透光性窒化アルミニウムセラミックスの光透過率と格子欠陥に関する研究
氏名 本間 隆行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第533号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 透光性窒化アルミニウムセラミックスの光透過率と格子欠陥に関する研究
論文審査委員
主査 教授 高田 雅介
副査 教授 植松 敬三
副査 教授 末松 久幸
副査 准教授 安井 寛治
副査 准教授 河合 晃
副査 准教授 岡元 智一郎
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目次
第1章 緒言
1-1 本研究の背景 p.1
1-1-1 窒化アルミニウム p.1
1-1-2 AINの基本物性 p.2
1-1-3 AINの高熱伝導化 p.4
1-1-4 液相焼結 p.7
1-1-5 透光性セラミックスの研究動向 p.10
1-1-6 セラミックスの光学的性質 p.14
1-2 本論文の目的と構成 p.15
参考文献 p.16
第2章 C3Aを添加したAIN焼結体の熱伝導率、光透過率とカソードルミネッセンス
2-1 はじめに p.18
2-2 実験方法 p.19
2-2-1 試料の作製 p.19
2-2-2 相対密度の測定 p.21
2-2-3 試料破断面の微細構造観察 p.21
2-2-4 気孔の観察 p.22
2-2-5 X線回折による生成相の同定 p.22
2-2-6 元素分析 p.23
2-2-7 熱伝導率の測定 p.23
2-2-8 表面粗さの測定 p.24
2-2-9 光透過率の測定 p.24
2-2-10 拡散反射率の測定 p.25
2-2-11 カソードルミネッセンス測定 p.26
2-2-12 酸素含有量の測定 p.28
2-3 結果と考察 p.29
2-3-1 相対密度 p.29
2-3-2 微細構造 p.29
2-3-3 生成相の測定 p.34
2-3-4 元素分析 p.34
2-3-5 熱伝導率 p.34
2-3-6 光透過率 p.39
2-3-7 拡散反射率 p.40
2-3-8 格子欠陥の調査 p.45
2-3-9 C3A添加の効率 p.48
2-3-10 C3A添加量とAIN結晶中の欠陥濃度の関係 p.51
2-4 まとめ p.54
参考文献 p.55
第3章 AIN焼結体におけるカソードルミネッセンスの温度依存性
3-1 はじめに p.56
3-2 実験方法 p.59
3-3 結果と考察 p.60
3-3-1 カソードルミネッセンスの温度依存性 p.60
3-3-2 負の温度消光 p.64
3-4 まとめ p.67
参考文献 p.67
第4章 熱ルミネッセンスによるAIN焼結体中のトラップ準位の評価
4-1 はじめに p.68
4-2 実験方法 p.69
4-3 結果と考察 p.71
4-3-1 紫外線照射による着色 p.71
4-3-2 熱ルミネッセンス p.73
4-3-3 トラップの評価 p.76
4-4 まとめ p.79
参考文献 p.79
第5章 AIN焼結体の焼成過程において形成される格子欠陥の評価
5-1 はじめに p.80
5-2 実験方法 p.81
5-2-1 試料の作製 p.81
5-2-2 評価方法 p.83
5-3 結果と考察 p.84
5-3-1 焼成時間と微細構造 p.84
5-3-2 焼成時間と熱伝導率・光透過率 p.88
5-3-3 焼成過程において形成される格子欠陥 p.91
5-4 まとめ p.96
参考文献 p.96
第6章 総括 p.97
研究業績 p.100
謝辞
高熱伝導性放熱基板として実用化されている窒化アルミニウム(AlN)は、プラズマや金属蒸気に対する耐久性が高いことから半導体製造装置の部材などにも用いられている。さらに、6.2 eVのワイドバンドギャップを有しており、紫外、可視、近赤外領域において無色透明であることから、高い透光性を付与したAlNセラミックスはメタルハライドランプの放電管としての応用が期待されている。これまでに、焼結助剤としてCa3Al2O6(C3A)を用いることにより、透光性AlNセラミックスが得られることが報告されている。しかしながら、C3A の添加によるAlNセラミックス中の格子欠陥に関して十分な議論がなされていない。高い透光性と高熱伝導性の両方を兼ね備えたAlNセラミックスの実現のため、光透過率低下の要因となる格子欠陥を特定することは工学上極めて重要である。本論文では、焼結助剤として添加したC3AがAlN焼結体の熱伝導率、光透過率に与える影響を残留助剤および結晶中の格子欠陥の観点から評価を試みた。
第1章「緒言」では、AlNセラミックスの基礎物性ならびに研究動向を説明し、本論文の目的と構成を述べている。
第2章「C3Aを添加したAlN焼結体の熱伝導率、光透過率とカソードルミネッセンス」では、C3Aの添加がAlN焼結体の熱伝導率、光透過率に与える影響を残留助剤および結晶中の格子欠陥の観点から評価している。生成相の同定や元素分析の結果から、焼結助剤の大部分は焼成中に試料から排出されていることを示した。C3Aの添加量の増加に従いAlN焼結体の熱伝導率および光透過率が向上した。この要因を調査するため、カソードルミネッセンス(CL)を用いて格子欠陥を評価した。その結果、C3Aの添加量の増加に従い354 nm(3.5eV)付近のCL強度が減少した。これは、結晶中の格子欠陥濃度が減少したことを反映している。また、AlN焼結体中の酸素含有量を測定したところ、C3Aの添加量の増加に従い酸素含有量が減少する傾向が得られた。発光特性と酸素含有量が同じ挙動を示したことから、上記の発光は酸素が関与した欠陥に起因したものであることを明らかにした。
第3章「AlN焼結体におけるカソードルミネッセンスの温度依存性」では、格子欠陥をより詳しく評価するためCLの温度依存性を測定している。比較的欠陥密度が高かったC3Aを1.0 mass%添加した試料からは3.5 eV付近の発光が得られた。この発光は通常の温度消光を示した。一方、最も欠陥密度の低かったC3Aを4.8 mass%添加した試料からは2.1、2.4、3.4 eV付近の発光が得られた。3.4 eV付近の発光は80~130 Kおよび350~475 Kの二つの温度領域において、AlNではこれまでに報告例が無い負の温度消光を示すことを突き止めている。配位座標モデルによって、C3Aを添加したAlN焼結体には少なくとも二つのトラップ準位が存在することを示唆している。
第4章「熱ルミネッセンスによるAlN焼結体中のトラップ準位の評価」では、第3章において得られた知見を元に、AlN焼結体中のトラップ準位を熱ルミネッセンス(TL)により評価している。紫外線照射によって着色することがわかっており、着色とトラップとの関係も検討している。C3Aの添加量の増加に従いトラップ濃度が減少していることを示した。TLは2.3 eVおよび2.1 eVにピークを持っていた。トラップ濃度が高いときは2.3 eVの発光、低いときは2.1 eVの発光が支配的だった。Initial rise法によって、トラップの熱的な活性化エネルギーが0.3~0.5 eVであることを示した。酸素が関与した欠陥がトラップ中心であり、着色の要因は2.1 eVの発光に関与したトラップであると推察している。
第5章「AlN焼結体の焼成過程において形成される格子欠陥の評価」では、焼成時間がAlN焼結体の熱伝導率と光透過率に及ぼす影響を調査している。 1880℃での焼成時間の増加に従い、熱伝導率および光透過率は増加した。保持時間30 hの試料から320 nm(3.9 eV)付近に吸収を持ち580 nm(2.1 eV)付近のフォトルミネッセンスに関与する格子欠陥が確認された。この格子欠陥は保持時間≦10 hではみられなかった。1880℃、保持時間>10 h の焼成を行うことによって焼結助剤はそのほとんどが排出されていることがわかった。上記の格子欠陥は焼結助剤の排出後に形成されたものと考察している。1880℃での長時間の焼成により、粒界や気孔の減少および焼結助剤の排出によって熱伝導率と光透過率が向上する一方で、光吸収の要因となる格子欠陥が形成されることを明らかにしている。
第6章「総括」では、本論文で得られた研究成果を要約している。
本論文は、「透光性窒化アルミニウムセラミックスの光透過率と格子欠陥に関する研究」と題し、6章より構成されている。
第1章「緒言」では、AlNセラミックスの基礎物性ならびに研究動向を説明し、本論文の目的と構成を述べている。
第2章「C3Aを添加したAlN焼結体の熱伝導率、光透過率とカソードルミネッセンス」では、C3Aの添加がAlN焼結体の熱伝導率、光透過率に与える影響を残留助剤および結晶中の格子欠陥の観点から評価している。カソードルミネッセンス(CL)を用いて格子欠陥を評価した結果、C3Aの添加量の増加に従い酸素が関与した欠陥の密度が減少することによって、AlN焼結体の熱伝導率および光透過率が向上することを明らかにしている。
第3章「AlN焼結体におけるカソードルミネッセンスの温度依存性」では、格子欠陥をより詳しく評価するためCLの温度依存性を測定している。C3Aを4.8 mass%添加した最も欠陥密度の低かった試料は、AlNではこれまでに報告例が無い負の温度消光を示すことを突き止めている。配位座標モデルによって、C3Aを添加したAlN焼結体には少なくとも二つのトラップ準位が存在することを示唆している。
第4章「熱ルミネッセンスによるAlN焼結体中のトラップ準位の評価」では、AlN焼結体中のトラップ準位を熱ルミネッセンス(TL)により評価している。紫外線照射による着色とトラップとの関係を検討している。酸素が関与した欠陥がトラップ中心であり、着色の要因は2.1 eVの発光に関与したトラップであると推察している。Initial rise法によってトラップの熱的な活性化エネルギーを見積もっている。
第5章「AlN焼結体の焼成過程において形成される格子欠陥の評価」では、焼成時間がAlN焼結体の熱伝導率と光透過率に及ぼす影響を調査している。 1880℃での長時間の焼成により、粒界や気孔の減少および焼結助剤の排出によって熱伝導率と光透過率が向上する一方で、光吸収の要因となる格子欠陥が形成されることを明らかにしている。
第6章「総括」では、本論文で得られた研究成果を要約している。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。