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周波数可変ダイオードレーザを光源とする位相変調ホモダイン変位計測干渉計

氏名 石下 雅史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第549号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 周波数可変ダイオードレーザを光源とする位相変調ホモダイン変位計測干渉計
論文審査委員
 主査 准教授 明田川正人
 副査 教授 柳 和久
 副査 教授 伊藤 義郎
 副査 准教授 平田 研二
 副査 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻准教授 高橋 哲

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目次
第1章 序論
 1.1 本研究の背景 p.1
 1.1.1 極微細形状加工分野における変位測定と評価法 p.1
 1.1.2 変位測定のためのレーザ干渉計の研究状況 p.5
 1.3 本研究の目的 p.19
 1.4 論文の構成 p.19
第2章 1個の周波数可変レーザを用いる光路差変化測定法
 2.1 はじめに p.21
 2.2 原理 p.22
 2.2.1 位相変調ホモダイン干渉計の原理 p.22
 2.2.2 1個の周波数可変レーザを用いる光路差変化測定法の原理 p.26
 2.3 実験装置 p.29
 2.4 実験結果と考察 p.35
 2.4.1 高周波数走査による干渉計光路差測定 p.35
 2.4.2 提案するシステムによる変位測定の検証 p.36
 2.4.3 商用ヘテロダインレーザ干渉計の内装誤差検出 p.38
 2.4.4 不確かさ評価 p.44
 2.5 使用確認 p.47
 2.6 まとめ p.50
第3章 2個の周波数うか片レーザを用いる光路差直接測定法
 3.1 はじめに p.51
 3.2 2個の周波数うか片レーザを用いる光路差直接測定法の原理 p.53
 3.3 実験装置 p.55
 3.4 実験結果と考察 p.59
 3.4.1 高周波数走査による光路差直接測定の検証 p.59
 3.4.2 2個の周波数可変レーザを用いる光路差直接測定 p.64
 3.4.3 不確かさ評価 p.69
 3.5 使用確認 p.73
 3.6 まとめ p.75
第4章 周波数可変レーザを用いた空気屈折率変動検出法
 4.1 はじめに p.77
 4.2 空気屈折率変動の検出原理 p.77
 4.2.1 Ciddorの式による空気屈折率の算出 p.77
 4.3 周波数可変レーザを用いた空気屈折率変動検出法の原理 p.83
 4.4 変位測定における屈折率変動補償の原理 p.85
 4.5 実験装置 p.87
 4.6 実験結果と考察 p.90
 4.6.1 周波数可変レーザを用いた空気屈折率変動検出法による空気屈折率変動の検出 p.90
 4.6.1.1 干渉計光路差の確認 p.90
 4.6.1.2 大きな屈折率変化 p.91
 4.6.1.3 小さな屈折率変化 p.82
 4.6.2 変位測定における屈折率変動補償の試み p.95
 4.7 不確かさ評価 p.97
 4.8 使用確認 p.101
 4.9 まとめ p.103
第5章 結論 p.105
参考文献 p.107
関連論文・学会発表 p.117
謝辞

近年,ナノテクノロジの発展は目覚ましく,特に半導体などの極微細形状加工分野の技術発展は顕著である.このように微細加工技術が進展するに伴い,加工や評価技術において重要な要素である変位や長さの計測技術への要求も高度になっている.今後の技術進展を考えるとサブナノメートル以下の高精度・高分解能な変位測定法が必要となる.
 レーザ干渉計は原理的な特徴から高精度かつ高分解能を有し,メートル標準に対してトレーサブルであるため,微細形状加工分野や評価分野に広く使用されている.しかし,レーザ干渉計の基本単位は波長であり,それ以下の変位や長さを決定する補間法が必要である.レーザ干渉計において測定精度向上を妨げる原因は,主に「補間誤差」,「光周波数変動」,「空気屈折率変動」である.これらの問題に対して,過去に多くの研究者が提案を行ってきた.特に補間誤差に関しては多くの研究例があるが,原理的に補間誤差を排除するには至らなかった.一方で,新たな干渉計の可能性も追求されている.近年,光周波数コムの出現によりメートル標準体系に大きな変化が起こっている.これまでのメートル標準は,光速度を介した光波長であった.しかし,光周波数コムの出現により,光速度を介した光周波数となりつつある.したがって,周波数から長さや変位を直接測定が可能となった.新たなメートル標準に対応するように光周波数から変位を測定する新たな方式のレーザ干渉計がいくつか提案されている.提案するシステムでは,光源の周波数変化から変位を検出するため,従来の干渉計のように干渉縞の計数や位相の測定などを行う必要がない.したがって,補間誤差は原理的に発生しないため,不確かさの観点から有利である.さらに,新たなメートル標準体系においても,従来の干渉計よりもトレーサビリティの確保の観点から優位である.
 本論文で提案する手法は,位相変調ホモダイン干渉計を基本とするシステムを用いる.位相変調ホモダイン干渉計は,一般のホモダイン方式のマイケルソン干渉計の出力が微分された状態となり,直流成分が除去され,暗縞と明縞がゼロクロスする信号となる.この特徴から,光路差変化(変位)を半波長ごとに零位法によりピコメートルオーダの精度で検出することが可能となる.本論文の干渉計システムは,周波数可変レーザを位相変調ホモダイン干渉計の光源に用いることで,干渉計の可動鏡が変位する際に,この干渉計出力のゼロクロス点を維持するように光周波数を制御し,変位に応じた光周波数変化を測定することで変位を検出するという特徴を持つ.
以上の特徴を持つ干渉計システムを基本とし,本論文では,以下に示す3つのシステムを複合した変位測定システムを提案した.

(1)『1個の周波数可変レーザを用いる光路差変化測定システム』
 周波数可変レーザを光源とした変位測定を目的とするシステム.

(2)『2個の周波数可変レーザを用いる光路差直接測定システム』
 2個の周波数可変レーザを光源として干渉計光学系の光路差を測定するシステム

(3)『周波数可変レーザを用いた空気屈折率変動検出システム』
 周波数可変レーザを光源とし,極低熱膨張材料で製作した干渉計光学系を利用した空気屈折率変動を検出するシステム

本論文では,(1)から(3)の要素をそれぞれに対して,実験装置を構築し,検証を行い,原理的に位相補間による誤差が発生せず,空気屈折率変動の影響を補償し,かつ,新たなメートル標準に準拠する新たな干渉測定システムを構築することを目的とした.
本論文は,全5章で構成されており,第1章の「序論」では,まず研究背景を述べたのち,従来の変位測定用レーザ干渉計の問題点と,その問題点に対する対策の提案について述べ,従来研究に対する位置づけを示した.第2章の「1個の周波数可変レーザを用いる光路差変化測定法」では,周波数可変レーザを用いた変位測定用レーザ干渉計システムの測定原理を述べ,本手法の原理実証のため,実験装置構築および実験,そして,商用の精密長さ測定機との比較実験を行い,本システムの優位性を示した.第3章の「2個の周波数可変レーザを用いる光路差直接測定法」では,周波数可変レーザを用いた干渉計光学系の光路差直接測定法の測定原理を示し,光路差の直接測定原の実証実験を行った.第4章の「周波数可変レーザを用いた空気屈折率変動検出法」では,周波数可変レーザを用いた空気屈折率変動検出法の原理を述べ,本手法を実現するための実験装置の検討,空気屈折率変動の検出実験を行い,変位測定システムの屈折率変動補償を行った.第5章の「結論」では,第1章で述べた変位測定システムについて,第2章から第4章までに述べた各要素における検討を整理し,本論文を総括する.

本論文は「周波数可変ダイオードレーザを光源とする位相変調ホモダイン変位計測干渉計」と題し、5章で構成されている。
 第1章では、研究背景と目的を述べている。ナノメートル以下の分解能を有する変位計測法が産業界で必要とされることを最初に記している。工業上の標準変位計測法はレーザ干渉測長法であるが、その問題点として、波長以下の長さを内挿する際の誤差(補間誤差)、及び空気屈折率変動に伴う誤差がナノメートル以上であることを指摘している。この二つの問題をすることが本研究の目的であることを述べている。
 第2章では、位相変調ホモダイン干渉計に1個の周波数可変レーザを光源として用いる新しい測定法の原理および実験に関し論じている。この干渉計は、特定の次数の干渉縞を零位法にて検出・追尾が可能である。干渉計可動鏡が変位するとき、特定の次数の干渉縞を追尾するように光源レーザの光周波数を調整すれば、初期光路差に対する光路差変化(=変位)を光源の周波数変化で算出できる。この方法では、干渉縞の縞移動を計数しないので補間誤差が原理的にない。提案法と商用の変位計測ヘテロダイン干渉計を比較し、商用干渉計の補間誤差を不確かさ0.8nmで計測・校正した。
 第3章では、初期光路差を2個の周波数可変レーザで実時間かつ直接測定する手法に関し述べている。初期光路差は光速度を隣り合った次数の干渉縞間の周波数差(FSR)で割ったものに等しい。第2章で提案した手法では、予め初期光路差は、周波数を動かして干渉縞を走査しFSRから決定しておく必要がある。測定範囲を拡大するには初期光路差を逐次求め、光路差変化(変位)を逐次積分する。1個の周波数可変レーザを用いる場合は、上で述べた干渉縞走査に時間がかかり、実時間測定が難しい。3章では、この問題を解決する手法に関して提案実験を行っている。位相変調ホモダイン干渉計の光源として2個の周波数可変レーザを採用し、干渉計光路を両方の光源に対し対称かつ共通とする。このとき2個のレーザの周波数差を隣り合った次数をもつ干渉縞に一致するよう追尾制御を行う。このとき2個のレーザの周波数差はFSRそのものになり、初期光路差を実時間で決定できる。実験では実時間で初期光路差を計測でき、測定範囲を拡大できることを示した。
 第4章では、極低熱膨張材で構成した位相変調ホモダイン干渉計と1個の周波数可変レーザを用いた空気屈折率変動検出法に関し述べている。光路差は屈折率と幾何学長の積となるので、もしこの干渉計において幾何学的長に変化がなければ屈折率変動を、光路差変化として検出可能である。極低熱膨張材で作られた位相変調ホモダイン干渉計において、特定次数の干渉縞にロックすれば、温度変化が少ない場合は幾何学長変化が無視でき、屈折率変動を光源の周波数変化として検出できる。極低熱膨張材を用いて位相変調ホモダイン干渉計を製作し、屈折率変動を光源の周波数変動により計測した。空気の温度変動が30mK以下のとき、10-8オーダの測定不確かさで空気屈折率変動を測定した。
 第5章では、本論文で得られた結論を総括している。位相変調ホモダイン干渉計と周波数可変レーザを複合することで変位を周波数計測から行うことができる。また補間誤差および空気屈折率変動の影響を排除できるので、サブナノメートル以下の測定不確かさで変位を決定可能であることを示した。
 以上の通り、本論文は工学的に貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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