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嫌気性汚泥のバルキングに関与する糸状性細菌の多様性と機能及び生態

氏名 山田 剛史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第370号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 嫌気性汚泥のバルキングに関与する糸状性細菌の多様性と機能及び生態
論文審査委員
 主査 助教授 大橋 晶良
 副査 教授 原田 秀樹
 副査 教授 解良 芳夫
 副査 助教授 政井 英司
 副査 早稲田大学理工学部助教授 常田 聡

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目次

第1章 序論 p.1

 第1節 研究目的 p.2

 第2節 研究背景 p.4
 1. 上昇流嫌気性廃水処理(UASB)プロセスの普及に関する問題点 p.4
 2. 嫌気糸状性バルキング現象とそのバルキング原因菌 p.6
 3. 嫌気性廃水処理汚泥への微生物生態学的アプローチ p.8

 第3節 研究の構成 p.10

 参考文献 p.11

第2章 中・高温UASBグラニュール汚泥内に存在するChloroflexi門亜門グループIに属する糸状性細菌の多様性、分布及びその生理学的特長 p.17

 第1節 はじめに p.18

 第2節 実験方法 p.19
 1. サンプルを採取したUASB反応槽の運転状況 p.19
 2. 使用した微生物、培地及び培養方法 p.19
 3. グラニュール汚泥からのDNA抽出、PCR及びクローニング p.20
 4. 分離株からのDNA抽出及びPCR p.20
 5. 塩基配列の決定及び系統解析 p.21
 6. グラニュール汚泥の固定、切片化及びFluorescence in situ hybridization(FISH)解析 p.21
 7. SEM観察及び糖、有機酸及びガスの測定 p.23
 8. 塩基配列のアクセッションナンバー p.23

 第3節 研究の構成 p.23
 1. 中温・高温グラニュール汚泥におけるChloroflexi門細菌の多様性 p.24
 2. 中温・高温グラニュール汚泥内におけるChloroflexi門細菌の空間分布 p.26
 3. 中温・高温グラニュール汚泥を分離源としたChloroflexi門細菌の集積培養と分離 p.27
 4. 分離したChloroflexi門亜門グループI細菌群の生理学的特徴 p.29

 第4節 考察 p.30
 1. 高温グラニュール汚泥におけるChloroflexi門細菌 p.30
 2. 中温グラニュール汚泥におけるChloroflexi門細菌 p.30
 3. Chloroflexi門亜門グループ細菌群の形態、生理学的特徴及び機能 p.31

 参考文献 p.32

第3章 Chloroflexi門亜門グループIに属する3種の新規嫌気糸状細菌の詳細な形質と分子系統学的考察 p.35

 第1節 はじめに p.36

 第2節 実験方法 p.36
 1. 使用した微生物 p.37
 2. 培養条件 p.37
 3. 生育pH及び温度試験 p.37
 4. 基質特異性試験及び共生培養試験 p.37
 5. 分析方法 p.38
 6. 顕微鏡観察 p.38
 7. G+C含量の測定 p.38
 8. キノン及び細胞脂肪酸の決定 p.38
 9. 塩基配列の決定及び分子系統解析 p.38

 第3節 実験結果及び考察 p.40
 1. 形態 p.40
 2. IMO-1株の生物学的特徴 p.40
 3. KIBI-1株の生理学的特徴 p.42
 4. YMTK-2株の生理学的特徴 p.42
 5. 化学分類学的解析 p.43
 6. 分子系統解析 p.43
 7. 分離株の系統分類学的所見 p.45
 8. 仮定的分類群”Anaerolineae”網の分割 p.45
 9. 記載内容 p.46

 参考文献 p.49

第4章 門レベルで新規な未培養クローンクラスタKSB3門に属する糸状性細菌:UASBグラニュール汚泥の新たなるバルキング原因菌 p.53

 第1節 はじめに p.54

 第2節 実験方法 p.54
 1. 嫌気性反応槽の運転状況 p.55
 2. バルキング汚泥及び10種の嫌気汚泥内微生物の16S rRNA遺伝子クローンライブラリの構築 p.55
 3. 塩基配列の決定及び系統解析 p.56
 4. FISH解析 p.57
 5. SEM観察及び分析方法 p.58
 6. 塩基配列のアクションナンバー p.58

 第3節 実験結果 p.58
 1. UASB汚泥のバルキング現象 p.58
 2. バルキング原因菌の分子系統学的位置 p.59
 3. バルキング前のグラニュール汚泥内のバルキング原因菌の空間分布 p.61
 4. 様々な嫌気性汚泥内のKSB3門細菌の検出と多様性 p.62

 第4節 考察 p.63

 参考文献 p.66

第5章 嫌気性汚泥のバルキング化に関与する新規糸状性細菌群の機能推定:配列特異的Small Subnit(SSU)rRNA 切断法を利用した新規微生物機能推定法の開発と適用、及びMAR-FISH法による機能推定 p.70

 第1節 はじめに p.71

 第2節 実験方法 p.72
 1. グラニュール汚泥を採取したUASB反応槽の運用状況 p.72
 2. 使用した微生物、培地及び培養方法 p.72
 3. RNA抽出 p.72
 4. PCR、クローニング、塩基配列の決定及びRNA合金 p.72
 5. 配列特異的 SSU rRNA 切断法 p.73
 6. Microautoradiography-Fluorescence in situ hybridization(MAR-FISH) 法 p.74
 7. その他の解析手法 p.75

 第3節 実験結果及び考察 p.75
 1. KSB3門細菌を特異的検出する最適切断反応条件の検討とその適用例 p.75
 2. 配列特異的 SSU rRNA 切断法を利用したバルキング原因菌の機能推定 p.77
 3. MAR-FISH法を用いたKSB3門細菌(バルキング原因菌)の機能推定法の検証 p.80

 参考文献 p.80

第6章 総括 p.80

本論文の基礎となる学術論文&参考文献 p.82

謝辞

 本研究は、微生物学的側面からUASB汚泥の嫌気性バルキング現象の解明とその制御技術を構築するために、バルキングに関与する糸状性細菌の多様性、機能及び生態に関する情報を収集することを目的とした。これまで、嫌気性廃水処理汚泥 (特にUASB汚泥) では、ある種の糸状性細菌が関与する汚泥のバルキング化が数多く報告されているものの、それら原因微生物を分子遺伝学的に同定し、その微生物の生理・生化学的、遺伝学的調査を行った例は皆無であった。近年、真正細菌の亜門レベルの未培養系統群 Chloroflexi門亜門グループI (Chloroflexi-I) に属するAnaerolinea thermophilaが、高温UASB汚泥のバルキング原因菌として世界で初めて明らかにされ、その詳細な生理学的形質が調査された。しかしながら、Anaerolinea thermophilaは、Chloroflexi-I細菌の唯一の分離株であるため、UASB汚泥に存在する全Chloroflexi門細菌の多様性や機能に関する情報は皆無であるのが現状であった。そのため、本研究では、まずバルキング原因菌として推定されるChloroflexi-I細菌 に焦点を当て、分子生物学的手法と従来の培養法を駆使してUASB汚泥における本細菌群の多様性、機能及び生態を明らかにすることを試みた。実廃水及び人工廃水で馴養された5種の中温・高温UASB汚泥を用いてChloroflexi-I細菌の解析を行った。Chloroflexi門細菌に特異的なプライマーセットを用いてクローン解析を行ったところ、UASB汚泥に存在するChloroflexi門細菌は、全てChloroflexi-Iグループに属することが明らかとなった。また、Chloroflexi-Iに属する16S rRNA遺伝子は、本研究で対象とした5種のUASB汚泥全てから回収された。これまで、様々な廃水を処理するUASB汚泥からもChloroflexi-I細菌由来の塩基配列が回収されており、おそらくChloroflexi-I細菌は、UASB汚泥の遍在的な微生物群の一つであることが推測される。
 現在のところ、Chloroflexi-I細菌が原因となるバルキング現象は、高温UASB反応槽でのみ観察されているが、中温・高温UASB汚泥内のChloroflexi-I細菌の挙動には注意を払う必要があると思われる。今回調査した中温UASB汚泥においても (一部ではあるが)、汚泥表面にChloroflexi-I細菌がびっしりと覆う汚泥が存在することが明らかとなった。本研究でも言及したように、汚泥表層に存在する糸状性細菌は、ある環境変化 (例えば突発的な廃水中の糖濃度の増加) により突発的に異常増殖し、汚泥のバルキング化を引き起こす可能性が示唆される。そのため、中温UASB汚泥表層に生息するChloroflexi-I細菌も一転、嫌気汚泥のバルキング原因菌となる可能性も否定できない。
 さらに本研究では、中温UASB汚泥で観察されたバルキング原因菌に焦点を当て、その微生物を分子遺伝学的に同定し、その生態と機能を明らかにすることを試みた。本バルキング汚泥内には、バルキング原因菌と思われるChloroflexi-I細菌よりも形態学的に太い糸状性微生物が存在していた。フルサイクルrRNAアプローチをバルキング汚泥内の糸状性細菌に適用したところ、本細菌は、真正細菌の門レベルで新規なクローンクラスター (KSB3門) に属していた。これまで、中温UASB汚泥の糸状性バルキングは観察されているものの、その現象に関与する微生物の同定例は皆無であった。KSB3門細菌は、はじめての中温UASB汚泥のバルキング原因菌であり、UASB汚泥にとって第二のバルキング原因菌の発見でもあった。バルキング前の健全なUASB汚泥にKSB3門細菌に特異的なプローブを用いたFISH解析を行ったところ、KSB3門細菌は、グラニュール汚泥表面に主要な微生物群の一つとして存在していることが明らかにされた。次に、KSB3門細菌の生育環境とその遺伝学的多様性を調査するため、KSB3門細菌に特異的なプライマーセットを用いたクローン解析により10種の中温・高温嫌気汚泥を調査した。10種の嫌気汚泥の内、2種の中温UASB汚泥のみKSB3門細菌由来の16S rRNA遺伝子クローンを回収した。現在、KSB3門は、嫌気汚泥から回収された7クローンと自然環境中 (塩濃度が高い) から回収された3クローンにより構成されている。生育環境の狭さと遺伝学的多様性の低さは、KSB3門細菌が、ある "特別な" 生育環境を要求することを示唆しているのかもしれない。あらゆる培養技術を駆使してKSB3門細菌の培養分離を試みたものの、KSB3門細菌を培養分離することは困難であった。
 培養困難であったKSB3門細菌の基質資化能を推定するために、配列特異的SSU rRNA切断法に基づいた新規基質推定法を考案、適用した。また、上述した基質推定法で推定された基質に対して、既存の基質推定法であるMAR-FISH法を適用した。その結果、KSB3門細菌は、グルコースやマルトースのような廃水中の糖を利用している細菌群であることが判明した。廃水中の糖の増加が、糸状性細菌の異常増殖を引き起こし、バルキング化が進行することが報告されている。KSB3門細菌が関与するバルキングの発生原因も、先に報告されたバルキングの発生原因と似ているのかもしれない。

 本論文は、「嫌気性汚泥のバルキングに関与する糸状性細菌の多様性と機能及び生態」と題し、6章より構成されている。
 第1章「序論」では、上昇流嫌気性廃水処理 (UASB) 技術の普及の妨げとなる幾つかの問題点を列挙し、UASB技術の普及には、バルキング問題の解決が極めて重要な課題であることを明確化している。また、本現象に関する従来の報告の概要を示すとともに本研究の目的とその研究範囲を述べている。
 第2章「中・高温UASBグラニュール汚泥内に存在するChloroflexi門亜門グループIに属する糸状性細菌の多様性と分布及びその生理学的特徴」では、唯一の嫌気汚泥 (高温UASB汚泥) のバルキング原因菌である Chloroflexi門亜門グループI (Chloroflexi-I) 細菌に焦点を当て、各種UASB汚泥内の本細菌群の多様性と機能及び生態調査を試みている。
16S rRNA/16S rRNA遺伝子を標的とした解析を通して、Chloroflexi-I細菌はUASB汚泥の遍在的な微生物群であり、汚泥表面及び汚泥内部に分布することを明らかにしている。培養困難なChloroflexi-I細菌を培養分離するため、申請者は、FISH解析を用いて探索した最適植種源とメタン生成古細菌との共培養効果を利用する新たな手法を考案し、本法を用いて3株のChloroflexi門細菌の分離に成功している。
 第3章「Chloroflexi門亜門グループIに属する3種の新規嫌気糸状性細菌の詳細な形質の決定と分子系統学的考察」では、第2章において分離培養された3株の詳細な形質を調査し、UASB汚泥における本細菌群の機能と生態を明らかにしている。
 第4章「門レベルで新規な未培養クローンクラスタKSB3門に属する糸状性細菌: UASBグラニュール汚泥の新たなバルキング原因菌」では、未培養クローンクラスタKSB3門に属する糸状性細菌が、中温UASB汚泥のバルキングに関与することを初めて明らかにしている。
さらに、本細菌群の多様性や機能及び生態に関する詳細な調査を試みており、ある環境要因によって通常汚泥表面に生息するKSB3門細菌群が突発的に増殖し、バルキングを引き起こしたことを解明している。
 第5章 「嫌気性汚泥のバルキング化に関与する新規糸状性細菌群の機能推定: 配列特異的Small Subunit rRNA (SSU) 切断法を利用した新規微生物機能推定法の開発と適用、及びMAR-FISH法による機能推定」では、培養困難なKSB3門細菌の機能を調査するため、申請者は新規微生物機能推定法の開発・適用を試みている。新規手法と既法 (MAR-FISH法)でKSB3門細菌の機能評価を行い、KSB3門細菌が廃水中の糖を利用する細菌群であることを明らかにしている。
 第6章「総括」では、本研究で得られた成果を総括している。
 以上のように、本論文ではUASB技術の問題点であるバルキング現象に関与する微生物群の多様性と機能及び生態に関する知見を数多く収集しており、バルキングの理解とその制御に指針を与えるものであるといえる。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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