新規フタロシアニン誘導体及びナフタロシアニン誘導体を含む大環状化合物の開発とその応用に関する研究
氏名 松波 真人
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第408号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 新規フタロシアニン誘導体及びナフタロシアニン誘導体を含む大環状化合物の開発とその応用に関する研究
論文審査委員
主査 教授 西口 郁三
副査 教授 塩見 友雄
副査 教授 五十野善信
副査 助教授 竹中 克彦
副査 助教授 河原 成元
副査 助教授 前川 博史
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総合序論 p.1
第1章 新規機能性フタロシアニン誘導体の合成と機能評価
1.1 緒言 p.17
1.2 結果と考察 p.21
1.2.1 クラウンエーテル環を有する塩素置換メタルフタロシアニン誘導体の合成 p.21
1.2.1.1 ハイドロキノンモノアルキルエーテル誘導体の合成 p.22
1.2.1.2 ビスフタロ二トリル誘導体の合成 p.22
1.2.1.3 Cuフタロシアニン誘導体の合成 p.23
1.2.1.4 Coフタロシアニン誘導体の合成 p.24
1.2.2 Cu,Coフタロシアニン誘導体の機能評価 p.25
1.2.2.1 クラウンエーテル鎖の長さによるUV-VISスペクトルの差 p.25
1.2.2.2 クラウンエーテル環を有する塩素置換メタルフタロシアニン誘導体の金属抽出検討 p.27
1.2.3 不斉ビナフチル置換クラウンエーテルを有する塩素置換フタロシアニン誘導体の合成 p.29
1.2.3.1 ジオール誘導体の合成 p.29
1.2.3.2 ジトシレート誘導体の合成 p.30
1.2.3.3 ビスフタロ二トリル誘導体の合成 p.31
1.2.3.4 Cuフタロシアニン誘導体の合成 p.32
1.2.3.5 Coフタロシアニン誘導体の合成 p.33
1.2.4 Cu,Coフタロシアニン誘導体の機能評価 p.34
1.2.4.1 クラウンエーテル鎖の長さによるUV-VISスペクトルの差 p.34
1.2.4.2 中心金属の差によるUV-VISスペクトルの差 p.35
1.3 実験 p.37
1.3.1 実験試薬 p.37
1.3.2 機器分析装置 p.37
1.3.3 実験操作とスペクトルデータ p.38
第2章 ナフタロシアニン誘導体の新規合成ルートの開発
2.1 緒言 p.60
2.2 結果と考察 p.64
2.2.1 フラン付加物を有するフタロシアニン誘導体の合成 p.64
2.2.1.1 6,7-ジシアノ-1,4-エポキシ-5,8-ジペンチルオキシ-1,4-ジヒドロナフタレンの合成 p.64
2.2.1.2 オクタヒドロナフタロシアニン誘導体の合成 p.65
2.2.2 ナフタロシアニン誘導体の合成 p.66
2.2.2.1 4,5-ジアリル-3,6-ジペンチルオキシフタロ二トリルの合成 p.67
2.2.2.2 ナフタロシアニンの合成 p.68
2.3 実験 p.71
2.3.1 実験試薬 p.71
2.3.2 機器分析装置 p.71
2.3.3 実験操作とスペクトルデータ p.72
第3章 金属Mgを用いたアントラセンのワンポットジアシル化反応及び環化付加反応
3.1 緒言 p.81
3.2 結果と考察 p.84
3.2.1 金属Mgを用いたアントラセンの二重炭素-アシル化反応 p.84
3.2.1.1 アントラセンの二重炭素-アシル化反応の条件検討 p.84
3.2.1.2 アントラセンと種々の酸塩化物を用いた二重炭素-アシル化反応 p.85
3.2.2 金属Mgを用いたアントラセンの環化付加反応 p.87
3.2.2.1 アントラセンとコハク酸クロリドを用いた反応の条件検討 p.88
3.2.2.2 アントラセンとコハク酸クロリド、グルタル酸クロリドを用いた環付加反応 p.91
3.2.2.3 アントラセンとグリコリル酸クロリド、3,6-ジオキサオクタンジオイルクロリドを用いた環付加反応 p.93
3.2.3 反応機構の考察 p.94
3.2.3.1 還元電位の測定 p.94
3.2.3.2 Mg-アントラセン錯体とコハク酸クロリドの反応 p.94
3.2.3.3 電極還元反応によるアントラセンとコハク酸クロリドの環化反応 p.95
3.2.3.4 反応機構の考察 p.96
3.3 実験 p.97
3.3.1 実験試薬 p.97
3.3.2 機器分析装置 p.97
3.3.3 実験操作及びスペクトルデータ p.98
第4章 電極還元反応による無水安息香酸誘導体の炭素-アシル化反応
4.1 緒言 p.104
4.1.1 電子移動型反応の特徴 p.104
4.1.2 カルボキ二ル基への炭素-アシル化反応 p.106
4.1.3 有機電極反応による炭素-アシル化反応 p.108
4.2 結果と考察 p.112
4.2.1 無隔膜条件下における無水安息香酸の電極還元反応 p.112
4.2.1.1 無水酢酸存在下での芳香族カルボニル化合物誘導体の電極還元反応 p.112
4.2.1.2 無水安息香酸の電極還元反応におけるアシル化剤の検討 p.114
4.2.1.3 無隔膜条件下での電極還元反応の条件検討 p.114
4.2.1.4 無隔膜条件下での無水安息香酸誘導体の電極還元反応 p.120
4.2.2 有隔膜条件下における無水安息香酸誘導体の電極還元反応 p.122
4.2.2.1 無水酢酸存在下での無水安息香酸の電極還元反応 p.122
4.2.2.2 有隔膜条件下での電極還元反応の条件検討 p.123
4.2.2.3 有隔膜条件下での無水安息香酸誘導体の電極還元反応 p.127
4.2.2.4 1,2-ジアセトキシ-1-フェニル-1-プロペン(16a)の立体構造 p.128
4.2.3 反応機構 p.134
4.2.3.1 無水安息香酸及び無水酢酸の還元電位 p.134
4.2.3.2 無水安息香酸誘導体の電極還元反応の反応機構 p.135
4.2.3.3 重水存在下での無水安息香酸の電極還元反応 p.136
3.2.3.4 ジアシル化生成物(15)とジアシロキシオレフィン誘導体(16)の選択性 p.137
4.2.4 エピネフィリン及びエフェドリン誘導体の合成 p.138
4.2.4.1 1-ヒドロキシ-1-(3'-メトキシフェニル)-2-プロピルアミン塩酸塩(16d)の合成 p.138
4.2.4.2 1-ヒドロキシ-1-フェニル-2-プロパノン(17a)の合成 p.140
4.3 実験 p.141
4.3.1 実験試薬 p.141
4.3.2 機器分析装置 p.141
4.3.3 実験装置 p.142
4.3.3.1 無隔膜電解セル p.142
4.3.3.2 隔膜電解セル p.143
4.3.4 実験操作及びスペクトルデータ p.144
総括 p.156
謝辞 p.158
主要論文目録 p.159
光増感剤や光情報記録用媒体など今日の情報化社会において必要不可欠なものとして利用されているフタロシアニンをはじめとしたカリックスアレーンやシクロファン化合物などの超分子化合物と呼ばれる化合物の殆どは、大環状部を有している。このような大環状部を有する新規化合物の設計と合成は、有機合成化学上非常に有用であり、今までに報告されていない新しい合成手法の開発や新規反応の発見とその応用が必要になってくる。また、今後の有機合成化学には環境に優しい反応手法の開発がさらに重要になってくると考えられる。
電子移動型反応は、反応活性種の発生方法として清浄な試薬である電子を用いるため環境負荷の大きい試薬を使用することなく行うことの出来る反応である。このような電子移動型反応を用いた反応活性種の発生させる手段の一つとして還元力の高いアルカリ金属や二価の希土類金属を用いた電子移動型還元反応がある。しかし、アルカリ金属の反応性は非常に高いため反応の制御が困難であり、緻密な反応条件の設定が必要である。希土類金属の場合には、多くの反応が化学量論的に等量以上必要であり、加えて高価であるために使用の範囲や用途が限られている。このような問題点を克服し、温和で簡便な操作によって電子移動型反応が行うことが出来る電子供給源として金属マグネシウムを用いる数多くの有用な反応を著者の所属研究室において見出し報告している。金属マグネシウムは、安価で安定で取り扱いが容易である利点を有している。
また、別の電子移動型反応としては、陽極及び陰極を有した装置による電極反応がある。この反応においても反応活性種の発生方法は、先の金属マグネシウムの反応のように電子である。そのために金属マグネシウムの反応と同様に環境負荷は大きくない。そのためこれらの反応を用いて新しい超分子型有機物質を合成する手法を確立することは、重要であると考えられる。
本論文では、有機機能性材料の重要な一角を占める超分子型大環状化合物の開発としてフタロシアニンやナフタロシアニン誘導体に着目し、種々の多くの新規誘導体を自らがはじめて開発した手法を用いて、その機能評価に関する研究を行った。また、一般的に合成が困難なナフタロシアニン誘導体の新規合成法を設計し、合成検討を行った。さらに大環状化合物の新規合成法の開発として、金属マグネシウムを電子供給源として利用して発生させたアニオン性反応活性種による新規炭素-炭素結合形成反応に関する研究を行った。同様に電気を電子供給源とした有機電極反応を用いた炭素-アシル化反応による機能性材料の合成を行った。
第一章では、分子内の異なるベンゼン環にエチレングリコール鎖を架橋することによって形成されるクラウンエーテル部を有したフタロシアニン誘導体を創製し、その機能について検討した。塩化第二鉄の使用時において高選択的金属抽出が確認でき、さらに対応する金属塩の単離に初めて成功した。
第二章では、一般的に合成が困難であるとされているナフタロシアニン誘導体の新規合成法の設計と開発を行った。本章では、オレフィンメタセシスを利用したナフタロニトリル誘導体の新規合成法を利用したナフタロシアニン誘導体の合成とベンザイン構造を経由したディールスアルダー反応によるジヒドロナフタロニトリル誘導体の新規合成法を経たナフタロシアニン誘導体の合成法といった二つの合成ルートを設計し、その工程を確立した。
第三章では、金属マグネシウムを電子供給源とした電子移動型反応を用いて、アントラセンのワンポット二重炭素-アシル化反応及び環化付加反応の検討を行った。種々の酸塩化物を用いた場合にアントラセンの9,10-位に選択的にアシル化が進行し、種々のジアシル化生成物が高立体選択的に生成することを見出した。また、コハク酸クロリドやグルタル酸クロリドを用いた場合も、同様に炭素-アシル化が進行し、その後分子内でもう一つのアシル化が起こることによってワンポット環状付加生成物が高選択的に生成することを見出した。
第四章では、陰極還元反応を用いて、無水安息香酸誘導体の炭素-アシル化反応を行い、交感神経作動作用のあるエピネフィリン前駆体等の合成検討を行い、電子移動型反応を用いる新規なエピネフィリン誘導体の合成法を開発した。
本論文では、有機機能性材料としての種々の超分子型大環状化合物を自らが開発した手法を用いて創製し、機能評価に関する研究を行った。同一分子内の芳香環にクラウンエーテル架橋を有する新規フタロシアニン誘導体の開発し、次に、2分子の塩化第二鉄が選択的にプロトン化されたクラウンエーテル環内に補足された錯体の単離・同定に成功した。また、一般的に合成が困難なナフタロシアニン誘導体の簡便な新規合成法を開発した。更に、金属マグネシウムからの電子移動型反応による新規炭素-炭素結合形成反応を用いる大環状化合物を創製した。電極からの電子移動を行う有機電極反応を用いて、炭素-アシル化反応によるエピネフィリン前駆体等の機能性材料の合成を行った。
第一章では、分子内の異なるベンゼン環にエチレングリコール鎖を架橋することによって形成されるクラウンエーテル部を有したフタロシアニン誘導体を創製し、その機能について検討した。塩化第二鉄の使用時において高選択的金属抽出が確認でき、さらに対応する金属塩の単離に初めて成功した。
第二章では、一般的に合成が困難であるとされているナフタロシアニン誘導体の新規合成法の設計と開発を行った。本章では、オレフィンメタセシスを利用したナフタロニトリル誘導体の新規合成法を利用したナフタロシアニン誘導体の合成とベンザイン構造を経由したディールズアルダー反応によるジヒドロナフタロニトリル誘導体の新規合成法を経たナフタロシアニン誘導体の合成法といった二つの合成ルートを設計し、その工程を確立した。
第三章では、金属マグネシウムを電子供給源とした電子移動型反応を用いて、アントラセンのワンポット二重炭素-アシル化反応及び環化付加反応の検討を行った。種々の酸塩化物を用いた場合にアントラセンの9,10-位に選択的にアシル化が進行し、種々のCis-Endoのジアシル化生成物が立体選択的に生成することを見出した。また、コハク酸クロリドやグルタル酸クロリドを用いた場合も、同様に炭素-アシル化が進行し、その後分子内でもう一つのアシル化が起こることによってワンポット環状付加生成物が高選択的に生成することを見出した。
第四章では、陰極還元反応を用いて、無水安息香酸誘導体の炭素‐アシル化反応を行い、交感神経作動作用のあるエピネフィリン前駆体の合成検討を行い、電子移動型反応を用いる新規なエピネフィリン誘導体の合成法を開発した。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分価値を有するものと認める。