化学気相析出法で合成した薄膜の脱ガス特性
氏名 川口 晋之介
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第516号
学位授与の日付 平成21年6月30日
学位論文題目 化学気相析出法で合成した薄膜の脱ガス特性
論文審査委員
主査 教授 齋藤 秀俊
副査 教授 植松 敬三
副査 教授 小松 高行
副査 准教授 伊藤 治彦
副査 准教授 内田 希
副査 株式会社日本セラテック取締役執行役員 和田 千春
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目次 p.I
図表リスト p.IV
発表論文および特許 p.IX
学会発表リスト p.X
第1章 序論 p.1
1-1. 研究の背景 p.1
1-2. キーワード p.3
1-2-1. 酸化マグネシウム p.3
1-2-2. 酸化イットリウム p.4
1-2-3. CVD法 p.5
1-2-4. 大気開放型CVD法 p.6
1-2-5. 昇温脱離ガス分析法 p.10
1-3. 課題 p.13
1-3-1. 酸化マグネシウム p.13
1-3-2. 酸化イットリウム p.14
1-3-3. 昇温脱離ガス分析法 p.14
1-4. 本研究の目的 p.16
1-5. 本論文の概要 p.16
References p.18
第2章 標準的な薄膜昇温脱離水分析法の開発
概要 p.23
2-1. 緒言 p.24
2-2. 実験方法 p.26
2-3. 実験結果および考察 p.30
2-4. まとめ p.42
References p.43
第3章 MgO膜の昇温脱離ガス分析
概要 p.45
3-1. 緒言 p.46
3-2. 実験方法 p.48
3-3. 実験結果および考察 p.51
3-4. まとめ p.65
References p.66
第4章 Y2O3:Euウイスカーの昇温ガス分析
概要 p.69
4-1. 緒言 p.70
4-2. 実験方法 p.72
4-3. 実験結果および考察 p.74
4-4. まとめ p.82
References p.83
第5章 大気開放型化学気相析出法を用いたY2O3系平坦膜の合成
概要 p.85
5-1. 緒言 p.86
5-2. 実験方法 p.87
5-3. 実験結果および考察 p.90
5-4. まとめ p.97
References p.98
第6章 セラミックス薄膜と基材との界面の断面構造評価
概要 p.99
6-1. 緒言 p.100
6-2. 実験方法 p.102
6-3. 実験結果および考察 p.105
6-4. まとめ p.115
References p.116
第7章 アモルファス炭素膜の熱分解挙動
概要 p.119
7-1. 緒言 p.120
7-2. 実験方法 p.121
7-3. 実験結果および考察 p.122
7-4. まとめ p.126
References p.127
第8章 結論 p.129
大気開放型化学気相析出(CVD)法を用いて合成した酸化物薄膜の脱ガス特性を調査した。まず、脱ガス検知システムとガス脱吸着過程の解析手順を開発した。次に、それを利用して酸化物膜結晶における大気成分の脱吸着挙動を明らかにした。さらに、フラクタル理論を大気開放型CVD法で合成した酸化物薄膜の表面プロファイル解析に応用し、フラクタル次元と脱ガス特性の相関を見出した。最後に本手法をアモルファス炭素系薄膜の脱ガス特性評価に応用した。これらの結果を8章からなる論文にまとめた。
第1章「序論」では研究の背景を述べた。本論文のキーワードである大気開放型CVD法、昇温脱離ガス分析(TPD)法、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化イットリウム(Y2O3)に関する技術的現状・動向について述べ、課題を明らかにし、本研究の目的および論文構成を示した。
第2章「標準的な薄膜昇温脱離ガス分析法の開発」では、薄膜解析用TPD装置を開発し、大気開放型CVD法を用いてMgOを合成し、その吸着・脱離過程と吸着・脱離物質の由来を調査した。TPD装置にスパッタイオンポンプとチタンゲッターポンプを導入し。10-8 Pa以下の真空度を得ることで従来の装置よりも高感度に脱離成分を検知した。 MgO膜から脱離する成分の由来は大気中成分であり、 試料を大気暴露したときに吸着することを明らかにした。大気開放型CVD法で合成したMgO膜が電子ビーム蒸着法で合成したMgO膜よりも低い脱吸着性能を有していることを証明した。
第3章「MgO膜の昇温脱離水分析と放電特性」では、大気開放型CVD法を用いて真密度の異なるMgO膜を合成し、そのガス吸着特性をTPD法を用いて調査した。MgOの真密度と水脱離量には相関があることが明らかになり、 結晶の完全性と水の吸着量に関係があることを証明した。また大気開放型CVD法を用いてMgO膜を被覆したステンレス鋼板電極の放電開始電圧はMgO膜の真密度に依存し、 3.12 g/cm3の真密度の試料で放電開始電圧が最も低くなることを明らかにした。
第4章「Y2O3:Euウイスカーの昇温脱離ガス分析」では、 大気開放型CVD法を用いて合成したユーロピウム添加Y2O3 (Y2O3:Eu)蛍光ウイスカーへの大気成分の吸着を調査した。TPD測定結果は2つの異なる挙動を示した。一方は蛍光ウイスカーへの物理吸着挙動で、 炭酸水に由来する明確なH2OとCO2のピークが100℃付近に確認された。他方はH2とCOまたはC2H4+の化学吸着挙動で、それらに由来するピークが現れた。炭酸水がY2O3:Eu蛍光ウイスカーやウイスカー内に残留する原料の未分解成分を化学的に攻撃することにより、炭酸イットリウム水和物と酢酸イットリウム水和物が生成すると考察した。
第5章「大気開放型化学気相析出法を用いたY2O3系平坦膜の合成」では、大気開放型CVD法を用いて、ジルコニウム添加Y2O3 (Y2O3:Zr)膜を合成した。Zrを添加させたとしても合成速度を低下させることなく緻密なY2O3膜を合成できた。さらに膜表面の二乗平均粗さを約5 %程度にまで低減させることができた。
第6章「セラミックス薄膜と基材との界面の断面構造評価」では、大気開放型CVD法を用いてアルミナ(Al2O3)焼結体表面に対してY2O3膜による脱離ガス封止処理を行った。 Y2O3膜は焼結体に存在する粒界亀裂最奥部にまで達し、 脱離ガスのリークパスになる極微小な孔や粒界を埋孔できることを明らかにした。TPD測定の結果、埋孔処理によりAl2O3基材から脱離する総ガス量が約4 %にまで低減した。物理吸着量はAl2O3膜を用いた場合よりY2O3膜を用いた場合でより低い値となった。
第7章「アモルファス炭素膜の熱分解挙動」では、軟質アモルファス水素化炭素(a-C:H)膜の熱分解挙動を TPD法により測定した。膜は600℃で完全に熱分解された。 耐熱性能は膜の作製方法に依存した。
第8章「結論」では、各章の結果を検討し、次の結論を得た。(1) 試料に対して3回TPD測定を行うことでガス脱吸着過程を追跡できる、(2) 酸化物膜における大気成分の吸着は膜の真密度に強く依存する、(3) 大気開放型CVD法を用いてセラミックスバルクの表面をコートすることで、微細なリークパスを埋孔することが可能で、バルクからの脱離ガスを大きく低減することができる。大気開放型CVD法で合成した膜は真空部材への表面コートとして大きな可能性を秘めていると結論する。
本論文は、「化学気相析出法で合成した薄膜の脱ガス特性」と題し、8章から構成されている。
第1章「序論」では、大気開放型CVD法、昇温脱離ガス分析(TPD)法、MgO及びY2O3に関する技術的現状・動向について述べ、課題を明らかにし、本研究の目的および論文構成を示している。
第2章「標準的な薄膜昇温脱離ガス分析法の開発」では、薄膜解析用TPD装置を開発し、大気開放型CVD法を用いてMgO膜を合成し、そのMgO膜が電子ビーム蒸着法で合成したMgO膜よりも低いガス脱吸着性能を有していることをTPD装置を用いて証明している。
第3章「MgO膜の昇温脱離水分析と放電特性」では、大気開放型CVD法を用いて真密度の異なるMgO膜を合成し、MgO膜の真密度と水脱離量には相関があること、さらにMgO膜を被覆したステンレス鋼板電極の放電開始電圧はMgO膜の真密度に依存することを明らかにしている。
第4章「Y2O3:Euウイスカーの昇温脱離ガス分析」では、 大気開放型CVD法を用いて合成したユーロピウム添加Y2O3 (Y2O3:Eu)蛍光ウイスカーへの大気成分の吸着を調査し、炭酸水がY2O3:Eu蛍光ウイスカーやウイスカー内に残留する原料の未分解成分を化学的に攻撃することにより、炭酸イットリウム水和物と酢酸イットリウム水和物が生成すると考察している。
第5章「大気開放型化学気相析出法を用いたY2O3系平坦膜の合成」では、大気開放型CVD法を用いて、ジルコニウム添加Y2O3 (Y2O3:Zr)膜を合成し、合成速度を低下させることなく緻密で平坦なY2O3膜を合成できることを証明している。
第6章「セラミックス薄膜と基材との界面の断面構造評価」では、大気開放型CVD法を用いてアルミナ(Al2O3)焼結体表面に対してY2O3膜による脱離ガス封止処理を行っている。 Y2O3膜が焼結体の脱離ガスのリークパスになる極微小な孔や粒界を埋孔していることを明らかにし、脱離する総ガス量が約4 %にまで低減したことを示している。
第7章「アモルファス炭素膜の熱分解挙動」では、軟質アモルファス水素化炭素(a-C:H)膜の熱分解挙動を TPD法により測定し、膜は600℃で完全に熱分解されること、耐熱性能が膜の作製方法に依存することを明らかにしている。
第8章「結論」では、各章の結果を検討し、大気開放型CVD法で合成した膜は真空部材への表面コートとして大きな可能性を秘めていると結論している。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。