停止姿勢から走行状態に対する自立走行二輪車のロバスト走行安定化
氏名 佐藤 拓史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第526号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 停止姿勢から走行状態に対する自立走行二輪車のロバスト走行安定化
論文審査委員
主査 教授 柳 和久
副査 准教授 小林 泰秀
副査 准教授 明田川 正人
副査 准教授 平田 研二
副査 慶應義塾大学准教授 滑川 徹
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 二輪車を取り巻く環境 p.1
1.1.1 二輪車の普及率 p.1
1.1.2 二輪車の事故率と分類 p.3
1.1.3 二輪車に対する安全対策 p.4
1.2 二輪車を対象とした研究 p.6
1.2.1 従来研究の概要 p.6
1.2.2 安定化サポートシステムとして考えた場合の課題 p.10
1.3 目的 p.11
1.4 本論文の構成と概要 p.12
1.5 記号一覧 p.13
第2章 実験装置の構成とモデリング p.15
2.1 自立走行二輪車の設計 p.15
2.2.1 台車系の取り付け位置の検討 p.15
2.1.2 台車系の駆動方式の検討 p.16
2.1.3 自立走行二輪車 p.17
2.2 実験環境の構成 p.20
2.2.1 MATLAB & Simulink p.20
2.2.2 dSPACE DS1103 p.22
2.3 停止姿勢における二輪車のモデリング p.23
2.3.1 停止姿勢における二輪車のモデリングに関する設定事項 p.23
2.3.2 Lagrange 法による運動方程式の導出 p.25
2.4 走行状態における二輪車のモデリング p.30
2.4.1 走行状態における二輪車のモデリングに関する設定事項 p.30
2.4.2 走行によって生ずる並進運動の考慮 p.32
2.4.3 状態空間モデルの導出 p.33
2.5 パラメータ同定実験 p.37
2.5.1 台車・ハンドル系の同定 p.37
2.5.2 二輪車の慣性モーメント・等価粘性係数の同定 p.39
2.5.3 ジャイロセンサのセンサゲインの同定 p.41
2.5.4 パラメータ同定結果 p.41
第3章 停止姿勢に対する制御系設計 p.45
3.1 緒言 p.45
3.2 制御系設計 p.45
3.2.1 最適レギュレータ法による設計 p.45
3.2.2 H∞ループ整形設計手法(LSDP)による設計 p.50
3.2.3 制御器のゲイン特性の比較 p.62
3.3 姿勢制御実験 p.64
3.3.1 ステップ目標値応答 p.64
3.3.2 インパルス外乱応答 p.66
3.4 結言 p.67
第4章 走行状態に対する制御系設計 p.69
4.1 緒言 p.69
4.2 H∞制御による制御系設計 p.69
4.2.1 問題の定式化 p.69
4.2.2 一般化プラントの構成と問題設定 p.72
4.2.3 コントローラ設計 p.73
4.3 姿勢制御実験 p.77
4.3.1 速度変動に対するインパルス外乱応答 p.77
4.3.2 質量変動に対するインパルス外乱応答 p.79
4.4 結言 p.79
第5章 結論 p.81
謝辞 p.83
参考文献 p.85
関連する研究業績 p.91
付録A 詳細事項 p.92
A.1 可制御性・可観測性 p.92
A.1.1 可制御性 p.92
A.1.2 可観測性 p.93
A.2 停止姿勢における自立走行二輪車のモデリング p.95
A.2.1 二輪車前輪部・後輪部と台車の重心位置座標 p.95
A.2.2 運動方程式の導出 p.95
A.2.3 線形化 p.96
A.3 モータ系の運動方程式の導出 p.99
A.4 車種別保有台数の年別推移 p.100
A.5 CRS03-11によるモータ系角度制御実験 p.100
A.5.1 制御系の構成 p.100
A.5.2 角度制御実験 p.103
本論文では,私たちになじみのあるオートバイや自転車などの二輪車の安定化手法について検討している.二輪車はその構造上,不安定システムの一種であり,ライダが上手に制御しなければ転倒してしまう乗り物である.そのため,私たちは繰り返し練習することにより上手にバランスをとることが可能となり,自在に二輪車を運転することができる.しかし,この練習期に上手にバランスをとることは非常に難しく誰もが苦労するところである.このように二輪車の安定化が難しい要因としては,二輪車が制御を施さなければ転倒してしまう不安定系であること,走行速度の変化に伴い二輪車の特性も変化する乗り物であることが挙げられる.
二輪車は走行速度の上昇に伴い安定性が増すことは経験上からも周知のことである.したがって,一番不安定である停止時に安定化を実現できれば走行状態においても安定化は容易に実現できるものと考えられる.しかしながら,従来研究においては二輪車が停止姿勢にあるときの安定化についてはほとんど議論されていない.
本論文では,停止姿勢においても二輪車を安定化させるために,カウンタウェイトを移動させる構造の台車系を用いたバランサ装置を搭載した小型の二輪車モデルを構成している.このようにバランサ装置を搭載することで,制御系設計に必要な数学モデルを簡素な線形モデルとして提案している.提案する数学モデルの有効性はモデルベースドの制御系設計手法による制御器を構成し,姿勢制御実験とシミュレーションを行うことで検証している.また,もともと非線形特性を有する二輪車を線形モデルとして表現しているため,実際の二輪車との誤差を保証するロバスト制御系設計手法がより効果的であることを示している.また,停止姿勢の場合と同様な手順で導出した走行状態にある二輪車の数学モデルは停止時の数学モデルの自然な拡張になっていることを示している.将来的な安定化サポートシステムを見据え,走行速度の変動や質量変動に対してそれらの変動を不確かさとして捉えたロバスト制御系設計を構成し,姿勢制御実験を行うことでその有効性を検証している.
本論文の構成は以下のとおりである.
第1章では本論文の背景と目的および本論文の概要について述べている.
第2章では,本論文で用いる二輪車モデルの構成とその後の制御系設計で必要となる数学モデルの導出を行っている.本論文で用いる二輪車モデルは台車系を用いたバランサ装置を搭載することにより,二輪車が一番不安定である停止姿勢においても安定化が実現できる構成としている.本章では,後の制御系設計で必要となるモデリングを行っている.まずはじめに本論文の目的の1つである停止時に安定化を実現させるために,停止姿勢に限定した数学モデルをLagrange法を用いて導出している.二輪車の安定化が目的であるので,平衡点近傍で線形化を行うことで線形モデルとして導出する.二輪車の数学モデルを線形モデルとして導出することにより,既存の制御系設計手法や解析法が適用可能となる.また,二輪車が走行状態にある場合の数学モデルを停止姿勢の場合と同様に導出している.ただし,本論文では実験装置の制約上,二輪車を自由に走行させることは困難であるので,走行ローラ上を直線走行するものとして導出する.導出した走行状態にある二輪車の数学モデルにおいて,走行速度をV=0.0[m/s]とした数学モデルが停止姿勢における数学モデルと一致することを示し,停止姿勢の数学モデルの自然な拡張になっていることを示している.その後,パラメータ同定実験について述べ,同定結果について示している.
第3章では,二輪車が一番不安定である停止姿勢での安定化を行っている.第2章で導出した数学モデルを用いて,モデルベースドの制御系設計を行う.ここでは,導出した数学モデルの有効性と二輪車の安定化を最優先に考え,状態フィードバック則の1つである最適レギュレータ法とロバスト制御系設計手法の1つであるH∞ループ整形設計手法(LSDP)を用いて安定化制御器を設計している.設計した制御器による姿勢制御実験を行い,シミュレーション結果と比較することで導出した数学モデルの有効性を示している.また,インパルス外乱応答実験より,ロバスト制御系設計手法による制御器の有効性を示している.
第4章では,第3章での停止時に限定した制御系設計から,走行状態にある二輪車に対する安定化を行っている.二輪車は走行速度の違いによってその特性が変化するため,二輪車の特性が変化した場合でも性能を保証する必要が生ずる.そのため,安定化に加え,ロバスト安定性を重視した制御器の設計が必要である.ここでは,走行速度の違いによるモデル変動と積載物や異なるライダの搭乗により生ずる二輪車の質量変動を不確かさとして捉えたH∞制御系設計を適用している.走行速度の違いや積載質量の違いによるインパルス外乱応答を行い,設計した制御器の有効性を検証している.
第5章では,本論文で得られた結果を総括している.
本論文は、「停止姿勢から走行状態に対する自立走行二輪車のロバスト走行安定化」と題し、5章より構成されている。第1章では、本論文の研究対象である二輪車を取り巻く環境と二輪車を対象とした研究について述べ、これを踏まえて本論文で解決する課題について述べている。
第2章では、本論文で用いる二輪車モデルの構成とその後の制御系設計で必要となる数学モデルの導出を行っている。本論文で用いる二輪車モデルは台車系を用いたバランサ装置を搭載することにより、二輪車が一番不安定である停止姿勢においても安定化が実現できる構成としている。本章では、後の制御系設計で必要となるモデリングを行っている。まずはじめに本論文の目的の1つである停止時に安定化を実現させるために、停止姿勢に限定した数学モデルをLagrange法を用いて導出している。二輪車の安定化が目的であるので、平衡点近傍で線形化を行うことで線形モデルとして導出している。また、二輪車が走行状態にある場合の数学モデルを停止姿勢の場合と同様に導出している。導出した走行状態にある二輪車の数学モデルにおいて、走行速度をV=0.0[m/s]とした数学モデルが停止姿勢における数学モデルと一致することを示し、停止姿勢の数学モデルの自然な拡張になっていることを示している。その後、パラメータ同定実験について述べ、同定結果について示している。
第3章では、二輪車が一番不安定である停止姿勢での安定化を行っている。第2章で導出した数学モデルを用いて、モデルベースドの制御系設計を行っている。ここでは、導出した数学モデルの有効性と二輪車の安定化を最優先に考え、状態フィードバック則の1つである最適レギュレータ法とロバスト制御系設計手法の1つであるH∞ループ整形設計手法(LSDP)を用いて安定化制御器を設計している。設計した制御器による姿勢制御実験を行い、シミュレーション結果と比較することで導出した数学モデルの有効性を示している。また、インパルス外乱応答実験より、ロバスト制御系設計手法による制御器の有効性を示している。
第4章では、第3章での停止時に限定した制御系設計から、走行状態にある二輪車に対する安定化を行っている。二輪車は走行速度の違いによってその特性が変化するため、二輪車の特性が変化した場合でも性能を保証する必要が生ずる。ここでは、走行速度の違いによるモデル変動と積載物や異なるライダの搭乗により生ずる二輪車の質量変動を不確かさとして捉えたH∞制御系設計を適用している。走行速度の違いや積載質量の違いによるインパルス外乱応答を行い、設計した制御器の有効性を検証している。
第5章では,本論文で得られた結果を総括し、二輪車の安定化サポートシステムへの応用の可能性を述べている。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。