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高速道路舗装の損傷評価に基づく補修設計に関する研究

氏名 神谷 恵三
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙274号
学位授与の日付 平成21年12月9日
学位論文題目 高速道路舗装の損傷評価に基づく補修設計に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 暉彦
 副査 准教授 岩崎 英治
 副査 准教授 高橋 修
 副査 准教授 下村 匠
 副査 中央大学理工学部教授 姫野 賢治
 副査 日本大学理工学部教授 岩井 茂雄

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 舗装のマネジメント p.1
 1.2 研究の背景 p.2
 1.3 文献調査 p.4
 1.4 調査の方法 p.19
 1.5 本研究の目的 p.23
第2章 温度補正方法の開発 p.15
 2.1 調査箇所の選定 p.15
 2.2 混合物温度とたわみ量の測定 p.16
 2.3 混合物温度の推定方法 p.17
 2.4 たわみ量の温度補正方法 p.32
 2.5 まとめ p.40
第3章 高速道路における構造的損傷の実態分析 p.41
 3.1 全国データによる損傷傾向の把握 p.41
 3.2 路面および層内損傷の把握 p.47
 3.3 たわみ差による構造的評価 p.49
 3.4 まとめ p.58
第4章 損傷評価方法の提案 p.60
 4.1 損傷評価指標の提案 p.60
 4.2 層内損傷の詳細分析 p.64
 4.3 打換え厚さ区分の考え方 p.70
 4.4 まとめ p.76
第5章 混合物の性能要件の開発 p.77
 5.1 性能要件の提案 p.78
 5.2 性能要件の検証 p.83
 5.3 まとめ p.87
第6章 補修設計手法の一考察 p.88
 6.1 補修設計の要件 p.88
 6.2 強度指標の適用条件 p.89
 6.3 レジリエントモデュラスの適用性 p.90
 6.4 圧裂強度の適用性 p.96
 6.5 打換え厚さ区分の提案 p.99
 6.6 まとめ p.100
第7章 本研究の結論と今後の課題 p.101

ライフサイクルコストを最小にするよう,舗装のマネジメントを実践することは道路管理者の大きな責務である.この時,モニタリングによって舗装の損傷状態を的確に捉えることにより,適切な補修方法を判断せねばならない.モニタリングの結果は,補修の計画と設計段階における予算管理に反映されるので,その評価方法は極めて重要である.NEXCOが管理する高速道路では,その多機能ゆえに高機能(ポーラスアスファルト)舗装のストックが増大しつつあるが,内部の損傷状態が顕在化し難いという問題を有している.一方,長期間供用中の一部の密粒度舗装においては,亀甲状のひび割れが表層内で留まっているという場合が見られる.このように構造的な損傷の状態を的確に評価することが難しいという問題は,道路管理者が決定する補修厚さに大きな影響を与え,補修の計画及び設計における予算管理に大きな支障をきたしている.このような背景を踏まえて,本研究では高速道路の構造的な損傷評価に主眼を置くこととし,路面の外観に捉われない層内の損傷評価指標の開発を目指した.さらに,アスファルト混合物の性能要件に言及すると共に,高速道路舗装の補修設計手法の開発に向けた提案を試みた.
研究内容は以下のとおりである。
第1章では,研究の背景を述べると共に,文献調査を踏まえて本研究の目的と調査方法を明確にした.その結果,たわみ量やたわみ差による直接的な評価指標の開発を目指す方向性,並びに非破壊調査と共にコア採取による損傷状態を把握することの重要性を得た.
 第2章では,高速道路舗装に適するたわみ量の温度補正方法の開発を試みた.高速道路では,下層路盤の工種が粒状路盤である場合とセメント安定処理路盤である場合があり,舗装厚さが同じであっても得られるたわみ量は大きく異なることが観測されている.舗装内混合物温度の推定方法と共に,下層路盤の種別に左右されない20℃におけるたわみ量への補正方法の開発を行った.その結果,混合物温度の簡便な推定方法と共に,高速道路に適するたわみ量の温度補正方法が得られた.
 第3章では,高速道路舗装の構造評価を実施した.FWDを活用した全国調査の結果,高速道路の一般的な補修範囲としてアスファルト層を対象とすることの重要性が判明した.また,表面の損傷だけに捕らわれない,層内の損傷を的確に把握できる新たな評価方法を開発することの必要性が明白となった.高速道路舗装のアスファルト層の構造強度と相関を有するたわみ差を見出すことを目的として,各層の弾性係数と厚さを幅広く変化させた順解析を実施した.その結果,たわみ差D0-D30と同様にたわみ差D0-D90はアスファルト層の構造強度と相関を有することを確認した.
 第4章では,路面外観に捉われない損傷評価方法の開発を試みた.
先ず,たわみ差D0-D90をアスファルト層の厚さで除した無次元の指標(補正たわみ差D0-D90と定義)により,アスファルト層内剥離の有無を推定できる可能性が得られた.また,この補正たわみ差が増大する場合,FWDの荷重載荷位置から採取したコアの圧裂強度と共にレジリエントモデュラス(MR)が低下する傾向が確認された.さらに,以下の2つの事象に対して「置換えが必要な層」として定義した場合,アスファルト層厚さと補正たわみ差により,打換え厚さ区分の可能性を見出した.
(1) 促進加圧後の供試体に変状が確認される等,MR試験が不能と判断された場合
(2) 評価グループにおける残留圧裂強度が,平均値より1σ下回る場合
 第5章では,舗装混合物の要求性能の開発を試みた.粒状路盤を採用した高機能舗装において,基層の空隙率の増加に伴い加圧後のMRと共に圧裂強度が低下する傾向,並びに補正たわみ差も増加する傾向が確認された.前項の(2)を付すことにより,基層の空隙率は3%未満とするのが望ましいと考える.粒状路盤を採用した密粒度舗装の場合,表基層の空隙率を小さくすることにより,水密性確保に寄与するものと考えられる.
 第6章では,第3章~第5章の結果に基づき,高速道路舗装の補修設計手法の一考察を試みた.粒状路盤上の舗装において,アスファルト層の合成MRに層厚さを乗じた積と,補正たわみ差の間に右下がりの傾向が見られた.これより,剥離等の損傷により混合物のMRが低下した場合,より高いMRを有する材料で置き換えるか,またはアスファルト層厚さを増大することにより,構造改善を図り得る可能性が確認された.また,高機能舗装の場合には,基層の圧裂強度を設計指標として使用しえる可能性が得られた.
 第7章では,本研究の成果と共に今後の課題を述べた.
 本研究で扱ったFWD調査は,高速道路の全車線延長の数%程度であるので,供用中の全舗装が本論文で示した損傷に直ちに至るとはいい難い.今後は計画的なモニタリングを実施することにより,本研究において提案した補修設計の適用条件を明確にして行く必要がある.

本論文は、「高速道路舗装の損傷評価に基づく補修設計に関する研究」と題し、7章より構成されている。高速道路では、ポーラスアスファルト舗装のストックが増大しつつあるが、内部の損傷状態が顕在化し難く、構造的な健全性を的確に評価することが困難であり、補修計画及び設計における予算管理に大きな支障をきたしている。このような背景を踏まえて、本研究は高速道路舗装の非破壊損傷評価指標を開発し、アスファルト混合物の性能要件に言及すると共に、高速道路舗装補修設計法の提案を試みている。第1章「序論」では、舗装構造評価方法の研究概要を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
第2章「温度補正方法の開発」では、実物試験によって高速道路舗装に適するたわみ量の温度補正方法の開発を試みている。高速道路では、舗装厚が同じであっても、下層路盤の材料が異なれば得られるたわみ量は大きく異なるが、下層路盤種別に左右されないたわみ量温度補正方法を得ている。第3章「高速道路における構造的損傷の実態分析」では、FWDを活用した舗装構造評価を全国的に実施し、舗装内部の損傷を的確に把握できる新たな評価方法を開発している。さらに、各層の弾性係数と厚さを幅広く変化させた順解析を実施し、たわみ差 D0-D90 がアスファルト層の構造強度と相関を有することを明確にしている。
第4章「損傷評価方法の提案」では、たわみ差 D0-D90 をアスファルト層の厚さで除した無次元の指標(補正たわみ差と定義)を提案し、これによってアスファルト層内の剥離の有無を推定できることを示している。また、補正たわみ差が増大する場合、採取コアの圧裂強度とレジリエントモデュラスが低下する傾向を見出し、これらの値に基づく補修厚設計法を提案している。
第5章「混合物の性能要件の開発」では、粒状路盤を採用した密粒度舗装の場合、水密性を確保するためには、表基層の空隙率を3%以下とする必要のあることを明らかにしている。
第6章「補修設計手法の一考察」では、以上の結果に基づいて、高速道路舗装の補修設計法を提案している。
第7章「結論」では、本研究の成果と今後の展望を示している。
以上、本論文は、非破壊試験によって高速道路舗装の健全度を評価し、これに基づく補修設計方法を提案している。この成果は高速道路維持修繕コストの大幅な節減に寄与するものである。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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