未架橋ゴム材料の非線形粘弾性とフィラー網目構造変化に関する研究
氏名 佐藤 有二
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第405号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 未架橋ゴム材料の非線形粘弾性とフィラー網目構造変化に関する研究
論文審査委員
主査 教授 五十野善信
副査 教授 塩見 友雄
副査 助教授 竹中 克彦
副査 助教授 河原 成元
副査 助教授 前川 博史
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第1章 序論
1-1 はじめに p.1
1-2 フィラー充填ゴム材料の非線形粘弾性に関する研究経緯 p.4
1-3 研究の目的と概要 p.7
第2章 圧縮/変形回復後の微分動的弾性率測定
2-1 緒言 p.17
2-2 実験 p.19
2-3 結果 p.23
2-4 考察 p.32
第3章 緩和弾性率・電気抵抗の同時測定
3-1 緒言 p.43
3-2 実験 p.46
3-3 結果 p.49
3-4 考察 p.63
第4章 緩和弾性率・微分動的弾性率・電気抵抗の同時測定
4-1 緒言 p.77
4-2 実験 p.78
4-3 結果 p.82
4-4 考察 p.91
第5章 結言 p.103
発表論文 p.107
参考論文 p.107
口頭発表 p.108
謝辞 p.110
フィラー充填未架橋ゴムは,フィラー充填架橋ゴムと同様に顕著な非線形粘弾性を示す.ゴム製品の加工工程においてゴム材料は未架橋の状態で大変形を受ける.もちろん,初期混練過程以降は,フィラー充填系が対象となる.フィラー未充填の純ゴムの粘弾性はゴム分子鎖同士の相互作用のみに支配されるが,フィラー充填ゴムにおいてはゴム分子鎖とフィラー間の相互作用,さらにはフィラー同士の相互作用が発生し,その挙動はきわめて複雑になる.この複雑な挙動は,製品の品質を阻害する要因となる場合が多く,高性能・高品質のゴム製品を製造するためには,フィラー充填未架橋ゴムの非線形粘弾性挙動を解明しなければならない.フィラー充填ゴム材料の非線形粘弾性に関する研究は数多く行われてきたが,そのほとんどがゴム製品の性能向上を目的としたもので,架橋ゴムを対象としていた.そのため,製造過程おける未架橋ゴムの粘弾性はほとんど解明されていなかった.フィラー充填ゴムは高分子とフィラーからなる.したがって,その間の相互作用は高分子/高分子間,高分子/フィラー間,フィラー/フィラー間の相互作用に大別され,それらに基づく内部構造変化が非線形粘弾性発現要因であると考えられる.そのため,各相互作用を分離して観測できる手法が欠かせない.未架橋ゴムを対象とする研究がほとんどなかったことの主たる要因は,階層の異なる内部構造変化観測法の欠如にあった.そこで,本研究は,フィラー充填未架橋ゴムにおけるゴム分子鎖の絡み合い構造とフィラー網目構造の非線形粘弾性への影響について検討を行い,大変形時のゴム内部構造変化を明らかにすることを目的とした.
第1章では序論として、本研究の背景、意義および目的について述べるとともに、フィラー充填未架橋ゴムの製造上の問題点と非線形発現要因を概観し,詳細に検討するための基本的な考え方と有効な観測法について論じた。
第2章では,化学網目とフィラー網目混在系から,本論文の根幹をなすフィラー網目構造が刺激とともに変化する様子を分離して力学的に観測する手法として,大圧縮/変形回復モード,ならびにそれに重畳した微小振動に対する微小応力応答を解析することによって得られる微分動的弾性率を提案し,フィラー網目の実在性と,その網目強度ならびにフィラー網目回復のタイムスケールのフィラー粒径依存性を詳細に検討した.
第3章では,カーボンブラック(CB)をフィラーとして充填したゴム材料に導電性が発現することに着目し,明確な変形履歴のもとでの緩和弾性率・体積抵抗率同時測定法を提案するとともに,複雑な内部構造を,高分子鎖のからみ合い網目(以下,CeNと略),フィラーゲル相で拘束された高分子鎖を介した間接的相互作用によるフィラー網目(Bridged Filler Network, 以下BFNと略), フィラー粒子の接触による直接的な相互作用によるフィラー網目(Contact Filler Network, 以下CFNと略)に類別し,変形にともなう3つの網目構造変化を観測することにより,CFN形成に係るフィラー濃度範囲,3種網目が寄与する応力の加成性に基づくモード分離,3種網目構造変化のひずみ依存性を検討した.
第4章では,2章,3章でそれぞれ有効性の確認された微分動的弾性率,ならびに力学・電気特性同時測定法を組み合わせ,カーボンブラックを幅広い範囲で充填した試料を用いて,さらに検討を進め,CFN形成のパーコレーション挙動,3つの異なる観測量(緩和弾性率,微分動的弾性率,体積抵抗率)から得られる情報の対応関係,CeN, BFN, CFN形成のCB濃度依存性,非線形粘弾性に及ぼすCeN, BFN, CFN構造変化の影響を検討した.
これら一連の検討の結果,(1)フィラー充填未架橋ゴム中には,CeN, BFN, CFNの3つの異なる網目が存在する,(2)微分動的弾性率,体積抵抗率測定によりCFNを評価できる,(3)CFN形成はパーコレーション過程による,(4)CeN, BFN, CFNいづれも可逆回復性網目である,(5)3つの網目は異なるひずみ範囲で変化し,CFNは微小ひずみから,BFNは比較的大きなひずみで,CeNはさらに大きなひずみで変化する,(6)3つの網目の応力への寄与はCB濃度で変化し,低濃度領域ではCeNとBFNが,高濃度側ではCFNが支配的となる,(7)CeNとBFNの回復速度はかなり異なり,応力に寄与する程度のCeN変化は高々102秒程度のタイムスケールで回復するのに対し,BFNが回復するには104から105秒程度要すること,などが明らかとなった.これらの結果を総合すると,フィラー充填未架橋ゴムのきわめて強い非線形粘弾性は弱い網目であるCFNの崩壊に起因するが,その回復速度はかなり速いことから,ゴム加工工程の支配因子,例えば押出加工工程でのダイスウェルや寸法安定性を支配する因子はBFNであると考えられる.本研究の意義は,ゴム製品の複雑な製造工程をCFNとBFNの2つの網目構造変化と回復により整理できるという指針を与えた点にあり,粒子補強性有機材料製造に係る工学,工業の発展に資するところ大であると考える.
本論文は「未架橋ゴム材料の非線形粘弾性とフィラー網目構造変化に関する研究」と題し,5章から構成されている.
フィラー充填未架橋ゴムは,フィラー充填架橋ゴムと同様に顕著な非線形粘弾性を示す.ゴム製品の加工工程においてゴム材料は未架橋の状態で大変形を受ける.したがって,高性能・高品質のゴム製品を製造するためには,フィラー充填未架橋ゴムの非線形粘弾性挙動を解明しなければならない.フィラー充填ゴムは高分子とフィラーからなる.したがって,その間の相互作用は高分子/高分子間,高分子/フィラー間,フィラー/フィラー間の相互作用に大別される.そこで,それらに基づく内部構造変化が非線形粘弾性発現要因であると考えられる.本研究は,フィラー充填未架橋ゴムにおけるゴム分子鎖の絡み合い構造とフィラー網目構造の非線形粘弾性への影響について検討を行い,大変形時のゴム内部構造変化を明らかにしたものである.
第1章では序論として、本研究の背景、意義および目的について述べるとともに、フィラー充填未架橋ゴムの製造上の問題点を概観し,非線形粘弾性発現要因を詳細に検討するための基本的な考え方と有効な観測法について論じた。
第2章では,化学網目とフィラー網目混在系から,フィラー網目構造を分離して力学的に観測する手法として,大圧縮/変形回復モード,ならびにそれに重畳した微小振動に対する微小応力応答を解析することによって得られる微分動的弾性率を提案し,フィラー網目の実在性と,その網目強度ならびにフィラー網目回復のタイムスケールを検討した.
第3章では,カーボンブラック(CB)を充填したゴム材料に導電性が発現することに着目し,明確な変形履歴のもとでの緩和弾性率・体積抵抗率同時測定法を提案するとともに,複雑な内部構造を,高分子鎖のからみ合い網目(CeN),フィラーゲル相で拘束された高分子鎖を介した間接的相互作用によるフィラー網目(Bridged Filler Network [BFN]),フィラー粒子の接触による直接的な相互作用によるフィラー網目(Contact Filler Network [CFN])に類別し,変形にともなう3つの網目構造変化を観測することにより,CFN形成に係るフィラー濃度範囲,3種網目が寄与する応力の加成性に基づくモード分離,3種網目構造変化のひずみ依存性を検討した.
第4章では,2章,3章でそれぞれ有効性の確認された微分動的弾性率,ならびに力学・電気特性同時測定法を組み合わせ,カーボンブラックを幅広い濃度範囲で充填した試料を用いて,CFN形成のパーコレーション挙動,3つの異なる観測量(緩和弾性率,微分動的弾性率,体積抵抗率)から得られる情報の対応関係,CeN, BFN, CFN形成のCB濃度依存性,非線形粘弾性に及ぼすCeN, BFN, CFN構造変化の影響を検討した.
第5章では,本論文で得られた結果と考察を要約した.
本論文の意義は,ゴム製品の複雑な製造工程をCFNとBFNの2つの網目構造変化と回復により整理できるという指針を与えた点にあり,粒子補強性有機材料製造に係る工学,工業の発展に資するところ大である.
よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.
メモ:本文印刷汚れ有り