パルスパワー電源のための高速高電圧スイッチングに関する研究
氏名 古谷 清藏
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第240号
学位授与の日付 平成17年6月22日
学位論文題目 パルスパワー電源のための高速高電圧スイッチングに関する研究
論文審査委員
主査 教授 入澤 嘉逸
副査 教授 近藤 正示
副査 助教授 原田 信弘
副査 助教授 江 偉華
副査 東京工業大学 工学部教授 石井 彰三
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目次
第1章 序論 p.1
第2章 フェライトビーズを用いた非線形同軸線路のシミュレーション p.6
2.1 はじめに p.6
2.2 実験装置 p.7
2.3 フェライトシャープナーの等価回路 p.9
2.4 実験及びシミュレーション結果と考察 p.11
2.4.1 バイアス電流 p.12
2.4.2 入力電圧パルスの振幅 p.14
2.4.3 入力電圧パルスの立ち上がり時間 p.16
2.4.4 シャープナーの長さ p.18
2.5 フェライトシャープナーのシミュレーションのまとめ p.19
第3章 フェライトビーズを用いた非線形同軸線路のサージインピーダンス p.21
3.1 はじめに p.21
3.2 実験装置 p.22
3.3 サージインピーダンスと比透磁率の評価方法 p.22
3.3.1 入出力電圧パルスの振幅比(方法3.1) p.23
3.3.2 入力電圧パルスの伝搬時間(方法3.2) p.25
3.3.3 反射した入力電圧パルスの伝搬時間(方法3.3) p.25
3.4 実験及びシミュレーション結果と検討 p.26
3.5 フェライトシャープナーのサージインピーダンスのまとめ p.31
第4章 マルチチャネルアークギャップの特性 p.32
4.1 はじめに p.32
4.2 実験装置 p.33
4.3 実験結果と検討 p.37
4.3.1 印加電圧パルスの立ち上がり率 p.37
4.3.2 フィーダー長 p.38
4.3.3 ギャップ長 p.39
4.3.4 雰囲気ガスの種類と圧力 p.39
4.3.5 紫外線照射 p.41
4.4 マルチチャネルアークギャップのまとめ p.44
第5章 多孔質金属を用いた放電特性 p.46
5.1 はじめに p.46
5.2 実験装置 p.48
5.3 針-平板ギャップの実験結果 p.50
5.3.1 直流破壊電圧 p.50
5.3.2 電圧パルスによる絶縁破壊特性 p.50
5.4 球- 平板ギャップの実験結果 p.55
5.4.1 直流破壊電圧 p.55
5.4.2 電圧パルスによる絶縁破壊特性 p.55
5.5 紫外線放射強度の評価 p.56
5.6 多孔質金属を用いた放電特性のまとめ p.60
第6章 電極に多孔質金属を用いたレールギャップ p.61
6.1 はじめに p.61
6.2 実験装置 p.61
6.3 実験結果と検討 p.64
6.3.1 電圧パルスの印加位置 p.69
6.3.2 パラメータを変化させた時のアークチャネル発生数 p.69
6.4 多孔質金属を用いたレールギャップのまとめ p.73
第7章 結論 p.74
謝辞 p.76
本研究に関して発表した論文 p.77
パルスパワーとは、ゆっくりと蓄積したエネルギーを短時間で放出することにより、短時間ではあるが大きなパワーを得る技術である。パルスパワーについては様々な研究が精力的に行われ、色々な分野で応用されている。パルスパワー技術はパルスパワーの発生と、それらのパワーの応用に大別できるが、本研究では、パルスパワーの発生に重点をおいた。
パルスパワーの発生においては、その電圧電流・パワーレベルは用途によって違う。立ち上がり時間がnsオーダで、電圧レベルが20kVまでの矩形の電圧パルスはパルスレーザー、ポッケルスセルやパルスレーダーの駆動や電子ビームを制御するときに有用であるが、本研究ではこれらを発生する方法の一つである、フェライトビーズを用いた非線形伝送線路(フェライトシャープナー)に注目した。また、パルスパワーにおいてはスイッチが非常に重要となるが、クロージングスイッチのスパークギャップは寿命の問題があるものの非常に広く用いられている。特に、本研究で着目したマルチチャネルアークギャップは、並列に複数のアークチャネル電流路が発生するスイッチで、シングルギャップに比べてインダクタンスと電極の浸食率が小さいので、電圧の高速立ち上がりと高寿命に有利である。マルチチャネル動作を達成するには印加電圧パルスの立ち上がりが非常に速い必要があるので、フェライトシャープナーを用いて高速高電圧パルスをマルチアークギャップに印加した。
以上のように、本研究はパルスパワーを発生する技術に重点をおき、フェライトシャープナーとスパークギャップの研究結果についてまとめたものである。以下に、本論文の構成と概要を述べる。
第1章では、パルスパワー技術の現状を概説して、研究の目的と位置付けを述べた。
第2章では、立ち上がり時間がnsオーダの矩形の電圧パルスを発生するフェライトシャープナーについて、シミュレーションを行った。これまで、シャープナーのシミュレーションはいくつかの文献で報告されているが、各種パラメータを変化させていないので、シャープナーの特性を理論的に明らかにするには不十分であった。そこで、先ず、パラメータを変化させた時のシャープナーの特性を実験的に調べた。次に、シャープナーのシミュレーションコードを開発し、実験結果と詳細に比較・検討した。これまでシャープナーの設計は試行錯誤するしかなかったが、シミュレーション結果が実験結果と良く一致したので、シミュレーションがシャープナーを設計するための強力なツールであることを確証した。
第3章では、同じくフェライトシャープナーについて、フェライト飽和後のサージインピーダンスと比透磁率を検討した。これまで、他所の文献では、飽和領域のフェライトシャープナーのインピーダンスは50Ωと仮定した。これは飽和後の比透磁率を一定値に仮定したのと等価である。このように、飽和領域でのフェライトシャープナーのサージインピーダンスは実用上は非常に重要であるにもかかわらず、飽和領域のサージインピーダンスと比透磁率はこれまで明らかにされていない。そこで、3つの評価方法を用いて、飽和領域におけるシャープナーのサージインピーダンスと比透磁率を明らかにすることを試みた。実験において、3つの評価方法を用いて、異なるサージインピーダンスと比透磁率の値が得られることを確認した。また、シャープナーのシミュレーションがサージインピーダンスの評価において実験と同様の傾向を示すことがわかった。
第4章では、マルチチャネルアークギャップについて、パラメータを変化させた時の実験結果を示した。マルチチャネルアークギャップは並列に複数のアークチャネル電流路が発生するギャップスイッチである。シングルギャップに比べてインダクタンスと電極の浸食率が小さいため、電圧の高速立ち上がりと高寿命に有利であるので、閉スイッチとしてよく利用されている。しかしながら、これまでマルチアークギャップのパラメータ依存特性を示す実験データはほとんどないので、パラメータ依存特性を詳細に調べることを試みた。結果として、マルチチャネルアークギャップのより良い理解に寄与する有用な実験データを得た。
第5章では、マルチチャネルアークギャップのチャネル発生数を増加させるために電極材料に多孔質金属を用いることを提案して、シングルギャップによる実験でその有効性を実証した。マルチアークギャップにおいては各ギャップの形成・統計遅れが小さければ小さいほど、アークチャネルの発生数は大きくなる。そこで、鏡面仕上の電極のかわりに、非一様の多孔質金属を電極に用いると、局所的に電界が高くなるので、形成・統計遅れが減少すると予測した。球-平板ギャップの実験結果より、球-多孔質金属の形成・統計遅れは球-鏡面平板の場合より小さいので、多孔質金属を電極に用いるとレールギャップのアークチャネル発生本数が増加することが予測される。
第6章では、前章での予想を確認するために、レールギャップの電極の一方に鏡面平板と多孔質金属を用いた場合の比較実験を行った。その結果、パラメータを変化させてアークチャネルの発生本数を調べたところ、ギャップ長が1mmの場合においては、下部電極を鏡面平板から多孔質金属にすると、アークチャネル発生数が増加した。
最後の第7章で、これまでの各章の結論を総括した。