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画像処理を利用して測量成果編集を支援するトータルステーションの開発

氏名 先村 律雄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第381号
学位授与の日付 平成18年6月30日
学位論文題目 画像処理を利用して測量成果編集を支援するトータルステーションの開発
論文審査委員
 主査 助教授 下村 匠
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 助教授 宮木 康幸
 副査 助教授 力丸 厚
 副査 副学長 丸山 久一

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論文目次

第1章 研究の目的と背景
 1.1 研究の背景 p.1
 1.2 既往の研究 p.1
 1.3 研究の進め方 p.2
 1.4 本論文の構成 p.3
 (参考文献)

第2章 成果編集業務の現状と問題点
 2.1 はじめに p.6
 2.2 事故災害 p.6
 2.2.1 成果編集例 p.6
 2.2.2 問題点 p.11
 2.3 現況測量(平板測量) p.12
 2.3.1 実際の成果編集例 p.12
 2.3.2 問題点 p.16
 2.4 出来形と検査 p.16
 2.4.1 問題点 p.19
 2.5 問題点の整理 p.19
 第2章のまとめ p.20
 (参考文献)

第3章 システムの優位性の検討
 3.1 はじめに p.22
 3.2 写真測量(画像解析)システム p.23
 3.2.1 システムの測量原理 p.23
 3.2.2 成果作成編集フロー p.25
 3.2.2.1 カメラキャリブレーション p.25
 3.2.2.2 標識(パスポイント)設置 p.28
 3.2.2.3 ターゲットの設置 p.29
 3.2.2.4 写真撮影 p.30
 3.2.2.5 基準点の測量から前方交会まで p.33
 3.2.2.6 成果作成 p.36
 3.2.3 システムの精度 p.36
 3.3 GPSシステム p.38
 3.3.1 システムの測量原理 p.38
 3.3.2 成果作成編集フロー p.38
 3.3.2.1 ジオイドモデルの取得 p.41
 3.3.2.2 基準局のセット p.41
 3.3.2.3 測定 p.42
 3.3.2.4 データ転送と成果作成 p.43
 3.3.3 システムの精度 p.43
 3.4 トータルステーションシステム p.44
 3.4.1 システムの測量原理 p.44
 3.4.2 成果作成編集フロー p.45
 3.4.2.1 トータルステーション設置 p.46
 3.4.2.2 測定 p.46
 3.4.2.3 データ転送と成果作成 p.46
 3.4.3 システムの精度 p.46
 3.5 優位性の検討 p.46
 3.5.1 検討条件の定義 p.47
 3.5.2 精度面から優勢の検討 p.47
 3.5.2.1 安定性(人的条件) p.47
 3.5.2.2 安定性(最適運用の場合) p.49
 3.5.2.3 精度のバランス p.49
 3.5.2.4 範囲・時間(昼夜) p.51
 3.5.2.5 選択機材による影響 p.52
 3.5.3 操作性(迅速性) p.53
 3.5.3.1 外業時間 p.53
 3.5.3.2 内業時間 p.54
 3.5.4 経済性 p.55
 3.5.4.1 初期コスト p.55
 3.5.4.2 運用コスト p.55
 3.5.5 優位性の高いシステムの決定 p.56
 3.5.5.1 事故・災害面 p.56
 3.5.5.2 現況測量 p.56
 3.5.5.3 出来形と検査測量 p.56
 3.5.6 トータルステーションシステムを開発のベースに使用 p.57
 第3章のまとめ p.57
 (参考文献)

第4章 開発の位置づけ
 4.1 はじめに p.59
 4.2 開発の位置づけ p.59
 4.2.1 画像情報を成果に付加して利用 p.59
 4.2.2 画像情報を成果作成時に利用 p.60
 4.2.2.1 後処理結線 p.60
 4.2.2.2 測量中に結線 p.62
 4.3 画像情報を画像解析として利用 p.64
 第4章のまとめ p.66
 (参考文献)

第5章 成果編集を支援するトータルステーションの開発
 5.1 はじめに p.68
 5.2 設計の思想 p.68
 5.3 開発システムの全体構成 p.69
 5.4 ハードウェアの選択と組み込み p.70
 5.4.1 トータルステーションの性能 p.70
 5.4.2 CMOSセンサー(カメラ)の組み込み p.71
 5.4.3 TFTスクリーン p.71
 5.4.4 画像処理専用デバイスチップ p.72
 5.5 コンピュータグラフィックス p.73
 5.5.1 カメラ座標と地上座標の関係 p.74
 5.5.2 トータルステーションの機構による回転パラメータ p.77
 5.5.3 カメラ軸と望遠鏡視準軸が平行でないことによる補正 p.78
 5.5.4 カメラレンズによる写真像のディストージョン p.80
 5.6 画像データの記録 p.81
 5.6.1 映像データのサイズ p.82
 5.6.2 映像データの記録 p.83
 5.7 リアルタイム処理設計 p.84
 5.7.1 マルチスレッド手法 p.84
 5.7.2 スレッド処理単位の生成 p.84
 第5章のまとめ p.85
 (参考文献)

第6章 成果編集を支援する後処理システムの開発
 6.1 はじめに p.87
 6.2 開発の着眼点 p.87
 6.3 画像データと測量データ関連付けシステムの開発 p.87
 6.3.1 画像データと測量データの連携 p.87
 6.3.2 システムの全体構成 p.88
 6.3.3 データ入力 p.88
 6.3.4 画像表示機能 p.90
 6.3.5 設計CADへエクスポート p.94
 6.4 画像解析用システム p.96
 6.4.1 画像解析のためのデータインポート p.97
 6.4.2 画像解析(3D計測・図化) p.98
 6.4.3 画像解析(データ処理) p.99
 第6章のまとめ p.100
 (参考文献)

第7章 開発システムの効果の検証
 7.1 はじめに p.101
 7.2 画像情報を成果に付加して利用した場合の検証 p.101
 7.2.1 交通事故の見取り図作成 p.101
 7.2.2 後処理によるライン作成 p.106
 7.3 画像情報をリアルタイム画像として利用した場合の効果の検証 p.110
 7.4 画像情報を写真解析データとして利用した場合の効果の検証 p.112
 第7章のまとめ p.115
 (参考文献)

第8章 結論 p.116
(研究に関する参考文献) p.118

謝辞 p.119

本研究の目的は測量成果編集を支援する測量システムの効率化である。ここ10年で測量は従来の測量分野から、建設分野、GIS分野、農業分野、災害監視、事故調査などに拡がりさまざまな分野で実施されている。全ての分野に共通することは測量そのものが目的でなく、測量成果を利用することが最終の目的である。これらの測量成果を、所要の精度で、迅速かつできるだけ経済的に取得するための代表的な測量機器として、画像解析、GPSシステム、トータルステーションがある。これまで、機器ごとに関した成果の研究はなされているが、これらを組み合わせた機器の開発により、測量成果がどのように効率化されるのかの検証はほとんどなされていない。そこで、現状の測量成果編集をおこなうときの課題を挙げ、開発のベースとする測量機器として最も優位性があるプラットフォームを決める。次にこのプラットフォームに別の測量プラットフォームを組み合わせたものを開発する。この開発した機器を用いて現状の課題に対しどこまで効果があるのか検証するものである。
 現状の成果編集の課題として、事故現場の見取り図の成果編集、現況測量の平面図の成果編集、出来形検査の成果編集を挙げた。事故現場で必ず成果として作成される見取り図は、所要の精度を確保しながら作業を迅速におこなう必要がある。見取り図の成果には写真も必要なためステレオカメラの利用も検討されているが、精度が不安定および専門知識が要求されることより、決定的なシステムがない。現況測量は、設計図書の照査をおこなうため、現況平面図を作成する。この成果の編集の過程にポイントの結線業務がある。結線は、測量中に編集する場合はポイントコード方式、後処理で編集する場合は、野帳に現場情報を記入し、現場を思い出しながらCAD上で結線するが、迅速性、経済性(延べ人数の増加)に問題がある。出来形検査は、契約した断面の検査は適性に実施されているが、それ以外の場所の検査は、経済的問題より実質おこなわれていない。
 これらの課題を解決するために開発するシステムのベースとなるプラットフォームを、精度、迅速性、経済性の観点から決める。画像解析の精度はカメラ撮影と方法と標定計算に依存し、この部分は専門的知識が必要なため精度は不安定さが伴う。しかし標定後の成果編集はほぼ自動化されているため簡単に3次元データモデルを作成できる特長がある。GPSは、夜間でも全く精度の劣化なしでデータを取得でき、対象の現場が大きくなるほど経済的効果が現れる特長があるが、初期コストに他のシステムの3倍以上かかる。トータルステーションは、前方交会ができる唯一のシステムで高精度かつ安定している。また、ノンプリズム距離計の搭載により非接触で計測点のデータを取得できるようになった。検討結果よりトータルステーションを開発のベースマシンとした。
 トータルステーションに追加するプラットフォームに画像計測の概念を取り込むことを考え、カメラを搭載した。カメラで撮影した画像データと測量データを関連付けることによる効果、カメラで撮影されるリアルタイム画像と測量データをCGで重ね合わせることによる効果、カメラで撮影された写真を画像解析に利用することによる効果を狙った。
 開発したシステムを用いて実際に効果の検証をおこなった。交通事故の見取り図作成編集の支援では、交通規制解除のため1時間以内で見取り図を完成する必要があり、測量データと画像データを同時に取得し、かつ関連付けて成果を確認できるため限られた時間で成果編集を支援できた。測量中に3次元座標と画像データの関連付けにより現れた本効果は、プラットフォームを組み合わせた本システムの特長である。現況測量の成果図作成では、リアルタム画像と測量データのCGの重ね合わせによりポイントコードを利用しなくても、画像を直接みながら結線できるため直感的に作業ができる。また、後処理結線方式は野帳に現場情報を記入しなくても、記録した画像データを見ながら、一部制限はあるものの、結線が可能になった。
 画像解析のために画像データを利用する効果としては、画像解析の作業フローで最も迅速性と経済性に影響を及ぼす標定作業の省略が可能になった。標定作業レス、ターゲットレスにより、夜間計測の不可と精度の制約はあるが計測対象物に全く近づくことなく解析が可能になる。出来形検査において、契約断面以外の断面も迅速性、経済性を低下することなく計測ができる可能性がわかった。以上より、今回開発したシステムは、測量データと画像データの関連付け、測量基準点とトータルステーションの角度データと画像データの関連付けにより、現状の課題が効率化できることを検証した。

本論文は、「画像情報を利用して測量成果編集を支援するトータルステーションの開発」と題し、8章より構成されている。第1章「研究の目的と背景」では、測量成果を作成するために利用されている代表的な測量機器の効率化に関する従来の研究概要を示すとともに、本研究の目的と進め方について述べている。第2章「成果編集業務の問題と現状」では、成果編集が非常に困難あるいは難しい例を3題挙げて述べている。事故・災害発生時に作成される見取り図は迅速性を要求され、工事施工前に作成される現況図は精度を要求され、工事完成後の出来形・検査は経済性を要求され、現状の測量システムではこれらの成果を効率的に支援することは難しいと述べている。第3章「システムの優位性の検討」では、開発するシステムのベースとなる測量機器を現在代表的な"画像解析"、"GPSシステム"、"トータルステーションシステム"の中から、第2章で述べた精度、迅速性、経済性を有する最も優位なシステムを検討している。画像解析は写真標定後の作業の迅速性は高いが精度が不安定であり、GPSは夜間・悪天候下の迅速性は高いが初期コスト負担が大きい。トータルステーションは測定精度が安定かつ高精度で限られた作業範囲において迅速性・経済性とも優位性が高いとしてこれをベース機器としている。第4章「開発の位置づけ」では、ベース機器としたトータルステーションに画像解析の概念を組み合わせ、画像情報を座標データに関連付けるだけでなく画像解析にも利用することを本研究の特徴にすると述べている。第5章「成果編集を支援するトータルステーションの開発」では、開発した技術を実用化するためトータルステーションに追加・改良したハードウェア・ソフトウェア・計算アルゴリズム等について述べている。第6章「成果編集を支援する後処理システムの開発」では、第5章で測量したデータから成果を作成するシステムの開発について述べている。第7章「開発システムの効果の検証」では、3つの実験を行ない、開発システムの効果を調べている。交通事故の見取り図作成業務では画像情報と座標データの関連付けにより、交通規制時間内に測量と同時に成果を作成できることを示した。土木工事前に実施する現況測量では、これまで必要であったポイントコードおよび野帳の支援による結線作業を画像情報の支援に置き換えることにより、これらを利用しなくても成果編集ができることを示した。出来形・検査測量では、これまで点で管理していた成果を、写真標定プロセスをフリーにした画像解析の利用により迅速性・経済性を現状と同レベルに保持したまま、面的に管理できる可能性があることを示した。第8章「結論」では、本開発システムが現状の成果編集をおこなう上で不可能か困難であった作業に対して、これらを効率化する能力があると結論付けた。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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