本文ここから

炭素繊維シートを用いた鋼構造物の合理的補修工法の開発研究

氏名 杉浦 江
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙279号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 炭素繊維シートを用いた鋼構造物の合理的補修工法の開発研究
論文審査委員
 主査 教授 長井 正嗣
 副査 准教授 岩崎 英治
 副査 准教授 高橋 修
 副査 准教授 下村 匠
 副査 首都大学東京大学院都市環境科学研究科教授 野上 邦栄

平成21(2009)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 緒論 p.1
 1.1 研究の背景と意義 p.1
 1.2 鋼構造物の損傷と劣化要因 p.2
 1.3 鋼部材の合理的補修工法の提案 p.3
 1.4 本研究の目的 p.5
 1.5 本論文の内容 p.6
 参考文献 p.7
第2章 炭素繊維シートを貼付した鋼材の力学的挙動 p.11
 2.1 緒言 p.11
 2.2 炭素繊維シートを貼付した鋼材の引張試験 p.12
 2.2.1 実験内容 p.12
 2.2.2 実験結果と考察 p.13
 2.3 炭素繊維シートを貼付した鋼部材の3点曲げ試験 p.17
 2.3.1 実験内容 p.17
 2.3.2 実験結果と考察 p.20
 2.4 炭素繊維シートを貼付した鋼部材の4点曲げ試験 p.27
 2.4.1 実験内容 p.27
 2.4.2 実験結果と考察 p.28
 2.5 結言 p.33
 参考文献 p.33
第3章 鋼部材断面欠損部の補修効果に関する実験研究 p.35
 3.1 緒言 p.35
 3.2 炭素繊維シートにより補修された孔あき鋼板の引張試験 p.35
 3.2.1 実験内容 p.35
 3.2.2 実験結果と考察 p.37
 3.3 断面欠損を模擬した鋼製粱による補修効果の確認実験 p.39
 3.3.1 実験内容 p.39
 3.3.2 実験結果と考察 p.43
 3.4 まとめ p.50
 参考文献 p.50
 炭素繊維シートの接着方法に関する研究 p.53
第4章 4.1 緒言 p.53
 4.2 下地処理方法に着目した実験研究 p.54
 4.2.1 実験内容 p.54
 4.2.2 実験結果と考察 p.56
 4.3 接着端部の仕上げ方法に着目した解析的研究 p.59
 4.3.1 予備実験の内容 p.59
 4.3.2 解析内容 p.61
 4.3.3 実験および解析結果と考察 p.64
 4.4 鋼部材の断面欠損部補修を想定した炭素繊維シートの接着方法 p.78
 4.5 結言 p.79
 参考文献 p.80
第5章 腐食損傷した鋼構造物の補修における設計・施工法の検討 p.81
 5.1 緒言 p.81
 5.2 木工法の適用範囲 p.82
 5.3 設定法 p.84
 5.3.1 使用する材料 p.84
 5.3.2 炭素繊維シート積層数 p.87
 5.3.3 補修範囲 p.90
 5.3.4 炭素繊維シートの録離に対する照査 p.91
 5.3.5 CFRPの耐久性について p.93
 5.4 施工法 p.94
 5.4.1 施工手順 p.94
 5.4.2 施工上の留意点 p.96
 5.5 結言 p.97
 参考文献 p.97
第6章 実構造物を対象とした補修効果の検証 p.99
 6.1 緒言 p.99
 6.2 対象橋梁と補修設計 p.99
 6.2.1 対象橋梁 p.99
 6.2.2 腐食による断面欠損量の調査 p.100
 6.2.3 炭素繊維シートによる腐食損傷部の補修 p.102
 6.3 補修効果の計測 p.104
 6.3.1 計測方法 p.104
 6.3.2 計測結果 p.105
 6.4 結言 p.110
 参考文献 p.110
第7章 結論 p.111
謝辞 p.115

鋼構造物は,道路,河川,港湾をはじめとした社会資本整備のために重要な役割を担ってきた.これらの多くは高度成長期に整備され,道路や鉄道,上下水道,通信施設などのライフラインは,今日の社会生活にかかせないものとなっている.近年においては,これら構造物の高齢化にともなって,予防保全による施設の延命化推進,維持管理費用の縮減,更新時期の平準化を図ることが重要な課題となりつつある.
そのような中,予防保全の対象となる供用中の構造物には,施工スペースや工期,コストなどに関する多くの困難な制約条件によって,補修・補強における技術的課題が高度化してきている.従来,土木分野における鋼構造物の補修・補強材料としては,鋼材やコンクリート材料が多く用いられてきたが,これらの技術的課題を克服できる新材料の適用が広がりを見せている.なかでも,現有の鋼・コンクリートに匹敵し,設計・施工技術を大きく変える革新的な性能を有する材料の代表格として,繊維強化プラスチック(FRP : Fiber Reinforced Plastic)が注目を浴びている.FRPは,高強度,高弾性,軽量,高耐久性といった特長を有し,補修・補強材料としての更なる活用が期待されている.
本論文は,既に建設された多くの鋼構造物を貴重な社会資本として延命化させ,安全性,信頼性,耐久性を確保しながら,さらに維持管理コストの最小化を図るという観点から,炭素繊維シートを用いた鋼構造物の補修工法を対象に,その合理的な設計法や施工法の確立に資するために実施した一連の実験的ならびに数値解析的研究についてまとめたものである.本論文中には,設計,施工上の留意点ならびに,腐食損傷した実橋梁への適用事例を述べており,研究,設計,施工計画,管理技術者に有益な資料を提供するとともに,本論文が同種の補修を実施する際の補修設計,補修計画を行う上で,大きく貢献するものであるといえる.本論文は,7章より構成されており,本研究で得られた各章ごとの主な結論は,以下のとおりである.
 第1章では,社会基盤施設としての鋼構造物を取り巻く現状から本研究の背景と意義を説明し,鋼構造物の損傷と劣化要因を概説した上で,本研究の対象とした炭素繊維シートを用いた補修方法が,既設構造物の補修工法として効果的かつ効率的であることを示し,その設計法,施工法を確立する上で重要となる諸課題を示した.そして,本研究の位置づけと目的を明らかにするとともに,本論文を構成する各章の概要を示した.
 第2章では,炭素繊維シートが貼付けられた鋼材の力学的特性を実験的に調べるため,設計法の確立に必要となる基礎データを取得した.その結果,炭素繊維シートを接着した鋼材は,CFRPと鋼材で構成される合成部材としての計算値と一致し,炭素繊維シートの積層数に応じた応力改善効果が得られることを明らかにした.また,CFRPの剥離強度や,接着長さの影響など,補修設計に有用となる実験データを提示した.
 第3章では,断面欠損を有する鋼部材を対象として,炭素繊維シートによる補修効果を実験的に確認した.ここでは,鋼製梁のフランジ部に腐食損傷を模擬した断面欠損を有する試験体で載荷実験を行い,鋼材の欠損断面積に応じて,同等の鋼換算断面積となるCFRPを接着することで,引張応力下,圧縮応力下ともに断面欠損の形状によらず無損傷の断面剛性まで回復できることを示し,設計時の初期性能を回復,もしくは現状維持を目的とすれば,本工法が十分効果的な方法であることを明らかにした.
 第4章では,実構造物への施工を想定した炭素繊維シートの接着方法に着目した各種実験,数値解析を実施した.はじめに,既設構造物の塗膜の影響に着目した確認実験より,炭素繊維シートの接着面に塗膜が存在すると,荷重伝達が十分なされないことを明らかにし,所要の応力改善効果を得るための接着面下地処理の必要性を明確にした.つぎに,接着端での応力集中の緩和を意図して,炭素繊維シートを階段状にずらして接着することを提案し,剥離抵抗力が向上することを明らかにした.
 第5章では,第4章までに得られた知見をもとに,炭素繊維シートを用いた鋼部材腐食損傷部の補修工法に関する具体的な設計法,施工法を提示した.本工法で使用する強化繊維および樹脂材料の特徴を紹介し,補修対象部材の欠損断面積に応じた炭素繊維シート積層数や補修範囲の決定方法,CFRPの剥離強度の考え方について,基礎試験の結果を含めて提示した.また,本工法の施工方法について,その詳細手順の説明とともに,各工程の目的と必要性を明らかにし,特に注意すべき施工上の留意点を示した.最後に,常時荷重作用下における疲労剥離強度や,屋外自然環境下における劣化度合いなど,長期耐久性に関するデータの蓄積が,本工法の信頼性向上に向けた今後の課題であることを述べた.
 第6章では,既設のトラス橋への適用事例として,設計計算方法,施工方法,補修効果確認試験の結果を紹介した.試験車両走行時の動ひずみ計測結果および24時間の応力頻度計測結果を示し,補修前後の発生ひずみを比較することで,所要の補修効果が得られたことを報告した.
 最後に,第7章では,本論文で得られた結論をまとめて示した.

本論文は「炭素繊維シートを用いた鋼構造物の合理的補修工法の開発研究」と題し、7章より構成されている。
第1章の「緒論」では、社会基盤施設の老朽化が進行し、その合理的補修工法の開発が急務となっている現状、すなわち本研究の背景と、あわせて本工法の意義を説明するとともに、設計、施工法の確立の必要性を含めた本研究の目的と検討の範囲を述べている。
第2章の「炭素繊維シートを貼付した鋼材の力学的挙動」では、炭素繊維シートが貼り付けられた鋼材の力学特性を実験的に検討し、シート接着鋼材の応力値は合成部材の計算値と一致し、また積層数に応じた応力改善効果が得られることを明らかにしている。あわせ、炭素繊維シートの剥離強度や、剥離に及ぼす接着長の影響など、設計法確立に有益となる実験データを得ている。
第3章の「鋼部材断面欠損部の補修効果に関する実験研究」では、断面欠損した鋼部材を対象に、炭素繊維シートによる補修効果を実験的に検討し、断面欠損に応じた鋼換算断面を有する炭素繊維シートでもって、無損傷断面まで性能回復が可能となることを明らかにしている。
第4章の「炭素繊維シートの接着方法に関する研究」では、実構造物での施工を想定した炭素繊維シートの接着法について実験的、解析的検討を行っている。その結果、既設鋼構造物の塗膜についてその処理方法を提案するとともに、接着端での応力集中の緩和を意図した最適ずらし量の提案を行っている。
第5章の「腐食した鋼構造物の補修における設計・施工法の検討」では、第4章までに得られた知見に基づき、炭素繊維シートを用いた腐食損傷を有する鋼部材の補修工法に関する具体的な設計法、施工法を提示している。炭素繊維シートの必要積層数や貼付け長さの決定法、剥離防止のための効果的対策を提示するとともに、具体的な施工手順や、施工上の注意点を示している。
第6章の「実構造物を対象とした補修効果の検証」では、高速自動車道で供用中の鋼トラス橋への適用例を示している。実橋梁での具体的な設計例、施工方法を示している。また、試験車両を走行させ、補修前後の計測ひずみの比較から、本工法の有用性を示している。
第7章の「結論」では、本研究で得られた結論が述べられている。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分価値を有するものと認める。

平成21(2009)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る