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セルオートマトン法による騒音伝搬解析手法の開発とその検証

氏名 富樫 孝介
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第530号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 セルオートマトン法による騒音伝搬解析手法の開発とその検証
論文審査委員
 主査 准教授 宮木 康幸
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 准教授 高橋 修
 副査 准教授 岩崎 英治
 副査 教授 細山田 得三

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目次
1 序論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 騒音問題の現状 p.1
 1.3 騒音伝搬解析手法 p.3
 1.4 CA法による騒音伝搬解析 p.3
 1.5 本研究の目的 p.4
 1.6 本研究の新規性について p.5
2 CA法による騒音伝搬解析 p.7
 2.1 音の基礎 p.7
 2.1.1 音波の基礎 p.7
 2.1.2 音の伝搬速度 p.7
 2.1.3 音圧レベル p.8
 2.1.4 実効値 p.9
 2.2 セルオートマトン法 p.9
 2.2.1 セルオートマトン法とは p.9
 2.2.2 CAの歴史 p.9
 2.2.3 CA法の特徴 p.10
 2.2.4 CA法の基本原理 p.11
 2.2.5 CA法の原則 p.11
 2.2.6 局所近傍則 p.11
 2.2.7 1次元CAの挙動 p.13
 2.3 CA法による定式化 p.14
 2.3.1 計算領域の定義 p.15
 2.3.2 状態量の定義 p.15
 2.3.3 近傍セルの定義 p.15
 2.4 局所近傍則 p.16
 2.4.1 媒質セル p.16
 2.4.2 音源セル p.18
 2.4.3 壁セル p.20
 2.5 初期条件 p.20
 2.6 境界条件 p.20
 2.7 計算の流れ p.21
3 差分法による騒音伝搬解析 p.23
 3.1 1次元波動方程式の導出 p.23
 3.2 一般解 p.25
 3.3 1次元音響管の支配方程式 p.25
 3.3.1 開放端の場合 p.26
 3.3.2 閉端の場合 p.26
 3.4 音響管の固有振動数 p.27
 3.5 差分法を用いた空間1次元の波動方程式 p.27
 3.6 差分方程式 p.28
 3.7 CFL条件 p.29
 3.8 フォン・ノイマンの条件 p.29
 3.9 1次元波動方程式より変換した差分方程式の安定条件 p.31
 3.10 差分法による定式化 p.32
 3.11 解析領域の定義 p.32
 3.12 状態量の定義 p.33
 3.13 差分近似式 p.33
 3.13.1 1次元波動方程式の差分近似式 p.33
 3.13.2 2次元波動方程式の差分近似式 p.33
 3.14 境界条件 p.34
 3.14.1 1次元音響管 p.34
 3.14.2 2次元自由音場 p.35
4 距離減衰 p.40
 4.1 距離減衰 p.40
 4.1.1 空気音の距離による減衰 p.40
 4.1.2 点音源からの空気減衰 p.41
 4.1.3 線音源からの距離減衰 p.41
 4.2 ムーア近傍による局所近傍則 p.42
 4.3 計算モデル p.43
 4.4 計算結果と考察 p.43
5 完全反射 p.52
 5.1 虚像法 p.52
 5.2 計算モデル p.53
 5.3 計算結果と考察 p.54
6 回折減衰 p.59
 6.1 自由空間の薄い半無限障壁による回折減衰 p.59
 6.1.1 回折の一版近似式 p.59
 6.1.2 半無限障壁の場合 p.61
 6.1.3 Fresnel積分の解釈 p.62
 6.1.4 前川の実験式 p.63
 6.2 計算モデル p.65
 6.3 計算結果と考察 p.65
7 干渉 p.76
 7.1 音の干渉 p.76
 7.2 計算モデル p.77
 7.3 計算結果と考察 p.77
8 音源の移動 p.81
 8.1 ドップラー効果 p.81
 8.1.1 音源の移動 p.81
 8.1.2 衝撃波 p.82
 8.2 計算モデル p.82
 8.3 計算結果と考察 p.83
9 吸音を考慮した反射 p.85
 9.1 吸音率 p.85
 9.1.1 垂直入射吸音率 p.85
 9.1.2 斜入射吸音率 p.86
 9.1.3 ランダム吸音率 p.86
 9.1.4 ノーマル音響インピーダンス p.86
 9.2 吸音性壁面を考慮した媒質セルの局所近傍則 p.88
 9.3 計算モデル p.89
 9.4 計算結果と考察 p.90
10 Benchmark Platform p.96
 10.1 AIJ-BPCA p.96
 10.2 計算モデル p.97
 10.3 結果および考察 p.98
11 遮音壁の先端形状による減衰効果 p.101
 11.1 計算モデル p.101
 11.2 計算結果および考察 p.102
12 高架橋モデルによる遮音壁の形状効果 p.108
 12.1 計算モデル p.108
 12.2 計算結果と考察 p.108
13 結論 p.121
参考文献 p.125

 交通騒音の対応策として主に遮音壁が用いられている.この遮音壁の設計には経路差と回折減衰の関係を表した実験式が用いられている.この手法は音源,壁,受音点の位置関係より経路差を計算し,チャートにあてはめることによって,単純に遮音壁による減衰量を推定し,壁の高さを決定するものである.しかし,高架橋からの騒音伝搬など複雑な現地状況を再現できないため,遮音壁を施工した際に要求された性能を発揮する保証はない.そこで数値計算による騒音伝搬解析手法が必要とされている.
 騒音伝搬解析は,一般に境界要素法や有限要素法,差分法などが用いられている.しかし,これらの手法は,支配方程式の導出や離散化を行う際に煩雑な計算を要するという問題がある.また,境界要素法や有限要素法の場合,代数式を解くための反復計算が必要となり,膨大な計算コストを要するという問題がある.
 そこで,本学位論文では,現場状況に応じた遮音壁による減衰量の予測を従来手法より容易に行うことを目的とし、機械の分野において複雑系の解析手法として有力視されているセルオートマトン(CA) 法を用いて,騒音伝搬解析手法を開発し,その精度について検証を行う.CA 法では音場を不連続体として扱い,ごく微小な要素の相互作用を考慮して関係式を定め,微小時間ごとに現象の移り変わりを自己組織化により表現する手法である.
 検証の結果,本研究で構築したCA法による騒音伝搬手法は,音源周波数と単位セル幅の関係に配慮して計算を行うことで,2 次元騒音伝搬解析が可能であることを明らかにした.また,遮音壁の性能評価に応用できる可能性があることを明らかにした.
 本論文の構成は,第1~9章を基本理論とし,第10~12章をその応用とする.
 本論文の第1章では,CA法を用いた騒音伝搬解析の背景とその有用性について述べる.
 第2章では,CA 法を用いて2 次元騒音伝搬解析手法の構築を行う.ここでは基本となるノイマン近傍(4 近傍) による媒質,音源,壁のセルに対応する局所近傍則を構築する.既往の研究と異なる形で完全反射壁の局所近傍則を定義した.
 第3章では,CA法との比較を行うため,差分法により2次元騒音伝搬解析手法を構築する.
 第4章は,第2章で構築したモデルを利用し,音の基本的現象である距離減衰について,理論解および差分法による計算解と比較を行う.また,ムーア近傍を用いた局所近傍則を構築し,計算解の比較を行う.その結果,一定の単位セル幅および音源周波数下において,理論解と同等の結果が得られた.また,ムーア近傍による計算解はノイマン近傍による計算解に比べ,わずかに計算精度が劣るものの理論解と同等の結果を得た.
 実現象を予測する際,路面,橋梁,建物などは完全反射するものとして考えるのが一般的である.そこで第5章では,壁面での反射に注目し,壁面を完全反射するとしたときの受音点の挙動について,虚像法により理論解を求め,CA法による計算解との比較を行う.この結果,CA法による計算解は,理論解と同等の結果が得られ,直接波と位相差が含まれた反射波が合成された挙動を表現できた.
 遮音壁を設置したとき,音波はその外側を回り込み伝搬する回折現象が起こる.第6章では,この回折による減衰量に着目して精度検証を行う.ここでは,遮音壁の設計に用いられている回折減衰量の推定法である前川の実験式を比較対象とする.この検証により,本計算手法にて前川の実験と同様な計算結果が得られることを明らかにした.
 第7章では,騒音源が複数ある場合を想定し,その音源同士の干渉が表現できているかを重ね合わせの原理を用いて計算した理論解と比較を行い評価する.その結果,2音源の干渉について,差分法と同様な音圧分布が表現でき,理論解と比較すると,音源直近の計算解に問題があるものの,同等の解が得られた.
 交通騒音について予測を行う際,騒音源は移動していることが多い.そこで第8章では,音源の移動に注目し,ドップラー効果による音源前後の周波数変化を理論解として比較を行う.この結果,音源の移動に伴い生じる音源前後の波形の変化を差分法と同様に表現でき,また,音源前後の波長について,理論解と同等の結果が得られた.
 第9章では,遮音壁の表面に吸音性材料を用いることが多いことから,壁面に吸音性を考慮したモデルを構築し,虚像法による理論解と比較をし,その妥当性について評価を行う.結果,本研究で構築した局所近傍則を用いて理論解と同等の解を得るためには,理論解と同様の計算方法となるよう,音源を分解して計算を行い,その結果を重ね合わせることで計算可能であることがわかった.
 第10章は,実際の騒音伝搬解析に用いられる程度の大きさで数値計算を行い,その計算結果が妥当であることと従来手法である境界要素法との比較を目的として,日本音響学会により公表されているBenchmark Platformの1 問題について検証を行う.この結果,壁面近傍の計算結果のみならず,距離減衰,反射,回折,干渉の影響が大きく出る音源から遠く離れた点において,理論解および境界要素法の計算解と同等の計算結果が得られた.
 第11章は,遮音壁の先端形状を変化させることにより,騒音伝搬がどのように行われているかを可視化するため,平らな土地に遮音壁を設置したモデルを構築し,数値計算を行い,伝搬形状の違いについて差分法の解と比較する.結果,差分法による計算結果と同等の音圧分布を表現でき,遮音壁の先端形状を変化させたことによる減衰量について評価を行うことができた.
 第12章では,鉄道,道路等で用いられる高架橋をモデル化し,遮音壁の有無およびその形状の違いによる回折減衰量への影響を予測するため,数値計算を行い,結果を図示して,先端形状に関する考察を行う.この計算結果から,複雑な先端形状とすることで,広い音源周波数帯に減衰効果が認められること,先端を45°傾けた場合,減衰効果のある音源周波数帯に違いが出ることを明らかにした.
 本研究で得られた研究成果の総括を第13章にまとめる.

 本論文は、「セルオートマトン法による騒音伝搬解析手法の開発とその検証」と題し、13章より構成されている。
 第1章では、建設分野における交通騒音の防音対策として主に用いられている遮音壁設計に関する従来の方法や研究の概要を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
 第2章では、音場を不連続体として扱い、ごく微小な要素(セル)の相互作用を考慮して「局所近傍則」と呼ばれる関係式を定め、微小時間ごとに現象の移り変わりを自己組織化により表現する手法であるセルオートマトン法(CA法)について述べおり、2次元音場に適用するノイマン近傍(4 近傍) による媒質・音源・壁のセルに対応する局所近傍則を構築している。また、第3章では、従来2次元音場でよく利用されている差分法についても言及している。
 第4章から第9章では、騒音伝搬の基本となる距離減衰・反射・回折減衰などについて、CA法による数値計算が現象をよく表現することを検証している。距離減衰については、理論解と差分法による解と比較するとともに、CA法におけるセル幅と対象周波数の満たすべき条件についても言及している。また、野外での反射の多くが完全反射と見なせることから、完全反射の場合の理論解と比較してCA法の精度がよいことを示している。さらに、回折減衰については、前川の実験と同様な結果が得られることを示している。
 第10章から第12章では、交通騒音を対象として野外での広い範囲の騒音伝搬についてCA法による数値計算を行っている。まず、第10章では、日本音響学会により公表されているBenchmark Platformの遮音壁問題にCA法を適用し、フレネル数の影響が大きい遮音壁近傍のみならず、距離減衰や反射などの影響が大きい音源から遠く離れた点においても理論解および境界要素法の計算解と同等の計算結果が得られることを示している。また、第11章では、遮音壁の先端形状を変化させた場合の騒音減衰量の分布を計算し、差分法との比較よりその妥当性を示している。さらに、第12章では、鉄道や道路の高架橋を対象として、遮音壁の先端形状を変化させて、先端形状に関する考察を行い、複雑な先端形状にすることで広い周波数帯で騒音減衰効果が得られることや先端を45度傾けることで減衰効果が変化することを示しおり、遮音壁の性能を事前に評価できる可能性を示している。
 第13章では、本研究で得られた研究成果を総括して述べている。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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