本文ここから

超音波を用いた材料の温度分布モニタリングに関する研究

氏名 高橋 学
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第532号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 超音波を用いた材料の温度分布モニタリングに関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 井原 邦夫
 副査 教授 福澤 康
 副査 准教授 古口 日出男
 副査 准教授 青木 和夫
 副査 准教授 田辺 郁男

平成21(2009)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論
 1.1 緒言 p.1
 1.2 背景 p.1
 1.2.1 工学における温度とその計測法 p.1
 1.2.2 工業プロセスにおける温度計測 p.6
 1.2.3 超音波を用いた物体内部の温度計測 p.11
 1.3 本研究の目的 p.13
 1.4 本論文の構成 p.13
 第1章の参考文献 p.14
第2章 材料内部の温度分布計測への超音波法の適用
 2.1 緒言 p.20
 2.2 超音波パルスエコー計測と熱伝導解析モデルを用いた温度分布の同定 p.21
 2.2.1 超音波による温度計測の原理 p.21
 2.2.2 片側加熱された材料中の温度分布 p.22
 2.2.3 解析モデルを用いた温度分布の解析手法 p.25
 2.2.4 数値シュミレーションによる解析手法の検証 p.27
 2.3 厚板の加熱実験による解析手法の検証 p.33
 2.3.1 シリコーンゴムの加熱実験 p.33
 2.3.2 結果および考察 p.38
 2.3.3 対流の影響の検証 p.42
 2.3.4 結果および考察 p.45
 2.4 結言 p.50
 第2章の参考文献 p.51
 付録 ラプラス変換を用いた解析解の導出 p.55
第3章 超音波法と差分法解析を用いた温度分布評価
 3.1 緒言 p.57
 3.2 逆解析手法の構築 p.58
 3.2.1 超音波計測と差分法解析を用いた温度分布計測の解析手法 p.58
 3.2.2 数値シュミレーションによる解析手法の検証 p.62
 3.2.3 熱膨張の影響の検討 p.64
 3.3 緒言 p.69
 3.3.1 鋼板の加熱、冷却実験 p.69
 3.3.2 結果および考察 p.72
 3.3.3 熱膨張の影響の検証 p.80
 3.3.4 結果および考察 p.81
 3.4 結言 p.86
 第3章の参考文献 p.87
第4章 鋳造モニタリングへの超音波法の適用
 4.1 緒言 p.89
 4.2 温度分布モニタリング手法の高速化 p.89
 4.2.1 温度分布解析の因子と解析時間 p.90
 4.2.2 高速化手法の妥当性の検証 p.92
 4.2.3 高速化手法を用いた温度分布のリアルタイム計測 p.100
 4.3 鋳造金型および凝固材料の温度分布モニタリング p.104
 4.3.1 低融点合金を用いた鋳造模擬実験 p.105
 4.3.2 計測結果 p.108
 4.3.3 凝固材料内部の温度分布計測 p.114
 4.4 高温プロセスへの適用 p.118
 4.4.1 溶融アルミとの接触による加熱実験 p.118
 4.4.2 結果および考察 p.119
 4.5 結言 p.125
 第4章の参考文献 p.126
第5章 非接触温度モニタリングへのレーザー超音波法の適用
 5.1 緒言 p.129
 5.2 レーザー超音波法による非接触計測 p.130
 5.2.1 レーザーによる超音波の励起および検出 p.130
 5.2.2 パルスレーザーのスキャニングによるバルク波および表面波の計測 p.134
 5.3 レーザー超音波法を用いた非接触の温度分布計測 p.142
 5.3.1 レーザー超音波法を用いた物体表面の温度分布計測 p.142
 5.3.2 結果および考察 p.144
 5.3.3 レーザー超音波法を用いた物体表面および物体内部の温度分布計測 p.148
 5.3.4 結果および考察 p.148
 5.4 結言 p.157
 第5章の参考文献 p.158
第6章 総括 p.160
謝辞 p.163

 材料の特性と温度の間には密接な牽連性が存在する。工業、工学の幅広い分野において、温度は時間と共に変化する指標であるため、この情報を非破壊的かつ精度良くモニタリングする手法の実現が切望されている。本研究では、工業プロセスへ適用可能な温度計測法として、超音波を用いた高温材料の温度分布のモニタリング手法について検討した。

 第1章では、工業、工学における温度の影響および計測方法について概説し、オンラインでの温度モニタリング手法に対して超音波計測を適用する意義と本研究の目的を明らかにした。

 第2章では、材料中を伝播する超音波の伝播時間から温度分布を同定する原理について概説し、加熱状態にある材料内部の温度変化を同定する手法について検討した。まず、パルスエコー計測で計測される超音波の伝播時間と熱伝導解析を組み合わせた簡便な逆解析手法を提案し、数値モデルを用いた検証によってその妥当性を確認した。次に、シリコーンゴムを高温のSKD鋼板で加熱する実験を行ない、加熱材料内部の温度分布を同定する検証を行なった。その結果、同定された温度分布は熱電対で測定した温度分布、熱伝導解析から求められる理論予想値と良く一致し、本手法を用いて材料内の温度分布を正確に計測できることが実証された。さらに、ダイカスト工程への適用の検討として、SKD鋼板を温水で加熱する実験を行ない、加熱時における温度分布の変化を超音波法で同定する実験を行なった。その結果、超音波を用いて同定した温度分布は熱電対、理論予測値と異なり、正確に温度分布を計測できなかった。この原因には温水の対流によって、温度分布モデルの仮定に用いた熱的境界条件が満たされなかったことが関係していると考えられる。

 第3章では、一次元の差分法解析と超音波計測を組み合わせた新たな温度分布解析手法の提案を行なった。また、材料の熱膨張による誤差の影響についても検討を行った。新たに構築した手法の有効性を検証するため、数値モデルに対して本手法を適用した所、真値と良く一致し、本手法の妥当性が確認された。次いで、提案した温度分布解析法の実現可能性を検証するために、加熱、冷却される鋼板を対象にした実験を行なった。超音波法を用いて同定した温度分布は比較用の熱電対で測定した温度分布と数℃以内で一致し、本手法の実現可能性が確認された。また、熱膨張の影響を検証するため、SKD鋼と線膨張係数が異なるアルミ厚板を用いた実験を行ない、材料の熱膨張に影響されることなく温度分布の解析を行なえることを検証した。

 第4章では、超音波法の鋳造モニタリングへの適用について各種検討を行った。まず、温度分布解析手法の高速化について検討した。ダイカスト工程では、材料内部の急激な温度変化が想定される。超音波は高い時間分解能での計測が期待されることから、これを実現するために、温度分布を短時間で解析する手法について新たな定式を提案した。提案した手法を氷との接触によって急冷される鋼板内部の温度分布モニタリングに適用したところ、熱電対では応答が困難であった急激な温度変化を測定できることが確認された。次に、溶融金属の凝固プロセスに超音波法を適用する検討として、低融点合金を用いた鋳造模擬実験を行ない、金型および凝固材料内部を伝播した超音波信号を用いて温度分布の同定を試みた。その結果、金型内壁が溶融金属との接触によって急激に加熱される様子や、凝固材料内部の温度分布が金型の温度と等しくなるまでの過程を時間分解能良く計測できることが確認された。さらに、SKD鋼板の底面を溶融アルミニウムに接触させて急激に加熱する実験を行ない、超音波計測を高温環境へ適用するための検討を行なった。鋼板内部の温度分布を超音波法で同定した結果、熱電対で測定した温度分布とほぼ一致し、超音波法を用いた温度計測手法は、室温から300℃の範囲で適用可能であることを確認した。

 第5章では、温度モニタリングへのレーザー超音波法の適用の検討を行なった。まず、レーザー超音波法の基礎的検討として、アルミ板の表面、側面、裏面に対してパルスレーザーの走査を行ない、レーザー超音波法で計測される弾性波の特性について検証した。次いで、鋼板およびアルミ板を250℃のヒーターによって加熱する実験を行ない、材料表面および内部の温度分布の計測に超音波法を適用した。その結果、同定された温度分布は比較用の赤外線カメラで測定した結果と良く一致した。これらの検討より、レーザー超音波法は従来の赤外線放射温度計では適用が困難な金属光沢面を持つ物体表面に対して適用可能である点、高温の物体に対しても適用可能である点、測定対象に非接触で計測が行なえる等の特徴が見いだされた。

 第6章では,以上の結果をとりまとめ総括としている。

 本論文は、「超音波を用いた材料の温度分布モニタリングに関する研究」と題し、6章より構成されている。

 第1章「序論」では、工業、工学における温度計測手法の現状と問題点を概説するとともに、材料の温度分布モニタリングへの超音波法の適用の意義を踏まえて本研究の位置付けと目的を述べている。

 第2章「材料内部の温度分布計測への超音波法の適用」では材料中を伝播する超音波の伝播時間から温度分布を同定する原理について説明し、加熱状態にある材料内部の温度変化を評価する手法について検討している。まず、物体中の超音波伝播時間と熱伝導解析を組み合わせた簡便な解析手法を提案し、その妥当性を数値実験により確認している。さらに、片側加熱されるシリコーンゴム内部の温度分布モニタリングに同手法を適用し、モニタリングされた温度分布が熱電対による測定結果ならびに熱伝導解析による理論予測値と一致することを確認し、本手法の有効性を実証している。また、加熱面の熱的境界条件が未知の場合には本手法が適用できないという問題点を指摘している。

 第3章「超音波法と差分法解析を用いた温度分布の評価」では、第2章で指摘された問題点を克服するために、一次元の差分法解析と超音波計測を組み合わせた新たな温度分布解析手法を提案している。まず、数値モデルに対して同手法を適用し、その妥当性を検証している。次いで、この手法の実用性を検証するために、加熱または冷却される鋼板を対象とした実験を行い、超音波法による評価結果が熱電対による測定結果と数℃以内で一致することを確認している。また、加熱されるアルミ厚板に対して同手法を適用し、材料の熱膨張に影響されることなく温度分布の解析が可能であることを検証している。

 第4章「鋳造モニタリングへの超音波法の適用」では、第3章において開発した超音波法の鋳造モニタリングへの適用について検討している。まず、温度分布解析手法の高速化を図るための解析手法を提案している。この手法を氷との接触によって急冷される鋼板内部の温度分布モニタリングに適用し、熱電対法よりも時間応答性に優れることを実証している。これに基づいて、低融点合金の鋳造実験に同手法を適用し、鋳型および凝固材料内部の温度分布モニタリングを試みている。さらに、700℃の溶融アルミニウムとの接触により加熱される鋼厚板に同手法を適用し、厚板内部の温度分布モニタリングに成功している。

 第5章「非接触温度モニタリングへのレーザー超音波法の適用」では、レーザー超音波法を用いた温度モニタリングについて検討している。250℃のヒーターによって加熱される鋼板またはアルミ板に対してレーザー超音波法を適用し、その表面および内部の超音波を非接触で測定することにより、材料表面および内部の温度分布モニタリングに成功している。

 第6章では本研究で得られた結果を総括し、今後の展望について述べている。

 以上のように、本論文は超音波を用いた材料の温度分布モニタリングについて検討し、その有用性を実証したものであり、工学および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成21(2009)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る