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カルコパイライト型化合物CuAlS2に関する研究

氏名 黒木 雄一郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第256号
学位授与の日付 平成18年12月6日
学位論文題目 カルコパイライト型化合物CuAlS2に関する研究
論文審査委員
 主査 教 授 高田 雅介
 副査 教授 西口 郁三
 副査 教授 小松 高行
 副査 教授 打木 久雄
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 岡元 智一郎

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第1章 序論 p.1
 1-1 研究の背景 p.1
 1-2 カルコパイライト型化合物 p.3
 1-3 励起子発光 p.8
 1-4 CuAlS2に関する研究報告 p.10
 1-5 本論文の目的と構成 p.12
 参考文献 p.13

第2章 発光の起源 p.15
 2-1 はじめに p.15
 2-2 実験方法 p.17
 2-2-1 試料の作製 p.17
 2-2-2 発光特性の評価 p.19
 2-3 室温でのCLおよびPL測定の結果 p.24
 2-4 PLスペクトルの測定温度依存性 p.27
 2-5 高分解能・低温PL p.31
 2-6 ラマン散乱測定 p.36
 2-7 可視発光の起源 p.41
 2-8 CuAlS2の電子状態計算 p.43
 第2章のまとめ p.54
 参考文献 p.55

第3章 二硫化銅アルミニウム粉末の合成条件と発光特性 p.58
 3-1 はじめに p.58
 3-2 実験方法 p.60
 3-2-1 試料の作製 p.60
 3-2-2 SEM観察 p.60
 3-2-3 元素分析 p.60
 3-2-4 結晶相の同定 p.61
 3-2-5 反射率スペクトルの測定 p.61
 3-3 熱処理温度の効果 p.63
 3-3-1 SEM観察の結果 p.63
 3-3-2 元素分析の結果 p.64
 3-3-3 粉末X線回折の結果 p.68
 3-3-4 全反射率測定の結果 p.72
 3-3-5 室温での発光特性 p.75
 3-3-5-a 室温でのPL発光特性 p.75
 3-3-5-b 室温でのCL発光特性 p.77
 3-3-6 ラマン散乱による結晶内の欠陥解析 p.79
 3-4 熱処理時間の効果 p.92
 3-5 仕込み組成の効果 p.97
 第3章のまとめ p.103
 参考文献 p.104

第4章 二硫化銅アルミニウムのシリコン上への堆積 p.106
 4-1 はじめに p.106
 4-2 ヨウ素輸送(Iodine Transport:IT)法 p.108
 4-3 CuAlS2単結晶の成長 p.112
 4-4 CuAlS2のSi(100)基板上への堆積 p.115
 4-4-1 表面のSEM観察結果 p.116
 4-4-2 X線回折による結晶相の同定 p.119
 4-4-3 77Kにおける発光特性の評価 p.122
 第4章のまとめ p.126
 参考文献 p.127

第5章 総括 p.128

研究業績 p.132

謝辞 p.134

 近年、光記録媒体における情報の高密度化への要求から、紫外発光を示すデバイスの開発に大きな期待が寄せられている。二硫化銅アルミニウム(CuAlS2)はカルコパイライト型の結晶構造を有する化合物であり、室温で3.49 eVの直接遷移型バンドギャップを有している。また、この材料における自由励起子の結合エネルギーはおよそ70 meVと見積もられている。これらのことから、自由励起子による高効率な紫外発光が期待されている材料である。これまでに、バンドギャップ近傍からの紫外発光、青紫色およびオレンジ色の可視発光について、いくつかの報告がある。しかしながら、ほとんどの結晶からは自由励起子による紫外発光よりも強度の大きいオレンジ色の発光が観測されている。このオレンジ色の発光は結晶内の欠陥が関係していると言われている。新規な紫外発光デバイスの実現には、高効率な発光が必要不可欠である。このためには、励起子からの発光を阻害すると考えられる欠陥の情報を得ることが工学上極めて重要である。筆者は真空アンプル法と高純度な出発原料を用いることで不純物の混入を極力排除した方法で結晶の成長を行った。その結果、室温においても非常に明瞭な紫外発光を示すCuAlS2粉末の合成に成功した。また、紫外発光材料としての応用を目的として、その合成条件と発光特性の調査、結晶内の欠陥に関する解析およびシリコン基板上への成膜を試みた。本論文は「カルコパイライト型化合物CuAlS2に関する研究」と題し、以下の5章より構成されている。
 第1章「序論」では、CuAlS2およびカルコパイライト型化合物に関する研究の動向および本研究の背景について説明し、最後に本論文の目的と構成を述べた。
 第2章「発光の起源」では、本研究で得られたCuAlS2粉末からの紫外発光及びオレンジ色の可視発光について、発光の起源を調査した結果を報告している。高純度な出発原料を用いて真空アンプル中で合成したCuAlS2粉末は、室温のCL測定において明瞭な紫外発光(光子エネルギー:3.45 eV)を示した。この発光の起源を調査するために、室温から極低温(15 K)にかけての発光スペクトルの温度依存性および高分解能・低温PL測定を行った。この結果、室温で見られた紫外発光は自由励起子からの発光であることを明らかにした。また、100 K以下の測定温度においては、自由励起子以外にもいくつかの鋭い発光ピークが確認され、これらは束縛励起子およびそのフォノンレプリカであると同定した。特にI8とアサインした束縛励起子発光(光子エネルギー:3.459 eV)は、本研究において初めて観測された。以上の結果は非常に高品質な粉末の合成に成功したことを示唆している。また、紫外発光の他にもオレンジ色の可視発光(光子エネルギー:2.0 eV)が観測された。この可視発光は結晶内の不純物もしくは欠陥が関係していると報告されており、自由励起子発光を阻害すると考えられる。よって、この欠陥の起源を明らかにすることで、高効率な紫外発光を示す結晶の合成に対する進展が期待できる。本章では第一原理バンド計算による電子状態シミュレーションにより、結晶内の真性欠陥が形成する欠陥準位と発光特性の関係について検討を行った。その結果、銅空孔および硫黄空孔の複合欠陥がこのオレンジ色発光に対応する欠陥準位を形成するという新たな欠陥発光のモデルを提唱した。
 第3章「二硫化銅アルミニウム粉末の合成条件と発光特性」では、熱処理温度、熱処理時間および出発原料における硫黄の比率を変化させてCuAlS2粉末の合成を行った。得られた粉末の形状観察、結晶相の同定、元素分析、全反射率測定から、この材料の生成プロセスを提案した。また、室温での発光特性から、優れた紫外発光を示す合成条件を見いだすことに成功した。さらに、熱処理温度を変化させると欠陥の生成量が異なることを見いだし、ラマン散乱測定による局所欠陥構造解析を適用することで、その欠陥構造を詳細に検討した。結果として、熱処理温度の上昇に伴って硫黄の空孔が形成されることを示した。また、共鳴ラマン散乱測定の結果から、2.16 eVの励起光により新たなラマンピークA1'(330 cm-1)が出現することを見いだし、このピークがAlCuアンチサイト欠陥による共鳴ラマンピークであることを明らかにした。発光特性およびラマン散乱による欠陥解析の結果から、光子エネルギーが2.13-2.16および1.79-1.90 eVのオレンジ色発光は、それぞれAlCu-VCuおよびVS-VCu複合欠陥によるDAP (Donor-Acceptor Pair)発光であると結論づけた。以上の結果は、第2章で検討した電子状態計算による欠陥解析とほぼ一致している事が示された。発光特性の評価およびラマン散乱測定が欠陥解析の手法として非常に有効であることが示された。本材料を発光素子として工業的に応用するためには、以上で示した合成条件、生成プロセスおよび発光特性との関連といった基礎データが極めて重要であると考えられる。
 第4章「二硫化銅アルミニウムのシリコン上への堆積」では、CuAlS2のデバイス化を視野に入れ、シリコン(100)基板上へCuAlS2の堆積を試みた。成膜方法としては石英ガラスアンプルと電気炉からなる比較的簡便な単結晶育成法であるIT(ヨウ素輸送)法を応用した。成膜条件として基板温度およびアンプル内のヨウ素濃度を様々に変化させた。基板温度およびヨウ素濃度が低いときには発光は観測されなかった。基板温度、ヨウ素濃度の上昇に伴いオレンジ色の発光が観測され、さらに上昇させるとシャープなピークを有する青紫色の発光(光子エネルギー2.95 eV)が確認された。また、自由励起子からの紫外発光は観測されなかった。青紫色の発光はこれまでの報告及び2章の結果から、結晶内のヨウ素によって形成された欠陥準位が関係していると考察した。X線回折の結果からはアモルファス相、CuAlS2、CuAl2S4、γ -CuI結晶相の存在が確認された。特に基板温度700oC、ヨウ素濃度5mg/cm3の条件においては、シリコン基板上へ部分的にCuAlS2がエピタキシャル成長しているという結果を得た。結晶内の硫黄量、基板温度、ヨウ素濃度を制御することで、紫外、青紫、オレンジ色、と幅広い発光を示すシリコン基板上の新規な発光デバイスの構築が期待される。
 第5章「総括」では、以上の各章から得られた研究成果を要約し、本論文の結論とした。

 本論文は「カルコパイライト型化合物CuAlS2に関する研究」と題し、以下の5章より構成されている。第1章「序論」では、CuAlS2およびカルコパイライト型化合物に関する研究の動向および本研究の背景について説明し、最後に本論文の目的と構成を述べている。
 第2章「発光の起源」では、本研究で得られたCuAlS2粉末からの紫外発光及びオレンジ色の可視発光について、発光の起源を調査した結果を報告している。室温で観測された紫外発光は、自由励起子からの発光であることを明らかにし、また、低温においては束縛励起子およびそのフォノンレプリカによる発光の観測にも成功している。特にI8とアサインされた束縛励起子発光は、本研究において初めて観測されている。さらに、電子状態シミュレーションにより、結晶内の真性欠陥が形成する欠陥準位を計算し、発光特性との関係について検討を行っている。結果として、銅空孔および硫黄空孔の複合欠陥がオレンジ色発光に対応する欠陥準位を形成するという新たな欠陥発光のモデルを提唱している。
 第3章「二硫化銅アルミニウム粉末の合成条件と発光特性」では、熱処理温度、熱処理時間および出発原料における硫黄の比率を変化させてCuAlS2粉末の合成を行い、その発光特性について報告している。また、得られた粉末の形状観察、結晶相の同定、元素分析、全反射率測定から、この材料の生成プロセスを提案している。さらに、ラマン散乱および共鳴ラマン散乱測定により局所欠陥構造解析を行っている。可視発光の起源(欠陥構造)を詳細に検討し、オレンジ色の発光は、銅空孔、硫黄空孔および銅-アルミニウムアンチサイト欠陥に起因することを明らかにしている。本材料を発光素子として工業的に応用するためには、以上の合成条件、生成プロセスおよび欠陥と発光特性との関連といった基礎データの構築が重要であることが示されている。
 第4章「二硫化銅アルミニウムのシリコン上への堆積」では、CuAlS2のデバイス化を視野に入れ、シリコン(100)基板上へCuAlS2の堆積を検討している。結晶内の硫黄量、基板温度、ヨウ素濃度を制御することで、紫外、青紫、オレンジ色、と幅広い発光を示すシリコン基板上の新規な発光デバイスの構築が可能であることを示唆している。
 第5章「総括」では、以上の各章から得られた研究成果を要約している。以上の内容から、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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