動物における遊離D-アミノ酸の由来とその代謝・機能に関する研究
氏名 三浦 崇
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第243号
学位授与の日付 平成17年9月14日
学位論文題目 動物における遊離D-アミノ酸の由来とその代謝・機能に関する研究
論文審査委員
主査 教授 山田 良平
副査 教授 解良 芳夫
副査 教授 野中 孝昌
副査 助教授 岡田 宏文
副査 助教授 本多 元
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目次
序章 p.1
第1章 魚類組織中のD-アスパラギン酸オキシダーゼと遊離酸性D-アミノ酸の存在 p.6
1-1 緒言 p.6
1-2 材料と方法 p.7
1-2-1 材料 p.7
1-2-2 酵素活性の測定 p.7
1-2-3 タンパク質の定量 p.8
1-2-4 組織から遊離アミノ酸の抽出、遊離酸性アミノ酸の精製 p.8
1-2-5 遊離酸性アミノ酸の定量 p.8
1-2-6 統計処理と検定 p.8
1-3 結果 p.9
1-3-1 魚類におけるD-アスパラギン酸オキシダーゼの存在 p.9
1-3-2 魚類D-アスパラギン酸オキシダーゼの分布 p.11
1-3-3 D-アスパラギン酸オキシダーゼの分布 p.13
1-3-4 遊離酸性D-アミノ酸の分布 p.14
1-4 考察 p.17
第2章 哺乳類におけるD-アミノ酸残基を含むペプチドの分解・代謝に関する研究 p.19
2-1 緒言 p.19
2-2 材料と方法 p.20
2-2-1 材料 p.20
I.ブタ腎臓ホモジネートにおけるグリシル-D-アスパラギン酸(Gly-D-Asp)の代謝 p.20
2-2-2 ホモジネートの調製 p.20
2-2-3 アミノ酸の変換反応実験 p.20
2-2-4 D,L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、グリシン、L-アラニンの定量 p.21
2-2-5 ピルビン酸の定量 p.21
2-2-6 D-アスパラギン酸オキシダーゼ活性の測定 p.21
2-2-7 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ及びアラニンアミノトランスフェラーゼ活性の測定 p.22
II.ブタ腎皮質からのD-amino-acid-peptide hydrolase、(Gly-D-Ala 加水分解酵素)の精製とその性質 p.22
2-2-8 Cilastatin-Affi-Gel10の調製 p.22
2-2-9 ブタ腎皮質からのD-amino-acid-peptide hydrolaseの精製 p.24
2-2-10 D-amino-acid-peptide hydrolase活性の測定 p.24
1)比色法(AssayI) p.24
2)HPLC法(AssayII) p.24
2-2-11 タンパク質の定量 p.24
2-2-12 N末端アミノ酸配列の解析 p.25
2-3 結果 p.27
2-3-1 グリシル-D-アスパラギン酸(Gly-D-Aspの加水分解) p.27
2-3-2 D-アスパラギン酸のL-アミノ酸(L-アスパラギン酸とL-アラニン)、ピルビン酸への変換 p.30
2-3-3 Gly-D-AspからのL-アスパラギン酸とL-アラニンの生成 p.33
2-3-4 ブタ腎皮質からのD-amino-acid-peptide hydrolase(Gly-D-Ala加水分解酵素)の精製 p.34
2-3-5 基質特異性と速度論 p.43
2-3-6 各種阻害剤の影響 p.44
2-3-7 N末端アミノ酸配列 p.45
2-4 考察
第3章 二枚貝における遊離D-アスパラギン酸の分布とその生理的役割 p.48
3-1 緒言 p.48
3-2 材料と方法 p.49
3-2-1 材料 p.49
3-2-2 組織の摘出 p.50
3-2-3 実験環境への馴化 p.50
3-2-4 低酸素ストレスとその回復 p.50
3-2-5 高浸透ストレス p.51
3-2-6 組織からの遊離アミノ酸・ヌクレオチドの抽出 p.51
3-2-7 遊離アミノ酸・ヌクレオチドの定量 p.51
3-2-8 アカガイの粗酵素抽出液の調製と酵素活性の測定 p.52
3-2-9 タンパク質の定量 p.52
3-2-10 統計処理 p.53
3-3 結果 p.53
3-3-1 二枚貝における遊離D-アスパラギン酸の分布 p.58
3-3-2 低酸素ストレス及びその回復が遊離アミノ酸含有量に与える影響 p.60
3-3-3 低酸素ストレスがヌクレオチド(ATP,ADP,AMP)含有量に与える影響 p.62
3-3-4 生理的ヌクレオチド組成がアスパラギン酸ラセマーゼ活性に与える影響 p.63
3-3-5 高浸透ストレスが遊離アミノ酸含有量に与える影響
3-4 考察 p.64
総括
謝辞 p.68
参考文献 p.69
論文目録 p.83
参考論文 p.84
本論文は、「動物における遊離D‐アミノ酸の由来とその代謝・機能に関する研究」と題し、「序章」と3章及び「総括」より構成されている。
「序章」では、本研究の背景となる動物における遊離D‐アミノ酸の代謝、由来及び機能の各々について、現在までの知見の概要と課題を示すとともに、本研究の目的及び得られた結果の意義を述べている。
第1章では、魚類組織としては初めて酸性D‐アミノ酸(D‐アスパラギン酸とD‐グルタミン酸)とそれを代謝できるD‐アスパラギン酸オキシダーゼの存在を明らかにした内容について述べている。本酵素と酸性D‐アミノ酸の共存が、両生類・鳥類・哺乳類のみならず魚類でも観察されたことにより、脊椎動物に関して本酵素の生理的基質が酸性D‐アミノ酸である可能性を強く支持する知見を得ている。
続く第2章1では上記の酵素、D‐アスパラギン酸オキシダーゼとD‐アスパラギン酸両者の代謝上の関連を追究するため、ブタ腎臓ホモジネートによるin vitro実験を遂行している。その結果、D‐アスパラギン酸が本酵素を含む一連の酵素によりL‐アミノ酸
(L‐アスパラギン酸とL‐アラニン)へと代謝されることを明らかにしている。この一方で、第2章IIでは、同ホモジネート中にD‐アスパラギン酸を含む様々なD‐アミノ酸含有ジペプチドからD‐アミノ酸を遊離する酵素(腎膜ジペプチダーゼ)を発見し、タンパク質中に組み込まれた結合型D‐アミノ酸から遊離型D‐アミノ酸が生じる可能性の一端を証明している。
第1章と第2章の知見は、少なくとも脊椎動物にD‐アミノ酸とD‐アミノ酸の分解・合成(生成)両代謝系が存在することを強く肯定するものであるが、続く第3章では無脊椎動物であるアカガイ(二枚貝)に高濃度のD‐アスパラギン酸とアスパラギン酸ラセマーゼを発見したことにより、D‐アミノ酸の代謝系が動物体内に広く普遍的に存在することを確証づけている。さらに同章では、アカガイを試料に各種ストレス(高浸透圧・低酸素濃度)実験と酵素学的研究によりD‐アスパラギン酸の機能を追究しており、その結果D‐アスパラギン酸が低酸素時に嫌気代謝の原料となるL-アスパラギン酸を供給する備蓄燃料として重要な役割を持っていることを明確にしている。これはD‐アミノ酸としては前例のない新規の機能であり、動物におけるD‐アミノ酸研究の重要な位置づけになるものと考えられる。
「総括」においては、各章に記した研究の相互関係を示した上で成果をまとめている。
D‐アミノ酸は過去には非天然物と考えられてきたが、本研究の成果はD‐アミノ酸のバイオシステムが動物組織に存在し、D‐アミノ酸が多様かつ生命活動に必須の役割を果たしていることを明示するものであり、現在未解明となっている他種のD‐アミノ酸の代謝経路・生理機能を解く重要な鍵となり、さらに医療などへの多角的なアプローチへの寄与につながるものと考えられる。よって本論文は工学的にも学術的にも貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認められる。