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ディスク形MHD加速機の特性と性能に関する数値解析 (A Study of Properties and Performance for Disk-Shaped MHD Accelerator)

氏名 竹下 慎二
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第542号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 ディスク形MHD加速機の特性と性能に関する数値解析 (A Study of Properties and Performance for Disk-Shaped MHD Accelerator)
論文審査委員
 主査 教授 原田 信弘
 副査 教授 江 偉華
 副査 准教授 山田 昇
 副査 准教授 菊池 崇志
 副査 東京工業大学総合理工学研究科教授 山岬 裕之

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Contents
Chapter 1 Introduction p.1
 1.1 MHD p.1
 1.2 Develpment History of MHD Technology p.1
 1.2.1 The Case of Linear MHD Accelerator p.1
 1.2.2 The Case of Disk MHD Accelerator p.2
 1.3 MHD Plasma in Various Plasma p.3
 1.4 Fundamental Concept of MHD Generation and MHD Acceleration p.3
 1.4.1 Faraday's Electromagnetic Induction Law p.3
 1.4.2 Dynamic Principle of MHD Generation and MHD Acceleration p.4
 1.5 Connection Type of MHD Accelerator p.6
 1.5.1 Faraday Type MHD Accelerator p.6
 1.5.2 Hall Type MHD Accelerator p.7
 1.5.3 Diagonal Type MHD Accelerator p.8
 1.6 Principle of Disk MHD Accelerator p.9
 1.7 Advantages of Disk-shaped MHD Accelerator p.10
 1.8 Purpose of This Study p.11
 1.9 References p.11
Chapter 2 Numerical Simulation Model p.12
 2.1 MHD Governing Equations p.12
 2.1.1 Flow Field Equations p.12
 2.1.2 Plasma Equations p.13
 2.2 Analytical Scheme p.13
 2.2.1 MacCormack Method p.13
 2.2.2 Introduce of Artificial Viscosity p.14
 2.2.3 Initial Condition p.15
 2.2.4 Analysis Region p.16
 2.3 Combustion Gas Properties p.16
 2.4 Summary of Chapter2 p.20
 2.5 References p.20
Chapter 3 Fundamental Properties of Disk MHD Acceleration p.21
 3.1 Predictable Advantages of Disk MHD Accelerator p.21
 3.2 Analysis Condition of Chapter3 p.22
 3.3 Results and Discussion p.23
 3.3.1 Relationship of Heat Loss and Disk-shaped MHD Channel Length p.23
 3.3.2 Thermal and mechanical properties of PDMVP p.24
 3.3.3 MHD Effect for Gas Velocity When Varying the Channel Cross Section p.27
 3.4 Summary of Chapter3 p.30
 3.5 References p.30
Chaper 4 Comparative Study on Disk and Linear MHD Accelerators p.31
 4.1 Linear MHD Accelerator MAPX p.31
 4.2 Simulation Parameter p.34
 4.3 Results and Discussion p.35
 4.3.1 Heat Loss and Acceleration Efficiency p.35
 4.3.2 Gas Velocity and Gas Pressure p.36
 4.3.3 Faraday Current Density Distribution p.36
 4.3.4 Effect on Electrical Conductivity and Hall Parameter p.38
 4.4 Summary of Chapter4 p.40
 4.5 References p.40
Chapter 5 Function of Swirl Flow for Disk MHD Accelerator p.41
 5.1 Function of Swirl Vand p.41
 5.2 Analysis Condition and Channel Construction p.42
 5.3 Performance of Push Power and Acceleration Efficiency p.44
 5.4 Radial and Azimuthal Gas Velocity p.44
 5.5 Influence of Swirl Vane on Gas Pressure p.46
 5.3 Verification of the Function of Inlet Swirl p.47
 5.4 Summary of Chapter5 p.51
 5.5 References p.51
Chapter 6 Application to Propulsion System p.52
 6.1 The Concept for Reversible System of MHD Generator and MHD Accelerator with Nuclear Plant p.52
 6.2 Analysis Condition p.53
 6.3 Results and Discussion p.53
 6.3.1 Propulsion Performance of Disk MHD Accelerator p.53
 6.3.2 Comparison with the Performance of Other Thrusters p.56
 6.4 Summary of Chapter6 p.57
 6.5 Reference p.57
Chapter 7 Conclusion p.58
 7.1 Fundamental Properties on Disk MHD Accelerator p.58
 7.2 Comparative Study on Disk and Linear MHD Accelerators p.58
 7.3 Acceleration Effect of Inlet Swirl for Disk MHD Accelerator p.59
 7.4 Application to Space Propulsion System p.59

 電磁流体力学(MHD)技術において、MHD発電は、プラズマや液体金属といった導電性流体が持つエネルギーを、高効率で直接電気エネルギーとして抽出ができる極めて魅力的で将来性のある発電システムである。直接エネルギーのやり取りができる点を生かしたMHD加速技術は、磁場がかかっている領域を通る導電性流体に外部から電力を印加することで加速することのできる推進システムで、直方体を基本とした直線形MHD加速機が実験や数値解析を通して長年研究されてきた。一方、ディスク形チャネルを用いたMHD加速の研究は、これまでほとんど行われてきておらず、どのような傾向があるか、また直線形MHD加速機と比較した場合にどのような長所や短所があるか、などといった基本的な特性が明らかになっていなかった。そこで、本研究はディスク形MHD加速機について、1)どのような特性があるか、2)直線形MHD加速機との比較、3)スワール翼を導入した時の加速性能、4)推進機構への応用例について研究を行った。まず、ディスク形MHD加速機の基本的特性について予想された特徴は、1)ディスク形チャネルは直線形チャネルと同じ断面積を得るために短いチャネル長で得ることができる。2)短チャネルになるほど、熱損失を小さくできる。これはチャネルの表面積はチャネル長に依存することによる。3)2)の効果により、加速性能も向上する、ということであった。結果として、短チャネルでも長チャネルと同じだけの断面積を得ることは容易であり、チャネル長が0.045mの時で9.36%、0.9mの時で62.84%と、短チャネルになるほど熱損失が小さくなる傾向が明らかになった。このときの加速性能は短チャネルになるほど流体速度が上昇していく傾向が見えたが、極めて短いチャネルの場合(0.045m)、チャネル入口近くで圧力が急上昇した。圧力が急上昇した理由はホール接続の場合、ファラデー電流密度はチャネル入口で最大になるような指数関数的な曲線を描くことと、短チャネル長において、ファラデー電流密度が非常に高くなることでジュール熱による温度上昇が発生し、それにより圧力上昇を引き起こすことが原因だと考えられる。この現象をMHD圧縮と呼んでいる。このMHD圧縮現象の緩和のために、短チャネル長において、チャネル断面積を拡張することにより圧力を上昇させず、流体速度を上昇させることができた。ホール接続での直線形MHD加速機との比較では、熱損失がディスク形チャネルのほうが極めて小さかったにもかかわらず、流体速度は直線形で2675m/s、ディスク形で2779m/sでおよそ100m/sほどの差であった。この理由としては、入力電力の一部が熱エネルギーに変換されたからだと考えられる。このときの静温は直線形とディスク形とではおよそ100Kの差が観察された。スワール翼を導入した場合の解析では、スワール翼を導入しなかった場合に比べて、チャネル入口のごく狭い領域に限り圧力が上昇するもののチャネル全体で評価した場合、よく圧力を減少させることが明らかになった。スワール翼の効果との比較のために、スワール翼を導入せずに、かつその質量流量を、スワール翼を導入したときと同じように調整したものと比較した。結果として質量流量は、チャネル中流域までで加速履歴に違いがあったものの、チャネル出口においてほぼ同じ速度が得られた。理由として、質量流量が小さい場合では、チャネル高さを調整したためにファラデー電流密度が極めて大きくなりローレンツ力が強く流体に作用したためであると考えられる。それによりスワール翼の効果は質量流量の減少が大きな要素を占めており、圧力の減少による要素は補助的なものであることが明らかになった。推進機構への応用例では、原子炉を動力源とした宇宙空間での非常用推進システムとして作動流体をヘリウム・キセノン混合ガスとした。このときの推力は6550N、比推力は480secであった。化学ロケットの推力には遠く及ばないものの、その他の人工衛星に用いられる推進システムと比較すると非常に大きな推力が得られた。この推進システムは比推力がその他の推進システムと比較すると小さいものの、比較的近距離での宇宙推進システム、あるいはパルス駆動による推進システムとしては、極めて優秀な性能を持っているといえる。これらの結果により、ディスク形MHD加速機の加速性能は、短チャネル長において熱損失が減少でき、流体速度は上昇傾向があること、ただし、極めて短いチャネル長ではMHD圧縮がジュール熱によって発生しやすいことから、これを軽減させるためにチャネル断面積の拡張やスワール翼の設置が必要であることが明らかにすることができた。また、宇宙空間での推進システムへの応用の有用性もまた明らかにすることができた。

 本論文は、「ディスク形MHD加速機の特性と性能に関する数値解析」(A Study of Properties and Performance for Disk-Shaped MHD Accelerator)と題して、全7章から構成されている。
 第1章「Introduction」では、本研究の背景として電磁流体力学を基礎としたMHD加速機の概要、本研究対象とするディスク形あるいは他の形式を紹介し、本研究の目的を明確にしている。
 第2章「Numerical Simulation Model」では、本研究で用いた数値解析における基礎支配方程式、プラズマの記述式、燃焼ガスプラズマの記述と共に、解析手法である予測子・修正子を導入した有限差分法の一種であるMaCormack法と初期条件、境界条件について述べている。
 第3章「Fundamental Properties of Disk MHD Accelerator」では、ディスク形MHD加速器の基本的な性質として、チャネル長さと熱損失、出口断面積と静圧分布の関係を明らかにし、出口断面積を5倍程度に拡げることにより、MHD圧縮を避けて滑らかな加速が実現できることを明らかにしている。
 第4章「Comparative Study on Disk and Linear MHD Accelerator」では、共にホール接続された直線形とディスク形のMHD加速機の特徴を比較している。ディスク形加速機は相対的に短いチャネル長で高い速度まで加速でき、チャネルが短いやめ直線形の熱損失(約30%)と比べてより熱損失(約8%)が少なく、作動プラズマに対するプッシュパワーも4倍程度大きくでき、ディスク形では効率的で高い加速性能が実現できることを明らかにしている。
 第5章「Function of Swirl Flow for Disk MHD Accelerator」では、ディスク形加速機の特徴である入口旋回流を働きを明らかにしている。スワール比(Sr=-1, 0, 1)の加速性能を比較して、Sr=-1の場合、最も高い出口速度と加速効率が得られ、これは同一の質量流量にもかかわらず旋回流の導入により、チャネル主流部での静圧が減少し、このためにホール係数が増加したことによる。入口旋回流の導入が加速性能と加速効率を増加させうることを明らかにしている。
 第6章「Application to Propulsion System」では、これまでの結果を基に本ディスク形MHD加速機を宇宙用推進システムに応用することを検討している。到達出口速度から比推力、同速度と質量流量の積から推力を予測することが可能で、他の推進システムとの比較から、本システムは比較的高い比推力と非常に大きな推力を持つという特徴を提示している。
 第7章「Conclusion」では、各章の結論を総括し、ディスク形MHD加速機の諸特性を明らかにし、加速性能や加速効率の特徴とこれらに与える入口旋回流の効果をまとめ、宇宙用加速システムへの応用の可能性を示唆している。
 以上のように、本論文は電磁流体力学を基礎としたディスク形MHD加速機の特性と加速性能を数値解析によって解析・考察し、さらにその宇宙用推進システムへの応用の可能性を明らかにしており、工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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