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新規架橋ポリ電解質ハイドロゲル材料の機能化に関する研究

氏名 楠木 貴行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第537号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 新規架橋ポリ電解質ハイドロゲル材料の機能化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 小林 高臣
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 長岡工業高等専門学校教授 丸山 一典
 副査 准教授 斉藤 信雄
 副査 産学融合特任講師 于 海峰

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Contents
Abbreviation List
Chapter 1 Genaral Introduction p.1
 1.1 Polymer hydrogels p.1
 1.2 Crosslinked polylectrolyte hydrogels and their functionalization p.6
 1.3 Phosphonic acid type hydrogels p.7
 1.4 Molecularly selective hydrogels p.9
 1.5 Sonoresponsive hydrogels p.17
 1.6 Outline of this thesis p.20
 1.7 References p.21
Chapter 2 Polyvinylphosphonic Acid Copolymer Hydrogels Prepared with Amide and Ester Type Crosslinkers p.28
 2.1 Introduction p.29
 2.2 Experimental p.32
 2.2.1 Materials p.32
 2.2.2 Polymerization and purification p.33
 2.2.3 Observation of crosslinked PVPA hydrogels p.35
 2.3 Results and Discussion p.36
 2.3.1 Chracteristics of crosslinked PVPA hydrogels p.36
 2.3.2 Water uptakes of crosslinked PVPA hydrogels p.45
 2.4 Conclusion p.48
 2.5 References p.50
Chapter 3 Thermally Decomposable Phosphonate Ester Polymer Gels p.52
 3.1 Introduction p.52
 3.2 Experimental p.56
 3.2.1 Monomer synthesis and ppolymerization p.56
 3.2.2 Thermal and mechanical properties of PDMVP p.57
 3.3 Results and Discussion p.58
 3.4 Conclusion p.68
 3.5 References p.68
Chaper 4 Molecular Imprinting Micropolymerbeads Having Cooperative Effect of Both Surfactant and Inosine Template p.71
 4.1 Introduction p.72
 4.2 Experimental p.76
 4.2.1 Materials p.76
 4.2.2 Polymerization and purification p.76
 4.2.3 Characterization of polymer microbeads p.77
 4.2.4 Binding and recognition experiments of the imprinted polymers p.78
 4.3 Results and Discussion p.79
 4.3.1 Characterization of imprinted polymers microbeads p.79
 4.3.2 Binding behavior of INO and LBSA into the imprinted polymers p.81
 4.3.3 Template supported ccoperative binding of LBSA p.87
 4.4 Conclusion p.93
 4.5 References p.93
Chapter 5 Bile acid Imprinting Polymers Preparing with Covalent-Ester Monomer-template Techniques: Synthesis, Characterization and Fluorescene Application for BA recognition p.95
 5.1 Introduction p.96
 5.2 Experimental p.99
 5.2.1 Materials p.99
 5.2.2 Preparation of BA monomer for covalent imprinting p.101
 5.2.3 Preparation of BA imprinted and non-imprinted polymers p.102
 5.2.4 Substrate binding with feterogeneous batch experiments to imprinted polymer p.103
 5.2.5 Fluorescence detection p.105
 5.3 Results and Discussion p.106
 5.3.1 Preparation of BA imprinted polymers p.106
 5.3.2 BA binding ability to imprinted polymers p.109
 5.3.3 Fluorescence behavior of DVB segments for substrate binding p.110
 5.4 Conclusion p.116
 5.5 References p.117
Chapter 6 Sono-respond on Thermsensitivie Polymer Microgels Based on Cross-linked Poly(N-isopropylacryamide-co-acrylic acid) p.119
 6.1 Introduction p.120
 6.2 Experimental p.124
 6.3 Results and Discussion p.126
 6.3.1 US influenced thermo-sensitivty of microgels p.126
 6.3.2 FT-IR spectroscopic study for US effect on thermo-sensitive microgels p.133
 6.4 Conclusion p.136
 6.5 References p.138
Chapter 7 Summary p.140
List of Publications p.143
Other Related Papers p.144
Presentation in Conferrences and Symposiums p.145

近年、親水性基を有するポリマー鎖や共有結合や水素結合などによって架橋することで得られるポリマーハイドロゲル材料が注目を集めている。これらのポリマーハイドロゲルは分子内架橋による3次元構造を持つため、高い吸水性を示す。この性質からコンタクトレンズやおむつの吸水剤に利用されており、商業的に重要な位置を占める。そのハイドロゲルの中で、親水性基がカルボン酸やスルホン酸などの電解質であるものは特にポリ電解質ハイドロゲルと呼ばれ、吸水性だけでなく、pH応答性やイオン交換能などを有するため、燃料電池やイオン交換樹脂、センサーなどの分野で用いられている。しかしながら、今日、益々高度化する社会にあって、様々なシーンに適応できる更なる機能を有するハイドロゲルが求められている。そのような背景から、本研究では、様々な新規機能性ポリ電解質ハイドロゲルの作製を行い、それらの機能を評価・検討した。
まず、人体や環境などへの負荷が少ないリン酸型のハイドロゲルをビニルリン酸と架橋剤とを共重合することによって作製した。ビニルリン酸は側鎖に電解質であるリン酸基を有しているラジカル重合可能な物質であり、そのホモポリマーは歯科材料に用いられているように人体や環境に対して無害である。そして、得られた新規リン酸型ハイドロゲルの吸水性などの基本物性を調査した。その結果、高い吸水性能と自己組織化された特徴的な凝集状態が確認された。次に、ハイドロゲルなどのある種の機能性ポリマーを作製するために必要不可欠である架橋剤について研究を行った。一般的に、ラジカル重合可能な架橋剤は我々人体に毒性を示し、架橋剤を用いて得られたポリマーは分解が困難であるという問題がある。そこで、ビニルリン酸を出発物質として不安定なエステル結合によりビニル基を導入することで、無害で分解が容易なラジカル重合可能架橋剤を新たに合成し、そのポリマーの特性を調査した。得られたポリマーは始め、溶媒に不溶なゲルであるが、熱によって容易にエステル結合が加水分解され、架橋ポリマーから直鎖ポリマーになることで溶媒に可溶となることがわかった。そして、このような性質を持った機能性ポリマーはホットメルト接着の分野への応用が期待できる。次に、選択的分子認識機能を有した分子インプリントポリマー(MIP)の開発を行った。酵素や抗体などに代表される分子認識性高分子は我々の生命活動において非常に重要な役割を演じており、このシステムに異常が生じると糖尿病や痛風、脂質異常症のような治療困難な疾患を招くことがよく知られている。近年、このような疾患を持つ患者は増加しており、治療方法の開発が望まれている。そのような社会情勢の中、高分子などの材料に人工的に分子認識性を付与し、ターゲット分子に対して選択的認識性や吸着性を持たせることができる分子インプリント法がそれらの治療法開発の一手段として注目を集めている。そこで、本研究では生体物質であり代謝によって痛風の原因である尿酸を生じるイノシン(INO)をターゲット分子として、乳化重合によりMIPの作製を行い、その基質認識性や吸着特性などを評価した。その結果、作製したMIPはターゲットであるINOに対して高い選択的吸着性能を有することが確認でき、乳化重合に用いた乳化剤との協調的結合作用もまた確認されたさらに、脂質異常症の原因物質であるコール酸に対するMIPの作製も行った。作製したコール酸インプリントポリマーもまたコール酸に対して高い選択的吸着性を示した。
また、蛍光分光法を用いた研究によってMIPのコール酸インプリントサイトにコール酸のみが結合できることを見出し、そのためにMIPの選択的吸着性が発揮されることを明らかにした。最後に、熱応答性を有するポリマーハイドロゲルにおける超音波応答性についての研究を行った。この研究の背景には、環境応答型ハイドロゲルと呼ばれるpHや温度などの外部刺激に対して可逆的に膨潤、収縮を起こすようなポリマーハイドロゲルが分離、認識や薬学などの分野への応用が期待できるということがある。特に、熱応答性を有するN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)については相転移温度が体温に近いことから盛んに研究が行われている物質である。今回、本研究ではこのNIPAM系のポリマーハイドロゲルに熱以外の新しい外部刺激として超音波を照射し、その膨潤・収縮挙動に対する超音波の効果を調査することを目的とした。まずNIPAMとアクリル酸、メチレンビスアクリルアミドからなるマイクロハイドロゲルをサーファクタントフリー重合により作製した後、超音波を照射し、温度に対するハイドロゲルの粒子径変化を調査した。その結果、超音波照射によりハイドロゲルの粒子径が増加し、相転移温度は5℃程高温側へシフトすることがわかった。次に、水存在下でFT-IR測定を行うことによって、それらの現象は超音波がマイクロゲル内部の水素結合を切断し、空いたスペースに水分子が水和することによって引き起こされることがわかった。

 本論文は、「Study of Crosslinked Polyelectrolyte Hydrogel Materials Having Several Functionarities (新規架橋ポリ電解してハイドロゲル材料の機能化に関する研究)」と題し、7章より構成されている。
 第1章では「General Introduction」では、一般的なポリ電解質ハイドロゲル材料の特性や応用例、現状の課題、機能化の手法などを示すとともに、本研究の意義、独創性を述べ、研究目的について記述している。
 第2章では、「Polyvinylphosphonic Acid Hydrogels」においては、人体や環境などへの負荷が少ないリン酸型のハイドロゲルに着目し、ビニルリン酸と架橋剤との共重合体作製方法について記述し、得られたリン酸基型ハイドロゲルの吸水特性などの基本物性を検討している。この結果、リン酸基の含有量により吸水性は増加するが、高含有率になると逆に低下する傾向があった。赤外分光光度法による解析の結果、リン酸基同士の水素結合が、ハイドロゲルの吸水性を妨げている事が判明した。
 第3章においては、新規架橋性モノマーとして、メタアクリロイル系リン酸エステルをもちいた「Thermally Decomposable Gels」について述べている。電解質ハイドロゲル材料において、架橋剤の毒性や分解性などの問題点について解説するとともに、ビニルリン酸誘導体からの新規架橋剤合成手順およびそのポリマー合成について述べている。その材料の熱特性を詳細に調べ、得られたハイドロゲルは熱によって容易に分解されることを示した。
 第4章「Molecular Imprinting Polymers Having Cooperative Effect」および第5章「Bile Acid Imprinting Polymers」では、ハイドロゲル材料の機能化の一つの手法として、分子インプリント法に着目し、鋳型分子に対して選択的分子認識機能を有するポリマーハイドロゲル材料の開発を行った結果について述べている。
 第5章では、鋳型分子としてイノシンをハイドロゲル材料に記憶させ、イノシンに対する選択的認識性およびその吸着挙動を明らかにした。粒状化ハイドロゲルの作製の際に界面活性剤をもちいた乳化重合を利用することでイノシンと界面活性剤の協調的吸着効果が現れることを見いだした。第5章では、胆汁酸をターゲット分子としたインプリントポリマーの作製方法について述べ、得られたポリマーが胆汁酸に対して高い選択性吸着性能を有することを確認し、ジビニルベンゼン架橋部位のフェニル基の蛍光スペクトルを利用することで、ポリマーの分子認識特性を評価できる事を示した。
 第6章の「Sono-respond on Thermosensitive Polymers」では、外部刺激によるハイドロゲルの刺激応答性の研究は大変多いが、初めて音の活用に見いだし、そのマイクロサイズのハイドロゲルの体積相転移挙動に、超音波が影響することを見いだし、その研究結果について記述している。熱応答で体積を変化させN-イソプロピルアクリルアミド系の荷電基を有するハイドロゲルを合成し、その膨潤・収縮挙動における超音波効果を調査し、100kHzの周波数の超音波照射によりハイドロゲルの粒子径が増加し、相転移温度が高温側へシフトすることを見いだした。これは超音波によるハイドロゲル特性制御の初めての知見となった。
 第7章では、本研究で得られた知見をまとめるとともに、ポリ電解質ハイドロゲル材料の将来性について述べている。
 以上のように、本研究の成果は、新規のポリ電解質ハイドロゲル材料の作製や機能化、応用に関して重要な知見を与えるものである。よって、本論文は工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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