 1.3.10 基質特異性 p.24
 1.3.11 金属の依存性 p.24
 1.3.12 DesZ動力学的性質 p.25
 1.3.13 DesZ反応産物の同定 p.25
 1.3.14 遺伝子破壊株の作製 p.27
 1.3.15 遺伝子破壊株のシリンガ酸生育能 p.28
 1.3.16 遺伝子破壊株細胞抽出液の3MGA分解能 p.28
 1.3.17 テトラヒドロ葉酸存在下におけるdesZligB二重破壊株細胞抽出液の3MGA分解能 p.29
 1.3.18 遺伝子破壊株細胞抽出液のガリック酸分解能 p.29
 1.4 考察 p.30

第2章 Gallate dioxygenase 遺伝子(desB)の単離と機能分析 p.35
 2.1 緒言 p.36
 2.2 材料と方法 p.36
 2.3 結果 p.41
 2.3.1 ガリシク酸分解能を有するコスミドクローンの単離 p.41
 2.3.2 サブクローニング p.41
 2.3.3 塩基配列の決定と相同性検索 p.42
 2.3.4 E.coliにおけるdesBの高発現 p.44
 2.3.5 DesBの精製 p.45
 2.3.6 DesBの分子量の測定 p.46
 2.3.7 至適温度および至適pH p.47
 2.3.8 基質特異性 p.47
 2.3.9 金属の依存性 p.47
 2.3.10 DesB動力学的性質 p.48
 2.3.11 DesB反応産物の同定 p.48
 2.3.12 DesB、DesZ、およびLigABのアミノ酸配列のアライメント p.49
 2.3.13 DesBおよびDesZの部位指定変異体の作製 p.50
 2.3.14 変異DesBおよびDesZのdioxygenase活性 p.51
 2.3.15 遺伝子破壊株の作製 p.51
 2.3.16 desB破壊株のシリンガ酸生育能 p.51
 2.3.17 desB破壊株細胞抽出液のガリック酸分解能 p.52
 2.4 考察 p.52

第3章 S.paucimobilis SKY-6株のシリンガ酸代謝経路 p.56
 3.1 緒言 p.57
 3.2 材料と方法 p.57
 3.3 結果 p.60
 3.3.1 LigABの精製 p.60
 3.3.2 DesB,DesZ,およびLigABの動力学的性質 p.61
 3.3.3 desB,desZ,およびligAB含む多重破壊株のシリンガ酸生育能 p.62
 3.3.4 desB,desZ,およびligAB含む多重破壊株のガリック酸分解能 p.63
 3.3.5 desZのシリンガ酸代謝への関与 p.63
 3.3.6 CHMODを経由したシリンガ酸代謝経路 p.64
 3.3.7 ligABが関与する3MGA代謝経路 p.64
 3.4 考察 p.65

総括 p.72

謝辞 p.73

公表論文および参考文献 p.73

引用文献 p.73

 樹木成分であるリグニンは、自然界に最も多く存在する芳香族化合物であり、その莫大な存在量から有効利用が強く望まれている。Sphingomonas paucimobilis SYK-6株は多様かつ特異性の高いリグニン代謝酵素系を有しており、リグニンの有用物質への変換利用に本株の代謝酵素系を用いることが可能である。リグニンには、主にグアイアシル型およびシリンギル型の2種類が存在し、それぞれバニリン酸およびシリンガ酸へと分解されることから、両化合物の代謝系はリグニンの分解において極めて重要である。現在までにバニリン酸代謝系は、SYK-6株を含むいくつかのバクテリアで研究されており、SYK-6株においては脱メチルを受けてプロトカテク酸 (PCA) へと変換された後、PCA 4,5-dioxygenase (4,5-PCD; LigAB) が関与するPCA 4,5-開裂経路により代謝されることが明らかにされた。一方、シリンガ酸代謝系はPseudomonasやAcinetobacter属で代謝経路が推定されているが、代謝酵素遺伝子や酵素に関する報告はなされていない。SYK-6株においてシリンガ酸は、脱メチル酵素により3-O-メチルガリック酸 (3MGA) へと変換された後、LigABおよび3MGAの芳香環開裂に関与する未同定のdioxygenaseにより4-オキサロメサコン酸 (OMA) へと変換され、PCA 4,5-開裂経路に合流することが示唆されたが、その詳細は明らかにされていなかった。本研究では、シリンガ酸代謝に関与するdioxygenase遺伝子の構造と機能を解析し、SYK-6株の多様なシリンガ酸代謝系を解明した。

 第1章では、SYK-6株の遺伝子ライブラリーから3MGA分解能をE. coliに与えるdesZを単離し、構造と機能を明らかにした。desZの推定アミノ酸配列は、Type II extradiol dioxygenaseに属するSYK-6株のビフェニル環開裂酵素LigZや4,5-PCDのbサブユニットと相同性を示したことから、desZは3MGAの芳香環開裂に働く3MGA 3,4-dioxygenase遺伝子であることが示唆された。遺伝子産物を精製し、動力学的性質を含む酵素学的諸性質を明らかにするとともに、反応産物の解析から、本酵素が3MGAを4-カルボキシ-2-ヒドロキシ-6-メトキシ-6-オキソヘキサ-2,4-ジエノエイト (CHMOD) と2-ピロン-4,6-ジカルボン酸 (PDC) に変換することを示した。desZとligABの二重破壊株の解析からSYK-6株の3MGA分解にはdesZおよびligABが関与することと、3MGAが芳香環開裂を受ける経路以外に、テトラヒドロ葉酸 (H4folate) 依存性の3MGA O-demethylase (LigM) によりガリック酸へと変換され、未同定のgallate dioxygenaseにより芳香環開裂を受ける新たな経路を見いだした。

 第2章では、gallate dioxygenase遺伝子desBを単離し、構造と機能を明らかにした。desBの推定アミノ酸配列は、LigABや他の4,5-PCDと相同性を示したが、その一次構造は既知の酵素とは異なり4,5-PCDのaおよびbサブユニットがb-aの順で融合した独特の構造を持つことが示された。遺伝子産物の動力学的性質を明らかにした結果、DesBはガリック酸に特異的なdioxygenaseであり、ガリック酸はOMAに変換されることが明らかとなった。またDesBとDesZの部位指定変異体の解析から、Type II extradiol dioxygenaseの活性中心で保存されているアミノ酸残基が両酵素の活性に必須であることが示された。

 第3章においてDesB、DesZ、およびLigABの動力学的性質を比較した結果、SYK-6株によるガリック酸および3MGAの分解には、それぞれDesBおよびDesZが主に関与することが示唆された。しかし遺伝子破壊株の解析から3MGA分解へのdesZとligABの関与が同等であることが示されたことから、SYK-6株におけるligABの発現量はdesZのそれよりも高いと推定された。
 第3章ではさらにdesB、desZ、ligAB、ligM、およびligIを含む各種酵素遺伝子の多重破壊株を作製し、各dioxygenase遺伝子のシリンガ酸代謝への関与を調べた。その結果、SYK-6株においてシリンガ酸を代謝するための3MGA分解経路として、(1) DesZおよびLigABによりPDCへと変換された後、LigIによりOMAへと代謝される経路、(2) DesZおよびLigABによりCHMODへと変換された後、推定のhydrolaseによりOMAへと代謝される経路、および (3) LigMによりガリック酸へと変換された後、DesB (およびLigAB) により開裂を受けてOMAへと変換される経路が存在することが明らかとなり、特にdesBが関与する経路 (3) が重要な役割を担うことが示された。

 本研究により2つの新規芳香環開裂dioxygenase遺伝子が発見され、微生物によるリグニンの重要な代謝中間体であるシリンガ酸の複雑な代謝系の全体像が示された。本研究で得られた知見は、微生物によるリグニン代謝系を理解する上で重要であるだけでなく、PDCの様な工業的に有用な代謝産物をシリンガ酸から効率的に生産する上で必要となる材料と指針を提供するものと考えられる。

 本論文は、樹木成分であるリグニンの微生物の分解酵素系を用いた有用物質への変換利用系の確立を目指し、リグニン分解細菌スフィンゴモナス属SYK-6株のシリンガ酸代謝系の全体像を明らかにすることを目的として、シリンガ酸代謝に関与する多様なジオキシゲナーゼシステムについて遺伝学的、生化学的解析を行った一連の研究結果をまとめている。

 本論文では、まず、シリンガ酸代謝の鍵となる代謝中間体3-O-メチルガリック酸 (3MGA) の分解に関与する芳香環開裂酵素遺伝子desZを単離し、遺伝子構造を決定するとともに、遺伝子産物の動力学的性質を含む酵素学的諸性質を明らかにした。遺伝子破壊株の解析から、SYK-6株の3MGA分解にはdesZおよびプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ (4,5-PCD) 遺伝子ligABが関与することを明らかにした。さらに3MGAが芳香環開裂を受ける経路以外に、テトラヒドロ葉酸 (H4folate) 依存性の3MGA脱メチル酵素LigMによりガリック酸へと変換され、未同定のガリック酸ジオキシゲナーゼにより芳香環開裂を受ける新たな経路を見いだした。そこでガリック酸分解に関与する芳香環開裂酵素遺伝子desBを単離し、その一次構造を明らかにした。その結果、desBがユニークな構造を持つことが示された。遺伝子産物の動力学的性質を明らかにした結果、DesBはガリック酸に特異的であることが示された。DesB、DesZ、およびLigABの動力学的性質を比較した結果、SYK-6株によるガリック酸および3MGAの分解には、それぞれDesBおよびDesZが主に関与することが示唆された。さらに各種酵素遺伝子の多重破壊株の解析から、SYK-6株のシリンガ酸代謝にはdesZ、desB、およびligABの3つが関与すること、特にdesBが関与するガリック酸開裂経路が重要な役割を担うことが明らかとなった。

 本論文では2つの新規芳香環開裂ジオキシゲナーゼ遺伝子について解析を行い、微生物によるリグニンの重要な代謝中間体であるシリンガ酸の複雑な代謝系の全体像を示した。本研究で得られた知見は、微生物によるリグニン代謝系を理解する上で重要であるだけでなく、工業的に有用な代謝産物をシリンガ酸から効率的に生産するシステムの基盤を提供するものと考えられる。よって本論文は、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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