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ロドコッカス属PCB分解菌のビフェニル水酸化酵素の多様性と機能の解析

氏名 岩崎 卓巳
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第425号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 ロドコッカス属PCB分解菌のビフェニル水酸化酵素の多様性と機能の解析
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 森川 康
 副査 教授 解良 芳夫
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 助教授 政井 英司

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序章 p.1

第1章 ビフェニルジオキシゲナーゼアイソザイム遺伝子の転写と翻訳
 1-1 緒言 p.6
 1-2 材料と方法
 1-2-1 培地・培養条件・使用菌株・プラスミド p.7
 1-2-2 PCR p.7
 1-2-3 total RNAの単離 p.7
 1-2-4 RT-PCR p.8
 1-2-5 二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動法用サンプルの調製 p.9
 1-2-6 二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動 p.9
 1-2-7 タンパク質スポットの濃縮とN-末端アミノ酸配列の決定 p.9
 1-3 結果
 1-3-1 etbA1, ebdA1の転写解析 p.11
 1-3-2 BP存在下で特異的に誘導されるタンパク質の同定 p.13
 1-4 考察 p.17

第2章 ビフェニルジオキシゲナーゼアイソザイム遺伝子の機能解析
 2-1 緒言 p.18
 2-2 材料と方法
 2-2-1 培地・培養条件・使用菌株・プラスミド p.19
 2-2-2 DNA操作 p.21
 2-2-3 PCR p.21
 2-2-4 エレクトロポレーション p.21
 2-2-5 遺伝子破壊 p.22
 2-2-6 total DNAの単離 p.22
 2-2-7 サザンハイブリダイゼーション p.23
 2-2-8 Rhodococcus属細菌からのプラスミド単離と確認 p.23
 2-2-9 休止菌体の調製 p.23
 2-2-10 休止菌体による4-chlorobiphenylの分解 p.24
 2-2-11 休止菌体によるPCB同族体の分解 p.24
 2-3 結果
 2-3-1 etbA1, ebdA1, bphA1の破壊 p.25
 2-3-2 HDT1株、HDB1株、HDA1株の4-chlorobiphenyl分解活性 p.31
 2-3-3 HDT1株、HDB1株、HDA1株の相補 p.31
 2-3-4 etbA1, bphA1、ebdA1, bphA1二重破壊株の作製 p.33
 2-3-5 etbA1, ebdA1二重破壊株の作製 p.37
 2-3-6 HDAT1株、HDAB1株、HDBT1株の4-chlorobiphenyl分解活性 p.39
 2-3-7 HDAB1株へのebdA3の導入 p.39
 2-3-8 ebdA3, bphA3の破壊 p.41
 2-3-9 HDB3株、HDA3株、HDAB33株の4-chlorobiphenyl分解活性 p.49
 2-3-10 HDB3株とHDA3株の相補 p.49
 2-3-11 etbA4, bphA4の破壊 p.51
 2-3-12 HDT4株の4-chlorobiphenyl分解活性と相補 p.51
 2-3-13 RHA1株、HDA1株、HDBT1株によるPCB同族体の分解 p.54
 2-4 考察 p.56

第3章 ビフェニルジオキシゲナーゼアイソザイム遺伝子の異種宿主での発現
 3-1 緒言 p.58
 3-2 材料と方法
 3-2-1 培地・培養条件・使用菌株・プラスミド p.60
 3-2-2 休止菌体の調製 p.60
 3-2-3 休止菌体による4-chlorobiphenylとPCB同族体の分解 p.60
 3-2-4 相対分解活性の算出 p.60
 3-2-5 反応産物の同定 p.61
 3-3 結果
 3-3-1 EtbA/EbdA dioxygenaseの発現 p.63
 3-3-2 BphA dioxygenaseの発現 p.66
 3-3-3 ferredoxin reductaseの互換性 p.68
 3-3-4 ferredoxinの互換性 p.69
 3-3-5 EtbA/EbdA dioxygenaseとBphA dioxygenaseの基質特異性 p.71
 3-3-5-1 4-chlorobiphenyl p.75
 3-3-5-2 biphenyl p.77
 3-3-5-3 naphthalene p.77
 3-3-5-4 phenanthrene p.80
 3-3-5-5 dibenzofuran p.80
 3-3-5-6 dibenzo-p-dioxin p.83
 3-3-5-7 benzene p.85
 3-3-5-8 toluene p.85
 3-3-5-9 ethylbenzene p.85
 3-3-6 PCB同族体に対する基質特異性 p.89
 3-4 考察 p.91

終章 p.94

謝辞 p.98

参考文献 p.99

 ポリ塩化ビフェニル(PCB)は有毒な環境汚染物質であり、使用が禁止されて久しいが、今でも汚染が問題となっている。PCB汚染の浄化に微生物を利用したバイオレメディエーションが期待されている。Rhodococcus sp. RHA1株は強力なPCB分解菌でビフェニル(BP)存在下で多様なPCB成分を好気的に分解できるが、PCBの完全分解を達成するには、分解能を更に強化する必要がある。
 本研究ではRHA1株のPCB分解能の強化を目指し、BP / PCB分解の初発段階で作用する2つのビフェニルジオキシゲナーゼ(BDO)、EtbA/EbdA dioxygenaseとBphA dioxygenaseの機能解析を行った。
 第一章では、EtbA / EbdA dioxygenaseをコードする2つの遺伝子クラスター、etbA1A2,ebdA1A2A3の発現について調べた。etbA1とebdA1は同一のアミノ酸配列を有するが、開始コドンから19 bp上流以上では塩基配列が異なっている。この違いを利用して両遺伝子を区別したRT-PCRを行った。その結果、どちらの遺伝子もBPやエチルベンゼン(ETB)存在下で特異的に転写が誘導されることが明らかになった。BP存在下で特異的に誘導されるタンパク質の同定を目的に2-D PAGEを行った結果、EtbA1 / EbdA1やEtbCを含む15個のタンパク質スポットを同定し、etbA1とebdA1が他のBP / PCB分解酵素遺伝子とともにBPやETB存在下で発現していることが明らかになった。
 第二章では、etbA1,ebdA1ともう一つのBDOサブユニット遺伝子bphA1を破壊し、これらの遺伝子のBP / PCB分解への関与を調べた。まずetbA1,ebdA1,bphA1の単独破壌株HDT1株,HDB1株,HDA1株を作製し、その4-chlorobiphenyl(4-CB)分解活性を測定したところHDB1株とHDA1株では明確な4-CB分解活性の低下が見られ、少なくともebdA1はbphA1とともにBP / PCB分解に関与していることが示唆された。これら破壊株の相補実験の結果、遺伝子破壊により極性効果が生じ、破壊した遺伝子の下流に位置する遺伝子の発現が抑制されたことが示唆された。etbA1 bphA1二重破壊株(HDAT1株)、ebdA1 bphA1二重破壊株(HDAB1株)、etbA1 ebdA1二重破壊株(HDBT1株)の4-CB分解活性を測定した結果、HDAT1株は親株であるHDA1株(デルタbphA1)よりも4-CB分解活性が明確に低下していたことから、etbA1のBP / PCB分解への関与が示唆された。さらに、4-CB分解活性が消失したHDAB1株において、ferredoxinをコードするebdA3の導入によって4-CB分解活性を示したことから、etbA1のBP / PCB分解への関与が支持された。
 etbAl,ebdAl,bphAlの破壊における極性効果から、BDOのferredoxinをコードするebdA3,bphA3、ferredoxin reductaseをコードするetbA4の重要性が示唆されたことから、これらの破壊株すなわちebdA3破壊株(HDB3株)、bphA3破壊株(HDA3株)、ebdA3 bphA3二重破壊株(HDAB33株)etbA4破壊株(HDT4株)を作製した。単独破壊株の4-CB分解活性は有意に低下し、ebdA3,bphA3,etbA4のBP / PCB分解への関与が示唆された。HDAB33株に4-CB分解活性がほとんどないことから、BP / PCB分解時に発現しているferredoxinは主にEbdA3とBphA3であることが示唆された。
 BDOの基質特異性がPCB分解菌の分解可能なPCB同族体を決定していることから、EtbA / EbdA dioxygenaseを発現しているHDA1株(デルタbphA1)とBphA dioxygenaseを発現しているHDBT1株(デルタetbA1, デルタebdA1)のPCB同族体に対する基質特異性を調べた。その結果、HDBT1株はpara-位置換体をほとんど分解できなかった。HDA1株はRHA1株と同じ分解スペクトルを示したことから、高塩素置換体の分解においてはEtbA / EbdA dioxygenaseが重要な役割を担っていること、低塩素置換体やortho-位置換体の分解ではBphA dioxygenaseとEtbA / EbdA dioxygenaseの両方が働いていることが示唆された。
 第三章では、Rhodococcus erythropolis IAM1399株を宿主において、EtbA / EbdA dioxygenaseとBphA dioxygenaseを発現させ、両酵素の基質特異性とelectron transfer componentの互換性を調べたEtbA / EbdA dioxygenaseとしてebdA1A2A3etbA4を、BphA dioxygenaseとしてbphA1A2A3A4を導入し、IAM1399株に4-CB分解活性を付与することが出来た。ferredoxin reductaseの互換性を調べるために、ebdA1A2A3bphA4とbphA1A2A3etbA4をそれぞれIAM1399株中で発現させたところ、有意な4-CB分解活性を示し、EtbA4とBphA4は互換性があることが明らかになった。同様にferredoxinの互換性を調べるために、ebdA1A2bphA3etbA4とbphA1A2ebdA3etbA4をそれぞれR. erythropolis IAM1399株中で発現させたが、IAM1399株は4-CB分解活性は示さなかった。ferredoxin遺伝子と遺伝子クラスターを形成しているterminal oxygenase componentをコードする各A1A2遺伝子の追加により、4-CB分解活性を示したことから、EbdA3とBphA3には互換性がなく、EbdA3はEtbA1A2 /EbdA1A2に、BphA3はBphA1A2に対してのみ電子を伝達することが明らかになった。
 EtbA / EbdA dioxygenaseとBphA dioxygenaseの芳香族化合物に対する基質特異性を調べた結果、EtbA / EbdA dioxygenaseはnaphthaleneに、BphA dioxygenaseはbiphenylに対して最も高い活性を示した。両酵素は他のBDOと同様にdibenzofuranとdibenzo-p-dioxinのangular-位を水酸化したが、angular-位の水酸化が主要な反応であり、他のBDOとは異なる性質を示した。また、両酵素は単環の芳香族化合物benzene, toluene, ethylbenzeneにも活性を示し、EtbA / EbdA dioxygenaseでは2,3-位だけでなく3,4-位も水酸化できることが明らかになった。
 他のPCB分解菌でも複数のBDOアイソザイムを保持する菌株の報告はあるが、各BDOアイソザイムの役割を明らかにしたのは本研究が初めてであり、RHA1株のPCB分解能の解明に寄与したと考えられる。また本研究で明らかになったEtbA / EbdA dioxygenaseとBphA dioxygenaseの基質特異性は非常にユニークであり、特にEtbA / EbdA dioxygenaseについては広い基質特異性など他のBDOと一線を画す優れた性質を持ち、応用が期待される。
 以上のように本研究では、RHA1株が保持する2つのBDO、EtbA / EbdA dioxygenaseとBphA dioxygenaseについて解析を行い、両酵素のBP / PCB分解への関与とその機能を明らかにし、PCB同族体やその他芳香族化合物に対する基質特異性、electron transfer componentの組合せについて様々な知見を得ることが出来た。これらの新たな知見はRHA1株の持つ強力なPCB分解能の解明と強化、応用に寄与するとともに、芳香環水酸化酵素への理解を深める一助になると期待される。

 本論文は、環境汚染物質であるポリ塩化ビフェニル(PCB)の微生物を利用した浄化方法の確立を目指し、PCB分解菌ロドコッカス属 RHA1株のPCB分解の初発段階で作用する3種のビフェニル水酸化酵素について、それぞれのPCB分解への関与を明らかにすることを目的として、各ビフェニル水酸化酵素について遺伝学的解析を行った一連の研究結果をまとめている。
 本論文では、まずビフェニル水酸化酵素の大サブユニットをコードするetbA1遺伝子とebdA1遺伝子の発現について解析を行い、PCB分解能を誘導するビフェニルとエチルベンゼンの存在下で両遺伝子が発現していることを明らかにした。次にbphA1遺伝子を加えた3者について単独あるいは2つ同時に破壊した変異株を作製し、その解析から各遺伝子がPCB分解に関与していることを明らかにした。また、ビフェニル水酸化酵素の電子伝達を担うフェレドキシンをコードするbphA3遺伝子とebdA3遺伝子、フェレドキシン還元酵素をコードするetbA4遺伝子を破壊した変異株の解析から、これらの遺伝子もPCB分解に関与していることを明らかにした。遺伝子破壊株から得られた結果を基にEbdA(EtbA)ジオキシゲナーゼとBphAジオキシゲナーゼを異種宿主で発現させ、各コンポーネントの互換性について調べ、フェレドキシン間では互換性がないが、フェレドキシン還元酵素間には互換性があることを明らかにした。さらにEbdA(EtbA)ジオキシゲナーゼとBphAジオキシゲナーゼのPCB同族体に対する基質特異性の違いを調べ、RHA1株のPCB分解においてEbdA(EtbA)ジオキシゲナーゼが重要な役割を担っていることを明らかにした。
 本論文ではRHA1株の3種のビフェニル水酸化酵素のPCB分解能における機能と役割を調べ、RHA1株がビフェニル水酸化酵素を複数種保持していることの意義を明らかにした。本研究で得られた知見は、RHA1株の有する強力なPCB分解メカニズムとビフェニル水酸化酵素の反応機構を理解する上で重要であるだけでなく、RHA1株の分解能力強化と実用的なPCB浄化への応用に寄与するものと考えられる。よって本論文は、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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