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ナノ構造制御によるY-TZPの高靭化と低温熱劣化制御に関する研究

氏名 大西 宏司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙276号
学位授与の日付 平成21年12月9日
学位論文題目 ナノ構造制御によるY-TZPの高靭化と低温熱劣化制御に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 末松 久幸
 副査 教授 小松 高行
 副査 教授 植松 敬三
 副査 准教授 南口 誠
 副査 准教授 中山 忠親
 副査 特任教授 新原 一

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目次
第1章 緒言 p.1
 第1節 ジルコニアの特徴 p.1
 1 ジルコニアの基本特性 p.1
 2 強化機構 p.2
 3 低温熱劣化機構 p.10
 第2節 ジルコニア粉体及び焼結体の作製方法 p.14
 第3節 研究の目的及び工業的利用価値 p.16
 1 研究の目的 p.16
 2 工業的利用価値 p.17
 第4節 本論文の構成 p.19
第2章 固相法Y-TZP焼結体の微細組織と機械的特性 p.21
 第1節 固相法Y-TZP粉体及び焼結体作製 p.21
 第2節 固相法Y-TZP焼結体の微細組織と結晶相 p.26
 1 実験方法 p.26
 1-1 評価方法
 2 結果及び考察 p.27
 2-1 焼結挙動 p.27
 2-2 微細組織と組成文責 p.28
 2-3 結晶相 p.34
 2-4 熱膨張・収縮挙動 p.37
 3 まとめ p.39
 参考文献 p.40
 第3節 固相法及び液相法により作製したY-TZP焼結体の機械的特性 p.41
 1 実験方法 p.41
 1-1 評価方法
 2 結果及び考察 p.42
 2-1 残留応力と変態単斜晶量 p.42
 2-2 破壊強度 p.45
 2-3 破壊靱性 p.45
 2-4 破壊靱性の変態ゾーンサイズ依存性 p.48
 3 まとめ p.50
 参考文献 p.51
 第4節 固相法より作製したY-TZP焼結体のY2O3含有量による機械的特性への影響 p.53
 1 実験方法 p.53
 1-1 焼結体作製及び評価方法
 2 結果及び考察 p.54
 2-1 焼結挙動 p.54
 2-2 微細組織と組成文責 p.55
 2-3 結晶相 p.56
 2-4 熱膨張・収縮挙動 p.61
 2-5 変態単斜晶量 p.63
 2-6 残留応力と変態単斜晶量 p.63
 2-7 破壊強度 p.65
 2-8 破壊靱性 p.65
 2-9 破壊靱性の変態ゾーンサイズ依存性 p.70
 3 まとめ p.71
 参考文献 p.72
 第5節 小括 p.74
第3章 SiO2添加によるY-TZP焼結体の低温熱劣化挙動 p.76
 第1節 2.8mol%Y2O3-TZP焼結体の低温熱劣化挙動のSiO2添加量依存性 p.76
 1 実験方法 p.76
 1-1 焼結体作製方法 p.76
 1-2 評価方法 p.77
 2 結果及び考察 p.78
 2-1 焼結性及び結晶粒成長挙動 p.78
 2-2 微細組織 p.81
 2-3 低温熱劣化層深さの結晶粒径及びSiO2添加量依存性 p.83
 3 まとめ p.88
 参考文献 p.89
 第2節 Y-TZP焼結体の低温熱劣化挙動のY2O3含有量依存性 p.91
 1 実験方法 p.91
 2 結果及び考察 p.92
 2-1 化学組成と焼結挙動 p.92
 2-2 微細組織 p.93
 2-3 SiO3添加量を変化させたY-TZP焼結体の低温熱劣化層深さのY2O3含有量依存性 p.95
 2-4 SiO3添加量及びY2O3含有量を変化させたY-TZP焼結体の低温熱劣化層深さの結晶粒径依存性 p.98
 2-5 低温熱劣化層深さとSiO2添加量及び結晶粒径依存性 p.100
 3 まとめ p.102
 参考文献 p.102
 第3節 小括 p.104
第4章 SiO2添加Y-TZP粉砕メディアの摩耗特性 p.106
 第1節 溶媒のみにおける摩耗特性へのSiO2添加量による影響 p.106
 1 実験方法 p.106
 1-1 メディア作製方法 p.106
 1-2 メディア特性及び摩耗特性評価方法 p.106
 2 結果及び考察 p.107
 2-1 メディア特性 p.107
 2-2 水及び非水系溶媒におけるメディア摩耗特性の溶媒温度依存性 p.109
 2-3 摩耗テスト後前後のメディア表面の微細組織 p.111
 2-4 各水温における摩耗特性の稼働時間依存性 p.114
 3 まとめ p.115
 参考文献 p.116
 第2節 BaTiO3粉体粉砕における摩耗特性へのSiO2添加量による影響 p.118
 1 実験方法 p.118
 1-1 粉砕摩耗特性評価方法 p.118
 2 結果及び考察 p.118
 2-1 各スラリー温度におけるメディア摩耗特性の稼働時間依存性 p.118
 2-2 摩耗テスト後前後のメディア表面の微細組織 p.121
 2-3 SiO2添加によるメディア摩耗特性の劣化抑制機構 p.123
 3 まとめ p.123
 参考文献 p.124
 第3節 小括 p.125
第5章 総括 p.126
著者論文のリスト p.129
謝辞 p.131

ジルコニア(Y-TZP)は高強度・高靱性を有し、窒化珪素やアルミナとならび代表的なファインセラミックスとして位置づけられており、金属や有機材料に比べて耐食性、耐熱性及び耐摩耗性に優れていることから様々な用途で金属や有機材料に代わる非常に興味深い材料である。しかしながら、Y-TZPはY2O3をZrO2中に均一分散・混合させる必要から液相法により作製した粉体を原料として製造されているため、ジルコニアの特徴を生かした用途拡大を図る上で既存材料に比べてコストが高いということが大きな障害となっている。本研究では、コスト低減と特性向上という2つの目的を同時に達成することを目的とした。安価な固相法をベースに新たな分散・混合プロセス技術を導入することで、液相法に比し、製造コストが低く、同等もしくはそれ以上の特性を有するジルコニアの開発に成功した。また、同時に本固相法による粉体は、焼結中にY2O3のZrO2中への固溶と同時に拡散が進むため、固溶状態の制御とそれに基づくナノ構造制御を検討することでY-TZPの新たな高靭化機構についても明らかにした。
 また、Y-TZPは高強度・高靱性という特長を有している反面、150~300℃での長時間のアニールにより著しい強度劣化をきたす低温熱劣化という欠点を有しており、そのため、用途限定の原因となっている。多くの研究者が低温熱劣化の改善方法について検討を行ってきたが、まだ、十分満足した改善方法が見出せていない。この低温熱劣化はY-TZPの結晶粒径によって程度が異なり、OH-がジルコニア結晶粒界近傍に偏析しているY3+及び/またはZr4+を腐食させて起こることから、結晶粒界近傍のOH-に対する耐食性を向上させることを考えた。Y-TZPの結晶粒界近傍にはSi4+、Al3+などが偏析すること、特にSiO2は酸化物の中で共有結合性が高く、耐水性に優れていることから、粒界制御に使うことで課題とする低温熱劣化(熱化学的反応性)を抑制できることを明らかにした。なお、本材料開発についても上記の固相法によるY-TZPの開発と同様、新規な粉体分散・混合プロセス技術を応用することで開発を進めた。
 本論文は、「ナノ構造制御によるY-TZPの高靭化と低温熱劣化抑制に関する研究」と題し、以下の5章より構成されている。
第1章「緒言」ではジルコニアの特徴である基本特性、強化機構及び低温熱劣化について記述し、ジルコニアの用途拡大の障害となっている問題点について明確にした。また、本研究の目的、研究戦略及び本論文の構成を示した。
第2章「固相法Y-TZP焼結体の微細組織と機械的特性」では、まずジルコニア、イットリア及びアルミナ粉体を媒体撹拌型ミルを用いて分散・混合した後に焼結体を作製した。この作製した焼結体の微細組織、結晶相及び機械的特性を評価し、液相法より作製したジルコニア焼結体との比較を行い、固相法より作製した焼結体の高靭化機構について検討した。この結果、固相法より作製した焼結体は低温で立方晶を含有し、焼成温度の上昇に伴ってY3+の拡散が進みジルコニア結晶粒子に固溶するY3+濃度が均一化され、立方晶の減少に伴い正方晶が増加した。Y2O3含有量及び結晶粒径により変態単斜晶量だけでなく、残留圧縮応力も大きく変化した。本固相法より作製した焼結体は、液相法より作製した焼結体に比べて高靱性であった。また、固相法より作製した焼結体の高靭化機構は、応力誘起相変態だけでなく、残留圧縮応力やマイクロクラックタフニングが重畳していることが示された。
第3章「SiO2添加によるY-TZP焼結体の低温熱劣化挙動」では、液相法より作製したY-TZP粉体に媒体撹拌型ミルを用いてナノメーターサイズのSiO2を分散・混合した粉体より焼結体を作製し、作製した焼結体の微細組織及び温水中アニール試験による劣化層深さの評価を行った。この結果、SiO2無添加焼結体の劣化層深さはY2O3含有量の増加もしくは結晶粒径の増大により浅くなった。SiO2添加焼結体の劣化層深さは、ある添加量以上で急激に浅くなり、それ以上の添加量では劣化層深さは一定になった。劣化層深さは結晶粒子表面積あたりのSiO2添加量に依存し、Y2O3含有量の増加に伴い、この依存性は強くなった。本研究で低温熱劣化抑制に少量のSiO2添加が有効であることが示された。
第4章「SiO2添加Y-TZP粉砕メディアの摩耗特性」では、液相法より作製したY-TZP粉体にSiO2を添加した粉砕メディアを作製し、水及び非水系溶媒のみを用いた場合の摩耗特性と代表的な電子材料であるBaTiO3粉体を粉砕したときの摩耗特性を調査した。SiO2無添加メディアの場合、ある稼働時間で以上で摩耗率が急増する現象が見られたが、溶媒が非水系の場合には、この現象は見られなかった。この現象が起こる稼働時間は水温の上昇と共に短くなり、メディアの結晶粒径が小さいほど、短時間で発生した。従って、Y-TZPメディアの摩耗率が急増する現象はOH-が存在することで起こると考えられた。
BaTiO3粉体粉砕摩耗特性は、SiO2無添加メディアの場合は、水のみの摩耗特性と同様の挙動を示したが、SiO2添加メディアはBaTiO3粉体スラリー温度が上昇しても摩耗率は低く、スラリー温度による摩耗率への影響はほとんど見られず、SiO2を添加することでOH- による摩耗率の急激な上昇を抑制する効果が高いことが示された。
 第5章「総括」では本研究で得られた結果をまとめるとともに、本研究で得られた知見より、従来、液相法に頼っていたナノメーターサイズの粉体の均一分散混合を固相法でも可能にし、これにより新規な材料開発を積極的に進めることが可能との提案を行った。

本論文は「ナノ構造制御によるY-TZPの高靱化と低温熱劣化制御に関する研究」と題し全5章から構成されている。
 第1章「緒言」では研究背景としてジルコニアの特徴として、ジルコニアの基本特性、強化機構及び低温熱劣化について述べるとともに、現在行われているジルコニア粉体及び焼結体の作製方法について概説している。また、従来の固相法をベースに、新たな分散・混合プロセス技術の導入による、液相法より作製した焼結体に比し、コストが低く、同等もしくはそれ以上の特性を有するジルコニアの開発及びSiO2添加によるジルコニア結晶粒界制御による低温熱劣化の抑制を目的とした研究目的及び工業的利用価値について述べている。
第2章「固相法Y-TZP焼結体の微細組織と機械的特性」ではジルコニア、イットリア及びアルミナ粉体を用い、これを媒体撹拌型ミルで分散・混合する新規な固相法によって焼結体を作製した実験内容について記載している。作製した焼結体の微細組織、結晶相及び機械的特性について液相法で作製したジルコニア焼結体との比較を行い、固相法で作製した焼結体の高靭化機構について検討している。Y2O3含有量及び結晶粒径により、Y3+のZrO2結晶粒子内への固溶状態が変化し、応力誘起相変態単斜晶量及び変態単斜晶量に伴う残留圧縮応力も大きく変化した。その結果、本研究で開発した新規な固相法より作製した焼結体の高靭化機構は、応力誘起相変態だけでなく、残留圧縮応力やマイクロクラックタフニングが重畳しており、液相法より高い高靱化に成功したと述べている。
第3章「SiO2添加によるY-TZP焼結体の低温熱劣化挙動」では液相法より作製したY-TZP粉体に媒体撹拌型ミルを用いてナノメーターサイズのSiO2を分散・混合した粉体より焼結体を作製し、その焼結体の低温熱劣化挙動について述べている。SiO2がある添加量以上で劣化層深さは急激に浅くなり、それ以上の添加量では劣化層深さは一定となると述べている。これらの結果から、添加したSiO2はジルコニア結晶粒界に偏析し、OH-と及び/またはZr4+との水和反応を抑制し、低温熱劣化抑制に少量のSiO2添加が有効であることを明らかにしている。
第4章「SiO2添加Y-TZP粉砕メディアの摩耗特性」では、液相法で作製したY-TZP粉体にSiO2を添加した粉砕メディアを作製し、水及び非水系溶媒のみを用いた場合の摩耗特性と代表的な電子材料であるBaTiO3粉体を粉砕したときの摩耗特性について述べている。Y-TZPメディアの摩耗特性の急激な劣化は溶媒中のOH-の存在により起こり、溶媒温度の上昇により劣化が促進されることを明らかにした。Y-TZPにSiO2を添加することにより、OH-の存在による摩耗特性の急激な劣化を示さず、溶媒温度が上昇しても摩耗率は低く安定した摩耗特性を示すメディアの開発に成功したと述べている。
 第5章では本研究で得られた結果を総括し、新規な分散・混合プロセス技術を用いることでナノ構造制御による安価でかつ高靱性のジルコニアの開発及び低温熱劣化の抑制が可能であるとの結論を得ている。また、本技術の開発により、従来、液相法に頼っていたナノメーターサイズの粉体の均一分散混合を固相法でも可能にし、これにより新規な材料開発を積極的に進めることが可能であることを示した。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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