異常値制御効果と斜面対応機能を有す光触針式輪郭形状センサの開発
氏名 深津 拡也
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第247号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 異常値制御効果と斜面対応機能を有す光触針式輪郭形状センサの開発
論文審査委員
主査 教授 柳 和久
副査 教授 秋山 伸幸
副査 教授 久曽神 煌
副査 助教授 明田川 正人
副査 助教授 木村 哲也
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第1章 緒言 p.1
1.1 光学式輪郭形状測定法における光触針法の位置付け p.2
1.2 焦点誤差検出変位センサの測定原理 p.5
1.3 光触針法の問題点と問題点に関する研究動向 p.8
1.4 本研究の目的 p.12
1.5 本論文の構成と概要 p.12
参考文献
第2章 反射光強度分布変化が変位信号に与える影響 p.20
2.1 はじめに p.21
2.2 実加工面からの反射光強度分布 p.22
2.3 スペックルによる焦点誤差信号変動 p.25
2.4 焦点誤差信号変動の方向性 p.28
2.5 低コヒーレンス光源を用いたときの焦点誤差信号変動 p.29
2.6 まとめ p.30
参考文献
第3章 点像分布関数を用いた焦点誤差信号変動の解析 p.32
3.1 はじめに p.33
3.2 点像分布関数を用いた解析方法 p.33
3.3 光学モデルと反射光強度分布の導出 p.34
3.3.1 スペックルの発生原理 p.34
3.3.2 反射光強度分布の導出方法 p.35
3.4 高さ分布を持つ測定面からの反射光強度分布の導出 p.46
3.4.1 段差モデルによる計算結果と測定結果の比較 p.46
3.4.2 実加工表面データを用いた場合の計算結果 p.49
3.5 まとめ p.54
参考文献
第4章 異常値制御機能を有する光触針式輪郭形状センサ p.58
4.1 はじめに p.59
4.2 ナイフェッジ法を基本としたセンサ p.59
4.2.1 光学系の構成と測定原理 p.59
4.2.2 光学定数の決定 p.61
4.2.3 変位信号の基本特性 p.62
4.2.4 固定焦点方式による実加工面の輪郭形状測定 p.64
4.2.5 合焦点方式の輪郭形状測定システム p.66
(1) スペックルによる変位感度の変化 p.66
(2) 輪郭形状測定システムの構築 p.67
(3) 実加工面の測定結果 p.68
(4) 段差標準片の測定結果 p.73
4.3 非点収差法を基本としたセンサ p.76
4.3.1 ナイフェッジ法との違い p.76
4.3.2 光学系の構成と測定問題 p.76
4.3.3 変位信号の基本特性 p.78
4.3.4 合焦点方式による輪郭形状測定結果 p.80
4.4 考察 p.82
4.5 まとめ p.83
参考文献
第5章 異常値制御効果の向上を目的とした直交2系統変位センサ p.85
5.1 はじめに p.86
5.2 異常値が残存する原因 p.86
5.3 異常値制御機能を配備した直交2系統変位センサ p.90
5.3.1 光学系の構成 p.90
5.3.2 2系統センサの選択方法 p.91
5.4 実加工面の輪郭形状測定 p.92
5.4.1 測定装置 p.92
5.4.2 測定結果 p.94
5.4.3 考察 p.96
5.5 まとめ p.97
参考文献
第6章 斜面により発生する測定誤差の補正 p.99
6.1 はじめ p.100
6.2 斜面が光触針輪郭形状センサに与える影響 p.100
6.2.1 反射光強度分布の変形 p.100
6.2.2 焦点誤差信号の変化と測定感度の減少 p.101
6.3 光学系の構成と測定原理 p.105
6.4 ピンゲージの測定 p.106
6.5 全方傾斜面への対応 p.108
6.5.1 直交2系統センサの採用 p.108
6.5.2 ベアリングボールによる測定結果 p.111
6.5.3 考察 p.114
6.6 まとめ p.115
参考文献
第7章 楕円照射化による異常値制御効果の向上 p.117
7.1 はじめに p.118
7.2 楕円スポット照射の効果 p.120
7.3 誤差補正機能を配備した楕円スポット変位センサ p.122
7.3.1 測定システム p.122
7.3.2 光学定数の決定 p.124
7.3.3 変位感度の維持 p.126
7.3.4 合焦点法による輪郭形状測定結果 p.128
7.3.5 異なる楕円スポット径を使用したときの測定結果 p.132
7.4 考察 p.134
7.5 まとめ p.134
参考文献
第8章 結論 p.136
関連論文、国際会議、口頭発表および特許 p.140
謝辞 p.142
超精密領域における加工部品は,その表面形状精度がその機能特性を左右することが多く,輪郭形状の高精度測定が不可欠である.現在輪郭形状測定機として,最も信頼性が高いのが触針式表面粗さ測定機であるが,測定物の表面が軟らかかったり,もろいものでは触針の触圧によって表面を変形させたり傷を与えてしまうので,当然非接触測定の要求は大きい.非接触測定センサの中でも光触針式輪郭形状センサは高感度,小型および汎用性の利点を持つ.またポイント測定であるため測定領域に関する制限が少なく,ワークショップレベルにおいても一般性に富んだ測定法と考えられる.しかしながら市販の光触針式輪郭形状測定機の出力には異常値が現れ,触針式測定機の出力と大きく異なっており,現状ではこのセンサを適用した輪郭形状測定機は,トレーサビリティを満足するツールとして公認されていない.
本研究は,コヒーレント光の半導体レーザを使用しながら,触針式測定機の出力結果と対応が得られる光触針式輪郭形状センサの開発を目的とする.
第1章「緒論」では,これまで提案されてきた光学式輪郭形状測定法の特徴を述べ,光触針式輪郭測定法の位置付けおよび優位性を示した.しかしこの光触針式測定法も,照射スポット内のわずかな凹凸の変化により異常値が発生する.したがって,このセンサから合理的な測定値を得るためには,センサそのものに異常値抑制機能が必要であり,本研究の目的を明らかにした.
第2章「反射光強度分布変化が変位信号に与える影響」では,従来の光触針式センサは,実加工面からの反射光強度分布に強度むらが発生し,これにより変位信号が測定場所ごとに変動するため異常値が発生することを実験的に示した.また高コヒーレンスおよび低コヒーレンス光源を用いて焦点誤差信号変動を測定し,その結果から,強度分布のむらは表面の回折によって生じるスペックルパターンであることを示した.
第3章「点像分布関数を用いた焦点誤差信号変動の解析」では,点像分布関数を用いて凹凸のある測定面からの反射強度分布を求める計算を行った.計算の妥当性を調べるために,最初に段差標準片による反射光強度分布の計算を行い,計算結果が実験結果と一致することを確認した.次に実加工面の高さ分布を原子間力顕微鏡で測定し,この高さ分布を測定面として,焦点誤差信号変動の計算を行った.計算で求めた焦点誤差信号変動幅のオーダが,実験結果と類似し反射光強度分布のむらの原因が,スペックルであることを計算によって示した.
第4章「異常値抑制機能を有する光触針式輪郭形状センサ」では,従来の光触針式センサの測定原理である焦点誤差検出方式を基本としながら,スペックルの影響を光学的に補正する,新しい光触針式輪郭形状センサを提案した.このセンサを用いて実加工面を測定し,異常値が抑制できることを確認した.ここで変位検出方式は従来からよく使用されている,ナイフエッジ法と非点収差法の2種類を使用し,両者の性能比較も行った.両測定法ともに異常値抑制効果は大きいが,非点収差法は光学調整が複雑で,その性能を十分に引き出すことが困難であるので,4章以後はナイフエッジ法に絞って実験を進めた.
第5章「異常値抑制効果の向上を目的とした直交2系統変位センサ」では,直交する2系統のナイフエッジ検出部を有する変位センサを提案し,その異常値抑制効果について述べた.4章で得られた断面曲線を観察すると,所々で異常値が残りスペックル誤差を完全に補正できない試料もあった.その原因は1系統のみのナイフエッジ測定部では,反射強度分布の偏る方向によっては,変位感度が得られないためである.そこでこれまでのナイフエッジ測定部を直交2系統にし,反射強度分布の形状に合わせて測定系を選択することにより,残存する異常値を低減した.
第6章「斜面により発生する測定誤差の補正」では,第5章のセンサと同構成のセンサを用いて,斜面によって発生する測定誤差の低減について述べた.測定面に傾斜があると反射強度分布が変形し,スペックルが発生したときと同様に測定誤差は発生する.したがって第5章で提案したセンサと同構成のセンサを用いて,傾斜誤差の補正を行うことができる.ここではピンゲージ及びベアリングボールを用いて,このセンサの補正効果を確認した.
第7章「楕円照射化による異常値抑制効果の向上」では,第5章の,直交2系統変位センサ以上の異常値抑制手法として,楕円スポット照射センサの提案を行った.スペックル誤差補正センサおよび直交2系統センサにおいても,異常値抑制効果は大きいものの,触針式粗さ計測定値が0.1μmRa以下の加工面においては異常値が残存し,その差は顕著であった.ここで円スポットをわずかに楕円スポットに変更することにより,0.05μmRaから0.4μmRaの加工表面において,触針式粗さ計と同等の測定値が得られた.
第8章「結論」では各章のまとめを記述し,提案した異常値抑制および傾斜誤差対応機能を有する本方式が、非接触の輪郭形状測定に有効であると結言した.
本論文は、「異常値抑制効果と斜面対応機能を有す光触針式輪郭形状センサの開発」と題し、8章より構成されている。第1章「緒論」では、従来の光触針式輪郭形状測定法に関する研究とその問題点を指摘し、本研究の目的を述べている。第2章「反射光強度分布変化が変位信号に与える影響」では、従来の光触針式センサは、加工面からの反射光強度分布に強度むら(スペックル)が発生し、そのため変位信号が変動して異常値が発生することを実験的に示している。第3章「点像分布関数を用いた焦点誤差信号変動の解析」では、凹凸のある測定面からの反射光の式を、点像分布関数を用いて導出し実加工面の高さ分布を測定面として計算を行っている。計算の結果、焦点誤差信号変動が実験結果と類似し、異常値の原因がスペックルであることを示している。第4章「異常値抑制機能を有する光触針式輪郭形状センサ」では、焦点誤差検出方式を基本とし、スペックルの影響を光学的に補正する新しい光触針式輪郭形状センサを提案している。このセンサで実加工面を測定し、異常値が大幅に抑制できることを確認している。第5章「異常値抑制効果の向上を目的とした直交2系統変位センサ」では、直交する2系統のナイフエッジ検出部を有する変位センサを提案し、反射強度分布形状に合わせて測定系を選択することで異常値の抑制を行っている。この方式により、残存する異常値を4章の方式以上に低減している。第6章「斜面により発生する測定誤差の補正」では、測定面の傾斜によって発生する測定誤差の低減について述べている。傾斜があると反射強度分布が変形し、スペックルと同様に測定誤差が発生するが、第5章と同構成のセンサを用いて、傾斜誤差が補正できることを示している。第7章「楕円照射化による異常値抑制効果の向上」では、誤差補正機能を配備した楕円スポット照射センサを提案し、これまで以上の誤差の低減を行っている。直交2系統センサにおいても、触針式粗さ計測定値が0.1μmRa以下の加工面においては異常値が残存し粗さ計との差は顕著であったが、照射スポット形状を円形から楕円形に変更することにより、0.05μmRaから0.4μmRaまでの測定面で、触針式粗さ計と同等の測定値が得られている。第8章「結論」では各章のまとめを記述し、提案した本方式が、非接触の輪郭形状測定に有効であると結言している。
以上のことから、本論文で提示した異常値抑制効果と傾斜対応機能をもつ新しい光触針式輪郭形状センサは、精密加工部品の非接触測定に有効であり工学上および工業上貢献することが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。