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Development of non-viral vector for DNA delivery with active targeting profile for phosphatidylserine

氏名 Shinichi Kuriyama
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙282号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 Development of non-viral vector for DNA delivery with active targeting profile for phosphatidylserine
論文審査委員
 主査 准教授 岡田 宏文
 副査 教授 解良 芳夫
 副査 教授 下村 雅人
 副査 教授 滝本 浩一
 副査 九州大学大学院工学研究科応用化学部門 准教授 新留 琢郎
 副査 特任教授 森川 康

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CONTENTS
CHAPTER1. General introduciton
 1.1 Introduction p.1
 1.2 Background p.3
 1.3 Dynamic translocation of phospholipids across the plaama membrane p.7
 1.4 Recognition of phosphatidylserine (PS) by blood coagulation factors p.11
 1.5 Aims of this study p.12
CHAPTER2. Design of a new non-viral vector for DNA delivery with high affinity for phosphatidylserine
 2.1 Introduction p.13
 2.2 Materials and methods p.16
 2.3 Results p.22
 2.4 Discussion p.33
CHAPTER3. Improvement of peptide vectors for DNA delivery with active targenting profile for phosphatidylserine by amino-acids replacement
 3.1 Introduction p.36
 3.2 Materials and methods p.38
 3.3 Results p.44
 3.4 Discussion p.56
CHAPTER4. Phosphatidylserine-selective conformational change of Td3717,a-helix peptide
 4.1 Introduction p.59
 4.2 Materials and methods p.60
 4.3 Results p.62
 4.4 Discussion p.66
CHAPTER5. Stability of DNA/Td3717 complexes defined by the size and polydispersity of the complex
 5.1 Introduction p.68
 5.2 Materials and methods p.70
 5.3 Results p.73
 5.4 Discussion p.80
CONCLUSION p.82
REFERENCES p.85
LIST OF PUBLICATIONS p.94

近年、化学合成された医薬品等による従来の治療に加えて、核酸を医薬品として用いる新しい治療法が注目されており、遺伝子治療やアンチセンス治療等への適用が盛んに試みられている。この治療法の成否は、いかに核酸を効率よく細胞内へ導入し機能を発現出来るかにかかっており、核酸を細胞内へ導入するためのベクターとしては、当初、導入効率に優れるウイルスベクターが多用されてきた。しかし、予期せぬ免疫反応の惹起等、安全性に対する懸念が広まり、核酸を細胞内へ安全に効率よく導入することができる非ウイルスベクターの開発が望まれている。
非ウイルスベクターの課題は、いかに導入効率を高めることができるかにあり、解決手段の一つとして部位選択性の付与が挙げられる。筆者らは、細胞膜リン脂質二重層の構成成分の一つであるホスファチジルセリン(PS)が、正常な細胞では細胞膜表層(リン脂質二重層外層)に存在しないが腫瘍細胞等では表出することに着目し、PSをターゲット分子とする部位選択性を有する核酸導入用非ウイルスベクターの開発を試みた。
まず始めに、血液凝固反応では、細胞膜上に表出したPSを足場として効率よくカスケード反応が進行するという知見に基づき、ヒト血液凝固因子FactorVIII(hFVIII)C末端のPS認識配列をもとに37アミノ酸からなるペプチドTd3701をデザイン・創出した。Td3701は、PSに高い親和性を示し、かつ、DNAとの静電的結合能および細胞へのDNA導入能があることが示された。また、Td3701は、PS存在下で細胞膜との相互作用に寄与するα-へリックス構造をとり、核酸との静電的な結合に寄与する陽性荷電面をも有する、いわゆる両親媒性α-へリックス構造を形成することが示された。
Td3701のDNA導入能は、市販のDNA導入試薬であるLipofectinTMと同程度であり、高いとは言えない。そこで、PS親和性を維持しつつDNA導入能を上昇させることを目的とした改変を試みた。すなわち、α-へリックス構造の疎水面形成の推進による細胞へのDNA導入能上昇を目的としたアミノ酸置換(Td3701のイソロイシン4残基をロイシンに置換する改変)を行い、Td3717を作出した。Td3717は、哺乳動物細胞の細胞膜リン脂質二重層の主要な構成成分であるホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、スフィンゴミエリン(SM)には親和性を示さず、PSに高い親和性を示し、また、DNA導入能はTd3701の30倍まで上昇した。なお、PS存在下のCDスペクトルでは、α-へリックス構造の特徴である222 nm付近の谷の深さがTd3717>Td3701であり、Td3717ではTd3701に比べてより強固なα-へリックスが形成されているものと推定され、DNA導入能との相関が示唆された。一方、両親媒性α-へリックスペプチドであるKALAおよびHEL 11-7はPS以外のリン脂質とも結合し、Td3717のPS親和性は、両親媒性α-へリックス構造そのものに起因するのではなく、そのアミノ酸配列に起因するものと考えられた。
次に、ラット好塩基球由来の株化細胞であるRBL-2H3細胞を用い、抗原刺激により細胞表層にPSを表出させた場合と未刺激の場合とでTd3717のDNA導入能を比較した。その結果、抗原刺激後ではTd3717のDNA導入能が劇的に上昇することが示された。一方、市販のDNA導入試薬(Lipofectin, Lipofectamine2000)では、抗原刺激前後でのDNA導入能の変化は認められなかった。また、正常細胞や腫瘍細胞を用いて細胞表層のPS量とTd3717のDNA導入能との関係を評価したところ、相関する傾向が認められ、Td3717がPS指向性を有するベクターであることが示された。
最後に、DNA導入能を指標として、Td3717/DNA複合体の安定性について評価した。その結果、Lipofectin/DNA複合体とは対照的に、Td3717/DNA複合体は溶液・冷蔵保存下で6カ月安定であり、凍結融解に対しても少なくとも4回までは安定であることが示された。冷蔵保存中および繰り返しの凍結融解後において、Td3717/DNA複合体の粒子径および粒子径分布はほとんど変化しなかったのに対し、Lipofectin/DNA複合体の粒子径および粒子径分布は増大したことから、Td3717/DNA複合体の保存安定性および凍結融解に対する耐性はTd3717がDNAと極めて安定な複合体を形成することに因るものと考えられた。
以上、hFVIIIの配列をもとにデザイン・創出された核酸導入用ベクターTd3717は、両親媒性α-へリックス構造を示し、核酸との静電的な結合能/核酸の細胞への導入能とPSへの高い親和性とを同時に有するという特徴を有しており、DNAと極めて安定な複合体を形成することから、腫瘍細胞等正常でない細胞・組織に対する選択的非ウイルスベクターとして、今後、核酸医療の分野での利用が期待される。

本論文は、「DEVELOPMENT OF NON-VIRAL VECTOR FOR DNA DELIVERY WITH ACTIVE TARGETING PROFILE FOR PHOSPHATIDYLSERINE(ホスファチジルセリンに指向性を有する核酸導入用非ウイルスベクターの開発)」と題し、以下に示す5章およびCONCLUSIONより構成されている。
第1章では、研究の背景および細胞膜脂質二重層における生理活性物質としてのホスファチジルセリン(PS)に関するこれまでの知見をまとめ、PSを標的分子とする部位選択性非ウイルスベクターのコンセプトを示して本研究を行う意義を明確にしている。
第2章では、ヒト血液凝固因子FactorVIII(hFVIII)C末端のPS認識配列をもとに37アミノ酸からなるペプチドTd3701をデザイン・創出し、Td3701がPSに高い親和性を示し、かつ、DNAと静電的に結合して細胞へDNAを導入することを示している。また、Td3701は、PS存在下で細胞膜との相互作用に寄与するα-へリックス構造をとり、核酸との静電的な結合に寄与する陽性荷電面をも有する、いわゆる両親媒性α-へリックス構造を形成することを明らかにし、PSを標的分子とする部位選択的DNA導入能との関連を明示している。
 第3章では、Td3701のPS親和性を維持しつつDNA導入能を上昇させるために、α-へリックス構造の疎水面形成の推進を目的としたアミノ酸置換(Td3701のイソロイシン4残基をロイシンに置換)を行って、DNA導入能が30倍上昇したTd3717を作出している。また、培養細胞を用いた形質転換の評価から、細胞表層のPS量とTd3717のDNA導入能と相関が、市販のDNA導入試薬では認められずTd3717で認められることを示し、本研究のコンセプトが成立することを明示している。
第4章では、Td3717のPS特異的な核酸導入能の発現は、両親媒性α-へリックス構造だけに起因するのではなく、そのアミノ酸配列に依存した「特異的PS認識とそれに伴うα-へリックス構造への変化」に起因するという特徴的な性質に因るものであることを明らかにしている。
第5章では、Td3717がDNAと安定な複合体を形成し、その粒子径が変化しないために保存安定性が優れていることを明らかにし、実用面での優位性を示している。CONCLUSIONでは、本研究で得られた一連の研究成果について総括するとともに、Td3717が核酸医薬のみならず広く医薬品の能動的な投与に応用できる展望を述べている。
核酸医薬の投与においてベクターの役割は極めて大きく、安全性と導入効率の面から部位選択性を有する非ウイルスベクターの開発は重要な課題となっている。本研究は、当該課題に対して全く新しいコンセプトを提示し、その有用性を明らかにしている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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