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Tyramide signal amplification 法を用いた機能遺伝子に基づく微生物の視覚的検出技術の開発と適用

氏名 川上 周司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第539号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 Tyramide signal amplification 法を用いた機能遺伝子に基づく微生物の視覚的検出技術の開発と適用
論文審査委員
 主査 准教授 山口 隆司
 副査 准教授 小松 俊哉
 副査 准教授 政井 英司
 副査 准教授 高橋 祥司
 副査 広島大学大学院 工学研究科教授 大橋 晶良

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目次
第1章 序論 p.1
 第1節 研究背景 p.1
 第2節 研究の目的と構成 p.8
 第3節 既往の研究 p.8
 1 FISF法 p.8
 2 マルチラベルポリヌクレオチドプローブ p.9
 3 TSA-FISH法 p.10
 4 Nucleic acid amplification法 p.12
 5 RING-FISH法 p.17
 6 Single cell analysis p.19
 7 LNA p.20
 参考文献 p.22
第2章 オリゴヌクレオチドプローブとtwo-passTSA-FISH法によるシングルコピー遺伝子の検出 p.28
 第1節 はじめに p.28
 第2節 実験方法 p.30
 1 サンプルの調整 p.30
 2 High copy plasmidを標的としたFISHのためのサンプル調整 p.30
 3 TSA-FISH法 p.31
 4 Two-passTSA-FISH法 p.32
 第3節 結果及び考察 p.32
 1 プローブの選定 p.32
 2 プローブの有効性の評価 p.33
 3 シングルコピー遺伝子の検出 p.33
 4 検出率 p.36
 5 本手法の特異性 p.37
 第4節 今後の展望と課題 p.37
 参考文献 p.39
第3章 ポリヌクレオチドプローブとTSA-FISH法を用いたシングルコピー遺伝子の検出 p.42
 第1節 はじめに p.42
 第2節 実験方法 p.43
 1 サンプルの調整 p.36
 2 プローブの合成 p.43
 3 サンプルの前処理 p.45
 4 TSA-FISH法 p.45
 5 Two-passTSA-FISH法 p.46
 第3節 結果及び考察 p.46
 1 ポリプローブの合成 p.46
 2 シングルコピー遺伝子の検出 p.48
 3 ポリプローブの長さの影響 p.49
 4 特異性 p.49
 5 本手法と特徴と遺伝子検出技術における位置付け p.50
 参考文献 p.52
第4章 TSA-FISH法を用いた環境中微生物の機能推定 p.54
 第1節 はじめに p.54
 第2節 実験方法 p.55
 1 サンプルの調整 p.55
 2 プローブの合成 p.55
 3 サンプルの前処理 p.57
 4 TSA-FISH法 p.58
 5 Two-passTSA-FISH法 p.58
 第3節 結果及び考察 p.59
 1 p.59
 2 aps遺伝子保持微生物の網羅的検出による環境中未培養微生物の機能推定 p.59
 3 クローニング解析結果を利用した標的遺伝子保有微生物の視覚化 p.60
 第4節 まとめ p.61
 参考文献 p.62
第5章 総括 p.64
 第1節 本研究で行ったこと p.64
 第2章 本研究の位置付け p.65
付録
プロトコール
本研究の基礎となる学術論文
謝辞

 本研究では、原核生物の機能遺伝子を可視化する技術の開発を行い、また環境中の未知微生物に対し、機能遺伝子に基づいた検出を行うことでその機能を推定する技術について報告した。
 第2章では、これまで複雑なステップにより検出していた遺伝子をよりシンプルな方法で検出できる技術の確立を目指し、既報の高感度技術の中でもシグナル増幅ステップがシンプルなtyramide signal amplification (TSA) 法を用い、オリゴヌクレオチドプローブ (オリゴプローブ) でのシングルコピー遺伝子の検出を試みた。プローブには、標的分子との親和性を高めるためにlocked-nucleic-acid (LNA)/DNA プローブを採用し、シグナル増幅にはさらなる高感度化を計るためにプローブの両端にDIGを標識し、さらにtwo-pass TSA-FISH法を採用した。本手法を用いることでシングルコピー遺伝子を極めて高い感度で検出できる事を示した。また特異性も高く、1ミスマッチを識別する事が可能であった。しかし、特異的検出条件下で得られる検出率は約15%であり、実際の環境サンプルを想定した場合、その適用範囲は限られることが示唆された。また、抗体の洗浄にも限界があり、コントロール実験において1%以下ではあるが非特異的蛍光が得られ、それらは完全に解消することはできなかった。一方、plasmidやrrn遺伝子などの存在数がある程度ある場合は検出率も向上した。これら結果から、シングルコピー遺伝子の検出において検出率を向上させるためには、1) 標的分子を増幅させるnucleic acid amplification法を組み合わせる、2) ポリヌクレオチドプローブ (ポリプローブ) を用いる事などの必要性を示した。本研究により、TSA-FISH法を遺伝子検出技術にまで引き上げることができ、その可能性と問題点について論じた。
 第3章では、第2章での結果を踏まえ検出率の向上及び高いsignal/noise比を達成するためにポリプローブを用いたTSA-FISH法によりシングルコピー遺伝子の検出を行った。本研究ではポリプローブが高いストリンジェンシー条件下においてもわずかに標的分子と二本差の形成を残すことに着目し、高い検出率を達成できるのではないかと考えた。結果、mcr遺伝子、aps遺伝子を100%に近い検出率を持って検出できることを示した。特異性も遺伝子相同性で85%程度であれば十分識別可能でありポリプローブを用いた既報のFISH法と同程度であった。またプローブの長さによる影響をみるために長さの異なるプローブを作成し検討したところ、150 bpでも遺伝子を検出することが可能であった。しかし、検出率の低下がみられ、十分な検出率を達成するためにはある程度の長さが必要であることもわかった。またプローブの長さにより得られる特異性は変わらなかった。菌体が隣接している箇所では非特異的な蛍光がみられる場合があり、菌体の分散処理の必要性についても示した。本手法は、プローブ合成が容易であり、またシグナル増幅は本研究により最適化を行った。既報に比べ汎用性の高い技術を示した。
 第4章では、第3章で開発したポリプローブとTSA-FISH法を用いた技術を用いて環境中に生息する微生物の検出を試みた。まず、環境サンプルに純粋菌株を混合した系では、標的菌体のみを高い感度でほぼ全て検出することに成功した。次に環境サンプルから抽出したDNAをプローブ合成のテンプレートとすることで、標的遺伝子を保有する微生物を、その遺伝子配列情報を知る事なしに検出する技術を示した。
 本研究により、これまでに報告されている遺伝子検出技術に、1) 標的分子の増幅を用いないシグナル増幅がシンプルな遺伝子検出技術の新たな選択肢、2) これまでにないオリゴプローブで遺伝子を検出技術、3) プローブのネットワークに依存しない新たなポリプローブによる遺伝子検出技術を付加する事ができた。本研究で開発した技術は、設計が容易で特異性の高いオリゴプローブを用いた方法と、検出感度が高いポリプローブを用いた方法である。これまでにTSA-FISH法を用いて遺伝子を検出した報告はない。オリゴプローブの場合、高い特異性を有していたが、検出率が低く、適用範囲が限られることが示唆された。ポリプローブの場合は、高いシグナル強度に加え、検出率もほぼ100%を達成できた。本手法の特異性は、遺伝子相同性で85%程度を識別可能であった。機能遺伝子を標的とした場合、アミノ酸配列で相同性が高くても核酸配列における相同性はそれほど高くなく、本手法の特異性でも十分である可能性がある。本手法は、特定の機能ポテンシャルを有すると思われる微生物を視覚的に同定することができ,未培養微生物の機能を推定する際の強力な手法になると思われる.我々は純粋菌株からの得られる情報をたよりにその機能を推定している。従って、機能遺伝子に基づいて微生物を可視化できれば、その後のシングルセルレベルでの解析によって培養を介さなくとも機能の推定が可能になる。本手法は、遺伝子検出技術において新たな選択肢を提供するものであり、本研究により環境微生物学に有用な知見を獲得できた。

 本論文は、「Tyramide signal amplification法を用いた機能遺伝子に基づく微生物の視覚的検出技術の開発と適用」と題し、5章より構成されている。
 第1章「研究背景と目的」では、本研究の背景と目的、微生物への遺伝子検出技術の適用報告例、本提案技術の概念について述べ、最後に論文の構成について記述している。
 第2章は、「オリゴヌクレオチドプローブとtwo-pass TSA-FISH法によるシングルコピー遺伝子の検出」と題して、純粋菌株を用いた系でその技術の開発について記述している。標的分子と高い親和性を有するLNA/DNA プローブを採用し、高感度なtwo-pass TSA-FISH法を用いることでシングルコピー遺伝子を極めて高い感度で検出している。また特異性も高く、1ミスマッチを識別する事に成功している。得られる検出率は15%程度と低いものであったが、検出率を向上させるために、標的分子を増幅させるnucleic acid amplification法を組み合わせること、ポリプローブを用いることの必要性を示している。
 第3章では、「ポリヌクレオチドプローブとTSA-FSH法を用いたシングルコピー遺伝子の検出」と題して、純粋菌株を用いた系でその技術の開発について記述している。開発した技術は、シングルコピー遺伝子を高い検出率をもって検出することに成功している。また既報の技術と比較して高い特異性を有しており、遺伝子相同性で85%程度であれば識別することが可能である。菌体が隣接している箇所では非特異的な蛍光がみられる場合があると報告しているが、菌体の分散処理を行うことで回避できることを示している。また、プローブ合成の最適化、シグナル増幅ステップの最適化も行っており、本論文が示すプロトコールに従うことで容易に遺伝子検出が可能になると思われる。
 第4章では、第3章で開発したポリプローブとTSA-FISH法を用いた技術を用いて環境中に生息する微生物の検出を行っている。環境サンプルに純粋菌株を混合した系では、標的菌体のみを高い感度で検出することに成功している。また環境サンプルから抽出したDNAをプローブ合成のテンプレートとすることで、標的遺伝子を保有する微生物を、その遺伝子配列情報を知る事なしに検出する技術を示している。さらにクローニング解析で得られた遺伝子断片からプローブを作成することで、標的遺伝子のみを特異的に検出している。これら検討から、開発した検出技術は環境サンプルに十分適用可能であると思われる。
 第5章では、本論文で得られた結果と考察を要約し、本手法の位置付け、既報との比較を行い、本手法の有用性を示している。
 以上のように本論文は、これまで複雑なステップを必要とした遺伝子検出技術の汎用性を飛躍的に高くする新規な検出技術を開発しており、また環境サンプルへの適用例を示していることからその有用性は高く、工学上および工業上貢献するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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