本文ここから

工業製品表面を対象とした輪郭形状評価の標準化に関する研究

氏名 齊藤 輝明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第355号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 工業製品表面を対象とした輪郭形状評価の標準化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 柳 和久
 副査 教授 久曽神 煌
 副査 教授 田辺 郁男
 副査 助教授 明田川 正人
 副査 助教授 岩橋 政宏

平成17(2005)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論
 1.1 緒言 p.1
 1.2 ISO/GPS規格と従来の研究 p.1
 1.2.1 GPSマトリックスによる分類 p.1
 1.2.2 輪郭形状の計測評価の流れ p.3
 1.2.3 輪郭形状測定機 p.4
 1.2.4 輪郭形状測定の測定条件 p.6
 1.2.5 輪郭形状データの前処理 p.8
 1.2.6 幾何特性の定量化 p.11
 1.3 本研究の目的 p.12
 1.4 本論文の範囲と構成 p.13
 1.5 本論文で用いる主な記号 p.14

第2章 輪郭形状測定機
 2.1 緒言 p.17
 2.2 表面形状測定機の試作 p.17
 2.2.1 測定機の特徴と原理 p.17
 2.2.2 基本的性能 p.20
 2.2.3 幾何学的な誤差解析 p.23
 2.3 変位センサによる測定結果の比較 p.25
 2.4 結言 p.29

第3章 輪郭形状測定の測定条件
 3.1 緒言 p.30
 3.2 輪郭形状の離散測定 p.31
 3.2.1 幾何形体 p.31
 3.2.2 離散点量子化の方式 p.31
 3.3 評価領域 p.33
 3.3.1 表面形状測定の評価領域 p.33
 3.3.2 表面形状測定の評価領域 p.34
 3.3.3 エンドエフェクトの考慮 p.37
 3.4 サンプリング間隔 p.38
 3.4.1 表面形状測定のサンプリング間隔 p.38
 3.4.2 表面形状測定のサンプリング間隔 p.40
 3.5 表面形状測定時の実用的なサンプリング間隔 p.41
 3.6 測定機の特性によるサンプリング間隔決定法 p.43
 3.6.1 静電容量型変位変位センサの波長ー振幅伝達特性 p.43
 3.6.2 波長ー振幅伝達特性を考慮したサンプリング間隔 p.47
 3.7 被測定表面の特性によるサンプリング間隔決定法 p.48
 3.7.1 自己相関関数を用いた相関距離の算出 p.48
 3.7.2 実加工表面への適用 p.49
 3.8 各方法でのサンプリング間隔の比較 p.53
 3.9 結言 p.55

第4章 輪郭形状データの前処理
 4.1 緒言 p.57
 4.2 エンドエフェクトの問題 p.57
 4.3 振幅伝達特性の問題 p.58
 4.4 周波数領域法によるフィルタ処理 p.62
 4.4.1 離散フーリエ変換 p.62
 4.4.2 振幅伝達特性 p.62
 4.4.3 シミュレション実験 p.64
 4.5 補外によるエンドエフェクトの低減 p.66
 4.5.1 折り返しによる補外 p.67
 4.5.2 シミュレション実験 p.68
 4.5.3 適用例 p.69
 4.6 結言 p.70

第5章 輪郭形状データの信頼性
 5.1 緒言 p.72
 5.2 輪郭形状データに関する不確かさ p.74
 5.2.1 測定機の校正に関する不確かさ p.74
 5.2.2 前処理の不確かさ p.75
 5.2.3 ソフトウエアの不確かさ p.76
 5.3 異常値処理 p.77
 5.3.1 除去すべき異常値の定義 p.77
 5.3.2 異常値候補点の検出 p.78
 5.3.3 異常値の判定 p.81
 5.3.4 平面当てはめによるデータ補正 p.82
 5.3.5 シミュレション実験 p.83
 5.3.6 実表面への適用実験 p.85
 5.4 結言 p.88

第6章 輪郭形状の測定評価比較
 6.1 緒言 p.90
 6.2 接触式測定機による表面形状測定 p.91
 6.3 光波干渉計による表面形状測定 p.92
 6.4 測定機関での結果比較 p.93
 6.5 輪郭形状評価の比較方法 p.96
 6.6 結言 p.98

第7章 結論 p.99

参考文献 p.105

 工業製品の高機能化と高性能化が進む中で,その機能や品質に製品表面の幾何特性が関与する事例が多くなってきた.創製された製品表面の輪郭形状を測定し定量化するハードウェア技術は発展したものの,得られた測定データを機能と関連付けて評価する手法の開発は遅れている.従来の輪郭形状測定は機械的なプローブで実表面上を線状に走査する触針式測定機が主流であり,測定条件や定量化法の工業標準規格は産業界に浸透しつつある昨今は,より高機能・高品質な製品表面に対応するために,輪郭形状を三次元的に面領域で測定するための方法が多数開発されている.しかしながら,面領域での測定条件や幾何特性を定量化するための規範は従来の輪郭曲線方式の規格体系にはなく,測定機性能の標準化や実務面でのデータ処理技術に関する指針も与えられていない.現状では,輪郭曲線方式の評価方法を拡大解釈することによって測定機メーカや業界団体が個別に対応を行っているが,生産活動のグローバル化に際して早急なる標準化が望まれている.
 本研究は,工業製品を対象とした幾何特性の仕様と検証に関する国際標準化機構のGPS規格チェーンに則り,製品表面の輪郭形状を三次元的に測定・定量化する上での問題点を明確にし,実用的かつ合理的な輪郭形状評価の方法を提案することを目的とする.
第1章「序論」は,輪郭形状に関する幾何特性仕様の測定評価の標準化についてGPS規格の関連性を示すGPSマトリックスに従って項目を分類した.輪郭形状評価に関する従来の手法と問題点,既存の研究報告を述べ,本研究の目的を明らかにした.
第2章「輪郭形状測定機」は,輪郭形状測定・評価の検証を行なうための実験装置として試作したX-Yテーブル移動型の輪郭形状測定機について,テーブルの運動誤差を低減するための原理とその基本的な性能を示した.本測定機を用いて複数の変位センサで表面形状の比較測定を行い,測定方式による差異や異常値検出及びフィルタ処理の必要性を確認した.
第3章「輪郭形状測定の測定条件」は,面領域での輪郭形状測定時の測定条件として,評価領域とサンプリング間隔を取り上げ,値の決定方法の根拠と問題点を示した.そして,表面形状測定時の実用的なサンプリング間隔の決定法を提案した.変位センサの波長-振幅伝達特性と適用するフィルタの特性より最小サンプリング間隔を決定し,また対象表面の断面曲線を基準とした自己相関から最大サンプリング間隔を決定する方法を提案した.
第4章「輪郭形状データの前処理」は,測定データから波長帯域を分離する波長フィルタ処理について述べた.ガウシアンフィルタとスプラインフィルタに関して,データ端部に生じるエンドエフェクトを低減する必要性,輪郭曲線から面領域に拡張する場合の方法と処理時間の関係や振幅伝達特性の等方性問題を述べた.問題点を解決するための方法として周波数領域法によるフィルタ処理と補外処理技法を開発した.輪郭形状データを周波数領域に変換することで,任意の振幅伝達特性を用いてより高速なフィルタ処理を実現した.しかし,周波数領域法単独では従来の方法より大きなエンドエフェクトが発生するため,測定データの周囲に輪郭曲線単位でデータを補外し,エンドエフェクトを補外部分に推移させ,元データ部のエンドエフェクトの発生を低減させた.正弦波データと実表面データに対する実証実験によりその有効性を確認した.
第5章「輪郭形状データの信頼性」は,曖昧さなく評価を行なうために考慮すべき不確かさについて輪郭形状に関連する項目をまとめた.また,輪郭形状データに生じる異常値について,従来は検出困難であった段差や大きな形状を伴う輪郭形状データ内の異常値や連続した異常値を検出可能な新たな手法を提案した.周囲点との高低差のメディアン値より累積確率分布曲線を求め,検出レベルより算出したしきい値を基準とすることで,形状に影響されずに異常値を検出できた.生成したランダム輪郭形状データに異常値を重畳させたデータを用いて本手法の効果を確認した.実表面としてICバンプ形状を測定したデータで,従来のメディアンフィルタ及びロバストスプラインフィルタでの処理結果と比較し,有効性を示した.
第6章「輪郭形状の測定評価比較」は,第3章から第5章で提案した各手法を用いて表面形状測定評価を行った.第2章と同様の表面を触針式測定機とレーザ干渉計で測定した.評価領域とサンプリング間隔に大きな違いがない場合でも測定機間の結果には測定方式に起因した波長と振幅成分のスケールに大きな差が生じた.このような差異を同一カットオフ波長でフィルタ処理した場合の結果を示し,異なる測定機間で得られた結果の比較を行なうための方法を検討した.
第7章では,本研究を総括して各章で得られた結論をまとめ,各章で取り上げた測定・評価に関する項目の関連性をまとめた.提案した各手法の実用性と併せて輪郭形状の測定・評価の標準化の方向性を提言した.

 本論文は「工業製品表面を対象とした輪郭形状評価の標準化に関する研究」と題し,全7章で構成される.第1章「序論」は,輪郭形状に関する幾何特性仕様の測定評価について,標準化の動向と従来の手法と問題点,既存の研究報告をまとめ,本研究の目的を述べている.
 第2章「輪郭形状測定機」は,輪郭形状測定機を製作し,テーブルの運動誤差を低減するための原理とその基本的な性能を示している.その測定機を用いて複数の変位センサで表面形状の比較測定を行い,3章以降の検討項目を明確にしている.第3章「輪郭形状測定の測定条件」は,面領域での輪郭形状測定時の評価領域とサンプリング間隔の実用上の問題点を示している.そして,表面形状測定時の実用的なサンプリング間隔の決定法として,変位センサの波長-振幅伝達特性より最小サンプリング間隔を決定する方法,対象表面の断面曲線の自己相関を基準とした最大サンプリング間隔を決定する方法を提案している.
第4章「輪郭形状データの前処理」は,面領域の実用的な波長フィルタ処理として周波数領域法によるフィルタ処理と補外処理技法を開発している.提案手法によって任意の振幅伝達特性が適用でき,データ端部に生じるエンドエフェクトを低減し,実用的な処理時間を実現している.正弦波データと実表面データに対する実証実験によりその有効性を確認している.第5章「輪郭形状データの信頼性」は,曖昧さなく評価を行なうために考慮すべき不確かさについて輪郭形状に関連する項目をまとめている.また,輪郭形状データに生じる異常値について,相対高さのメディアン値の累積確率分布を基準とした手法を提案し,従来は検出が困難であった異常値の検出を実現している.ICバンプ形状を測定したデータで,従来のメディアンフィルタ及びロバストスプラインフィルタでの処理結果と比較し,有効性を示している.第6章「輪郭形状の測定評価比較」は,提案する各手法を用いて表面形状測定評価を行っている.触針式測定機とレーザ干渉計と静電容量型センサで測定したデータに対して,同一カットオフ波長でフィルタ処理した結果を示し,異なる測定機間で得られた結果の比較を行なうための方法を検討している.第7章では,本研究を総括して各章で得られた結論をまとめ,各章で取り上げた測定・評価に関する項目の関連性をまとめている.提案した各手法の実用性と併せて輪郭形状の測定・評価の標準化の方向性を提言している.
 以上のことから,本論文は輪郭形状測定の現状と問題点を体系的にまとめ,問題点に対して実用的な手法を提案しており,工学上及び工業上貢献するところが大きい.よって,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

平成17(2005)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る