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気流中の角柱の振動に対する後流物体の干渉効果

氏名 川畑 佑介
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第540号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 気流中の角柱の振動に対する後流物体の干渉効果
論文審査委員
 主査 准教授 高橋 勉
 副査 教授 白樫 正高
 副査 教授 増田 渉
 副査 教授 金子 覚
 副査 准教授 山田 昇

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目次 p.i
主要記号一覧 p.iv
1 序論 p.1
 1-1 緒言 p.1
 1-2 従来の研究 p.5
 1-2-1 カルマン渦励振について
 1-2-2 ギャロッピングについて
 1-2-3 下流に十字交差配置された柱状物体の影響について
 1-3 本研究の目的 p.22
2 実験装置及び実験方法 p.23
 2-1 実験装置 p.23
 2-1-1 風洞
 2-1-2 角柱と後流物体の寸法
 2-1-3 二枚バネばね支持装置
 2-1-4 磁気ダンパ
 2-1-5 測定機器
 2-2 測定方法 p.30
 2-2-1 主流速度
 2-2-2 I型プローブを用いた速度変動の測定
 2-2-3 角柱の変位
 2-2-4 角柱に作用する揚力,抗力
 2-2-5 表面トレース法
 2-3 データ解析手法 p.38
 2-3-1 スペクトル
 2-3-2 RMS値
 2-4 実験条件 p.41
 2-4-1 固定支持実験
 2-4-2 弾性支持実験
 2-4-3 可視化実験
3 実験結果 p.45
 3-1 単独角柱について p.45
 3-1-1 固定単独角柱からの渦流出と流体力
 3-1-2 単独角柱の振動
 3-2 無限長平板が下流に十字交差配置された系について p.53
 3-2-1 固定系からの渦流出
 3-2-2 無限長平板が角柱の振動に与える影響
 3-2-3 s/d=1.2付近で発生する振動について
 3-2-4 振動に対する無限長平板の影響の w / d ~ s / d 面上の分類
 3-3 振動に対する w/d = 1 の有限長平板の影響 p.71
 3-3-1 カルマン渦励振に対する有限長平板の影響
 3-3-2 ギャロッピングに対する有限長平板の影響
 3-3-3 有限長平板で誘起された振動
 3-3-4
 3-4 振動挙動と角柱周りの流れの関係 p.89
 3-4-1 無限長平板が角柱表面の流れに与える影響
 3-4-2 有限長平板が角柱表面の流れに与える影響
4 振動の予測法についての考察 p.99
 4-1 従来の解析的予測法 p.99
 4-1-1 概要
 4-1-2 渦励振の予測における問題点
 4-1-3 ギャロッピングの予測法とその問題点
 4-2 流力弾性振動の新しい予測法 p.106
 4-2-1 エネルギの釣り合いに基づくFEVの解析的予測法
 4-2-2 単独角柱のギャロッピングの予測
 4-2-3 短い平板により誘起される振動 (WBIFEV) の予測
5 新しい振動制御技術の提案 p.113
 5-1 T型フィンの着想に至る経緯 p.113
 5-2 T型フィン形状と実験の概要 p.114
 5-3 ギャロッピング流速における角柱の振動に対するT型フィンの影響 p.116
 5-4 p.119
 5-5 後流物体による振動制御の提案 p.122
6 結論 p.123
参考文献 p.125
謝辞 p.128

 一様流中に弾性支持された角柱(正方形断面柱)のcross-flow振動については,異なった流速領域でカルマン渦励振(KVIV)と流力弾性振動(FEV)の一種であるギャロッピングが発生する.この二種の振動はその発生機構が大きく異なるが,ともに極めて広い条件下で発生し,これまでに多くの事故の原因となってきた.そのためこれらの振動を抑制する方法を確立することが,工業的にきわめて重要である.
 近年,角柱の下流に幅wが角柱の1辺dに等しく,十分に長い帯状の平板を十字交差配置することによりKVIVとギャロッピングの両者が抑制されると共に,隙間と流速のある条件下においてはカルマン渦とは異なる形態の縦渦による振動(LVIV)が誘起されることが報告された.これらの現象は,一般に下流物体の干渉効果により,発生機構が異なる渦励振(VIV)と流力弾性振動(FEV)の両者を抑制し得ること,および十字交差系からの縦渦流出とこれによる渦励振を誘起し得ることを示している.
 本研究は,上記の現象に着目して,新たな振動制御-すなわち,有害な振動を抑制するばかりではなく,所期の目的のために振動を誘起する技術-を開発することを目的とし,下流平板の角柱のVIVとFEVへの影響を,下流平板幅w/d,下流平板長さld/d,隙間比s/dの広い条件にわたって風洞実験によって調べた.
 その結果,KVIVとギャロッピングの抑制,および,LVIVの誘導に対する下流平板の幾何学的条件を明らかにした.表面トレース法により角柱表面の流れを観察し,このLVIVを誘起する縦渦の形状は円柱/円柱系で見られたTrailing渦に近いものであることを示した.また,ld/d=∞でw/d≦0.75,あるいはw/d=1でld/d≦6のとき,s/d≒0.6~1.4でKVIVが最大で60%程度増加する現象(Enhanced KVIV: EKVIV)を見出した.さらに,w/d=1,ld/d≦2の短い平板により,s/d≒0.3付近でこれまで知られていない大きな振動が発生することを見出した.この振動は,ギャロッピングとは異なる新しい種類の流力弾性振動であり,筆者はこれを後流干渉流力弾性振動(Wake Body Interference Fluid Elastic Vibration: WBIFEV)と呼んでいる.
このWBIFEVには, Van der Pol方程式を用いた従来のギャロッピングの予測法が適用できないことから,準定常の仮定とエネルギーの釣り合いに基づいた新しい解析的予測法を提案した.従来の方法と,このエネルギー法を,単独角柱のギャロッピングに適用して妥当性を検証した後,WBIFEVの予測を行った.その結果,エネルギー法によるWBIFEVの予測は,実験結果に近い値が得られることを示した.
本実験で得られた知見から,小さい幅,あるいは有限長の下流平板の干渉による角柱の振動制御が可能であり,後流物体の干渉効果が,従来にない特長を持つ振動制御技術となり得ることが示される.上記の実験結果に基づいて,振動物体に付属物を取り付ける制振技術としてT型フィンを提案し,その効果を明らかにした.本研究で明らかにした後流物体の干渉効果を利用した振動制御技術は,既存の方法にはない次のような利点を有することから,今後の実用化が期待される.

1. 振動物体に何ら加工,変更を加える必要がない.
2. 振動物体の支持構造の変更が不必要である.
3. 下流平板との隙間の僅かの調整により,非接触で振動が制御される.
4. 上記の特長により,既設の物体の振動抑制,あるいは振動の誘起を非接触で行うことができる.
5. 後流物体を直接,角柱に取り付けることが可能な場合,T型フィンは条件に対して適当な寸法を選ぶことにより十分な制振あるいはWBIFEVの誘導効果を与える.

 本論文の内容を要約して下記に述べる.
 第1章では,初めに流体関連振動の工学的な重要性と発生状況による分類を述べた.その中で,一様流中の角柱のカルマン渦励振とギャロッピングの発生機構と,隣接物体がこれらの振動に与える影響を説明し,本研究の目的を明らかにした.

 第2章では,本研究で用いた風洞実験装置,および,実験方法,実験条件を説明した.

 第3章では,KVIVとギャロッピングに対する,幅wの異なる無限長平板の干渉効果と,w/d=1の有限長平板の干渉効果を調べた.その結果に基づいて,これらの振動の抑制条件と,EKVIV,LVIVの誘起に対する下流平板の幾何学的条件を明らかにした.

 第4章では,Van der Pol方程式を用いたギャロッピングの予測法がWBIFEVに適用できないことから,エネルギーに基づく新たな振動予測法を提案した.これを,単独角柱のギャロッピングに適用して,その妥当性を検証した後,WBIFEVに適用したところ,実験結果に近い予測値が得られることを示した.

 第5章では,上記の実験結果を応用した振動制御技術として,ブラケットを介して平板を角柱に固定するT型フィンによる振動制御法を提案し,条件,目的に対応して平板長さld,ブラケット長さ(隙間比s/d)を選定することにより,振動制御が可能であることを示した.

 第6章では,本研究の結論として1~5章までの総括と,従来の制振技術と比較した本研究の振動制御技術としての利点を示した.

 本論文は,「気流中の角柱の振動に対する後流物体の干渉効果」と題し6章から構成されている.
 第1章「序論」では,初めに流体関連振動の工学的な重要性と発生状況による分類を述べている.その中で,一様流中に単独で存在する角柱のカルマン渦励振(KVIV)とギャロッピングについて現在までに報告されている発生機構の概要と隣接物体がこれらの振動に与える影響について説明し,本研究の目的が後流物体の干渉を用いた振動制御技術の検討と干渉効果により発生する新たな振動現象の解明を目指すことであることを示している.
 第2章「実験装置および実験方法」では,本研究で用いた風洞実験装置,実験方法,および実験条件を説明している.
 第3章「実験結果」では,KVIVとギャロッピングに対して角柱後流に十字交差配置された無限長平板の干渉効果について平板の幅wの影響を実験的に明らかにしている.さらに,平板長さldの異なる有限長平板を用いて干渉効果に対するldの影響を示している.これらの結果に基づいてKVIVおよびギャロッピングに対する振動抑制条件を明らかにするとともに,縦渦励振(LVIV)と新たに見出された強化されたカルマン渦励振(EKVIV)の誘起に対する下流平板の幾何学的条件を明らかにしている.また,短い平板を用いた場合,小さな隙間でギャロッピングとは異なる新しい流力弾性振動(WBIFEV)が発生することを報告している.
 第4章「振動の予測法についての考察」では,従来のVan der Pol方程式を用いたギャロッピングの予測法が前章で見出されたWBIFEVには適用できないことから,エネルギーに基づく新たな振動予測法を提案している.これを単独角柱のギャロッピングに適用してその妥当性を検証するとともに,WBIFEVに適用して実験結果に近い予測値が得られることを示しこの振動予測法の妥当性を示している.
 第5章「新しい振動制御技術の提案」では,上記の実験結果を応用した振動制御技術としてブラケットを介して平板を角柱に固定するT型フィンによる振動制御法を提案し,条件,目的に対応して平板長さld,ブラケット長さ(隙間比s/d)を選定することにより振動制御が可能であることを示している.
 第6章「結論」では,本研究の結論として1~5章までの総括と,従来の制振技術と比較した本研究の振動制御技術としての利点を示している.
 以上のように,本論文は工学上および工業上貢献するところが大きい.よって本論文は,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認められる.

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