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空胴共振器型加温アプリケータ内の電磁界分布を利用した非侵襲温度計測

氏名 大和田 寛
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第547号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 空胴共振器型加温アプリケータ内の電磁界分布を利用した非侵襲温度計測
論文審査委員
 主査 准教授 石原 康利
 副査 教授 上林 利生
 副査 教授 和田 安弘
 副査 教授 中川 匡弘
 副査 准教授 坪根 正

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主な記号と略号 p.4
 1 緒論 p.6
 1.1. まえがき p.6
 1.2. 研究背景 p.6
 1.3. 研究目的 p.7
 1.4. 論文概要 p.7
 2 非侵襲温度計側法の原理 p.9
 2.1. まえがき p.9
 2.2. リエントラント型空洞共振器による加温原理 p.9
 2.3. 非侵襲温度計側法の原理 p.11
 2.4. CTアルゴリズムの導入 p.11
 3 数値解析による非侵襲温度計測法の評価 p.13
 3.1 まえがき p.13
 3.2. 解析方法 p.13
 3.2.1. 解析モデル p.13
 3.2.1.1. 解析モデルのセル数の検討 p.15
 3.2.1.1.1. 解析条件 p.16
 3.2.1.1.2. 励振方法 p.16
 3.2.1.1.3. 解析時間ステップ p.18
 3.2.1.1.4. 境界条件 p.18
 3.2.1.1.5. 解析結果 p.19
 3.2.1.2. 解析モデルの電気定数 p.28
 3.2.2. 励振源の設定方法 p.29
 3.2.2.1. 励振源帯域幅の検討 p.30
 3.2.2.2. 励振源の設定方法 p.33
 3.2.3. 解析時間ステップ p.35
 3.2.4. 境界条件 p.35
 3.2.5. 位相の解析方法 p.36
 3.2.5.1 位相解析の高精度化 p.36
 3.3. 解析結果 p.39
 3.3.1. 共振器内における電界分布の確認 p.40
 3.3.1.1. ファントムを設置しない場合 p.40
 3.3.1.2. ファントムを設置した場合 p.42
 3.3.2. 位相変化の線形性に関する検討 p.43
 3.3.2.1. ファントム温度に対する線形性 p.43
 3.3.2.2. 遅延時間に対する線形性 p.52
 3.3.3. 位相変化分布に関する検討 p.56
 3.3.3.1. 位相変化分布 p.56
 3.3.3.2. 位相変化プロファイル p.58
 3.3.3.3. 最適遅延時間の検討 p.62
 3.3.3.3.1. 遅延時間による位相変化分布の違い p.62
 3.3.3.3.2. 最適遅延時間の検討 p.67
 3.3.4. 位相変化分布の再構成に関する検討 p.69
 3.3.4.1. 各回転角度における位相変化分布 p.69
 3.3.4.2. 投影データの作成 p.75
 3.3.4.3. 位相変化分布の再構成結果 p.78
 3.3.4.3.1. 補正した投影データによる再構成結果 p.86
 3.3.4.4. 再構成位置検出精度の検討 p.95
 3.3.4.4.1 位相変化分布の解析結果 p.95
 3.3.4.4.2. 投影データの作成範囲と再構成結果 p.98
 3.3.4.4.3. 再構成画像の位置検出精度の検討 p.103
 3.3.5. 温度推定係数に関する検討 p.106
 3.4. まとめ p.113
 4 非侵襲温度計測法の実験評価 p.115
 4.1. まえがき p.115
 4.2. 実験方法 p.115
 4.2.1. 周波数移動による位相差計測 p.115
 4.2.1.1. 周波数移動前後の位相差について p.115
 4.2.1.2. 数値解析による確認 p.116
 4.2.1.2.1. 解析方法 p.117
 4.2.1.2.2. 解析結果 p.117
 4.2.2. 計測システム構成図 p.121
 4.2.3. 使用機器 p.122
 4.2.3.1. 任意信号発生器 p.122
 4.2.3.2. 空洞協振器 p.123
 4.2.4. 計測手順 p.127
 4.3 実験結果 p.127
 4.3.1. 共振器内の電界モードの確認 p.127
 4.3.1.1. 計測j方法 p.128
 4.3.1.2. 計測結果 p.128
 4.3.2. 非侵襲温度計測法の実験による評価 p.129
 4.3.2.1. 計測方法 p.129
 4.3.2.1.1. 解析モデル p.129
 4.3.2.1.2. 励振源の設定方法 p.131
 4.3.2.2. 計測結果 p.132
 4.3.2.2.1. 電界時系列波形の計測結果 p.132
 4.3.2.2.2. 位相変化の解析結果 p.134
 4.3.2.2.3. 位相変化分布の再構成結果 p.135
 4.3.2.2.4. 補間した位相変化分布による再構成結果 p.137
 4.3.2.3. 数値解析との比較検討 p.139
 4.4. まとめ p.142
 5 結論 p.143
謝辞 p.145
参考文献 p.146
本研究に関する発表論文および研究業績 p.150

がん組織を43℃前後に加温して治療を行うハイパーサーミアは,放射線療法や制がん剤との併用療法として有効な治療技術であるが,その加温効果の確認のためには熱電対や光ファイバ温度計等の温度プローブを生体内に刺入する必要がある.非侵襲に生体内部の温度を高精度に計測する方法として,MRI (Magnetic Resonance Imaging) を利用した方法が提案されている.この方法は,集束超音波あるいはレーザを用いた局所的な加温治療に際して臨床適応が試みられているものの,測温のために大掛かりな装置を新たに用意する必要がある等,実用上の問題がある.また,マイクロ波CT を用いた体内温度分布の非侵襲計測法が考案されているが,データ収集には加温アプリケータ内に送受信アンテナの他,マイクロ波のインピーダンス整合のためにボーラスを設置する必要があり,加温特性に及ぼす影響が大きいことから,加温と同時に温度変化を測定することが困難である.以上のように,加温効果を確認しつつリアルタイムに最適な加温制御を行うハイパーサーミアの臨床適応に必要な測温技術の実現には至っていない.
本論文では,従来のように大規模な装置等を追加することなく,加温装置(アプリケータ)との統合が可能な非侵襲温度計測法を実現するため,加温装置内の電磁界分布と誘電率の温度依存性を利用した温度計測法を提案する.このシステムの実現によって,MRI 等の大規模な装置を追加すること無く,加温と測温とを非侵襲に,かつ同時に行える可能性がある.さらに加温効果をリアルタイムに評価できるため,患者に負荷を与えることなく適切な加温制御が可能となり,温熱療法の治療効果の向上が期待できる.この結果,悪性腫瘍の治癒率(生存率)改善に多大なる貢献をもたらすと考える.
本論文の構成は以下の通りである.
第一章では,上記の研究背景や本研究の目的とその内容を概括した.
第二章では,提案する非侵襲温度計測法の原理について説明した.まず,本研究で対象としているリエントラント型空胴共振器を利用した加温アプリケータの原理について説明し,本加温方式では電磁界分布の特徴を利用して,生体内の局所腫瘍のみを非接触かつ非侵襲に加温することができることを説明した.次に,本論文で提案する非侵襲温度計測法の原理について説明し,誘電率の温度依存性によって生じる電磁波分布の差を利用して温度変化を逆推定する本提案手法の原理を説明した.また,画像化した生体内の温度変化分布を推定するために,CTアルゴリズムを導入した温度計測法の原理(X線CTと同様に加温アプリケータを回転させて各方向から収集した位相変化分布の投影データに基づいて,計測対象物体内の位相変化分布を推定し,これを温度変化分布に換算する)について説明した.
第三章では,提案した非侵襲温度計測法の妥当性を評価するために行った数値解析による検討結果について説明した.まず,三次元時間領域差分法(FDTD法)による数値解析する上で必要となる各パラメータ(解析モデルや解析セル数の作成方法,励振源の設定方法,位相変化の計算法等)を明らかにした.次に,この検討によって得られた解析モデルや励振源等のパラメータを用いて解析を行い,計測対象外部の位相変化が計測対象の温度に比例すること,および,わずかな電磁界分布の違いを高感度で計測するために,電磁波の周波数ではなく位相を計測することによって必要な計測感度を得ることができる本手法の特徴について示した.また,位相変化の解析を観測面全体のセルについて行い,温度変化分布に対応した位相変化分布が得られること,および計測対象物体を移動した場合でも,計測対象位置に対応した位相変化分布が得られることを確認した.さらに,画像化した生体内の温度変化分布を推定するために,CTアルゴリズムを導入する温度計測法について数値解析による検討を行い,ファントム外部における一部の位相変化から共振器内の位相変化分布が再構成できること,また再構成した位相変化分布を温度変化分布に換算する手法について検討し,温度換算した場合の計測誤差等の評価を行った.以上の結果から提案手法によって,ファントム外部の一部の位相変化分布を用いて,共振器内の温度変化分布を逆推定できる可能性を示した.
第四章では,前述の数値解析と同様の解析モデルを作成し,実験的検討によって非侵襲温度計測法の評価について説明した.実験の結果,ファントム外部の位相変化分布から,ファントム位置に対応した温度変化分布を再構成できる可能性を実験的検討によって確認した.
第五章では各章を総括し,本研究で得られた知見をまとめるとともに,今後の課題を示した.

本論文は「空胴共振器型加温アプリケータ内の電磁界分布を利用した非侵襲温度計測」と題し、『がん』の温熱療法(ハイパーサーミア)において渇望されている生体内部の温度計測法・システムに関連した研究成果をまとめており、5章より構成されている。
第1章「緒論」では、ハイパーサーミアにおける加温技術と測温技術の現状を概説し、加温効果を確認しながら治療を行うために必須となる測温技術が確立されていないことを述べている。
第2章「非侵襲温度計測法の原理」では、本研究で対象としているリエントラント型空胴共振器を利用した加温アプリケータの原理について説明した後、誘電率の温度依存性に起因して生じるアプリケータ内部の電磁界分布の位相変化から、温度変化を高感度に検出する新しい方法を提案した。また、アプリケータを回転させて各方向から収集した位相変化の分布を、X線CT(computed tomography)と同様の“投影データ”とみなし、CTアルゴリズムを適用することで、温度分布の画像再構成が可能であることを示している。
第3章「非侵襲温度計測法の数値解析による検討」では、提案法の妥当性を3次元時間領域差分法に基づいて評価する際に必要となる条件・方法(解析モデル・セルの作成方法、励振源の設定方法,位相変化の計算方法等)を明らかにした後、対象物体外部の電磁界分布の位相変化が物体内部の温度変化に比例することを示し、物体内部の温度分布を逆推定できる可能性を明らかにしている。また、CTアルゴリズムを用いて位相変化の分布から物体内部の温度変化を画像再構成した場合の温度検出精度と位置検出精度を明らかにしている。
第4章「非侵襲温度計測法の実験的検討」では、提案法の妥当性を実験的に評価するために構築したシステムについて説明し、光電界プローブを用いて測定された対象物体(純水、グリセリン)外部の位相変化から、温度変化に相当した分布を画像再構成できることを示している。
第5章「結論」では、各章を総括し、本研究で得られた知見・成果によって、加温と測温とを非侵襲に、かつ、同時に行えるシステムが実現できる可能性を示している。さらに、提案法によって加温効果をリアルタイムで評価できる可能性に言及し、患者に負担を強いることなく適切な加温制御を可能とすることで、『がん』の治癒率(生存率)改善に大きな寄与をもたらすことを述べるとともに、残された技術課題を述べている。
よって、本論文は工学上、および、工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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